表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

間章 蛇足的リリアリア劇場


早く次の話を進めたい方はこの話を飛ばしても問題はありません!


リリアリア好き用の蛇足的女神回です


リリアリアが好きな人は読んでくださいませ。

 「ようやく行ったわね…」



 ミリアリアはトモギの姿を見送って一息つくために、新しい紅茶を淹れる。



「やっぱり私には、日本茶の美味しさはわからないわ…」



 卓袱台に置かれた2つの空になった湯呑みを見てそう呟く。



 …まさか、この短時間で2回も呼ぶ事になるなんて思わなかったけど。



 1度目に来た時、そして今さっき来た時の事を思い出しながら苦笑を浮かべるリリアリア。



 まさか2回も同じくだりをするとは思っていなかった彼女の顔は少し疲れている様子で…しかし、それと同時に嬉しそうでもあった。



「それはそうと、大丈夫かしら」



 またここへ来た事を忘れていたりしないか心配になり、ずいぶん昔に精霊の神が置いて行った精霊の鏡でトモギの姿を映し出す。



 離れていても姿さえ見えていれば心の声を聞くことは可能なので、耳をすませてみる。



『……(さて、とりあえず街にでも向かってみるか)』



 鏡の中に映るトモギはその場でリかリアリアが教えた通りに『悠久図書館』のスキルを使って街を探している。



 …とりあえず、あのスキルの使い方さえ教えておけばどうにでもなるものね



『悠久図書館』のスキルは大変有能で、大体の事はこのスキルを使えばわかるようになっている。それこそ、他のスキルの使い方すらも。



 リリアリアは街に向かって歩き始めたトモギの姿を見ながら、寂しげなため息をつきつつも顔を綻ばせていた。



 ♢



「なんで!?なんでそうなるの!?」



『悠久図書館』の使い方を早くも覚えたトモギが盗賊を捕らえてそのまま街へ連れて行くのを見て思わず叫ぶ。



 トモギが変な輩に絡まれそうになっていた時、前もって彼らのことを軽く調べたリリアリアは早くも危険を感じていた。



 トモギの力を持ってすれば簡単に退けられる事はわかっていたリリアリアだったが、まさか捕らえて街に連れて行く選択を選ぶとは思っておらず、どうしたものかと慌てる。



 …『悠久図書館』の有能さを侮っていたわ…彼らを連れて行くのはまずい。絶対に厄介ごとに巻き込まれるもの…



 周囲の大国から指名手配されるほどの盗賊団で、かつそのリーダーを捕らえたトモギ。しかし、リリアリアが憂いているのはそれだけではなかった。



「とにかく、私には見守ることしかできないものね…」



 落ち着かない気持ちを必死に誤魔化しながら、リリアリアはその後もトモギの動向と心の声に注意していた。



 ♢



「ほんっと、何やってるのかしらあいつは」



 リリアリアは軽く怒っていた。



 トモギが面倒毎を更に増やしたからーーではない。



 と言うのも、トモギが盗賊をギルド会館へ連れて行って受付嬢に引き渡しの手続きをしている最中、ずっと受付の女性ーーミラに対して劣情を抱いていたからだ。



「さっきから都度都度耳やら表情やら一挙手一投足に騙されて誘惑されちゃって…そうよ、あの女が誘惑してるのよ!まったく!」



 ミリアリアの視線はトモギをしっかりと追いながら、その正面に立っているミラに向いていた。



 赤みがかった髪と可愛らしく整った顔。衣服を着ていてもなお強調されている胸部に短いスカートから見える綺麗な生足。そして獣人族の特徴である獣人の耳をピョコピョコ揺らしているその姿は…



