百の決闘の果て
──キンッ。
二つの刃が冷たい音を立ててぶつかり合う。
そこから始まった、二秒そこらの鍔迫り合い。
刃越しに、互いの視線がぶつかり合う。
──九十九戦三十三勝三十三敗三十三分。
この二人の戦績だ。
週に一度、彼らはこの草原で不殺の決闘をする。
六日を鍛錬に尽くし、最後の一日に死力を尽くす。
約二年、そんなことがこの場所で行われている。
──キンッ。
鍔迫り合いが終わると同時に、再び剣が交わりあう。
初太刀に比べ、剣速は格段に上がっている。
二人の足が、じりじりと地面を抉っていく。
一歩も譲らぬ、無言の攻防。
退けば、斬られる。
そんな思いが、冷や汗となって二人の額を流れた。
「「ハアッ!!」」
より一層力を籠められ、剣と剣の交点が小さく悲鳴のような音を鳴らし始める。
──刃、視線、気迫、
そのすべてが入り混じり、二人の時間が完全に止まる。
一切の動きを許さぬ、そんな空間が形成された。
だがそれも、外から見れば一瞬の出来事であった。
軽快な音を立て、二人同時に飛び退く。
そして──
──キィンッ。
先程よりも重い音が響く。
何度も何度も、響き渡る。
剣をぶつけ、弾かれ、振りかぶり、打ち付ける。
振りながら、何度も剣を握り直し、体勢を直し、足を前に進め、また攻める。
ぽつぽつと湧いて出てきた汗は、空中で混ざり合い、一滴、また一滴と地面を濡らしていった。
──ドッ。
突如として響いてきた、今までとは質の違う鈍い音。
柄が腹を打った音だ。
体勢を低くし、剣を掻い潜り、持ち替えた手で鋭く放った攻撃が刺さったのだ。
これだけの斬りあいの中で、初めて当たった一打。
だからと言って、この拮抗が崩れたわけではない。
「うぅっ……!!」
柄で殴った方の口から、軽い呻き声が漏れた。
見れば、こちらも腹を抑えている。
二人の実力は、完全に拮抗している。
故に、攻撃が変わるのタイミングも、お互いに分かっていた。
柄が腹に当たる瞬間、剣から手を放し、素早い蹴りを入れていたのだ。
だが、片足ではあの攻撃に耐えられなかったのだろう。
蹴りを入れた直後、ドサッという音と共に倒れてしまった。
この好機を、見逃すはずがない。
剣を再び持ち替え、真っ白な刃が青空を切り裂くように振り下ろされた。
相手に剣はなく、体勢も立て直せていない。
──当たる!!
そう確信した直後、視界の中心にある剣はそのままに、世界がくるりと回転した。
──この体勢から、足を払うか。
そんなこと考える頭に、地面からの鈍い衝撃が加わった。
「へへっ、ざまぁねえなぁ」
「……反撃を考慮した上での攻撃です」
「あっそ。ま、両者立て直しの為、仕切り直しってことで」
立ち上がり、二人同時に剣を握る。
そして、再び剣は交わりあった。
快晴の空が反射する刃が、豪雨のように降り注がれる。
衝撃に腕が痺れ、腰が痛み、足が震え、それでもなお剣を振る。
意地と意地のぶつかり合い。
──絶対に、こいつには負けない!!
その意志だけが、体を動かし続けた。
一瞬でも気が緩めば、その瞬間に斬られる。
意識のネジを巻き、気を張り詰め、張り詰め、張り詰めて。
無駄な感覚を一切排除し、全神経を目の前の相手に集中させる。
視界は狭まり、音は消え、剣の振動だけが腕を伝わってくる。
──全身全霊の衝突。
誰も触れられないほど極められたその空間は、突如、音を立てて壊れた。
──ガキンッ!!
この二年間で、何度も聞いた音、終わりの合図、決着の証。
半分に折れた二人の剣は、虚空を切り裂く。
勢い余った二人はそのまま前につんのめり、バランスを崩し、操り人形の糸が切れたかのように倒れた。
「「…………」」
先程までの剣撃の音はどこへやら、周囲にはただ無音だけが鳴り始めた。
「……動、けるか?」
「……そっちは?」
「お前と同じ」
「「…………」」
二人同時に仰向けになり、雲一つない空を眺め始めた。
「……次は、どうする?」
「もう百回、ですかね」
「だよな」
そんな会話をしながら、火照り、痛む体をそよ風にさらす。
この二人の勝敗は、いつ決するのか。
そんな疑問など露知らず、風は草を静かに揺らした。
あらすじにも書いておりますが、戦闘描写の練習に書いてみました。
いかがでしたでしょうか。
昔に比べて、僕も少しは成長したのかな……?
練習とはいえ、気合を入れて書きましたので、ブックマークや評価、感想などをいただけますと、大変嬉しいです!!