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はじめての森探索とはじめての

「まぁこんなものだろう」



 俺は目の前にある石造りの建造物を眺めてそう呟く。



 ここまで作るのにかかったのはたったの3日。

 本職の大工も裸足で逃げ出すレベルのものだと自分でも思う。



 完成度の高さで言えば秀吉の一夜城に負ける事はないだろうが、一夜で作る事ができなかったので歴史上の彼は偉大だったと改めて思い知る事が出来る。



「校舎ができたのなら…」



 この世界ではあまりにも異質なその建物を作った俺は残った作業に取りかかりながら3日前の出来事を思い出していた。



 ミラやアンナと話した翌日、冒険者ギルドに行ったのが全ての始まりーーという程大袈裟なものでもないが。



 ♢♢♢♢♢



 珍しくリリアリアに呼び出される事なく快眠で朝を迎えた俺は早々に支度を終えて宿を出た。



 街の南側にある宿のさらに外側、冒険者ギルドへと早足で向かう。



 大きな扉を勢いよく開けてまっすぐと目的の場所へと向かい、



「なぁ、ギルドでは依頼を受けなくても倒して来た魔物や盗賊なんかを持ってくれば適当な依頼から達成扱いにしてくれるんだよな?」



 昨日も居た茶髪ショートカットの受付嬢に昨日聞き忘れていた事を尋ねる。


 受付嬢は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして固まっていたが、すぐに我に返ったようで俺の質問に答える。



「え、えっと、一応そういうシステムもあるにはあるのですが…その場合は仲介料という扱いで報酬の1割をギルドが頂いています」

「仲介料?」



 ミラの説明の際には聞かなかった話に首を傾げる。


 受付嬢は「はい」と言って話の続きを口にする。



「例えばギルドに所属していない方が盗賊や犯罪者、魔物を持ってくる事があるのですが、その際は冒険者ギルドに登録して頂くと同時に該当依頼や手配書から報酬の受け渡しを行うのですが、その際に生じる各種手続きの省略料と言う意味合いで報酬の1割を頂いております。

 これは事前に説明しているものですので、同意の上でしか行いませんが同意して頂かなければ報酬をお渡しする事もできません」

「なるほど…」



 ミラの話になかった事ではあるものの、ミラを責めるつもりはない。


 ギルド会館に所属している以上、すべてを把握している必要もあるかもしれないが、事細かな詳細はそのギルドへ直接赴けばわかる事なのでミラの職務怠慢だとは言えない。と言うか言う奴がいたら許さない。



「でも、本当の意味合いとしては報酬の1割を仲介料と言う形で頂かなければ皆さん依頼なんて受けずに勝手に行って勝手に報酬を要求してきますから…そうなると色々大変で」

「普通に考えればそうだろうな」



 システムとして依頼の受注、達成ないし失敗、報酬ないし違約金という形が既にあるにも関わらず、受注を飛ばして達成、報酬、と毎度毎度されていてはシステムを作った意味もない。



「ですが、一部のSランクの方やAランクの方は、1割の報酬減を承知でそうしてくる方もいますね。

 この街のギルドにAランク以上の冒険者がいないので私はそう言った手続きをした事はありませんが、そもそもAランクもそれ程多くはいませんし、Sランクともなれば世界でも片手で数えられる程しかおりませんのでシステムの崩壊や手続き云々を心配する必要もないんですよ」

「報酬減を承知であればしても構わないのか?」

「うーん…正直に言えば頻繁にされると困りますが、たまになら構いませんよ」



 確認したい事は聞けたので、受付嬢にお礼を言ってその場を立ち去ろうとするが、ふと昨日は気にしていなかった事が目につく。



「このギルドに制服はないのか?」

「制服…ですか…」


 ギルド職員の服には統一性がなく、しかしながら共通点はあった。

 どちらかと言えば大人しい様な落ち着いたような…悪く言えば質素な服を着ていた。


 受付嬢は少しだけ困った様に眉を寄せて、



「その…昔はあったんですが今は経費削減と言う事でなくなってしまいまして…」

「経費削減?」



 言われてみれば冒険者ギルドのギルド内全体が薄暗く、少し年季が入っているような古いような所々にガタが来ているようにも見えたが、それはギルドの雰囲気を出すためだと思っていた。


 …これは…シバタの言っていた事と関係しているのか…?


 だが、そこまで言うと受付嬢はその先を口にしなかった。



 ♢♢♦︎♢♢



 冒険者ギルドの事が引っかかってはいたものの、何か確信があるわけでもなかったのでとりあえず適当な依頼を受けて街の南側の門を冒険者ギルドのギルドカードでパスして出ると、遠くに見える大きな森へと向かって歩く。



「さて、とりあえずDランクのコボルト討伐か…」



 受注をする際に、「危ないと感じたらすぐに依頼を諦めて帰ってきて下さい。今回は自分の力量を確かめるため、と言う事で違約金は頂きませんので」と言われたがそれ程危険な相手なのだろうか。



