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この世界の教育

 翌朝目を覚ますと隣にはアンナの姿がなかった。しかし、まだ微かに温もりが残っていたので、起きた時間は俺とそれ程変わらないのだろう。



 リリアリアが何かを泣き喚いていたが、教職がなければ学校もない事を知った俺が構ってやる余裕なんかを持てる筈もなく、早々にあの場を去ったのは言うまでもない。



 …学校がない。それならばこの世界の"教育"はどうなっているんだ



 剣技も魔法もスキルも魔物も存在しているのがこの世界。スキルはともかく、技や魔法は1人で磨くものではなく、基礎は誰かに教わるものだろう。

 もちろん、戦闘面においてだけではなく、鍛冶師や建築士、商人だって誰かから教わって初めてできるようになるものだろう。

 それこそ、商人なんかは金勘定や複雑な契約書のやり取りもあるため勉学は必須になる筈だ。



「となると、その辺りの仕組みはギルドに行って聞いてみるのもいいかもしれないな」



 ギルドは先日のミラからの説明にあった『冒険者』『警備』『奴隷商人』以外にも沢山ありそうだ。昨日ミラとデートしている時もギルド会館程でなくともそこそこ大きな建物で、⚪︎⚪︎ギルドと書いてある建物がいくつかあった。



「各ギルドが教育機関のような役割を持っているのかもしれないしな」



 教育機関、と言う言葉に自分で可能性を見出し、希望に胸を膨らませる。



「そうと決まればギルド会館へ行くか…ん?待てよ…」



 昨日は初日に比べ使う事が殆どなかったために忘れていたが、俺には『悠久図書館』と言う擬似万能スキルがあった事を思い出す。



 …リリアリアが言うにはレベルとやらが上がればそれだけ情報も増えると言っていたな…



 とりあえず『悠久図書館』を使いながらギルド会館へ向かい、補填の意味合いも兼ねてミラに話を聞くことにしよう、と思い部屋を出る。



「そういえば、アンナに会わなかったな」



 働き者の彼女はどこでなにをしているのだろうか。


 少しばかり気にはなったものの、昨日の今日で無茶をする事もないだろうと思い、そのまま宿を後にした。



 ♢♢♢♢♢



「………」

「………」



 向かい合うのはうさ耳の美少女ではなく、短めの黒髪とダンディな髭が特徴的な壮年のおっさんだった。


 ミラを尋ねてギルド会館へ来たところ、順番待ちで椅子に座って待ちながら『悠久図書館』で調べ物をする俺の前を偶然通ったシバタに、「おや、先日の…トモギ君だったかな。ちょうどいい、少し話をしたかったんだ」と言われ、そのまま昨日ミラと俺が使用した馬鹿広い応接間に連れて行かれた。



「俺は受付を待っていたんだが」

「あの子らが出来る手続きも説明も私はできるがね」

「そんなもの、それこそわざわざギルド会館長がする仕事でもないだろう」

「そんな事もないさ。いくら私とて、忙しくて人手が足りなければ彼女らの仕事もするし、他の仕事も手伝う。ギルド会館長というのは名前だけの雑用さ」



 シバタはギルド会館職員が持ってきた紅茶を飲みながらそう俺に説明する。



「それなら俺も遠慮なく色々聞かせてもらう」

「あぁ、構わんよ。尤も、私もいくつか君には聞きたい事があるがね?」


 優しい笑みでこちらを見て言うシバタ。

 シバタの印象は、面倒見の良いタイプの上司という雰囲気だが、何かイチモツ持っているのは確かだろう。



「そうそう、この部屋は外に声が漏れないようになっているのと、盗聴や傍聴が絶対にできない仕組みになっているんだよ。だから昨日も君達にここを使わせたわけだ」



 突然思い出したかのように話すシバタ。


 なるほど。どおりで昨日も今日も2人だけだと言うのにこんな部屋を使うわけだ。



「この部屋以外には?」

「ない事もないが、そちらはもっと厳重な案件を扱う際にしか使えなくてね。代わりに、パーティーでも使うこの部屋は使いたい放題ってわけだ」



 もしかするとこの部屋が音が漏れない仕組みになっているのも、パーティーをする時に近隣に迷惑がかからないようにするためでは…と考えてしまう。



「さて、それで本題に入るが、トモギ君は受付の子達にどんなようなあったのかな?」



 にこにこしながら聞いてくるシバタ。受付嬢の子達、と言いながら「ミラに」と言う意味があることが十分に伝わる。



「ギルドの仕組みに関して幾つか聞きたいことがあってな」

「ほぅ?ギルドの」

「あぁ。この街にある全てのギルドを知っているわけでもないし、その詳細も知らなかったからな俺は」

「ふむ、街や国によってそんなにギルドの内容は変わるものでもないと思うが…まぁそうだな、商業の街としていくつか他にないギルドもあるからな」



 …そう言われればこの国は商業大国であるヴァレイク帝国の帝都ヴァレイスクとかだったな


 あんまり必要そうな情報でもなかったために今まで忘れていた。

 いや、忘れていたと言うより気にしていなかった、と言う方が正しいだろう。俺に関して言えば。



「変わったギルドもいくつかあるにあるが…この街で知っておけばいいのはとりあえず後は『商人ギルド』と『商業ギルド』だろう」

「?その2つは別物なのか?」

「この街では、な。簡単に言うと『商人ギルド』が街の東側にある露店や出店を出している者たちが所属しているギルドで、『商業ギルド』がそれ以外、と言ったところだろう」



 聞けば、商業大国の帝都だけあって商人や商店の数も普通の街よりも多く、1つのギルドでそれを負担するには無理があったそうだ。

 そこで目的別に分け、露店や出店など「建物を建てない、持たない」者達を取りまとめる『商人ギルド』。商店の店舗経営や系列の管理、旅商人行う者達も含め『商業ギルド』でまとめるそうだ。『商業ギルド』の方が負担も大きく登録数も多いそうだ。



