回顧録
ギリガン以下と認識していた伯爵と戦うヴァルデミリアン。
しかし、戦闘が始まると見たことのない数値が表示される。
必死に戦うが今までのようにいかず、危険な状態に。
伯爵の攻撃になすすべなく敗れる間際、DNAコードに接続し
自身の限界を超え始める。
”限界を超えろ・・・”
「!!!」
ヴァルデミリアンは目が覚めると、そこは箱の中であった。
何故か体中がビショビショに濡れている。
「おぉ、やっと目が覚めたかね」
そこには如雨露を持った伯爵が立っていた。
「あれ!?えーと、俺らは戦っていてそれで・・・」
「ふむ、記憶がないのか」
確か俺はこいつと戦っていた。
初めて味わう強さに押されていたが、スピアで貫いた。
しかし、それは幻術でその後・・・。
駄目だ、思い出せない。
「ところで、何で俺はびしょ濡れなんだ?」
「あぁ、それなんだが、貴公の傷はどうやって治療すればいいか
全くわからなくてね。回復魔法をかけてもよかったのだが、仮に
貴公がアンデッドだとさらにダメージになるかもしれないと」
「アンデッドってのはあんたみたいな生命体なんだろ?俺はちゃんと
心臓が動いているぞ」
「新種かもしれないし、考えた結果とりあえず水分を与えておけば
なんとかなるかもと思って。それで貴公を入れた箱に毎日水を
やっていたのだ」
「俺は植物じゃねー!」
「それでも意味はあったようだぞ。こうやって目が覚めたのだ。少し
時間がかかったが」
「少しってどれくらい寝ていたんだ?」
「まぁ、20年くらいだね」
「20年?!」
「私にとっては少しの時間だが」
「ふざけんな!俺は20年も寝たきりだったのかよ!」
「フハハハ、冗談だよ。2週間くらいだ」
「この野郎・・・」
真顔で冗談を言う伯爵にペースを乱されるヴァルデミリアンであった。
「しかし、貴公との戦い。アレはとても甘美な時間だった。アレだけで
私は100年楽しめそうだ」
うっとりとした伯爵は夢見心地の心境を語る。
「そのことなんだが、俺の記憶が途中で途切れてるらしい」
「ふむ」
「あんたに時間を止められて、体中から血が出たとこまでは覚えてるんだが」
そう、俺はこいつの首を狙って攻撃をしたはずだが、魔法によって時間を止め
られて仕留められなかった。それどころか自分が全身を切られまくっていた。
生命値が63%も減少したなら瀕死の状態だったはず。
なのに何故生きているんだ。
「あの後だが、貴公は突然別人のようになっていたぞ」
「別人?」
「兜の形状が変化し、雑念が消えただ殺戮に特化した動きをしていた」
どういうことだ?
ヘルメットが変化するなんて聞いたことないぞ。
そんな機能あるのか?
「そして私を攻撃し始めたのだが、これがまた素晴らしくてね。私の動きを
正確に捉えかつ力強い攻撃をしてきたのだ」
うっとりした表情を伯爵は浮かべている。
「そして貴公の動きが私を超えようとした時、申し訳ないがまた時間を止め
たのだ。正確には止めようとしたが、なぜか止まらず貴公のスピアが私を
貫き、電撃により私は死んだのだ」
何を言ってるんだ?
死んだのだって目の前でピンピンしてるじゃないか。
酔っ払ってんのか?
