邂逅
スキッドガルドを後にし、新しい冒険へと旅立つヴァルデミリアン。
途中、古城を発見すると自分が招かれていることに気づく。
誘われるまま歩くとそこには奇妙な男がいた。
自身をデミトリウス伯爵と名乗り、陽気に迎え入れる。
ヴァルデミリアンとの会話にテンションの高くなる伯爵であった。
ヴァルデミリアンとの会話はデミトリウス伯爵にとって、有意義なのものとなっていた。
「貴公は何をしにこの惑星にきたのだね」
「成人の儀式で来ることになったんだ。本当は地球に来る予定だった
んだけど、何かの手違いでここに来てしまった」
「成人の儀式とは?」
「その惑星で自分と対等の生命体と戦い、勝利して戦利品を奪うことだ」
「ほほう。それで今までにその生命体とは出会えたかね?」
「あいにく雑魚ばかりだね。早く魔王とやらに会いたいんだけど」
デミトリウス伯爵の赤い目はヴァルデミリアンを舐めるように見ている。
「しかし、戦うまでは相手の実力はわからないだろう。それはそれで
数をこなす必要があるね」
「いや、今までの戦歴で相手がどの程度かは予測できるようになった
んだ」
「それもその鎧によって?」
「そうだ」
「ちなみに私はどう見える?」
「敵意を感じてない時点で測りにくいな。ただ、今見える数値だと
600ってとこだな」
「それは今までの戦歴ではどれくらいなのかね?」
「2番めに強いね。1番はギリガンっていう魔王軍のやつだった」
「ギリガン・・・か。なるほど」
伯爵はほくそ笑む。
「試しに私と手合わせしてみないか?」
「うーん、いいけどギリガン以下だと結果がわかるしな」
「まぁ、そう言わず。100年ほどブランクがあるが、たまには
運動もいいだろう」
二人は城から出ると平野にて対峙する。
漆黒の鎧と赤いタキシードにマント。
月光を浴びてもその存在は夜の中で映えていた。
「お手柔らかに頼むよ」
「まぁ、殺しはしないさ」
伯爵は手元に剣を出現させる。
その瞬間、伯爵の数値が急激に変化する。
「2000だと?さっきは600だったはずだ」
さらに鞘から剣を抜くとその数値は5000に達する。
「おい、俺を騙していたのか?」
「それは違う。戦意がなかっただけだ」
「それではいこうか」
伯爵は流れるように身を動かし、素早い一刀を切り出す。
ヴァルデミリアンは捕捉するのに精一杯で、シミターソードで
なんとか躱した。
「おいおい、お前がこの惑星最強ってオチか?」
「それはどうかな」
伯爵の動きは尋常ではなく、ヘルメットのセンサーも追いつけていない。
ヴァルデミリアンにとって防御一方の戦闘は初めてであった。
武器をシミターソードからスピアに変える。
両刃にプラズマを纏わせた。
「ほう、それが貴公のメイン武器か」
伯爵も剣の柄を捻ると、刀身が赤く染まり始める。
個体値がついに8000になる。
ヴァルデミリアンはスピアを回転させつつ、連続突きを繰り出す。
しかし、伯爵にはかすりもせずプラズマも武器にダメージを与えていない。
(どういうことだ?あの剣は特殊なコーティングでもされているのか?)
「できることは全て出した方がいいぞ?」
伯爵はアドバイスを送ると、残像を残して攻撃をしかける。
一撃一撃がとても重く今までの戦闘とは比べようのない疲労感
が出てきた。
(な、なんなんだコイツ!)
ヴァルデミリアンはハンターディスクを投げる。
伯爵は難なく避けるが、後方から再び飛んできたディスクが肩に
刺さる。
毒酸に設定しているため、溶けるはずだったが伯爵は平気でいる。
「ふむ、これは追尾してくるのか。しかも強力な毒付き。いい武器
だな」
肩から抜くと投げ返してきた。
ヴァルデミリアンは少し間を取ると、ロックオンをしプラズマキャノン
を発射する。
しかし、伯爵には当たらず後ろの木を貫通するだけであった。
「威力はあるようだが、遅すぎるな」
突然目の前に現れた伯爵が鋭い一撃を与えてくる。
胸のプレートが火花と共に切られる。
「グァ!」
この惑星で初めて受けたダメージであった。
”生命値が7%減少しました”
ダメージとはいえプレートを切られただけなのになぜだ?
さらに距離を取って冷静さを取り戻そうとする。
この惑星の金属でプレストルの装備が傷つくのか?
それともあの剣が特殊なのか?
「貴公はまだ短いこの惑星での時間で、圧倒的だったのだろうな」
「確かに強い。しかし、残念なことにまだ若い」
”心拍数が基準値を超えています。血圧も異常値に達しています”
”一度戦闘から離脱し、帰還してください”
気づけば2時間も戦っていた。
伯爵は疲れを見せず、今始まったばかりのような動きを続ける。
一方のヴァルデミリアンは疲労がかなり出ていた。
「100年のブランクがあるが、まだまだ大丈夫らしい」
「しかし、残念な結果でもあるな。もしかしたら私を殺せる相手
に出会えたかも、と思っていたが」
(俺は負けるのか・・・?)
