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冒険者登録

「冒険者ギルドを?」



 シバタの頼みは思いもよらないものだった。


 つい数日前に来たばかりの素性の知らない俺に調査を依頼するのもどうかと思う。



「あぁ。話せば長くはなるんだがね、簡潔に言うと冒険者登録をして来て欲しい、そう言う事だ」

「登録をするだけでいいのか?」



 登録をするだけでいいのであれば楽ではあるものの、前回ミラから聞いた通り冒険者ギルドに登録すれば一定期間は依頼を受けなければいけないうえに、その期間内に依頼を1つも受けなかったり辞めたりすれば違約金が発生する。


 つまり、冒険者登録をする事で何かしらの依頼を受けなければいけなくはなる。



「そう言うわけではないがね。もちろん、依頼も適度に達成してもらうわけだが…」



 そう簡単な話ではなく、普通に冒険者としての生活もしなければいけないらしい。



「今回調べて欲しい事というのが、冒険者ギルドの背後に何やら不穏な動きがあるようでね。なかなか尻尾を見せないし、それなりに大きな組織のようなんだよ」

「どうしてそれを俺に?」



 もっともな疑問をシバタに問うと、「そこなんだ」と言って一呼吸おき話を続ける。



「君はあの『バンシラの凶弾』リーダーを撃破し捕縛した。それだけでも君の実力が相当のものだというのは明白だ」



 何度も言われている事だが、俺にとってはその『バンシラの凶弾』とやらがそれ程脅威のあるものとは思えない。

 むしろ、彼らの言動を見ていると、普通の人よりも世界を知らないだけの…



「だが、君の素性はまだ知られていない。私達が公式に発表していないのもあるが、無名の人間であるとともに君は()()()()し見た目が()()()()()。とてもじゃないがそんな功績を残すような人物には見えないのだよ。良くも悪くもね」



『バンシラの凶弾』について考え事をしていると、シバタが少し笑いながらそう言う。


 悪くも捉えられる表現だが、恐らく今回の調査に適任だと言わんばかりの表情を浮かべるシバタに対して悪い気はしない。


 …適材適所。使えるものをうまく正しく使うと言うのは才能だ。



「つまり、冒険者をやれるだけの力があって、身元もバレていない。なおかつ、数日前に街に来たばかりで顔もギルド会館との繋がりも知られていない俺が冒険者ギルドで登録するのはもってこいだ、と」

「言い方が悪くてすまないがね。君の実力は得体が知れないが高くも評価している。そしてその力があれば冒険者として難なく生活していけるうえに、影を見つける目も持ってるだろう」

「影…まぁ人並みには違和感に気づきやすいとは思うが、普段を知らないとどうしようもないぞ」



 何を知ってか、シバタは俺のことをそう評価する。


 シバタの言う通り、普段を知っていれば記憶力に優れた俺は教師という"人間を視る"職業も相まって人並みよりは違和感には敏感だ。


 だが、それをすぐに見抜くのも、経験豊富な年長者ならではなのか…



「そんなに信用される程俺はあんたに何かした覚えはないが」

「ミラがいる限り、君はこちらを裏切らない。そうだろ?」

「……過信も程々に、だな」

「過信していると言われればそうだが、まぁ今は過信だろうと盲信だろうと信じれるものは使いたいのだよ」



 ミラともそこまで深い仲になっているわけではないし、人質を取られた気分にもなり癪だが、元々ここの職員であるミラが、ギルドに関わる何かに巻き込まれてしまう事は十分にあり得る話なので仕方がない。