 ちなみに、この街のギルドについて調べようとしたが、案の定『悠久図書館』は教えてはくれなかった。



「ところで、聞きたいのはそれ以外の部分の気がしているのだが?」



 頭の中で話を整理していると、シバタがこちらをまっすぐと見て言う。


 やはりこの男、侮れない。ギルド会館長という立場を持つだけあって、よく人を観察している。



「商人になるにはどうすればいい。いや、商人だけじゃない、鍛冶師や冒険者もだ」

「なんだ?1人でどれだけ仕事をするつもりなんだい君は」

「とぼけてないで教えろ」



 わざとらしく両手を広げて驚いたフリをするシバタを急かす。



「悪かった悪かった。そうだな、方法はいくつかあるがどれも弟子入りするのが1番一般的だろう」

「なるほど…弟子入りか…」



 前の世界ではそれ程頻繁に聞く言葉ではなかったが、そのシステムを利用すれば確かに教育機関がなくとも成り立つわけだ。



「大きな商館とかだと貴族位を持っている人も多くてな。自分の息子娘に仕事を教えているようなものだから、そうなると弟子入りと言うのも変だが。後継のために人を雇い商業のイロハを教えている者もいるとは聞くが、まぁ金も掛かるし滅多にいないだろう」



 家庭教師のような雇用形態も存在しているのを知るが、俺がなりたいのは家庭教師ではなく学校の教師だ。選択肢の内にも入っていない。



「冒険者や鍛治職、それこそ技術系の職業は弟子入りするのが殆どだろう」



 弟子入りする事でそれぞれの道に特化した成長の仕方をすると言うわけか。

 学校がない世界でなら、言われてみればそれが普通なのだろう。



 農家の子は親に農業を教わり、商家の子も親の仕事を見て育ち、技術を師から盗んで育っていく。

 至極当たり前の"教育"ではあるだろう。



 だが、それでは物足りない。



 もちろんこの世界にも自分の家業が嫌で他の仕事に就く者も沢山いるだろう。



 ミラも文字を誰かから教わり、故郷ではなくこの街で働いている。



 では読み書きができない人間はいないのだろうか。魔法の才能、商業の才能、剣技や他の技術の才能がある者は?


 やはり、足りない。



 …この世界における職業の決定は15歳の成人の儀式までに、何を身につけているかに左右される事が多いと『悠久図書館』で記載されていた。となると、15歳までに色々な可能性を身に付けておけば…



 鍛治職に弟子入りしていれば鍛治の仕事に対する知識が多くなり、自ずと鍛治系の職が選ばれやすい。

 魔法関連の職を持つ者に弟子入りしても基本、師となる者は『魔法系』か『魔術系』かで分かれてしまっているので、弟子もそのどちらに進むかが初めから殆ど決まってしまうのだろう。

 更に言えばその専門も、師に影響される事になるのだろう。


 いくら弟子入りしててもその職について学んでいても、全く別の職が与えられる事もあるようで、やはり成人の儀を迎えるまでにどれだけ多くの選択肢を自分に身につけさせることができるかが重要になってくる筈だ。



 …そう考えると、必要なのはやはり前の世界同様『学校』の存在だな。



 前世界での『学校』の存在は基礎的な知識を身につけるのと同時に、数多く存在する職の中で自分に見合ったものやなりたいものに就くため、自分の中で多くの可能性を育てる為にあった。

 もちろん、それ以外の人間的成長の部分もあるのだが。



「トモギ君。急に黙ったままカップの縁をじっと見てどうしたのかね?」


 結構な時間を自分の思考に浸かっていたようで、紅茶は既に冷めていた。

 シバタに声を掛けられてはじめてその事に気づく。



「すまない…考え事をしていた」

「いいさいいさ。若いうちは沢山の事を考え、悩むものだ」



 シバタは薄く微笑んで許してくれる。



「それで、他に聞きたいことはないのかい?」

「…いや、大丈夫だ」


 正直に言えば他に聞きたいことはあるのだが、自分の思考に耽ってしまった事もありこれ以上聞く事は流石にできない。


 …シバタからも何か話があるようだしな



 俺のそんな考えを知ってか、シバタはひとつ頷いてゆっくりとした話し方で俺にある提案をしてくる。



「それでは私の方の本題だ。トモギ君、ひとつ頼まれ如を聞いてほしい。もちろん、報酬は支払う」

「なんだ?」


 俺が否定的ではない事を確かめると紅茶を一口飲み喉を潤してシバタが口を開く。


「冒険者ギルドを調べて欲しいんだ」






読んでくださりありがとうございます。



…正直に言いますと、疲れて帰ったのが既に明け方でそのまま眠ってしまい更新が送れました。申し訳ありません。


次回更新は明日中には致します。

もし可能なら今日中にしたいのですが…



さて、話は学校を作るために必要な事へと進んでいきます

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