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ギルド会館

全ての話の行間を変更いたしました(2020.2.15.)

 この街で俺が最初に向かったのはギルド会館と呼ばれる場所だった。



『悠久図書館』で盗賊を捉えた後にどうするべきか調べてみた際、ギルドへの引き渡しというものがあった。



 ただ、『悠久図書館』も万能ではなく、調べた事以上のものは出てくる事はなく、また図書館の名の通り、ある程度の調べ物をする事はできても、個人の情報や今動いているものまでは分からなかった(人の増減や物の価値なども含まれる)。



 …これは本格的に自分のスキルに関していろいろ試しておく必要があるな…



 とは言え、今の目的は盗賊のギルドへの引き渡し。



 門番の男に盗賊をギルドへ引き渡したい旨を伝えると、引き渡した際の細かな報酬や処置が各ギルドによって異なるため、各ギルドの総本山たるギルド会館へ行くことを勧められたのだ。



 …やはり『悠久図書館』に頼ってばかりではなく人に尋ねることも大切だな。



 そんなことを考えているうちに街の中心部へと辿り着いた。



 門番の男が「ギルド会館なら街の中心部へ行けばすぐにわかりますよ。なんたって王城のすぐ近くですから」と言っていたからずっと見えていた城を目指して歩いてきたが…



「これはまるで…サグラダファミリアのようだな」



 目の前にそびえ立つ城は、前世界でも有名な建造物だったサグラダファミリアを思わせる見た目をしていた。



「まぁあれは教会だったから用途は全く異なるが…」



 そう呟きながら城を見ていたが、その隣に城ほどではないが周囲の建物よりも明らかに大きな建物があることに気づく。



「でっけぇですね…城」

「始めて見ました…」

「うるせぇ。そんな悠長なこと言ってられる場合じゃねぇだろ今は」



 後ろに居た盗賊たち、特に魔法を使っていた2人も城を見るのは初めてだったようで少し興奮気味だった。



 そう言えばさっきも屋台を見て騒いでいたな…こいつらは森で育ったのか?



 気にしていたところで今から別れる人間である事に変わりはないため、早速その目的を果たすべく、城の近くで1番目立つ建物ーーおそらくギルド会館であろうその場所へと向かった。



