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幸先不安な婚約者

「11.どうしてこうなった」のあとくらいの時系列です

オーギュスト目線の糖度高め(当社比)恋愛小説みたいになっています


メアリー(長いので以下略)・スティルアートという人物はオーギュストにとって警戒するべき人物だった。




皇族である自分になんの下心もなく好意を寄せてくる人なんて警戒して当然だ。

メアリーの好意はいくら婚約者候補であったとしても度が過ぎている。


どこの誰が何をどう思って顔をみて間もない婚約者候補の悪口を言った程度で深夜の小屋に5歳の子どもを閉じ込めるというのだろうか…。


メアリーの父親のことは知っているしアルバートを信頼もしているがもしかしたらこの妹のほうは失礼な話だが血縁ではないのかもしれないと思っていたくらいだ。



その後の非道の行いと世間からの批判の数々もどこ吹く風。他者の被害を顧みることなく自身の欲を貫き通す姿は確かに好意的にみれたものではない。


一方で彼女の強引なやり方によって積み上げられた数々の実績。アルテリシアの歴史を大きく変えたことだって何度もあった。最早ここまでくると生きた伝説だ。



僕も彼女との婚約は自分が父の跡を継ぐための手段にしか考えていなかった。

しかしそれはとんでもない誤解だと思い知らされた。







「えーと…その…殿下…これはどういう状況なのでしょう?」


「オーギュスト。名前で呼んでって言ったでしょう?」


「そそそそそそそれはわかっているのですが…長年のクセと言いますか…いざ殿下を目の前にすると恐れ多いというか…もう訳が分からないことだらけと言いますか…あの…えぇと…」


「また殿下って言ったね。これから夫婦になるのに随分と他人行儀じゃないかい?」


「ああああ…ごごめんなさいぃぃ!!」



その美貌で数々の男を手玉にとって財を吸い取るだけ吸い取ったら地の底へ突き落としてきたと噂されるメアリーは僕の前ではこうしてねじの外れた人形のようになる。


それがおもしろくてついこうして遊んでしまうのだけど、まぁメアリーも楽しんでいるようだしいいか。


たぶん。


本人に聞いたことは無いし聞いたところで素直に答えるとは思えないので僕の主観である。



メイドたちを追い出したこの部屋は正真正銘メアリーと僕のふたりきりだった。


結婚前の年頃の男女をふたりきりにさせるなんて良家の子女であるメアリーならありえないことなのだけど、僕が一言お願いすれば逆らう人は誰もいない。


メイドたちがいるとこんなふうに壊れたメアリーは楽しめないのだ。

彼女の貴族としての鉄仮面は非常に優秀でひっぺはがすに苦労した。

苦労しただけのことはあったけどね。



「あのですね…いくら陛下に婚約を認めて頂いたからといってまだ婚約の段階にございます。大学を卒業するまでは節度を守ったお付き合いを、とお父様より言われておりまして…これほどまでに殿下との近いのはどうかと思うのですが…」


「まだ膝に乗せて手を取っているだけだよ?『清いお付き合い』の範囲内だと思うけれど…メアリーはなにを考えていたのかい?」


「えっ?!それは…えぇと…」


「言えないようなことを考えていたなんて…いけない子だなぁ」


「そのようなことはっ!!」


「冗談だよ。それにこれから結婚したら毎日こういうふうになるのだよ?メアリーは僕と一緒だとすぐに挙動不審になってしまうからこれはその練習。このくらいどこの夫婦でもしていることだよ」


