ミラと見破りのスキル
ミラが困惑したままアンナとの邂逅は終わり、今は宿『ラブホテル』の二階にある宿泊部屋の一室を借りてミラと2人で居た。
部屋の中は簡素だがとても清潔で、手頃なサイズの椅子と机が1つずつと大人が大の字で寝れるくらいのサイズのベッドが1つ、タンスに似た収納棚が1つという特に不満もない内容だった。
「アンナちゃんはあぁ見えてとても綺麗好きなんですよ」
ベットに座るミラが笑顔でそう話す。
女性を立ったままにもできず、かと言って椅子に座らせて自分がベットというのも嫌だったのでこういう形になったのだが…
…見る人が見ればマズイ気もする…
気にしたら負けだと思い、俺はミラとの会話を続ける事にした。
「家事が万能なんだな」
「そうなんです!とても助けられちゃって〜」
今からこの笑顔がしばらく見られなくなるかもしれない。
そう考えると自然と話を切り出すのを避けてしまう。
「「………」」
結果として2人とも黙ってしまい、会話を続ける目論みは失敗に終わる。
少しばかりの沈黙が流れ、お互いに相手の方を見ずにどことなく視線を泳がせる。
すると、意を決したのか、ミラが再び口を開く。
「トモギさん!」
「なんだ」
俺は出来る限り声音を優しく、相手に威圧感を与えないように気をつけて表情と声を落ち着ける。
「その…えっと……」
覚悟は決まったようだが、うまく切り出せないでいるミラのために、今度は俺の方から尋ねる。
「どうして嘘をついたのか、か?」
「!……はい…やっぱり嘘、ついてたんですね…」
「まぁな…」
少しだけ悲しそうな表情でミラが俯く。
「魔法使い、じゃないんですよね」
「あぁ」
「それ以外にも何か嘘、ついてました?」
嘘はついてはいない。だが、ここでミラに対して嘘をついていないと言っても不信感が残るだろう。
しかし、どこまでを嘘と見破っているのかも気になる俺はつい聞き返してしまう。
「『見破り』のスキルが他にも反応したか?」
「いえ…反応、と言うほどでもないのですが、少しおかしな波があって…」
「波?」
はい、とミナは続けて『見破り』のスキルについて詳しく説明してくれる。
「私のスキルは、相手の嘘を見破ることができるのですが、少し難しい点もあって……私にはその人の言った発言が水の波のような形で見えるんです」
「ほぅ…」
「嘘をついていたり誤魔化している人は波が荒いのですぐにわかるのですが、今回トモギさんが話した内容にはいくつかおかしな波がありました。嘘や誤魔化しの波とは違ったので、気にしなかったのですが…」
そこでミナは顔を上げて俺の方をまっすぐ見る。
「最後にトモギさんが『魔法使い』と発言した時、半分が嘘で半分が本当、そんな反応を見せました。それまでに見せたトモギさんの発言の波も、嘘とかじゃなくて…まるで、そう信じているような、本当という確信を持っていないけれども、嘘でもない、そんな不思議な揺れ方をしていました…」
…なるほど。
ミラの話を聞いて、ミラの持つスキルは自分の想像よりも穴はなく、むしろ驚く程の精度があるのだと気付かされる。
「どうしてそんな秘密を話してくれたんだ」
「それは……トモギさんは絶対に悪い人じゃありませんから。私はそういうのもわかりますから。」
『見破り』のスキルは何も嘘発見器というわけではないようで、もっと汎用性が高いようだ。
「それに、私の秘密をまずは話さないと、トモギさんのことも聞けないなって…」
この女性は本当にどこまでも真っ直ぐな心をしているらしい。とても眩しく見える程に。
「ありがとう、今日会ったばかりなのにそこまで信じてくれて」
「い、いえ!あ、でも、トモギさんの事を話すにはこの部屋は誰かに聞かれるかもしれませんよね…」
「それは安心していい。障壁の魔法の応用で声が外に漏れないようにしておいたからな。もちろん、ミラの話も外には絶対に聞こえていない」
俺の方を真っ直ぐ見て、嘘を言っていないと悟ると少し驚いて、その後安堵の表情を浮かべる。
「よかった…正直言うと、私のスキルの秘密を話したら怒られちゃうので」
ミラはとても、お人好しのようだ。もちろんいい意味で、だ。
でもひとついいですか?とミラが前置きをして俺に尋ねてくる。
「魔法使いというのが嘘なら、どうして魔法が使えるんです?」
「あぁ、それはな」
…どこから話したものか。
不思議とこの女性にはもう嘘や誤魔化しをするつもりも何かを隠すつもりもなかった。
…聞きたいことがあれば全て教えよう。