 …確かに普通の女の子よりも可愛いし魅力的かもしれない…



 だが、だがしかし。

 ミリアリアにはどうしても譲れないことがあった。それは、



「着物を着てるから分かりづらかったでしょうけど胸は私の勝ちよ!それにスタイルだって絶対に負けていないんだから!」



 ミリアリアはトモギが自分に向けていた視線や感情を、実はかなり心地よく感じていた。



 好意を寄せる相手に、そう思われて悪い気持ちはもちろんしなかった。



「あの女との今後の動向には最注目ね…」



 彼女はその事に夢中になりすぎて、差し迫っている脅威と新たに舞い込んできた厄介毎の事を忘れていた。



 ♢



「………」



 無言の彼女が見つめるその先にあるのは、精霊の鏡に映ったひと組の男女。

 銀髪幼顔の青年トモギと赤茶髪のうさ耳獣人ミラだった。



 その表情は見たことがないほどに険しく、握るティーカップの持ち手からはギリギリと音が鳴っていた。



『トモギさんを信じたくなったんですーー』



 鏡に映るトモギとミラの姿はリリアリアに反し、とても落ち着いていて温かな様子だった。



 …さっきこの店の入り口で勘違いしたトモギには本気で私から天罰でも下そうかと思ったけど、本当にそうしていればよかったわね。



 静かに、静かに、冷静に彼女はブチギレていた。



 トモギが酒場宿屋『ラブホテル』の入り口でミラの発言に色々勘違いした時、怒りの頂点に達した彼女は女神の特権である、男性限定の制裁を行おうとした。

 しかし、臨界点を超えた怒りは逆にリリアリアに冷静さを取り戻させる結果となり、今もなおトモギは無事にミラといちゃいちゃすることができていた。



『ミラも泊まって行くか?」



 その一言がきっかけで冷静になった頭はトモギに制裁を加えることを決断させた。



 …あとで呼んでやる。絶対に、絶対に、許さないんだから……



 ミラがトモギの誘いを断った際も、トモギの思惑をしっかりと聞いていたリリアリアは、固く固く決意するのだった。



 ♢



 事前に淹れておいたお茶は、特別な湯呑みのお陰で中に入った液体の時間を停滞させているため、まだ淹れたてのように湯気が立っている。


 目を覚ましたトモギに声を張り上げた後、一旦宥められた彼女は定位置(?)に座り想人を睨む。


 だが彼女は自分の目にうっすら涙が溜まっている事に自身では気づいていない。



「昼間言ったこと忘れたわけじゃないわよね!?」

「?あぁ、もちろん。死んでないだろ?」

「そっち、じゃ、ない、わよ!」



 わかっていながら誤魔化そうとするトモギに、卓袱台を強く何度も叩き抗議する。



 特別な湯呑みなので絶対に倒れることはなく、安心して卓袱台を叩くことができる。



(…この湯呑み…優秀だな。)



 自分の言葉よりも湯呑みの方を気にするトモギに卓袱台を叩いて治まりかけていた怒りが再び込み上げてくる。



「湯呑みのことは今どうでもいいのよ!それより、なんでこうも一瞬で問題に首を突っ込んで目立つの!貴方は!」



『(そういえば心の声が丸聞こえだったのを思い出す。それならこのまま声にはーー)』



「出せって言ってるでしょ、か・い・わ、しましょうね?」



 3度と同じ流れをしてたまるものか。

 そのリリアリアの思いは無事トモギに届いたかはさておき、額に浮かぶ青筋をトモギが見ていた事だけは確かだった。



 ♢sideトモギ♦︎



 バンッと卓袱台を叩いて涙目でこちらを睨むリリアリア。



 先ほど溜めていた涙は何処へやら。

 今のリリアリアはうっすら青筋が見える。



「そうは言っても、絡まれたものはしょうがないだろう」

「だからって、まさか貴方があんなに早く面倒毎に首を突っ込んで目立つなんて思わないじゃない!」



 まさかこんなに早くここに呼ぶことになるなんて…頭を抱えながらリリアリアはそう呟く。



 しかし、半日しか経っていないにも関わらず俺の顔を見たリリアリアは確かに嬉しそうにしていたと思ったのだが……



「それに、次から次に女の子と知り合って鼻の下伸ばして!貴方がここにいなくても心の声は聞こえてるの!わかるの変態!」

「心を常に覗くな変態」

「なっ!」



 まさかこの場にいなくても心の声が全て筒抜けだとは思わなかった俺は思わず言い返す。



 だが、一瞬怯んだリリアリアはすぐに口撃を再開する。



「貴方にだけは言われたくないわよ!ミラとかいう女にデレデレして下心ばっかで、アンナとかいう女にも惹かれてるのわかってるんだから!」



 …おや…?これは……



「それになーにが今日一番の収穫がミラに出会ったこと、よ!普通に考えてその後のアンナとかいう同郷の転生者に会ったことの方がよっぽど大収穫じゃない!」



 …やはりこれは……



 まくしたてるように一気に喋るリリアリアは俺の心の声に気を回す余裕もないらしく、そのままの勢いで言葉を続ける。



「だ、い、い、ち!一番の収穫なんて転生初日でここに来て色々あったんだからーー」



 そこまで言ったところでリリアリアの勢いが弱くなり、卓袱台に乗り出していた体を元に戻して正座し、とても小さな声で、



「私に出会った事が、一番じゃないの…」



 そう呟いた。



 これは女神として許せなかったのか、それとも何かのプライドが許さなかったのか、はたまた……



「リリアリア」

「何よ」



 先程よりも弱々しく睨んでくるリリアリア。涙こそ溜まっていないが、目は潤んでいる。



「俺にとってお前は滅多に会えない存在だ。そんなお前に会えない寂しさを、他の女性で埋めようとしたことは謝る。だが、ミラはいつ死んでしまうかわからない生身の肉体なんだ」