「そ、そうですか?」


「あぁ。大事な式典の真っ最中にメアリーが挙動不審になったら困るだろう?」


「おっしゃる通りですね…」



ちょろい。

ちょろすぎる。


たぶんメアリーが公式行事でこんなふうになることはない。断言できる。

貴族令嬢の鉄仮面は伊達じゃないことくらい実証済みだ。

それなのにちょろすぎて心配になるけれど、それはまぁいいだろう。


監視の目を強化すればいいだけなのだから。



口八丁で言い包めればメアリーは腑に落ちてはいないようだけど納得したのかおずおずとひっこめていた顔を上げた。

耳まで真っ赤になって金魚みたいにっ口をパクパクするメアリーを知っているのはアルテリシア広しといえど僕だけだと思う。


そう考えたらとても愉快になってきてますます気分がよくなった。




「ほら、次は名前を呼ぶ練習をしてみよう。この間はちゃんと呼んでくれただろう?」


「えぇ…えぇと…それはしないと今しないとだめですか?」


「ダメ」


「うぅ…」


「オーギュスト。きみの婚約者の名前」



有無言わさず強制的に練習をさせる。どうして同じ推しの名前を呼ぶときは連呼できるのに目の前で直接言うときはこんなに恥ずかしがるのだろう。

こっちが恥ずかしくなるくらい連呼していたというのに直接言わないというのは少々ずるい。



「おおおおおおお…オーギュしゅと!!」


「噛んでるし…」


「す、すみませんっ。もう1度!…お、おーぎゅすとぉしゃま!!」


「おしい。頑張って」


「お、お、オーギュスト様!」


「正解!さすがメアリーだね!よくできました!」



両腕のなかに納めて膝に乗せたメアリーをすっぽり覆うように抱きしめると、慣れていない彼女は全身に力を入れて固まってしまった。


「ひゃいいいい!!」


「きみがやっていたげーむや漫画というやつではこのくらいの接触ふつうだったじゃないか。なにをそこまで驚くのだい?」


「いや…あれは絵を見ているようなものであって自分が体験するわけではないものですから…こうして現実で誰かと抱き合うなんて今まで一度もなかったので…その…えーと…」



ぼふん。

魔道具がショートを起こしたみたいにメアリーは頭から煙を出して固まってしまった。これは本当に構いすぎたかもしれない。


気に入ったものは閉じ込めてつい構いすぎてしまうのが悪い癖だとハロルドやアルバート、果てにはルイにも散々言われていたのに。


メアリーはどれだけ構ってもなんだかんだ僕のところに帰ってきてくれるからつい気が緩んでしまう。



ゆでたタコみたいになったメアリーの朱い頬をつんつんとつついた。陶器のような肌が指先に触れる。

これを思う存分触れたらさぞ触り心地がいいだろう。




「一度もって…前世の真理だったころも?」


「ありませんよ!真理の人生はオーギュスト様に全て捧げられていますから!」


再起動したメアリーがキリッとして答える。


いくら似てるといえど架空の存在だったという自分自身に婚約者を捧げられていると高らかに宣言されて複雑だ。

でも細かいことを言っていてはこの頭がいいのか悪いのかわからない未知の存在の婚約者はやっていられない。


どちらにしてもメアリーは元々僕のものなわけだし真理の人生も僕に捧げられているのなら問題ないじゃないか。




「だったらメアリーも真理もどうしようと僕の自由だよね?」


「え…あー、その…そういうことになるのですかねぇ…」


「歯切れが悪いなぁ…いつもの堂々とした悪役令嬢メアリーはどうしたの?」


「だってあのオーギュスト様にっっ!!!!はぁぁぁあああああ!!!」



ぱあああん


今度こそメアリーはショートしたのか全身から力が抜けてぐったりといてしまった。

一瞬誰かを呼ぼうかと思ったけど呼吸は正常だし脈もある。


おおかた本人がキャパオーバーでも起こしたのだろう。


ひくひくと何かを呟く口元に耳を近づけてみるとうわごとのように「推しに…推しにだっこ…だっこされている…今日が命日…」なんて物騒なことを言っていた。


大丈夫、抱き着かれて死んだ人はいないから。

圧をかけすぎない限り大丈夫。


「よいしょっと」


ぐったりと脱力しきったメアリーを横抱きに抱きなおして腕の中に改めて収めた。





過去、メアリーのことを警戒して心を許しているフリをし近づいていたずる賢い自分に教えてやりたい。

信じるべきは目の前にいつでもあるのだぞと。

信じてしまえばこれほどまでに心満たされるようになるのだと。


気を失っていることをいいことに触れてみた頬はやはり柔らかかった。化粧が指先に付くが不思議とメアリーのものだと思うと不快感は無かった。




恋をすると人は変わるというが自分がこれほど変わるとは思っていなかった。

でもその変化に嫌悪感は全くなく、むしろ好意的に受け取っていることが最も不思議で、とてつもなく楽しんでいた。



腕の中で何の警戒心もなくすやすやと寝息を立てる愛おしい存在に満足感を覚えてこっそりと額に唇を寄せる。


「それにしてもこの程度で失神って…大丈夫なのかなぁ…」



一抹の不安を覚えるも自分たちの前途は明るいものだと確信に似た予感があった。

その全てはこのメアリーがいるからかもしれない。




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