あまりにも大胆な行動で、リリアリアには怒られる事も考えたが、相手が自分を信じて、そして守ってくれたのなら最大限それに応えたい。
それが俺の思いだった。
「俺の職業は『賢者』なんだ」
「賢者…?というとあの書記に残っている伝説上の?」
「その書記を俺は知らないが…賢者であることには間違いないな」
「ほぇー」
緊張が一気に緩和して気が緩んだのか、少し間抜けな顔と声を出すミラ。
「俺もそこまでこの職業に詳しいわけじゃないからな」
「そうなんですか?賢者って何ができるんです?」
「そうだなー…魔法を作り変えたり分析して無効化したりもちろん使ったりできる」
「うわっ、『魔導師』や『魔術師』の人よりすごいじゃないですか」
その2つがどう違うのかも気になるが、今は自分の疑問よりもミラの疑問に答えることを優先する。
「他にも『察知』『探知』『感知』『鑑査』『考察』『観察』なんかのスキルの上位互換が使えるな」
「凄いですね…聞いたことのないものもありますし、さらにそれの上位スキルなんて…」
心底驚いているのだろう。
目を輝かせながら前のめりになって聞いている。
いつもピョコピョコ動く耳も少し前のめりになって、一言一句聞き逃さないという想いが伝わってくるようだ。
「魔法が使えることに嘘はなかったから賭けて言ってみたが…やはりバレてしまったな」
「なるほど、だから少し波が変だったんですね…」
「そういうことだな。あとはこの世界の常識に疎くてな、何が一般的でユニークスキルなのもわからなかったからあの時は自分が普通だと信じてそう受け答えしたんだ」
「全く普通じゃないですよ!……だからあの時少し波がおかしかったんですね…」
どうやらあの時『悠久図書館』で下手に調べなかったのは正解らしい。もっとも、嘘だとバレていてもミラは隠してくれていたかもしれないが…
「あとあと、精霊の鏡のこと、本当は知らなかったんですよね?」
「あぁ。最初にミラと話した時に初めて聞いて知っていたからな。あの時のグラダルドの質問は誤魔化せたと思ったがやはりバレていたか」
「嘘…ってほどではなかったですけどね。でも、知らなかったにしてはお詳しかったですよね…それにこの世界の常識に疎いって…」
…さて、どうしたものか。ここまでくれば『悠久図書館』の事も転生のことも話してしまった方が早いだろうか。
とりあえず、そのことは一旦保留にして先に俺が本来聞きたかった事を聞く。
「それは少し説明が難しいからまた後で話そう。それより、どうしてミラは俺のことを助けてくれたんだ?」
「助ける…?」
「俺が吐いた嘘を指摘しなかっただろう?」
「あぁ……」
あの時、嘘だと指摘されていれば色々と面倒ごとが増えていた。その点を考えると、ミラに救われたのだ。
「先程も言った通りです。何か事情があるんだろうな…と思うと、どうしても言えなくて…トモギさんを信じたくなったんです。あの場の雰囲気が怖くて逃げたしちゃいましたけど」
「いや…本当に助かった。ありがとう」
「いえ。それに誰かを騙そうとする悪質な嘘だと私ほどじゃないですけど騎士長のグラダルドさんも見抜けますしね」
あのグラダルドも嘘を見抜けたとして、まさか自分のことを見逃してくれるとも考えられない。
「ただ、グラダルドさんの場合は経験による勘、の部分が強いみたいです」
…ある意味そちらの方が厄介だったが…誤魔化せたようでなによりだ。
今更ながら少し俺は肝を冷やしていた。
「他に何か聞きたいことはあるか?」
「たっくさんあります!…けど、もう遅いですので…」
「ミラも泊まっていくか?」
「えっ、や、あの、泊まっちゃうとアンナちゃんにバレちゃうので…」
…なるほど。今後はアンナにバレないところを宿にするのもありだな。
俺はふとそう考えて思い出す。
…そう言えば仕事終わりに顔を出すと言っていたな
別れ際、アンナの言った事を思い出して、やはり今日は帰って貰うのが1番無難だと判断する。
「それなら送ろう。他に聞きたい事もあるだろうが、それはまた今後。しばらくは俺もこの街にいるし、時間ならいくらでもあるからな」
「はい!その時は今度こそ街を案内しますね!」
「あぁ、よろしく頼むな」
ギルド会館を出るときにシバタが言っていた事を思い出し、今日は全く案内という案内は受けていなかったな、と次の約束が早くも取り付けられそうで、思わず口元が緩んでしまった。
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