女神リリアリア
『第2回 ここ何処?あそこ何?私はだーれ?ここあそ会議』
と書かれたホワイトボードを持ってきた和装の女性はマジックペンのフタを外して深くため息をついた。
「それじゃ、おさらいしていきましょう」
「あぁ、頼む」
ジト目でこちらを見ながらその前に、と一言言い、
「私の名前は覚えてるの?」
「全く」
「はぁ」
再び深い溜息をつき。
「私は女神のリリアリア。いい?リ、リ、ア、リ、ア、よ?わかった?」
「よろしくなアリア」
「どうして1回目と同じ呼び方同じ反応なの!リリアリア!略すの禁止!」
女性改め女神リリアリアは三度深い深い溜息をつきながら呆れたように肩を落とす。
そういえば先程とは異なり着物を着崩している。肩は少し露出させ、胸元が空いており、前かがみになっている今は綺麗な谷間が見えている。
着物姿で気づかなかったがなかなか魅力的な胸をお持ちのようだ。
うむ。はっきり言って良い。かなり良い。エロイ。
顔も正直見たことがないレベルで整っているし。眼福
「聞こえてるわよ」
僅かに頬を染めながらジト目で胸元を隠す。
「貴方達人間が考えてる事は全部わかるし伝わるの……それならもう会話をする必要もないじゃないか。楽だ。とか考えないでくれるかしら?私が今から独り言を永遠いうみたいでいたたまれないでしょ!」
会話をする必要もなく意思の疎通が取れるのならばそれに越した事はないと思ったが全力で否定されてしまった。
「まぁいいわ。全く話が進まないし…ここまで1回目と同じ流れになるとは流石に思わなかったわよ」
そう言えば先程から1回目がどうのこうの言っていたが…ホワイトボードにも第2回と書いてある。
「第1回はいつ開催されたんだ?」
「あのね、第1回は貴方に対して行ったしさっきまでのやり取りもに、か、い、め!なの!」
ここまで完璧に同じ流れを辿るとは思わなかったわ…と呟いているが俺の記憶にはない。記憶には自信があるはずだったんだがな…
先程までは今朝の夢の続きかとも思ったが、今朝の夢自体あまり覚えてない上に女神から何度も繰り返し夢ではないと泣きながら説明されては仕方なく付き合うしかなかった。
「泣いてないわよ私」
ホワイトボードに何か書いている最中だが、顔だけをこちらに向け、それだけを言い再び作業に戻るリリアリア。
先ほども気になったが、所々何かが書いて消されたような跡がある。
まぁホワイトボードなんてずっと使っていればそんなものか。
特に気にする必要もないと思い、改めてリリアリアの淹れてくれたお茶を啜る。…美味いなぁ。本当になんの茶葉を使っているんだろう。
お茶を半分程飲んで湯呑みを卓袱台に置くと、タイミングよくこちらを振り返ったリリアリアが「さてと」と言いながら俺に文字が見えやすいように少し移動する。
「始めましょうか」
♢♢♦︎♢♢
「なるほど。面白いな」
リリアリアの説明を一通り聴き終えた俺は、美味しいお茶と眼福な美人を見る以外の楽しみを見つけていた。
「所々で入るそれ、恥ずかしいのよ……」
「人のモノローグを勝手に覗き見ているのはお前だろリリアリア」
少し赤くなりながらリリアリアが先ほどのように睨みながら言ってくるが少し勢いが弱い気がする。
「貴方って本当、見た目とか雰囲気とか言動とか色々ミスマッチしてるわよね…」
「よく言われるな」
今のこの童顔の青年になる前の姿の時でも、同じような事は周囲から何度となく言われてきた。
だが、今重要なのはそんなことではない。
「つまるところ俺は異世界転生というやつをしていたのか」
「そうよ…やっと、やっと信じてくれたのね…」
「ふむ。これだけ先程までの俺の状況の説明と俺自身の事、細かすぎる世界の仕組みを説明されてしまっては認めるしかないからな」