 そう言いながら俺は心の隅で、どうしてこんなに浮気を弁解する夫のような事を言っているのか疑問を抱いたが、余計なことは考えないように心の隅に再び閉じ込める。



「いなくなって後悔しないためにも、全力を尽くしたい。そしていつ裏切られるかはわからないが、もしいつか心に傷を負った俺がここにくるような事があれば、優しく、受け止めてほしい」



 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐにリリアリアのことを見る。



 真っ直ぐに見ながら、前世で見たテレビの特集『何股もかけるクズ男はこうして女を騙していく』でクズ男が言っていたことを先程までと同様、今の状況風に少しアレンジして伝える。




「私のこと…大事?」

「あぁ、もちろん」



 この言葉に嘘偽りがあるわけではない。

 この女神がいないと非常に困る。つまり俺にとって大事である事には変わりない。


 …この流れ、全く同じだな…



 リリアリアは俺の心の声を聞く余裕もないのか、先程から駄々漏れている本音に気付きはしない。



「ん、わかった。許したげる」

「すまんな」



 そもそも、何故自分が彼女にここまで好かれているのかもわからない。



 …1回目に会った時に何かしたのか?俺は…



 そう考えるも、記憶にないため実際何があったのかはわからない。



 …夢じゃなかったんだから俺が忘れているのも変だが…



 そこまで考えたところでリリアリアが立ち上がってこちらへ来たことに気づく。



「どうしたんだ?」



 ビンタでも食らうのだろうか。

 前世で見たテレビのシーンが強烈に頭の中に印象づいているせいでそう感じてしまう。



 だが、予想に反してリリアリアはそのまま俺の隣にストンと座るとジリジリと密着するほど近づいてくる。



 ……何はともあれ、あの番組が役に立つとはな。あいつに感謝しておこう



 もう2度と会うこともなくなってしまった人物へ、感謝の意を込めて黙礼する。



 ♢sideミリアリア♦︎


 ……はぁ〜わぁ〜



 しばらくトモギにくっついたお陰で機嫌は治り、固く決意したはずの制裁のことも忘れたリリアリアは冷めたお茶の代わりを持って卓袱台を挟んだトモギの対面に再び座る。



「それで、何か困ってるみたいだったけど」


 少し火照った体を冷ますようにセンスを仰ぎながらリリアリアは尋ねる。


 しかし、トモギのことをずっと見ていたリリアリアは勿論、トモギが抱えている疑問や悩みについてもしっかりと把握していた。



 だが、少しでも長くこの場に居てもらいたいリリアリアとしては、自分の口から話すことで話がトントン拍子に進み、早々に会話が終わってしまうことは避けたかった。



「あぁ、そうだな…」



 トモギが状況を説明し、それについてリリアリアが知っていることを教えている間、リリアリアはトモギの職業について考えていた。



 …賢者、ね…



 そのせいで、トモギが望む通りに話が淡々と進み会話が終わりへと向かっていることは気づかずにいた。


 会話が進むに連れ、トモギが今までで1番まともに会話をしてくれていることに気づいたリリアリアはつい調子に乗ってしまい、トモギが聞いた質問にすぐ答えてしまっていた。



 そして同時に、トモギから溢れ出る知的探究心に火がついている事に気付き軽く焦る。



「待って、知的好奇心が旺盛なのもいいけど、私からはあんまり沢山話せないわ」

「何故だ?」

「色々ルールがあるのよ…破ったばっかだし今は大人しくしたいの…」



 嘘である。

 正しく言えば、全てが嘘というわけではない。



 トモギにリリアリアが行ったことは、ことトモギに関してだけ言えばそれが認められることだった。



「まぁ安心して、貴方が罰せられたり手を下されたりすることはないから」



 自分が罰せられることもないのだから、もちろんトモギに罰が下る事はまずありえない。



 ……こうでも言わない限りトモギが止まってくれないーー



「そうか。それなら質問の続きだがーー」



 そう言ったところで止まってはくれなかった。



 その後、考えうる限りの足止め工作を謀ったが全て失敗に終わり、トモギは現実世界へと帰ってしまう。



「また会いに来るよ。リリアリア」



 帰り際に言われたその一言で上機嫌になったリリアリアは、自分用の紅茶を淹れるべくキッチンへ向かいーー



「あ、盗賊のこともアンナのこともあのおっさんの事も言い忘れちゃった……」



 少しでも問題が減るようにトモギに伝えようと思っていた事を全て伝え忘れたことに、今更気付くのだった。





読んでくいただきありがたき幸せ、です



リリアリアの登場回は茶番感が凄いですね…これも2章辺りでわかりますが…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