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<R15>15歳未満の方は移動してください。

私はあの夏で出来ている

作者: しゅうらい

 ある夏のこと。私、ひなたは体の弱い祖父と2人暮らし。両親は交通事故でいない。

「ひなた、家の中でゴロゴロしてないで、外で遊んできなさい」

 祖父からそう言われて、私はしぶしぶ外に出た。

「暑い……」

 まぁこの季節だから仕方がない。それにしても暑い。

「あぁ、そうだひなた。あの森へは近づいてはならんぞ」

 祖父が言うには、その森ではよく人がいなくなるらしい。そんなおとぎ話みたいなことがあるものか。私は話半分しか聞かなかった。

 近くの川で遊んでいると、森の方が気になった。

「ちょっと行ってみようか」

 私はどんどん森の奥へ入っていった。

「おい、お前何をしているんだ」

 ふと誰かから声をかけられた。

「誰?」

「ここに何の用で来た」

「ちょっと遊びに来ただけだよ」

「ここは子どもの来るところじゃない。さっさと帰れ」

 私に声をかけてきたのは、長身で赤い色の髪をして黒い羽織をした男の人だった。

「私、帰ってもすることがないの。ここで遊んじゃだめ?」

「お前、ここに来るなと言われなかったか?」

「言われたよ? でも、気になったからここへ来たの」

 すると、男の人は黙ってしまった。

「……お前、名は? 歳はいくつだ」

「ひなた、7歳」

「なら、ひなた。お前がここに来た時は俺が遊んでやる」

「本当! やったー!」

「そんなに喜ぶことか?」

 私が喜んだことに、男の人は首を傾げた。

「うれしいよ。だって、おじいちゃんのところでも私、1人だったようなものだもの」

「そうか……」

「そういえば、お兄さんの名前はなんて言うの?」

「俺の名はキバ」

「じゃぁキバ。これからよろしくね!」

「なれなれしく呼ぶな」

「いいじゃない。他にどう呼べばいいの?」

「キバ様と呼べ」

「絶対嫌だ!」

 私がいーっと歯をむき出しにしてすねてみたら、キバはくすっと笑った。

「まぁいい。もうそろそろ日が暮れるから森の出口まで送ろう」

「ありがとう! キバは優しいね」

 私がそう言うと、ジロッと睨まれた。あれ? なんかまずいことでも言ったかな。

「ここからなら帰れるだろ。気をつけてな」

「うん、キバもね」

 私が振り向けばキバはもういなかった。それから祖父の家に帰った。

「ただいま」

「おかえり、ひなた。今日は何をして遊んだんだい?」

 あぁ、いつもの問いかけか。私はうんざりしながら答えた。

「今日は川で遊んだよ」

「そうか」

 祖父はそれだけ聞くと、自分の部屋に戻った。私がウソをついてるとも知らないで。

 食卓にはご飯が1人分並べられていた。祖父は先に食べたらしい。私はそれを静かに食べる。会話も何もない。楽しくない。これが私の食事だ。

 次の日、私は祖父に言われる前に外に出た。さぁ、今日は何して遊ぼうか。急いで森に向かうと、もうキバはそこにいた。

「おや、今日は早いな」

「だって急いで来たんだもん! それよりなんでいつも日陰にいるの? こっちで一緒に遊ぼうよ」

「俺はここでいいんだ。お前は好きに遊んだらいい」

 いや、それだと1人で遊んでいるのと変わらないじゃない。

「「これじゃつまらないわ」」

「仕方ないな。おい、ちょっと相手をしてやれ」

 キバがそう言うと、何やらいっぱい出てきた。狐やしっぽが2つに分かれた猫、1つ目小僧や小鬼、河童まで出てきた。

「わぁ! これって妖怪っていう子たちだよね!」

「なんだ、怖がらないのか?」

「なんで? だって皆、可愛いもの」

「河童も可愛いに入るのか……」

 心なしか河童はうれしそうである。

「よーし! じゃぁ皆で鬼ごっこでもしようよ!」

「おー!」

 皆は喜んで私の相手をしてくれた。だから私はさみしくない。この森にいる時が1番楽しかった。

 また、日が暮れる頃になると、キバがやってきて、私を森の出口まで送ってくれる。それが日課になっていた。しかし家に帰ると、昼間楽しかった分、さみしさがこみあげてきた。


