盗賊
「街は…こっちか」
女神リリアリアの元から名残惜しくもこの世界ーーニアフラントに戻ってきた(目を覚ましたとも言う)俺は人が住んでいるところを目指していた。
それができるようになったのも、女神リリアリアのお陰だと言える。
と言うのも、ニアフラントへ帰る際、心配したリリアリアが色々とあるモノを持たせてくれたのだ。
曰く、
「今のあなたなら簡単に死にかねないもの」
だそうだ。
とは言っても、物を与えることのできないリリアリアが俺に大量に持たせたもの。それは…
「流石にこれは…多すぎるよな」
大量の能力スキルだった。
転生前に俺が選んだ(らしい)"賢者"と言う職業が持っていた、『全知』『固有魔法操作』と言うのがそもそも凄いものらしい。
それぞれが最上位スキルがあると呼ばれ、様々なスキルを極めて統合されたものだそうで、『全知』は『察知』『探知』『感知』『鑑査』『考察』『観察』などなど知力に関係するもの全てを極めたモノしか得られないスキルらしい。
そして『固有魔法操作』は、『魔力操作』『魔法式構築』『魔法看破』『魔法分解』などの魔法に関するスキルを極めた(以下略
2つだけでも十分なはずだが、初めは5つまで基礎スキルが選べたらしく、その他にも『身体能力上昇』『身体強化』『強運』と言うのを待っていた。
そう、持っていたはずなのだが…
今はない。リリアリアが大量にあれもこれもと持たせたスキルは最上位スキルも多く含んでおり、結果として、
「もしかしてこれは…世界最強なんじゃないか俺?いや、スキルで技術の差は埋まらないか…」
敵う人間などいるのかと疑いたくなるほどであった。
「特にこのスキルはー」
自分が持っているスキルについて改めて確認しようとしたその時、不穏に動く魔力3つ。
これは魔物ではなく…人間か…?
自分の周りを囲むようにして近づいてくる3つの魔力。
急に攻撃を仕掛けてくるとも限らないので、試しにスキルを1つ使ってみることにする。
…頭の中で考えればいいんだったな…『オールカウンター』、だったか。
捻りも何もないが、間違いなく最強のスキルの1つ。その効力はー
「はぁあああ!」
先ほどの魔力の持ち主らしい1人が木々の隙間から剣を構えてこちらへ突進してくる。
よく見れば後ろで控えている2人も何やらブツブツ唱えているようで、恐らく詠唱をしているのだろう。
そんなことを考えていると、剣を持って突撃してきた男が渾身の一振りで俺に襲いかかる。
切れ味の良さそうな剣の刃が俺に当たる直前、弾かれるように行き先を変え、更には襲撃者の身体は自分が突進してきた時の何倍もの勢いで吹っ飛ぶ。
そしてその瞬間に俺目掛けて炎の塊と氷の塊が飛んでくる。
が、その2つは俺に当たる直前何かに吸収されるかの如く消え…次の瞬間数倍の大きさになって現れ、魔法を唱えていた襲撃者2人の方へと返っていく。
「うわっ、なんだっ!」
「む、無詠唱!?そんな馬鹿なっ」
そう叫びながら襲撃者達は魔法の直撃こそ避けたもののダメージは追ったようで倒れたまま動かなかった。
「まさか、死んではないよな」
襲ってきたとは言え、人を殺すのは流石に気がひける。
そう思っていたが、3人とも無事息はあるようで、とりあえず回復魔法をかけて魔力で作った縄を使って3人を縛る。
「とりあえず目が覚めたら話でも聞くか」
そして俺は3人を抱えて再び街に向けて歩き出した。
♢♢♢♢♢
「ばっ、化け物めっ!降ろせ!」
森を抜けたところで突然暴れ出した襲撃者3人のうちの1人、剣を使っていた1番ガタイのいいスキンヘッドの男がそう叫ぶ。
「ほら」
暴れられてはバランスも悪いため3人まとめて地面へ放り投げる。
その衝撃で他の2人も目を覚ましたようで、俺の顔を見るなり暴れて逃げようとする。
しかし、3人まとめて縛っているため上手く身動きが取れないようでその行為も徒労に終わっている。
「それで?なんで俺を襲ったんだお前ら」
「はっ、盗賊が人を襲わない理由なんてねぇだろうよ」
「あぁ、なるほど。お前ら盗賊なのか…」
盗賊、という事はもちろん金目のものやその人間を売るために人を襲うのも間違ってはいないだろう。
「あんなところでフラフラ1人歩いてたら、襲ってくださいって言ってるようなもんだろぉよ」
「?そんなに危ない場所でもなかっただろう」
俺は今まで歩いてきた森を振り返る。
「バカ言え!魔物が住んでないあの森が多くの山賊やならず者の住む場所なんて歩けるようになったばっかのガキでも知ってるぜ」
「そんな場所だったのか…」
どおりて魔物に全く合わないと思ったわけだ。
