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03.イピスとイアンテ -下-

 イピスは言う。

「あらゆる怪物を生み出したクレタ島で、太陽の娘は牡牛を愛したけれども、それは間違いなく女と男だった。もし真実を告白するなら、私の愛はそれよりも狂気に満ちている。彼女は愛(※ヴィーナスの期待)を追求し、しかし彼女が牝牛の姿を装う策略をすることで、雄牛は騙された。世界中のありとあらゆる技術を集めて良いとして、ダイダロスが蝋の翼で飛び来たとしても何が出来るのだろう? 彼の豊かな知識と技能は、私を少女から少年に変えることが出来るだろうか? あなたを変えることが出来るだろうか、イアンテ? 私は何のために生まれた来たのか? 考えなければ。自分自身を欺くことなしに、私は運命を求めて、女として義務付けれたものを愛するのだと!」


「希望は愛を捕らえて育てるもの。されどあなたのこの宿命がそれを奪う。あなたを抱擁者から引き離す者はおらず、また用心深い夫の心配もなく、厳格な父親もいない。そして彼女は彼女自身を求める者を拒まない。しかしあなたは手に入れることは出来ず、全てが成されることもない。そして神々や人々の努めにも関わらず、あなたは幸せになることはない」


「今まで私の祈りが無意味だったことは無かった。神々は私に対して親身になってくれるし、価値のあることは何であれ与えてくれた。そしてそれは私の父親、彼女自身、彼女の父親であり私の未来の義父、そして何より私自身が望んでいることだ。けれども運命はそれを望まない。それはあらゆるものより強力で、ただ私だけを傷つける」


「見よ、待ち望んでいた日が来た。結婚式の日が来たのだ。イアンテはもうすぐ私のものになるでしょう。しかし私がそれに触れることは無い。私は水面で渇するのだ」


「プロヌバ(※花嫁介添)の女神ユノーよ、これは何故なのですか。式を訪れし結婚神ヒュメナイオスよ、導く者が不在であるのに何処で二人が結婚するのでしょうか?」


 そして彼女は声を抑えた。また穏やかなもう一人の乙女も激しい感情の中におり、出来る限り早くその日が来て欲しいとヒュメナイオスに祈っていた。



 一方、テレトゥーサはイアンテが求めることを恐れて日付を先延ばしにする。彼女は頻繁に病気を装ったり、予兆を見たことを口実にして遅延を引き起こしていた。しかしもはや全ての捏造の材料を使い果し、延期された結婚式の日まであと一日しか残っていなかった。

 彼女は、娘と自分の髪飾りのリボンを解いて外すと、祭壇に撓垂掛って祈った。


「イシス神よ、パラエトニウムとマレオティスの地、パロス、七つの角に分かたれたナイル(※いずれもエジプトの地名)を守りし御方。お願い致します」

 彼女は言う。

「助けを齎し、私たちを恐怖から御癒し下さい!」


「女神よ。かつて私はあなたと、そしてあなたのものであるこれらの象徴を見て全てを知りました。青銅のシストラムの音色と共に、あなたの指示を心の中に書き留めました。そのお陰で彼女(※娘)は日の目を見たし、私も罰せられることはありませんでした。それこそがあなたの助言であり、あなたからの贈り物なのです。私たち二人に憐みを与え、御力添え下さい!」

 彼女の涙が言葉に続いた。



 女神が祭壇を動かしたように見えた(※そして動かしていた)。神殿の扉が震え、三日月を模倣した角が輝き、シストラムが鳴り響いた。母親は安心してはいなかったが、縁起の良い前兆に喜んで神殿を立ち去った。


 イピスは彼女に随い、普段より大きな歩幅で歩いていた。

 彼女の顔の白さは残っていない。力強さが増している。また表情は鋭くなり、髪の装飾は失われ、髪自体も短くなっていた。そして女よりも多くの活力を持っていた。

 事実、イピスは先ほどまで女だったが、今や男だった。


 神殿に捧げ物をしましょう。そして信仰を恐れず、喜び合うのです!


 そして彼らは神殿に捧げ物をして、碑文を刻む。その碑文には短い詩が書かれていた。


DONA PUER SOLVIT QUAE FEMINA VOVERAT. IPHIS(女として誓約した捧げ物を、男として納める。イピス)


 翌日、夜明けの陽光が世界を照らしたとき、ヴィーナスとユノー、そして結婚神ヒュメナイオスは結婚式の火(※結婚式の後、新居で新郎から新婦に与えられる松明)へと集まる。

 その日、男のイピスがイアンテを彼のものにした。

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