「1回目に説明した時は『もっと証拠らしいものを揃えて論理的かつ端的に説明して見せなければ信じるものも信じれんぞ』なんて言うもんだから私だってそれなりに考えたのよ」
「そうだったのか…俺のためにわざわざありがとうな」
「なっ!」
慣れないながらも心がけている笑顔を浮かべてリリアリアにそう伝える。
出来ていない事はしっかりとその事実を伝えてアドバイスをし、よく出来た人物は褒めて評価をする。
当たり前のようだがこれを素直にやる人間というものは案外少ないものだ。
当のリリアリアもまさか俺がそんなことを言うとは思っていなかった様で驚いて固まっている。
「まさか貴方がそんなことを言うなんて…それに、ちゃんと笑えるのね」
「馬鹿正直なのが美徳とは限らんぞ」
「いつもの無表情に戻っちゃった」と残念そうな顔をしながらリリアリアは俺の正面に再び腰を下ろす。
「つまりだ、俺は急な心停止で死んでしまったが、運良くリリアリアに拾われて剣やれ魔法やれ魔物やれがいるファンタジーな世界に転生させてくれた、と」
「そうよ!日本人ってそう言うの好きなんでしょ?」
偏見が過ぎる気がしなくもないが…まぁ嫌いというわけでもない。
「それに運良く拾ったわけじゃなく、ちゃんと貴方だから拾ったのよ」
「なんだって?聞こえるように話してくれ」
ボソボソと言われてはこの距離でも聞こえない。
「な、なんでもないの!」
「そうか…?ならいいが…」
冷めてしまっているであろうお茶を勢いよく飲み欲す姿は、誤魔化す人間の典型的な…
「まぁいい。それで生身の俺の姿をそのまま連れて行くわけにもいかないから、リリアリアの好みの姿にしたってことか…服もリリアリアの趣味か?」
そう言いながら自分が着ている薄手の肌着と長ズボンを見る。
特に特徴らしいものもなく、可もなく不可もない、ゲームなんかでは最初に着てそうな。そんな印象の服。
「いや待って、私は見た目にはなんの関与もできないし持ち物だってあげることはできないから。私好みで確かにどストライクだけど私が操作したってことはないわっ!」
嘘はついてないもん!
と豊満な胸を張って主張するリリアリア。
…話せば話すほど女神らしさの失われる女神もいるんだな…まぁ可愛いからいいんだが
「……もう何も言わないわよ」
俯いてそうぼやくリリアリアの耳は赤い気がするが、髪に隠れてすぐに見えなくなってしまったため気のせいかもしれない。
「それで、なんの知識も力もないまま転生してすぐ死んでしまっては勿体無いから色々な加護や能力を与えてくれている。そんなところだったな」
「えぇ。貴方には最初に来た時に選んでもらった職業と能力を与えていたの…いたはずなの…いたはずなのに…」
俺の話を肯定していたリリアリアが突然険しい顔をしながら震えている。
「どうしてああなったのよ!」
と、俺がここで目を覚ました時と同じような声音で叫ぶ。
「まさか異世界にいるとは思わなかったからな」
「異世界転生してるの!あなたは!説明したでしょ一回!」
「今ならわかるが、その時は夢の話かと思ったんだろう」
「いくらなんでもそのあと目が覚めて知らない土地の知らない顔面に産まれてれば気づくでしょ普通!」
「忘れてたんだから仕方がない。夢なんて忘れるものだろ?」
「これは忘れないでよ!お願いーー!」
もう一度同じことだけはさせないで。
そう懇願する女神リリアリアを横目に、これからどうしたものかと思案するのであった。
読んで下さりありがとうございます。
まだ出発もしていないし主人公の名前すら呼ばれていませんが、スローなペースは初めだけなので今しばらくお待ちを!
…その分早く次を掲載しますので…