「あぁ、すまない。理解できてないようだね。私は死んだ、が生き返った
のだよ」
「不死身ってことか?」
伯爵は物憂げな眼差しを向けるとため息をついた。
「色々と説明したいのだが、私の話を聞いてくれるかね」
「それで俺の頭が整理できるならな」
「そうか。それでは・・・」
私は今からおよそ700年前、ここから南東の地に生まれた。
王族の第2王子として育てられ何不自由なく暮らしていた。
しかし、ある時自分が普通ではないことに気づく。
3歳で教会と城にある書物を読破し、5歳にして魔導書を読み始める。
7歳になると背丈は大人のようになり、10歳の頃には選ばれし者と
呼ばれるようになっていた。
当時、世界には様々な宗教が存在し私達はクライン教の敬虔な信者
として生きていた。
教皇はそんな私を神の使徒と呼び、布教のために様々な地に遠征して
はクライン教を広めていた。
純粋だった私はこれが自分の運命と受け入れ必死に布教をして
いたものだ。
やがて15歳になると、各国で宗教戦争が行われるようになる。
国を巻き込み、どの宗教も信者獲得と権威の追求が激化した。
最初は論争だけであったが、次第に戦争となり国の領土拡大と共に
目的が変わり始めていた。
18歳になると、私は軍団の長となっていた。
何度戦に出向いても傷つかない体、あらゆる兵法を使い大勝利をあ
げる知能、そして屈託のない信仰心。
教皇にとってまさに理想のプロパガンダだった。
私は各地で勇者と崇められる存在となっていた。
クライン教と我が国は破竹の勢いで領土と信者を獲得し、ロジール
大陸の1/3を手に入れるまでになっていた。
そして、4年の間まったく休まず戦い続けた私に神は愛という贈り物を
与えてくれた。
アルミアという女性だった。
敬虔な信者で青く澄んだ瞳と目元にあるそばかすがとても愛しく思えた。
彼女は私が初めて愛というものを知る存在だった。
戦いに疲れた私を癒してくれる唯一の人。
彼女さえいれば何もいらなかった。
私は戦続きだった生活をやめ、彼女との平穏な暮らしを望んだ。
しかし、王と教皇はそれを認めてはくれなかった。
もっと領土を!もっと信者を!と。
祖国の近くだと、私がアルミアを気にしてしまうと思われ、さらに
遠くの地へと遠征を命じられた。
遠征が終われば平穏な暮らしを約束されたので、私はそれを糧に
旅立った。
そして5年もの月日が流れた。
長く険しい道のりだったが、その間私には別の絆も生まれていた。
私を慕い力になってくれる友が7人もできたのだ。
彼らは親兄弟よりも強い絆で私を助け、また私も彼らを助けた。
10倍以上の兵力差の戦いで全員が生き残り、また秘宝を守る
巨人との戦いでも全員で協力し倒したものだった。
疫病をふり撒く魔物を倒した時、我々の名声は絶頂を極めた。
私達は辺境の地へと出向きクライン教を広め、遠征の旅も終わり
に近づいていた。
そんな時、ある邪教徒の村の存在を知り私達は浄化を目的に訪れた。
そこには生贄の儀式が存在し、罪のない子供が毎年犠牲となっていた。
私はその村の長に儀式を止めるよう説いたが、彼は受け入れなかった。
「我々の儀式はこの村の犠牲を最小限にするために行っています。
邪教などではなく鎮魂のためにしているのです」
私にはなぜかその言葉が真実に聞こえたが、クライン教の司教は耳を
貸さなかった。
村を調べると、一つの魔剣を見つけた。
その魔剣を鎮魂するために儀式が行われていたのだ。
長曰く、その魔剣は意志を持ちまた魂を吸い取るのだと。
手にすれば魂を求め人を殺し、宿主である人間には快楽と寿命を長く
させ永遠に繰り返す。
なぜそんなものがここにあるのかわからなかったが、私は教皇の元
そのような存在を認めるわけにはいかず、村から持ち帰ることにした。
「勇者様、あなたはそれを持ち帰れば運命を変えられてしまいます。
どうかお止めください」
「私の運命が変わる?」
「はい。あなたは出口のない迷路に永久に閉じ込められ、己の意志
が反映されない時間を過ごすことになります」
「黙れ邪教徒!勇者に向かってなんということ!」
ザシュ!
近衛兵の一人が長を斬り殺す。
長は最後まで私を見ながら息を引き取った。
私は魔剣を丁重に包装し、祖国へと持ち帰った。
途中で合流した各国の兵士とは帰路で別れたが、7人の友は私と
一緒に祖国へと帰ると申し出てくれた。
私も友にアルミアを会わせたかったので勿論承諾した。
そして、それは起きた。
私が国に戻ると、両親と半数の民が城の前で串刺しにされていた。
私を迎えたのは第1王子のブレアスだった。