 ♢♢♢♢♢



「いや…そんなことが本当に…?」

「しかし間違いないだろう。精霊の鏡は偽ることができない」

「この青年が…」



 俺は今ギルド会館の一室で椅子に座らされていた。



 正面には十数人の年齢も性別も種族も異なる大人たちがこちらを見ながら何やらヒソヒソと話をしている。



 何故こんな事になったかというと数分前…



 ♢



 木でできた大きな扉を開くとその中は集会所のような形になっていた。いや、集会所というより、会社の受付と言った方が正確か。



 広い室内は両サイドに歓談のスペースと思しき机や椅子がいくつか置いてあり、そこで談笑する人も多数いた。



 中心部は文字通り受付になっていて、その奥に扉、その両サイドに上の階に続く階段…と言った構造になっている。



 受付では、5人の女性が訪ねてきた人にテキパキと対応していた。



 …どこを選ぶのが正しいかわからないが…まぁ間違っていれば別の人のところへ案内されるか。



 そう考えた俺は適当に空いていた受付嬢の前まで行き話しかける。いや、話しかけようとしたがその前に受付嬢から話しかけてくれた。



「ようこそいらっしゃいました!この度のギルド会館への用はなんでしょうか?」



 営業スマイルなのだろうが…その笑顔はとても眩しかった。



 そもそもこの受付嬢の女性の容姿的なのもあるだろう。



 赤みがかった茶髪は少し癖がかかりながらもまっすぐと腰まで伸びており、満面の笑みを浮かべるその顔はとても整っていた。



 綺麗や美人とかではない。可愛いの一言だ。



「…あの…どうかされました?」



 そう言いながら小首を傾げて上目遣いをしてくる受付嬢。



 大きな瞳がこちらの意識を吸い込んでいくような…あぁ、危ない。計算してやっているとしても可愛すぎる。ここまでくると目に毒だ。



「あのぉ〜……」



 困ったような表情を浮かべてくる。



 そして同時に耳がピョコピョコと動いている。



 そう、特筆すべきはその耳、その耳である。

 うさぎのような耳が頭から生えてピョコピョコ動いているのだ。



 …そう言えば獣人や魔族なんかもいるんだったな…それにしても反則級だなこの可愛さは。



 瞳に吸い込まれそうになった意識は今はピョコピョコ動く耳に釘付けになっている。



「えっと、あの、あのぉ〜」

「あ、あぁ、すまない」



 受付嬢の顔を見ると少し涙目になっていて心底困惑した顔をしている。…これは、計算じゃなく天然なのか。すごいなこの世界は。



 危うくまた別の事に気を取られそうになってしまったため、そうなる前にと話を切り出す。



「この街へくる道中盗賊に襲われてな。その際に捕らえた盗賊を引き渡しにきたんだが…」

「それはそれは!ありがとうございます!」



 やっと話が進んだ事が嬉しかったのか耳をピョコピョコ動かしながら嬉しそうに受付嬢が話す。



「でも、大丈夫ですか?お怪我とかは…」

「大丈夫だ。どこも怪我をしてない」



 心配そうな表情をしながら耳がシュンと折れていくのを見て俺は怪我をしていない旨を伝える。



「そうですか!それは何よりです。ではでは、盗賊の引き渡しに関しての規約などはご存知ですか?」



 満面の…いやもう言う必要もないか。



 盗賊がギルドで引き渡せる事は知っていたがギルドによってその差がある事を知らなかったのと同様、その規約などももちろん俺は知らない。



「いや、できれば説明を頼みたい」

「わかりました!では簡単に説明しますね!

 盗賊や魔物や犯罪者などの引き渡しはギルドを通していただくことで報酬を受け取ることができます。報酬や規約はギルドによって少し異なるのでそれぞれのギルド別に説明しますね!」

「あぁ、頼む」



 はい!と返事をしながら何やら資料を数枚取り出す受付嬢。



「今回の場合、盗賊の引き渡しですので対応できる場所は全部で4つですね」



 そう言いながら出した資料をら4枚選び俺に渡してくる。



「簡潔に説明しますと、盗賊の引き渡しができる場所はその4つで、それぞれ『冒険者ギルド』『警備ギルド』『奴隷商人ギルド』そしてここ、『ギルド会館』です」



 ギルド会館でも盗賊を引き渡すことができるならここでもいい気がするが…とにかく今は詳細を聞く事にした。



「まず冒険者ギルドですね。ここはその名の通り冒険者さんたちのギルドなので利用するには冒険者登録が必要になります。簡単に言えば、冒険者ギルドに依頼として掲示されている中から一番適当だと思われる依頼の達成報酬という形で報酬が支払われます。

 先に依頼を受ける申請をしていないと冒険者ランクは上がりませんが報酬はしっかりと支払われるので問題はないと思います。

 ただ、その後も冒険者ギルドへの所属が必須になるので冒険者になる方以外にはあまりオススメしていません」

「冒険者は辞められないのか?」

「いえ、そう言うわけではありませんが、登録した地域によって異なりますが登録後一定期間は依頼を受けなければいけないのでその期間内に辞めたり依頼を受けなければ違約金が発生します」

「なるほどな…」



 冒険者をするものにとっては冒険者ギルドに所属していた方がうま味は多い訳だが、何をするかも決まっていない以上無闇に所属する事は避けたいな…いや、何をするかはある程度決まっているが。



「でも、4箇所の中じゃ1番安定して高額で引き取ってくれる場所だと思います」

「考えておこう」

「はい!次に警備ギルドですが……」



 警備ギルドというのは前世界で言うところの警察のような組織だそうだ。盗賊や犯罪者を取り締まり街の安全を守っているらしい。冒険者と違って街の外に直接出たり依頼という形で仕事をするわけではないと言う。

