氷柱令嬢は静かに微笑む
初投稿ゆえ生暖かい目で見てくれると嬉しいです…
「やった…!35位…!アルティス様に教えてもらったおかげです!!ありがとうございます、アルティス様!」
「そんなことはない。リリアーネががんばった成果だ。よくやったなリリアーネ。」
「えへへ~」
くだらない。
心の中でため息をつく。
私──ユーリア・クロヴィスは公爵令嬢、そしてそこにいるバカ──アルティス・ヴィリニア第三王子の婚約者。
リリアーネ・ウィーンは男爵令嬢だが養女。
そんな下位の人間が第三王子に名前で呼ばれるなんてあってはならない。
しかも婚約者の目の前で。
「……35位くらいで喜ぶなんてありえないですわね。さすがは元庶民、かしら?前回は何位だったのかしら。…あぁ確か32位?あら?下がってるではありませんか、リリアーネ様。そんなので喜ぶくらいならもっと勉強なさってくださいませ」
「勉強してます!!私だって頑張ってるんです!!」
「あら、ならなぜ順位が下がっているのかしら?教えてくださる?」
「そ、それは…調子が悪かったからで…」
「そう。もっと面白い言い訳が聞けると思ったのに残念ですわ。そんなくだらない言い訳とは。毎回調子が悪いのではなくて?普通に勉強をしていれば満点なんて簡単でしょう?」
「簡単なのは毎回1位と取るユーリア様だけです!私には難しいです!!」
「私のテスト用紙だけ簡単にしてあると、そう言いたいのですか?」
「そ、そういうわけじゃ…!!」
「あら、ならどういう意味なのです?教えてくださるわよね?」
「ユーリア様は私とは違う環境で今まで勉強してきたんですから、ユーリア様だけ簡単になるのは当たり前なんです!!」
「つまり、私と貴女では勉強する環境が今まで違ったから点数もかなり違うと、そう言いたいのね?」
「そういうことです!!」
「なるほど。つまり貴女は今まで勉強をしていなかったということですわね?」
「そういうことじゃないです…!」
「あら?違ったのかしら?」
「ユーリア!!!!リリアーネを泣かすな!!お前はいつもいつもそうやって…!」
「あらアルティス様。割って入るのが遅いのではなくて?乙女を守るなら泣いてからではなく、もっと早く声をかけるのが紳士では?」
「ユーリア様!!アルティス様を悪く言わないでください!!」
「私は思ったことを言っただけなのだけれど…」
「それでも!!アルティス様を悪く言ったことは事実です!!」
「そうだ!いくらユーリアでも言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」
あぁ言えばこう言う。
三人の言い合いは日常茶飯として処理されていく。
「はぁ……私に構っているより勉強や魔力を磨くことをなさってはいかが?あぁ、勉強などより色恋沙汰の方が好きでしたわねお二人は。このあと逢瀬でもなさるのかしら?婚約者がいるのに他の令嬢を連れる23位の第三王子様と婚約者がいる第三王子に媚び売って付け入る35位の男爵令嬢様。」
「テストの順位より人間関係を広げることが大切だろう!!」
「テストで知識を付け、それをこれから様々なことに活用することが大切なのでは?」
「そんなことより人間関係を広げることを考えたらどうだ?ユーリア。お前友達1人もいないだろう?」
「何をどう見たらそうなるのか教えてほしいですわ、第三王子様。貴方の目は節穴ですか?私はずっと一緒にいる特定の友達はおらずとも、話をする相手くらいはいますわ」
クスリと笑えば周りの温度が下がったようにも感じる。
私そんなに悪い顔してるのかな
あぁでもアルティスは顔赤くして怒ってるからアルティスの周りだけ熱くて…だからかな?
「もういい!!お前の悪事の証拠は手に入っている。せいぜい婚約者という大きな顔で遊ぶことだな。これで俺も清々婚約破棄を言い渡せるというものだ」
はっはっはっ…
と笑いながら遠ざかるアルティスとそれを追うリリアーネ。
婚約破棄?やったね
悪事?私はしてないのにどんな証拠なのかものすごく気になるね
というかこんな人の大勢いるところでそんな宣言しちゃって大丈夫?
あんた私という後ろ盾がないと跡継ぎ争いに勝てないかもしれないこと知ってる?
魔力少ないから私という魔力と家が大きい後ろ盾が必須なの知ってる?
正妃の子だからって大きい顔できないほどいろいろやらかしてるってことが王にバレてるの知ってる?
尻拭いしてたの私なんですけどー
まぁ王に逐一報告してたのも私なんだけどね
幼い頃からの婚約者
こんなにバカでアホだと知ったのは二回目に顔合わせしたとき
全てが自分の思い通りに動くと思い込み、そうならなければ癇癪を起こす子供
彼の評価はこんなものだ
だから私は言いたいことはなるべく言うことにしてる
そうでなければ彼はもっとアホになっていたことは間違いない
社交界に出てもその態度を続けていた結果、ついたあだなは『氷柱令嬢』
なるほど、一理ある
と自分でも納得したあだな。
態度だけではなく見た目も含めて『氷柱令嬢』らしい。
銀髪に若干吊り目の青い目。
冷たいイメージを持たせるのには十分。
そして私の魔法も含めての『氷柱令嬢』だったことを最近知った。
この世界には魔力がある。
大きさは生まれつきで決まったようなもの。
属性は努力次第で使えるようになる。
私は水、風、闇が得意。
アルティスは火、土。
リリアーネは光、補助。
私は応用で氷魔法を使うことができるが、趣味でいろいろ試していたらたまたまできるようになったため完全にオリジナル魔法。
私の魔力が10とするならアルティスは3、リリアーネは10。
アルティスは王族にしては魔力の少ない子として生まれた。
だからといって蔑ろにされてはいない。
でも王になるには魔力の高さ、能力の高さは必須。
なのにアルティスはやりたいことしかやらないため王にはなりづらい。
そこで私という存在が必要になった。
家柄、魔力。この2つで選ばれたようなものだが、大きくなるにつれて能力も評価されるようになった。
でもアルティスは好きなことしかやらない。
人に対してもそうだ。
一瞬でもアルティスの好きな話から外れる話をすればアルティスの中でその話をした人は“嫌な奴”という評価になる。
地位を守りたい狸貴族からすれば格好の獲物。
第一王子はアルティスと真逆。しっかりと物事をいろいろな視点から考えるタイプ。
第二王子は王位を取ろうと思っていない。
書類を睨むより魔法騎士団で体を動かすことの方が性に合うと本人が言っていた。
実際強そうだった。
私の将来の夢は魔法騎士団に入ること。
剣は一応扱えるし魔法も得意。
そのためにはアルティスに婚約破棄してもらわなくては。
お父様にこの夢はもう話してあるし、アルティス様がバカでアホだってことも知っている。
お兄様は……反対なさるかしら?
まぁ大丈夫でしょう!
あぁ、いつ婚約破棄されるのかしら
いまからものすごく楽しみだわ
そう思い、ユーリアは教室へ戻っていった