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学校とは

「へぇ〜、冒険者になったんだ。ありきたりだね」



カウンター越しにこちらを見てくるアンナはニヤニヤと笑っている。



「で、でも、トモギさんに似合ってますよ?とっても強いですもん」



俺の隣に座るミラがフォローを入れてくるが微妙にズレている事に本人は気付いていない様子である。


その証拠にアンナも微妙な顔で笑っている。


ちなみに、今のアンナは素寄りの普段のアンナだ。


ミラの前でも素を出した事はなかったようで、素で接するのはまだ恥ずかしいみたいだが、それでも元々ミラの前では素が少しでていたようで、その態度は営業中の雑で強気なものよりかは幾ばくか柔らかい。



「何か私変なこと言いました?」


と、ミラが俺とアンナの顔を交互に見て不思議そうに小首を傾げている。



今は酒場の客も皆帰り、日付が変わろうかという時間。


アンナは昨日の件で少し反省したらしく、酒場の営業時間を日付が変わる1時間程前までと決めたらしい。


客達もその事を快く受け入れてくれるばかりか、短い時間で更に盛り上がりを見せてくれているらしい。


もっとも、客が全て帰るまでが営業時間だった今までの方が俺からしたら理解不能だが…。まぁ常識ある優しい常連は基本的には日付が変わる頃には帰ってくれていたが、それでも一見だったり酔い潰れた人が夜中までいる事もままあったそうだ。


みんなが営業時間を認知している現状、これからはそんな心配はいらないだろう。なにせ常連はみんなアンナの事が好きだから守らない奴がいようものなら力づくで追い出すに違いない。



そんなこんなで片付けもひとしきり終わり、今店内に居るのはカウンターに座る俺とミナ、そしてカウンターの中に椅子を置いて座っているアンナのみである。



お互いが今日1日の出来事を話している最中で、俺の今日1日の行動を話し終えた所だった。



「それにしても、武器も何も買わないのか?」

「ん?あぁ。慣れないものは無闇矢鱈と使うものではないからな」

「ふーん。ないよりはマシだと思うけど」

「え、え、それなら武器も無しで『バンシラの凶弾』を倒したんですか?あ、でもトモギさんならあり得るのか…な?」



俺の職業や力の一部を知るミラが1人で疑問を浮かべて1人で解決している。



冒険者になった事は伝えても、シバタから頼まれていることに関しては一切触れない。


秘密裏の依頼だという事もあるが、この2人を巻き込むわけにもいかない。と言うのが本音だ。



だが、それとは別に今朝誓ったもうひとつの件については伝えておこうと思い、混乱中のミラを無視して話す。



「そういえば学校を作ろうと思う」

「がっこう…?」

「へぇー、学校を…」


両者共に反応は違い、ミラは益々混乱しているようで目を回し、アンナは懐かしそうにこちらを見て一言呟いた。



「あぁ。俺は教師の仕事をしなければならない。だがここには学校がないと聞いたのでな」

「まぁ確かにそうだね。アタシもこの世界で学校なんて聞いた事も見た事もないよ」

「きょうし…?宣教師様じゃなくてですか?」


この世界で16年間過ごしているアンナも存在を確認してはおらず、ミラに関して言えば学校と言う単語も教師という職業も馴染みがないようだ。逆に宣教師はいるんだな。



「名称こそ違えど、学校のような教育機関が全くないと言う可能性は低いだろう。だが、俺が思い描くものとそれとでは別物だろうからな」

「そりゃぁ、前の世界みたいな学校を想定してるなら難しいだろうよー」

「え?え、前の世界…?」



と、そこで俺に対して話を合わせ過ぎていたアンナがミラの前で口を滑らせる。

アンナもしまった、と言う顔でこちらを見ているため、ミラに前世の話を聞かせた事はないようだ。



「(タスケテヨ)」

「(知らん。自分で撒いた種は自分で処理しろ)」

「(貴方にも無関係じゃないでしょ?お願い)」

「(俺は言っても構わないからな)」

「(薄情者〜!)」

「??」


アイコンタクトだけで会話をする俺たち2人を、ミラは何を見つめあっているのだろうと言った顔で見ている。



……仕方がない


「ミラ。その事についてはまた今度話す。今日新しい情報を沢山聞いても、量が多くてパンクするからな」

「ぱん、く?」



…しまった



「(何やってんのよ)」

「(いや、すまない)」


言い慣れた言葉だったから使ってしまったが、どうやらこの世界にはない言葉のようでミラは新しく増えた疑問と今まで積み重なった疑問が脳の処理限界を超えたらしく頭から煙を出している。ように見える。