 ここではギルドに所属する事は無く、名前のある盗賊や犯罪者ならその分だけの額を、ない者は所属している組織や団体によって微妙に報酬金が異なるのでそれに見合った額を、と言うことらしい。



 奴隷商人ギルドは文字通り奴隷を扱う専門の商人で、ここで引き渡す際もギルドへの登録などは無いそうだが、他の場所のように名前や組織で報酬額を決めているわけでは無くそのモノの奴隷としての価値で報酬額が変動するらしい。が、1番大きな金になる可能性もあるそうだ。

 また、注意事項として、奴隷商人ギルドで引き渡しをした場合、恨みを買って後々復讐や事件に巻き込まれることもゼロではないそうだ。奴隷という特性上、後に自由を手にするものも少なくないそうだし。



 …それなら他の場所では引き渡された奴をどうしているのだろう…まぁいいか。



「そして最後がここ、ギルド会館ですね。

 このギルド会館ではギルドへの登録も面倒な規約なども特にありません。ただ、他のギルドよりも少し報酬額が少なくなってしまいます」

「ほぅ?何故だ?」

「はい、ここは円滑に取引を行うべくあるギルドの総合会館です。面倒な手続きなどを嫌う人がここで取引を行うのですが、取引された盗賊や犯罪者などば各ギルドで1番適性があると判断された場所へと受け渡されます。手続きや規約がない代わりに少し報酬額が他より安くなってしまいますが、その分、1番安心かつ安全に報酬を受け取ることができます」

「なるほどな。ギルド会館はその差異分が利益になるから規約や手続をしてまで利益を求める必要がない、と」

「そういうことです!それに実際、他の場所に行くのが面倒だからここでちゃっちゃと済ませちゃう人が多いんですよ」



 特に隠す気もなければ隠し事をしている様子もなく、盗賊を引き渡すくらいならばギルド会館で十分だろうと俺は思った。



 なにより、この受付嬢が居るならここでいい。



「それならこのギルド会館で引き取ってくれるか?」

「ありがとうございます!それではここに手をかざしてください」

「これは…?」

「?精霊の鏡ですよ?いくら手続きがないからって、色々書類を作る上で誰が捕らえたのかいつ捕らえて取引が行われたのか、なんかは必要ですから」

「あぁ、そうだよな…」



 そう言いながら俺は精霊の鏡について『悠久図書館』で調べる。



 …なるほど、手をかざすだけでその人物の名前や性別・年齢や種族、それと職業や犯罪経歴なんかもわかるんだな…面白い。



 更には精霊の鏡を偽ることは誰であってもできないそうだ。

 なんでも精霊神の加護の効力らしい。まともな神もいるんだな。



「あ、もちろん個人の情報なのでトップシークレットで秘匿されるのでご安心ください!