「それで、何をすればいいんだ」

「話が早いと言うのは美徳だ」

「半分以上脅しでもあったがな」

「この件が終わればどうとでもしてくれて構わないよ」



 シバタはふざけた顔を正し、一層真面目な表情で口を開く。


「君にはーー」



 ♢♢♢♢♢



「あれ?トモギさん、来られてたんですね」

「ん、ミラか。……まぁな」



 シバタとの話が終わりギルド会館から出る為に一階へと降りた所でミラに声を掛けられる。



 ミラは俺が会館の扉を開けた時から気づいてチラチラこちらを見ていたから俺が来た事を知っているはずなのだが、気付いていないフリをしているようだ。


 俺も特に指摘はせず、ミラと普通に会話をする。



「ミラはこれから休憩か?」

「いえ、少し資料を取りに行きたくて上の資料室に向かう途中です!」

「そうか。残りの仕事も頑張れ」

「はい!トモギさんは上で何を…?」



 元々はミラに尋ねるつもりだったことをシバタから聞いてしまい、なおかつミラは今時間的余裕があるわけでもないようなので、シバタに聞けなかった事を聞くのはまたの機会にするとして…



 …さて、ミラには話さない方がいいだろうか



「少し聞きたいことがあってシバタに話を聞いていたんだ。まだわからない事もあるからそのうちミラにも頼りたい」

「もちろんです!いつでも言ってくださいね。……ところで、これからどこに向かわれるんですか?」



 シバタから依頼された内容は言わない事にしたが、冒険者登録をしてしまえばいつかはミラの耳にも入るだろう。



「冒険者登録をしに行こうかと思ってな」

「…!?……そう、ですか…冒険者登録を…」



 俺がそう言うと驚いたような、困惑したような表情を見せるミラ。


 だが、


「でも確かにトモギさんの強さなら大丈夫ですよね!ちゃちゃっとSランクになっちゃって下さいっ!」


 すぐにいつものミラに戻り笑顔を向ける。


 もしかすると、冒険者ギルドに関する良くない噂を聞いているのかもしれない。


 ギルド会館の職員であればそれも不思議ではなく、そうでなくとも冒険者と言う危ない職業に就こうとする俺をミラが心配してくれている可能性もある。


 そう考えると自然と頬が緩み、ミラの頭を撫でたくなる。



「あぁ。期待しないで待っていてくれ」

「期待して待ってますっ!」



 頭を撫でられて嬉しそうなミラを俺も微笑ましく見る。



 だか、その耳がいつものようにピョコピョコ動くこともピンと立つこともなく、静かに、悲しげに伏している事も見逃しはしなかった。



 ♢♢♦︎♢♢



 街の南側にある、ギルド会館程ではないが、それでも周囲の建物よりかは圧倒的に大きなここ。



「冒険者ギルドか…何度か前を通ったが…」



 冒険者ギルドのある街の南側は、更に壁の方に行けばミラの住む家が、ギルドより中央に寄れば俺が今部屋を借りるアンナ経営の『ラブホテル』がある。



 南側に門は無く、何故そんな門から遠い場所にギルドがあるかと疑問に思っていたが、昨日ミラが「南側には冒険者さんしか利用できない専用の門があるんです」と説明してくれた。



