破れない約束事 ひとつ
「もうここには用はないでしょう?」
「確かにな…と言うかここが結局どこなのか最後まで教えてくれなかったな」
「当たり前でしょ」
リリアリアは終始俺の質問に可能な限り答えてくれていた。
しかし、ここの場所だけは断固として教えてはくれず、神々が住まう場所とだけしか言ってはくれなかった。
「となると気軽にここへは来れないわけか…」
そう呟きながら改めて今いる場所を眺める。
和風な作りのこの空間は、それこそ祖父母の家のような安心感や温かみを感じさせてくれる。
そしてなにより…
目の前で不思議そうな顔でこちらを見るリリアリア。
可愛い顔立ちもさることながら、やはりそのスタイルも素晴らしく良い。
着物姿ではっきりとはわからないものの、時折見えるすらりとした足や魅力だらけの胸元が何よりもそのスタイルの良さを物語っているだろう。
ピンク色の髪をした人(?)なんて見たこともなかったが、肩甲骨あたりまで伸びているその髪型はとても彼女の雰囲気ともあっていて。
やはりリリアリアは間違いなく美少女なのだろうと改めて認識する。
それと同時にもう暫くは見ることが出来ないその姿を惜しんでしっかりと目に焼き付けていく。
「ね、ねぇ、そんなに舐め回すように見ないでくれると嬉しいのだけれども…」
真っ赤になりながら目を泳がせているリリアリアは震える声でそう抗議してくる。
いや、どこか嬉しそうな恥ずかしそうな声音だが。
「あのね、さっきも言ったの覚えてるでしょ?」
「あぁ、俺は記憶力には自信があるからな」
「知ってるわよ。だから…」
それに続く言葉は聞こえなかったが、一呼吸を置いてリリアリアが話を続ける。
「その、ね、全部聞こえてるから、その…流石に恥ずかしいの…私も…」
「あぁ。まぁ、思ってしまうものは仕方がないだろう。嘘偽りを言葉にしているわけではなく、素直にそう感じているだけなんだから」
「わかってるの、わかってるんだけど…もぉ…」
リリアリアは諦めたようにそう言うと、同時に着物の袖で顔を隠してしまう。
「………」
「………」
リリアリアが黙ってしまい顔を隠してしまったので会話も途切れ、お互いに何をするわけでも何を言うわけでもなく沈黙が降りる。
「ねぇ…」
「なんだ?」
弱々しい声で呟くリリアリアは、着物の袖から目だけを覗かせてこちらをまっすぐ見ている。
その目が少し潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「死なないでね…」
「…あぁ。勿論だ」
「約束よーートモギ」
まともに呼ばれるのは2度目…いや、恐らく前に来た時も呼ばれたのであろう自分の名前。
前の世界ではなく、この世界で生きていくためにリリアリアがくれた名前。
「記憶力は、いいからな」
出来ない約束はしない。
しかし出来るとも限らない。
だが、この約束は、どんな時でも忘れずに、守るために最大限努めていく。
なにより、この約束だけは守らなければいけない。
何故なら、今目の前にいるこの女神を、悲しませてはいけない。
そう感じてしまったから。
読んでくださりありがとうございます。
ここでプロローグが終わります。
本来もう少しこの話は長く書くつもりでしたがこれ以上書くと蛇足になる気がして…短過ぎるのですが出来る限り今日中に次の第1部冒頭部を投稿しますのでお待ちくださいませ!
次は3〜4000文字でまとめる予定です