 私からも名前と年齢と犯罪歴の有無以外は見れませんから。データ上にしか残りませんし階級の高い人しか見れませんから。

 あ、でも、有名な盗賊や犯罪者を捕まえた功として名前が公開される事があります。もちろん、非公開にして欲しい場合は言って頂ければその通りにしますので」



 ピョコピョコ耳を動かしながら人差し指を唇に当てながらそう言ってくる。



「さて…終わりましたね。トモギさん、ですね?これからもよろしくお願いしますね!」

「あぁ…その…」

「あ、そう言えば1番初めに言うべきでした!私の名前はミラと言います!」



 ミラは立ち上がって握手を求めてくる。



 もちろん、それに応えるべく手を伸ばしたのだが…立ち上がったミラの姿に目を奪われた。



 ギルド職員の制服なのであろう白いシャツと青のジャケットの胸元が、想像よりも強調されている。

 更にはジャケットと同色の短いスカートから見える脚はとても綺麗だった。



 …これは…リリアリア以上かもしれない…



「トモギさん?」



 手を出しかけて固まった俺を不思議そうな顔で見てくるミラ。



「あ、あぁ。なんでもない」

「そうですか!では改めまして…」



 俺とミラはしっかりと握手をした。



「いーなー、俺もあんな可愛い人と握手したいです」

「黙っとけ」



 そう言えばこいつら、居たんだったな。



 ♢♢♦︎♢♢



 いや違うな、回想する部分を間違えてしまった。



 あまりのミラの衝撃の大きさに思わずミラと会った時の方を回想してしまった。



 まぁ、要するに、ギルド会館で盗賊の引き受けをしてもらえる事になったため、盗賊たちにも俺同様精霊の鏡に手を触れさせ、名前や所属している組織(所属している場合はこれも出るらしい)を調べて名前があるーーようは指名手配されているのか、報酬額の査定に移ろうとしていた。



 そんな時にミラが調べた結果を見て驚き、近くにいた上司の元へ走って行き、その上司が驚きながら2階に走って行き、そしてーー



 結果、この一室に案内されたというわけだ。



 しばらくジロジロヒソヒソが続いていたが、部屋のドアが開いたと思ったら屈強そうな30代くらいの男が鎧姿で現れる。



 …ギルド会館の長か?それにしては…武闘派のようだな。



 そんなことを思っていると、続いて40代くらいの男性、そして書類を持ったミラが続けて入ってくる。



 …ふむ、ギルド会館の長はどちらかというとあの髭面のおじさまか…?



 短く切りそろえた黒髪にダンディな髭を生やした男性が集団の中心ーー俺の正面へやってくる。



「なるほど。とても彼がやったとも思えんな」

「はい。私から見ても…その…強者には見えません」

「騎士長殿がいうのであれば間違いはなさそうだが…」



 鎧姿の男はどうやら騎士長のようで、なぜこの場にいるかまではわからないが、確かにその身に纏う雰囲気はまさしく正道を進む者、と言った堅いものがある。



「で、でも、トモギさんが連れてきた盗賊にもトモギさんの発言にも虚偽はありませんし…」

「ふむ…ミラのスキルを誤魔化せるわけもないしな…」



 …スキル?



 気になることをダンディ髭は言ったが今この場で尋ねるのは…流石に難しいか。



 そんなことを考えていると、ダンディ髭は俺の方へと改めて向き、自己紹介を始める。



「トモギ、君だったね。はじめまして。私がこの街のギルド会館長、シバタだ。よろしくな」



 …シバタ。また随分と日本人っぽい名前だな。まぁ、名前くらい前の世界も今の世界も被ることがあっても別にそこまで不思議に思う必要もないか。



 シバタと名乗った男は笑みを浮かべながら話を続ける。



「君が連れてきた盗賊、君は知っているのかい?」

「いや、襲われたから捕らえて来ただけだ」

「そう、か…捕らえて来ただけ、か…」



 俺の発言にシバタの背後で黙っていた人達がまた少しざわつき始める。



 それを気にするようなそぶりもみせず、シバタは俺の目をまっすぐ見て言う。



「君が連れて来た盗賊はな、『バンシラの凶弾』と呼ばれるこの国はおろか他の国でも危険指定されている盗賊団の、それも頭、つまり団長だったわけだ」



 そこまで聞いたところでリリアリアに、この世界に戻る直前に言われた事を思い出す。



『まだこの世界にもスキルにも慣れていないんだから、あまり目だった行動や目をつけられることはしばらく避けてよ?』



 …すまん、リリアリア。その忠告は早速無駄になるかもしれない。



 ほんの数時間前の出来事を思い出して遠い目をする俺を、その場にいる全員が、しっかりと見つめて…監視していた。



 唯一、耳をシュンとヘコませてオロオロするミラを除いて。


読んで下さりありがとうございます。


勢いで書いているのですが…6000文字になってしまいました。

どうしてもギルド会館のくだり、それにシバタとの最初のやり取りだけはここで書きたかったので…


恐らく今日中には次の話は更新する予定ですので、お待ちくださいませ


…次は3〜4000文字で書いてみせます

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