「今のは方言だ。要は、いきなり新しい事を沢山言われても困るだろう?と言う話だ」

「あ!地方の言葉だったんですね。確かに沢山のことを一度に言われると頭が混乱しちゃいます」



方言という言葉は通じるようで、何とか脳の処理限界を迎えてショートする寸前でミラを通常状態に戻す事に成功する。


どうやら一度忘れる事にしたようだ。



アンナも一旦は事なきを得た事に安堵したのか手だけでお礼を言ってくる。



「そうだな、とりあえず"学校"と言うのがどんなものなのかを説明するとだな」

「説明するとー?」



ミラに学校とは、を説明しようと色々考え、複雑に説明しても理解が追いつかないと思いシンプルに言うことにした。


「年頃の男女が大人の人からイイコトを教わる場所だ」

「それは素晴らしい場所ですね」

「やめろ!表現に色々な誤解を生む単語が含まれてるから!」



何を勘違いしてか、目を輝かせて理解してくれたミラとは異なりアンナは俺に向かってそう叫ぶ。



「何か俺は間違っているか?」

「いや、正しい、正しいんだけどさ…もう少しこう、マシな表現できないのか?」

「そうだな…それなら、年頃の男女が経験豊富な大人から手取り足取り教えてもらう場所、と言うのでどうだ」

「すごいです!そんな場所があるならみんな行きますよ!」

「だからどうしてそう匂わせな表現をするのさ!」



アンナが段々と顔を赤くして、呆れているような恥ずかしそうな微妙な表情を浮かべてそう言う。


「匂わせるも何も事実だからな…」

「事実を誤解を生まないように伝える事も教師の役目だろ!」

「!!…アンナに教師の何たるかを指摘される日が来るとはな…」

「失礼な…ん?あんた今初めてまともに名前呼んだ…?」

「きょうし、って、アンナちゃんも知ってるの…?」



アンナが驚いた表情でこちらを見ているが、教師の役目について指摘された俺はそんな事に構ってはいられない。


ついでに言えば教師について知っている風のアンナの事を見ながら、「私だけ仲間外れ…?」とミラが少し落ち込んでいるのも気にしてはいられない。



…事実を誤解なく伝える…確かに、それは教師としての立派な責務だ



アンナから言われた事を自分の中で噛みしめ、如何にしてミラに事実をわかりやすく誤解なく伝えるか十分に精査し、そして伝える。



「年頃の男女がーー」

「その年頃の男女がってのがまずアウトなのに何で気付かないのアンタはっ!!」


渾身の一言はアンナに途中で遮られた。



♢♢♢♢♢



いつものようにミラを送り自分の部屋に帰った俺はベッドに寝転がり先程の事について考えていた。



「…学校と言う存在も教育機関のようなものもないのであれば、それがどう言う場所なのかをしっかりと説明するのも重要だな…」



ミラが無知と言うわけではなく、教育機関が一般的ではないこの世界で学校と言う存在を知らない人間にその存在理由や内容を説明するのは容易な事ではない。


「学校ってなーにー?」と無垢に聞いてくる幼い子供に説明するのとは訳が違う。


何をする場所で、どんなメリットがあり、どんな魅力があるのか、それを伝える事が出来なければ学校を作ったとて生徒が集まる事もなければ俺が教師をする事もできない。



…そもそも、この世界にあの世界の学校を再現したとしてもあまり需要はないだろう…となると、この世界の人にそれなりに求められる需要あるモノにしなくては…



学校を作る事は自分の中で決まっているものの、何をするか実際に考えていたわけではない。


この世界の生活や需要に合わせた内容のものを作るためには…



「とりあえず実際にモノがなければ説明もできないな。適当な場所に学校を作ってみるか」



現代のような大きな校舎や充実した設備は捨てがたい。だが、それ程多くの人が集まるかもその設備が必要かもわからない現状、寺子屋の様な形式で場所を借りて始めるのも悪くないのではないか。


そう考えた俺は、冒険者と並行して寺子屋の場所探しとこの世界のニーズにあった授業内容を考案する事を決め、ひとまず眠りに就くのだった。



♢♢♦︎♢♢



天界にある和造の家の一室で、今日も今日とてトモギの動向を見ていたリリアリアは深く深くため息を吐く。



「やっぱり、面倒事に巻き込まれちゃったわけね…」



トモギがギルド会館でミラやシバタと出逢った時点で、こうなる事は見えていたが、やはり避けられなかったか…と独言る。



今日のリリアリアはトモギに対していつものように嫉妬や怒りを抱いているわけではない。


もちろん、全くないかと言われればウソになるが、それでも今は心配という感情がそれらを上回っていた。



…変な事に巻き込まれちゃった以上、大事にならないといいけど…



リリアリアはベットで寝息を立て始めたトモギを見ながら憂う。


「今日は呼ばないであげましょう…」


これからの事を考えると、頻繁に天界に呼び出すのも忍びないと思い今日は控えようとリリアリアは決めるが、元々ここに頻繁に呼ぶ事自体が間違いである事は忘れているようだ。



だが、今のリリアリアにはトモギに対する心配の種が多すぎる事もあり、些細な事を気にする余裕もない。



「それにしても…」



トモギが学校を作り教師をやると言い始めた瞬間を思い返しながら、



「…やっぱり、偽造はしてても()()()()()には抗えないのかしらね…」



誰に聞こえるでもなく、そう呟くのだった。

読んでくださりありがとうございます。



伏線ばかりが増えていくようですが、しっかりと回収していきます。……伏線リスト作ろ。



次回更新は明日を予定しておりますが時間は未定です。恐らく夕方もしくは21時前にはできるのではないかと思いますのでよろしくお願いします。

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