「よく戻ってこれたな、この邪教徒!」
私は一体何を言っているのかわからなかった。
「貴様は征く先々で民を殺し、金銭を奪い暴虐の限りを尽くして
いたというではないか」
そんなことは一切していなかった。
争いは起きても民には手を出さず、資源もそのままにしていた。
「クライン教を名乗りそのようなことをするのは、教義に反して
いる!お前は私利私欲に陥った邪教徒と認定されたのだ」
7人の友は私を弁護してくれたが、ブレアスは聞く耳を持たなかった。
さらにブレアスの隣には教皇の姿があった。
私はそれで全てを悟った。
クライン教からすればプロパガンダとして優秀であったが、予想以上
に勇者としての私が崇められる結果に危機感を抱いたのだ。
遠征が終われば私の存在は邪魔になる。
教皇よりも崇高な存在はいらないのだ。
「デミトリウスよ、このような結果になり嘆かわしい。幼い頃から
手塩にかけて育てたお前がそのような存在になるとはな・・・」
すると、教皇軍と我が祖国フィデルン軍が目の前に現れた。
我々8人に対し、3000人の数だ。
「邪教徒になったお前に愛する家族を奪われた者は数しれずいる
だろう。お前も同じ目に遭わせてやる」
ブレアスは合図をすると城の窓を開けアルミアを突き出す。
「アルミア!」
「デミトリウス様!私は信じております。あなたが崇高な存在
であることを!」
「フフフ、別れは済んだようだな。それでは・・・」
ブレアスは手を上げるとアルミアは窓から突き落とされた。
「あの時の事は今でも鮮明に覚えているよ。ゆっくりとアルミアが
落ちていく様をね」
硬いものが落ちた音が響き渡る。
それが壁で見えなかったのはせめてもの救いだった。
それと同時に教皇軍とフィデルン軍が攻めてきた。
我々8人は戦いながら逃げることにした。
勇敢な友たちは傷つきながらも500人の兵士を倒した。
しかし、逃げている間、死者こそ出なかったが、それぞれが
重傷を負いこの逃避行が終わりに近いと誰もが感じていた。
7人の中で私と一番に仲の良かったヘラルド卿が私に進言してきた。
「デミトリウス様、我々はもうあなたの邪魔になるだけです」
「ヘラルド卿、何を言う!我々は最後まで一緒と誓ったはずだ」
「もちろんです。我々は最後まであなたと一緒にいます。ただ
肉体ではなく魂として」
「どういうことだ?」
「その魔剣カテドラスで我らを貫いてください」
「何を馬鹿な!」
「あの長は我々に魔剣の事を教えてくれました。その魔剣は魂を吸った
相手の記憶、力を自身に宿すと。それは魔剣の所持者もそうなると
言っていました」
「つまり、我々の体はここで朽ちても魔剣の中でデミトリウス様と共に
生きていけます。だからどうか、ここで我々を貫いてください」
なぜだ、なぜこうなってしまったのだ。
私が人よりも多くの物を持ち秀でていたのが理由なのか?
神は私の信仰に対する報いをこのような形で返すのか?
私はなんなのだ?
神とはなんなのだ?
ヘラルド卿が魔剣カテドラスを私に持たせた。
「デミトリウス様、ピエルタを騎士として祝福してください」
一番重傷を負い息も絶え絶えなピエルタに私は神の名において
騎士の称号を与える。
ヘラルド卿は満足した表情をすると、私を真っ直ぐ見つめた。
「友よ、我々はいつもあなたと共に」
すると剣先を腹に当てると自ら突き刺した。
「ヘラルド卿!」
魔剣カテドラスは妖しく輝き始める。
ヘラルド卿は自らの力で剣を抜くと、力尽きた。
その後も我が友達は自らの意志で剣を己に突き刺す。
力自慢だが怖い所が苦手なルクソン卿。
とても頭がよく常に冷静なモンテス卿。
双子で行動が似ているが性格が真逆のケイン・カイン卿。
一番年齢が高く我々の父親のような存在でまとめてくれていたロブソン卿。
一番年下で甘えん坊だが一番信仰心が強く皆を元気にしてくれたピエルタ卿。
「デミトリウス様、血の涙が出ております・・・。どうか泣かないで・・・」
ピエルタ卿の最後の言葉だった。
魔剣カテドラスは全員の魂を吸い込むとその伝説通り、全員の記憶と力を私
に送り込んだ。
我々は世界の平和を夢見、それを実現しようとしていた。
しかし、それを汚し台無しにした”邪教徒”ども。
世界の果てまで追い詰めても、最後の一人になるまで追いかけてやる。
私は魔剣カテドラスを持つと、追ってきた1000人の軍を迎えた。
「いたぞ!奴は一人だ!進めー!」
1000人の”邪教徒”が私に襲いかかってきた。
私はカテドラスを手に戦う。
そしてその驚異的な性能に驚く。
倒して魂を吸い取るだけではなく、カテドラスが触れると例え傷がつかなくて