(ミミールのように返り討ちをされるのか?)
(認めねぇ!絶対認めねぇぞ!)
ヴァルデミリアンの感情に反応したスーツが、人工筋肉を増加させる。
”現在の状態で戦闘モードを上げるのは危険です。速やかに解除を
してください”
伯爵の目が輝く。
「ほう!まだ諦めないのか。もっと楽しませてくれ!」
ヴァルデミリアンの動きが一気に加速する。
スピアは弧を描き伯爵の動きに迫る勢いだ。
AIが伯爵の動きをトレースし始め、ヴァルデミリアンの動きと武器の軌道
がリンクし始める。
そしてついに残像ではなく、本体をスピアが捉えた。
「うぉぉお!」
スピアのプラズマの出力をあげると、伯爵の体は一気に蒸発する。
眼前には消し炭が残っていた。
「ハァハァ、なんてやつだ・・・」
息をついたその時、後ろから拍手が聞こえてくる。
「素晴らしい。貴公は戦闘中でもどんどん強くなっていくのだな」
「バカな!確かに手応えはあったのに」
「私も大人気なく本気を出してしまった。あくまで剣術だけで済ませ
ようとしたが、魔法を使ってしまったよ」
魔法だと・・・?
こいつも使えるのか?
一体何が起きているんだ?
「効くかどうかわからなかったが、君に幻術を見せていたんだ。
私の動きに段々とあってくるのがわかってからだけどね」
「貴公が貫いたのは私の身代わりでもある大コウモリだよ」
「なぜ幻術にはまってる俺に止めを刺さない?」
「可能性を感じたからかもしれない」
「可能性?」
「そう、私を殺せるかもしれないというね」
「その上から目線が気に食わねぇんだよ!」
光学迷彩をオンにすると伯爵目掛けてダッシュする。
眼前でスピアを回転させ伯爵の首を狙ったが、奇妙な感覚
に陥った。
”イジョォウジィタイデェス。タァダァチィニィヒィナァ・・・”
何が起きている?アラートがやけにゆっくりだぞ・・・。
それに俺はなんでまだ首を切ってない?
奴は目の前にいるのに。
気がつくと目の前に伯爵はいない。
「今度は時間を止めてみたんだが、どうかね?」
「時間を止める・・だと?」
再び時間が動きだした時、ヴァルデミリアンの体から血飛沫
が溢れる。
「貴公が止まっている間、鎧のない部分を切らせてもらったよ」
”生命値が63%減少しています。危険です。速やかに帰還して
ください”
「100年ぶりの客人。素晴らしい一時に感謝するぞ」
伯爵は赤いオーラを纏った剣を月光に照らす。
意識が朦朧とする中、爺さんの言葉を思い出す。
”お前は一族の中でも有望な戦士じゃ。経験を積み己の限界を超える
ことがお前の強さとなる。ワシもお前の父もそうじゃった”
限界を超える・・・
”これよりDNAコードに接続します”
そのアナウンスと共にスーツ内で細胞が活性化されていく。
一族のDNAに刻まれた戦歴がデータとしてスーツにダウンロード
されていく。
それに伴い、ヘルメットも形状が変化し始めた。
「まだ何かを隠しもっていたのか。貴公は本当に特別だ!」
伯爵は剣で空中に円を描くと、赤い人魂が無数出現する。
矛先でヴァルデミリアンを指すと一斉に人魂が飛んでいく。
プラズマシールドで回避し、残り一つを手で抑えるとそのまま
喰らい始めた。
「なんと!我が術を食らうのか」
(コロス、コロス、コロス・・・・)
ただその目的のために動く。
動きは伯爵を捉え、確実に攻撃をしかける。
最初は避けていたが、だんだん剣によって受けるようになっていた。
その一撃は当初よりも何倍も強く正確になっている。
そして渾身の一撃が伯爵を貫こうとした時、また時間の流れがゆっく
りと過ぎていく。
「ふぅ、さすがに今のは危なかったよ」
しかし、次の瞬間ヴァルデミリアンの動きが止まらずスピアが伯爵を
貫いた。
「ぐぁぁぁあ!」
悲鳴と共にプラズマが全身を駆け巡り、今度こそ伯爵の体を黒焦げにする。
”生命値94%減少。活動を停止します”
ヴァルデミリアンは片膝をつくと、動きを止めた。
黒焦げになった伯爵の死体が横たわっている。
戦いの終わりが告げられようとしたが、突然伯爵が立ち上がる。
「300年ぶりの死を味わえた・・・なんという幸福感!」
黒焦げの部分が剥がれ落ち、元の伯爵に戻る。
「ヴァルデミリアン。貴公は素晴らしい!実に素晴らしい!」
「もっと戦いたいところだが、朝陽が出てきてしまった」
「それに貴公も限界のようだ。またの機会にしよう」
伯爵は優しい眼差しでヴァルデミリアンを見ると、そのまま
腕に抱き城へと戻っていった。