 更に、南側はしばらく行くと大きな森があり、魔物が大量に住んでいるため門から近い南側の壁寄りは家賃や土地代が少しだけ安いらしい。 


「お金があまりない私には大助かりです!」とミラが言っていたのを思い出す。



 それはそうと、肝心の冒険者登録をするべくギルド内へ入る。



 作り自体はシンプルで、受付が3人いるカウンター、やたらと広い歓談スペース、大きな掲示板、上の階へと続く階段、と言うものだ。



 俺は真っ直ぐ受付に向かうと、受付で暇そうにしていた女性に声をかける。



「冒険者登録をしたいんだが」

「えっ、冒険者登録をですか?」



 受付の女性は俺が声を掛けると驚いた表情をする。


 ここは冒険者登録をするはずの場所だが、そんなに驚かれるものだろうか。



「あぁ。何か問題が?」

「い、いえ…問題があればこれですぐわかりますので」



 そう言って精霊の鏡を出してくる。



「その、この街は商業が盛んなのであまり冒険者登録をしにくる若い人はいないんです。でも、依頼は多いいので他の街から冒険者さんが沢山来てはくれますが…」



 そう言ってやたらと広い歓談スペースに目を向ける。


 今もかなりの数の冒険者らしき人が談笑しながら掲示板にある依頼書を見ている。その多くは、見た限り俺とそう歳が変わらなそうな若い男女である。



「この街の冒険者にベテランが少ないので、血気盛んな新人の方ばかり来るんですけどね」



 そう言って苦笑いを浮かべている。



「っと…トモギさん?ですね。登録に問題はないようですのでこのまま登録致します。冒険者の規約やルールについて1度説明しますが、その前に何かご質問はございますか?」

「そうだな…いや、説明を聞いてからにしよう」

「そうですか。それでは」



 冒険者の規約やルールは至って簡単なものだった。



 掲示板から依頼書を選んだり、上級になれば使命の依頼が入るなどして依頼をこなしていく。

 依頼の達成度や難度によって功績が一定に達せば冒険者ランクが上がる。


 冒険者ランクはFから始まりA、Sと言う上限まである。


 依頼の難度もランクわけされていて、Fランクの依頼書はFランク向けにと提示されているが、自分のランクより遥かに上でも下でも依頼は受けることができるそうだ。

 だが、ギルド職員により不当と判断されれば受ける事ができない。無闇に高ランクの依頼に手を出されて死なれては困るだろうから当然ではある。


 依頼を受ける際は受付金として達成報酬の一部(1割である事が殆ど)を払い、達成できなければその受付金がそのまま依頼失敗の違約金、達成できれば冒険者に返却となるらしい。

 このシステムで、受付金が払えるかどうかも低ランクの冒険者が高ランクの依頼を受けにくくする仕組みの1つになっている。



「最後に登録後の違約金などに関してですが…」



 先程尋ねようとして止めた部分を受付嬢が口にする。



「登録後1年は冒険者を辞める事ができません。また、登録後半年間で20件の受注、10件の依頼を達成しなければ違約金が発生いたします」



 登録後半年間で20件かつ10件達成という事は、1月に4つ程受注し2つクリアしていけばいいという事で、更に難度が低ランクでも問題ないため難しいものでもないだろう。


 違約金の額も提示されたが、高額ではあるものの違約金なのだから妥当だろう。



 更に、登録後1年辞められずに困るのは、冒険者と兼業することが禁止されている騎士や聖職などに就こうとする人間くらいだろうからこれも問題はない。



「注意点はそれくらいでいいか?」

「そうですね…何か他に追加されたり疑問があれば都度、という形で」



 そう言ってギルドカードと呼ばれる物を渡してきた受付嬢は、何か思い出したのか「あっ」と言って、


「パーティーは組まれます?」

「いや、予定はない」

「そうですか。それなら組まれる際にまたご説明しましょうか?」



 一瞬考えたが、そんなに長く冒険者をやるつもりもないので今説明を受けるのは断ることにした。


 …あくまで俺がしたいのは教師だからな



 冒険者登録を済ませた所でちょうど腹も減り、とりあえず今日は依頼を受ける事もせず今後の方針を考えるべく宿へ戻る事にした。



 …冒険者登録…まぁ一石二鳥だしな。


 元々、リリアリアに教わった通り『悠久図書館』のスキル向上のために戦闘をいくつか経験し、ついでに学校を経営するための資金集めをするつもりでいた。



 毎回ギルド会館へ魔物の素材なども持ち込むつもりだったが、依頼を受けてギルド会館より高額な報酬も貰えるのであればそちらの方が良い。



 スキルアップができて、資金が稼げて、なおかつシバタの要求にも応えている。



 学校作りからは遠いようだが、しっかりと一歩踏み出したことを実感する。



 …それにしても…



 俺はふと考えを別のことに向ける。



 …教師じゃなくて冒険者やってるなんてあいつが聞いたら爆笑するだろうな…



 この世界にはいない幼馴染みの顔を思い浮かべて、独り微笑むのだった。

読んでくださりありがとうございます。



…頑張って早く書きました。


でも、これから予定が入っていて次の更新は早くても明日中…何卒よろしくお願いします。



…教師が学校を作るまできっと、もう数日とかかりませんから(小声)

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