それに出口の近くになるまで襲われなかった事や無防備に寝ていても無事だった事を考えると、やはり『強運』いや、『豪運』のお陰だろうか。
「まぁ、あんたみたいな出鱈目な強さの持ち主ならあの森を1人で歩いてたとしても危険はねぇだろうがよ」
呆れたようにそう言うスキンヘッドの男は、先程までとは異なり少しおとなしくなっていた。
「急に大人しくなったな」
「冷静になって思い出したらあんたにはどうあっても敵わねぇさ。こいつらもさっきから震えてるしな。ったく、盗賊が情けねぇ」
そう言いながら一緒に縛られている2人を見てため息を吐く。
当の2人は真っ青な顔で震えながら時折何かを呟いているが、呪詛や魔法の類ではないため放置していてもいいだろう。『全知』のスキルはやっぱり使えるな。
「それで、どうしてあんたはあんなところにいたんだ」
「街を目指していただけだ」
「ほぅ、って事はこの先にある帝都ヴァレイスクか」
「…そう、みたいだな」
「あぁ?」
曖昧な答え方をする俺の事を不思議に思ったのか眉を潜めている。
この先に街があることもその街の名前ももちろん知っていた。
リリアリアが大量に持たせたスキルのうちの1つ、『悠久図書館』と言う、この世界についての情報が全てわかるチートスキルのお陰で。
このスキルは使い勝手が良く、PCのように頭の中で単語やキーワードを検索するとそれに関する情報が必要そうなものから順に脳内に浮かんでくる。また、『全知』のスキルで見れば草木の種類などもわかるのはわかるのだが、更にこのスキルを使えばその草木の使い道や製造法・加工法などがわかる。と言った大変便利で助かるスキルなのだ。
俺が街の場所がわかったのも、この『悠久図書館』で近くの街を探し、『全知』の能力で現在の場所や街の方向などを把握していたからである。
「まぁいい。それで、俺らをどうするんだ」
「そうだな…とりあえず街まで連れていくか」
盗賊、と言うからには今までも多くの人を襲ってきたのだろうし、放置していては今後も被害が出るだけだ。
それならば、帝都でしっかりとそれ相応の処遇をしてもらう方がいいだろう。
そう考えたからこその発言だったのだが、
「ふん。やっぱりかよ。少しは骨のあるやつかと思ったが所詮お前も金目当てか」
「まさか盗賊に金目当てかと非難されるとは思わなかったが…」
スキンヘッドの男はそれ以上何も言わず、黙り込んでしまった。
仕方がないので再び抱えようとしたところで、「歩ける」とだけ言われてしまったので、そのままロープで縛った状態は維持しながら自力で歩いてもらうことにした。
「まさかこんな格好の貧弱そうな手ぶら野郎にやられるとはな」
「マジで何モンなんでしょうね」
「ありゃそんじょそこらの冒険者の域を超えてるっすね」
少し離れたところで小声で会話する盗賊たちの声も、反応する事はなかったがもちろん俺にも聞こえていた。
♢♢♦︎♢♢
帝都ヴァレイスク。
この街は大きな外壁に囲まれており、その周囲は10メートル幅の深い堀になっており水が張られて侵入者が簡単には入ってこれないようになっていた。
堀を超える唯一の手段として東西に大きな橋が架けられ、その先に門が2つ構えていると言ったその姿は、
「流石にここまでとは…この世界、面白いな」
俺の知的好奇心を刺激するのには十分だった。
商業をしているものならこの地を目指せと言われる程の場所で、来るもの拒まず去る者追わずのなんでも国家の首都のようだ。
入り口でも通行料さえ払えば簡単に中に入れてくれた。
まぁ、手ぶらの俺を見た時は食い扶持に困った難民か何かと思ったみたいだが、その後ろで縛られている盗賊を見て流石に混乱していた。
ちなみに通行料は盗賊の持っていた貨幣を拝借した。
「ほー、これはまた…中もすごいな」
絶対的な弱肉強食がこの国家のルールで、腕力だろうが知力だろうが勝るモノに負けるものが悪く、力あるものこそ絶対である、と言うなんともシンプルなものなのだが、そのルールを感じさせないほど街は賑わっていた。
「商業大国だけあって、か」
城門から入って正面の道を歩いていく。
その道は街の中心部へと向かう大きな通りで、まるで祭りでもしているかのように道の両サイドは屋台が立ち並び、その奥にはまた別の店が構えていた。
「これは早めに用を終わらせてこの街を散策するべきだな」
そう考えた俺は先ほどよりも足を早め、目的地へと向かうのだった。
読んでくださりありがとうございます
予定より少し遅れてしまいすみません!
続きはおそらく今日の深夜、もしくは早朝に投稿予定です!