も相手の魂を吸い取っていくのだ。
私の攻撃を盾や剣で受け止めると相手は力を失っていく。
「ド、どういうことだ?体に力が・・・」
(俺が戦っていた時も疲労感が出たのはそういうことか)
1000人の兵が波のように倒れていく。
誰も私には近づけなかった。
最後の兵を倒すと、カテドラスは少し形を変えていた。
私は馬に乗りフィデルンに戻る。
「ブレアス様!デミトリウスが一人で城に戻って参りました!」
「なんだと?!1000人の兵はどうしたのだ?」
「一人も戻ってきておりません」
「くっ!しかし、まだ城には1500人いる。わざわざそこに
来るとは血迷ったか」
私は城にたどり着くと、雷のような声で激昂した。
「今この城にいる全ての人間を殺す。その魂はお前達が望む
楽園には決していけない。それを思い知れ!」
1500人の兵が一気に雪崩れこんでくる。
私はカテドラスを手にその中を突っ切っていく。
一振りすれば10人の兵が倒れ、もう一振りすれば20人の兵が
倒れていく。
恐怖に慄き慈悲を乞う兵にも容赦をしなかった。
そして気づくとカテドラスの形が最初の頃とだいぶ変わっていた。
見つけた時は短剣に近い刀身であったが、今は長剣のようになって
いる。
魂を吸うことで剣本体が成長していくようだった。
遠くから魔法使いが火の玉を飛ばしてくるが、カテドラスはそれを
も吸い込んでいた。
「ば、化け物め!」
魔法使いの一団を殺すと、あとは親衛隊とブレアスだけであった。
親衛隊にはかつて幼馴染で一緒に訓練をしていたトレイルがいた。
「デミトリウス、お前は狂ってる」
「あぁ、そうかもしれん。だが俺からすればお前らが狂ってる」
5人の親衛隊は私を囲むと一気に攻めだす。
もはや人間の動きをしていなかった私は、彼らの攻撃など当たらず
にいた。
「この邪教徒め!悪魔に魂を売った動きをしてるぞ!」
切り込んできた兵を一撃で鎧ごと真っ二つにする。
不思議と斬れば斬るほど体に馴染み扱いやすくなっている。
残りの4人のうちトレイル以外の兵を殺す。
「デミトリウス、許してくれ。王に命令されただけなんだ」
トレイルは命乞いをし始める。
私はその時、アルミアの最後を思い出した。
窓から突き落としたのはこのトレイルだったのだ。
「お前の魂は私は受け入れん。未来永劫地獄で苦しむがいい」
カテドラスを突き刺すと、トレイルの魂は吸収されずどこかに
消えていった。
「デ、デミトリウス!お前が王になれ!そして私と共にフィデルンを
強国にしよう!」
ブレアスが必死にのたまっていたが、ほとんど聞いていなかった。
するとブレアスは魔法で一瞬の間、私の視力を奪うとボウガンで
私を射抜いた。
「バカめぇ!兄より優れた弟なんぞいねーんだよ!」
矢は私を貫通し、後ろの壁に突き刺さっている。
しかし私は死んでいなかった。
正確に言うと、私が吸収した魂の一つが死んだ。
「なぜ生きてるんだ・・?」
私はカテドラスを床に突き刺すと呪文を唱える。
”永久よりきたる猟犬たちよ、その魂に限りなく苦痛を与えよ”
羊皮紙を広げるとブレアスと猟犬が吸い込まれる。
そこには猟犬に食いつかれているブレアスの絵が映し出されていた。
「この羊皮紙が燃えない限り、お前は猟犬に噛まれ続ける」
その羊皮紙を宝箱に入れると、私は城の地下にある隠し部屋に置いた。
魔法でトラップを仕掛け誰にも見つけられないようにした。
私はフィデルンを後にし、教皇がいるルバインを目指した。
「きょ、教皇様!デミトリウスがやってきました!」
「な、なんじゃと!?ブレアスはどうした?」
「それがフィデルン城は死体の山で・・・」
知らせ役の司祭が報告途中で倒れた。
魂はもうその体にはなかった。
「お久しぶりです。クレミディス教皇」
「お、お前は・・・」
カテドラスを鞘から抜く。
この私利私欲の権化を吸収したらどんな形になるやら。
「ブ、ブレアスが邪教徒じゃった!あいつがワシに世迷い言を
言ってきたのだ!デミトリウスが邪教に堕ちたと」
カテドラスが魂を吸いたがっている。
「慌てるな。たっぷり味あわせてやる」
私は教皇を玉座に縛ると、カテドラスを頭上に浮かせる。
「教皇、あなたの頭に刺さると1秒に1mmずつ進み始めます。
これはせめてもの慈悲と思いください」
「デ、デミトリウス!待て!誤解なんじゃ!聞いてくれ!」
私は教皇の戯言を聞きながらワインを飲んだ。
アルミア、君は今の私をどう見える?
私の体はカテドラスに乗っ取られるのだろうか。
自分の意思ではなく魂を求めさまよう悪魔となるのか。
今はもうどうでもいい。
復讐が終わるのだから。