 やがて、月日はたち私は14歳になった。ある日の夜、急にさみしくなり家を飛び出した。向かったのはあの森である。

「夜に行っても皆、話し相手になってくれるかな……」

 私は森の奥へどんどん入っていく。でも、全然皆がいる様子はなかった。

「やっぱり寝てるのかな?」

 私はまだ奥へと進んでいく。すると、後ろでガサッと音がした。私は笑顔で振り向くと、そこにいたのは大きな体をした鬼だった。

「ぐへへ……人間なんて久しぶりだな。どうやって食べてやろうか」

「ひっ……!」

 私はあまりの恐怖に声が出なかった。鬼はよだれを垂らしながらこちらに近づいてきた。

「さぁ、大人しくしていろよ……」

 鬼の手が私に伸びてきたところで、目の前を炎が遮った。

「なんだ?!」

 鬼が慌てていると、上からキバがおりてきた。

「何をしている……」

「何って、人間を喰おうとしてただけじゃねぇか」

「これは俺の獲物だ。手出しは許さねぇ……」

 キバに睨まれた鬼は、何も言えずしぶしぶ森の奥へ姿を消した。私は緊張が解けてその場にへたりこんだ。

「大丈夫か」

 キバに聞かれて頷こうとしたが、私は涙があふれてきた。

「どうした? どこか痛いのか」

「違うの……怖かった……初めて妖怪が怖いと思ったの」

 私が途切れ途切れに話すのを、キバは静かに聞いていた。

「本当に食べられるかと思ったぁ……」

 私が泣き始めたのをキバはそっと抱きしめてくれた。

「ありがとう、キバ……」

 ふとキバを見ると、キバにも鬼と同じ角が生えていた。でも、さっきのような恐怖はない。

「俺が怖いか?」

「うぅん……大丈夫。だってキバはキバだもの」

「そうか……しかし、何故夜にここに来た?」

 キバは私を抱きしめたまま問いかけてきた。

「私、急にさみしくなってここに来たの」

「ここは夜になると、俺たち妖怪は力が増して活発になるんだ。だから、お前を日が暮れる前に森の外へ送っていたんだ」

「そうだったの……」

 私は何も知らなかった。キバの優しさが身に染みて、また涙があふれそうになった。

「さぁ、そろそろ森から出よう。また、襲われたらいかんからな」

「待って! まだ一緒にいたらだめ?」

「わがまま言うな。さっき襲われたばかりだろ」

「大丈夫よ。だってキバがいるんだもの!」

 私が笑顔でそう言うと、キバは苦笑いをした。

「しょうがねぇな。あと少しだけだぞ」

「うん!」

 そして私たちは何気ない会話を続けたのであった。

 しばらくして、キバが私を祖父の家の近くまで連れて行ってくれた。

「もう夜には来るんじゃないぞ」

「わかった。ねぇ、また会える?」

「あぁ、今度は昼間に来たらな」

 そして2人は笑いあった。

「おやすみ、キバ」

「あぁ、おやすみ。いい夢を」

 そして私は静かに家に入った。祖父はまだ寝ているようだった。


 あれからまた月日は流れて私は17歳になった。もうすぐ誕生日が来て18になるのだが、そんな時祖父が倒れた。病気が悪化したらしい。お見舞いに行った時、祖父が弱々しい声で話してきた。

「ひなた……お前はよく森に行っていたな」

 私はぎくりとした。ばれていたのか。

「だが、ワシは見て見ぬふりをした。お前に何かあるかもしれないのに、気にしなかった」

 ぽつりぽつりと話す祖父の言葉に私は静かに耳を傾けていた。

「あの晩もお前が家から出ていくのを知っていた。そして探しもしなかった。ひなた、すまなかった……さみしい思いをさせたね……」

 今更謝られても困るのだが。それでも私はにこっと笑う。

「気にしないで、おじいちゃん。私は何もさみしくなんかないよ」

 私がそう言うと、祖父は少し微笑んだ。それが私の見た祖父の最後だった。それから葬式を終えて私は祖父の家に帰ってきた。とうとう私は1人になった。

 すると、窓がガタガタと揺れた。窓を開けると、そこにはキバがいた。

「なんで……」

「ここにはもうお前しか気配がなかったからな。大丈夫と思ったからだよ」

「うん……おじいちゃんが亡くなったの」

「そうか……そこでお前に提案なんだが、俺たちの森で一緒に暮らさないか?」

「え?」

「もちろん、人間ではなく俺たち鬼になってもらうんだが……」

 キバは少し話しづらそうだった。でも、私は人間界に未練などない。友達もいなければ、両親もいない。唯一の身内であった祖父も亡くなった。私の迷いはなかった。

「いいよ。私もキバと同じになる。そうすれば一緒にいられるんでしょ?」

「あぁ。だが、構わないのか?」

「うん! だって私はキバが大好きだもの!」

 そう言って私はキバに抱き着いた。キバは少し戸惑っていたようだったが、少しして抱きしめてくれた。そして、私の首にかみついた。これで私は鬼になる。

 あぁ、そういえば今日は私の誕生日だった。そんな日に好きな人と一緒になれるのだから、めでたいことだ。

「あのね、今日は私、誕生日なの」

「それはめでたいことだな。おめでとう、ひなた」

「ありがとう、キバ!」

 私はめでたく鬼になり、今もあの森で暮らしている。後悔なんてない。大好きな人と一緒にいられて私は幸せです。

「おーい、ひなた! 何をしてるんだ。早く行くぞ」

「待ってキバ! すぐ行くから!」

 今日も私はキバと一緒にいる。こんな日がずっと続きますように。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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