 自分で言うのもなんだが、リリアリアから貰った能力ははっきり言ってできない事は何もないと言える程強力だった。


 詳細はまたの機会にしておくが、その辺の冒険者にも負ける事はないだろう。



「まぁ、経験の差とやらが出るのは間違いないだろうからな。動きは素人だし」



 そう呟きながら森へ入りコボルトと言う名の魔物を探していく。



 …コボルトって妖精じゃなかったか…?いや、邪精霊だったか……確か英語圏では…



 コボルト討伐の依頼書にはコボルトの姿は書いていなかった。つまり、それ程メジャーでわかりやすいものなのだろうとは思っていたのだが…



 そんな事を考えていると、『全知』のスキルが木の影に反応を見せる。

 このスキルは無意識下でも一定の範囲内の脅威には自動的に反応するようだ。



 自分の持つスキルの有能さを実感しながら、木の影に向かって簡単な魔法を使う。



 …『詠唱完全省略』は自動的になるのか…ならとりあえずこの『アイススピア』とやらで…



 使えるスキルや魔法から適当なものを選んで木の影に潜む魔物へ向けて放つ。

 もちろん、『詠唱完全省略』は唱える必要もなければわざわざ魔法の名前を言う必要もない。



 特に動作を行う事なく放たれた魔法は、木の影になっていて見えていない魔物に命中したらしく、耳障りな悲鳴を短くあげて反応を消失させる。



「そういえば『追尾』と『動作完全省略』のスキルもあったんだったな」


 文字通り自分が放ったもの、例え魔法であれ武器や石ころであれ、標的と定めたモノを射程圏内まで自動で追いかけてくれるスキルが『追尾』。


 魔法を行使する際にも照準を合わせるためにも必要な、杖や腕などを振りかざす行為の一切を必要としなくなる『動作完全省略』。これは他にも技やスキルの予備動作や反動を無くす効果もあるらしい。



 これらは全て適当な時間で『悠久図書館』を使って調べておいた事で、思った通りに使えたことに俺も安堵していた。



 倒した魔物の方へ向かい、その姿を確認して俺は思い出す。


「あぁ、ゴブリンだ」



 ♢♦︎♢♦︎♢



 森の深部に行っていないのか、出てくる魔物は極端に弱くコボルトもといゴブリンに限らず全て難なく倒す事ができた。



 倒した魔物は『ボックス』のスキルで収納できるため荷物に困ることもない。



 特に危険もなく森を適当に歩いていると、突然他とは違う異質な雰囲気を感じる。


 …こっちか…?



 だが、『全知』のスキルでも特に危険を知らせているわけでもなく、何か特別な反応があるわけでもない。



 感じた違和感の正体を確かめるべく感覚を頼りにその場所へ向かうとそこにはーー



「素晴らしい…」


 小さいながらきれいな湖と、そこそこに開けた土地があった。



 魔物が頻出する森の中にこんな素晴らしい場所があるとは思ってもみなかったので、流石の俺でも驚きを隠せない。


 そして、同時にある考えが思い浮かぶ。



「森の中の自然に囲まれた校舎…素晴らしい!」



 青空教室、と言うわけではないが、森に囲まれた静かな空間で目の前にきれいな湖、そしてまるで学校を作れと言わんばかりにちょうどいい空間が広がるこの土地を、見逃す手はない。



 …どこかで場所を借りて寺子屋でもと思っていたが、こんなにも素晴らしい場所があるならばここに学校を作らないわけにはいかない…!



 俺はこの世界に来て恐らく初めての高揚感を味わい、魔法やスキルをとにかく使い潰して校舎を作っていく。



『全知』のスキルで空間や範囲を確かめながら風魔法で切り倒した木を骨組みに、土魔法で石を生み出し積み重ねていく。


『重量操作』のスキルで石の重みを紙一枚程度にし、『強化』のスキルで骨組みとなる木や石の強度を高めるのも怠らない。


 木の骨組みや重い石の移動・組み立ては『物体移動』のスキルで手を触れる事なく組み合わせていく。


『錬金錬成』と言う万能スキルは一定の条件や素材が揃えば自分が望むモノが作れるため、それでガラスを作り出し窓枠や木で作った扉にはめていく。


 特に貢献度の高かったスキルが『創造』と言うスキルで、『錬金錬成』スキルと違い自分の中から何かが抜けていくような感覚を覚えるが、かわりに自分の頭の中でイメージしたものを作り出せるという最早これさえあれば何もいらないのではないかと言える程のスキルだった。


 もちろんイメージするモノにもサイズや生き物以外と言う制限はあるものの、自分のイメージが正確であればある程、そのモノの完成度は高くなる。



 記憶力には自信のある俺は細部まで寸分の狂いなくそれらを再現し、量産して行った。


 後から知ったが体の中から抜けていく感覚があった何かは魔力だったようで、この『創造』のスキルは魔力使用量が尋常じゃないようだ。


 だが、『自動回復』のスキルで自然治癒や自然回復の能力が向上している俺は元々魔力量も多いのか苦ではない。



 そんなこんなで寝る事なく作り上げたのが、前世界の校舎程綺麗で完璧ではないものの、石造りにしては本物にだいぶ近い形で再現することができた3階建の"学校の校舎"だった。


 もちろん、中央には時計を作りはめてある。



「校舎ができたとなれば、次は人集めだな」



 目の前に本物の校舎がある事により一層現実味を増した自分の計画に、高鳴る胸と衝動は鎮まる様子もなかった。

読んでくださりありがとうございます



校舎を作るのが早過ぎるのもやはり彼のスキルの為せる事か…と言う事にしておきましょう。数十行で終わるのも彼の(以下略)



次回更新は明日です!よろしくお願いします!

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