表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

血の雨と硬い肉

人間社会に潜り込むことができたが、価値観の違いで迎合はされなかった。

それでもユースミールとレムリアはヴァルデミリアンを対等に扱い、異形の

内に秘められた高貴さを感じる。


翌朝、ヴァルデミリアンは客室で目を覚ました。


(どうも人間の寝床というのは窮屈だな)


窓からは街が眼下に広がる。

人間の暮らしは朝日と共に始まるようだ。


科学の進歩を見ると、この惑星は地球で言うところの

中世に当たる文明レベルだ。

夜になると真っ暗になり、街を照らすライトなどない。

通信手段もなく街中に存在していても相手を探すのに

苦労をしているようだった。

ドローンで周辺の画像を確認し、様々な人間の生活を

見ていたが皆同じようであった。


「ヴァルデミリアン殿、ユースミール様の使いです。

 王子が食事会の前に少々お時間を頂きたいと申し

 ております」


ユースミール・・・昨日のあの雄か。

あの広間の中で唯一戦士らしい雰囲気があった。


「ワカッ田」


使いに案内された場所は城から少し離れたリンゴ園であった。


「ヴァルデミリアン殿、わざわざ呼び出して申し訳ない」


リンゴを撫でながらユースミールは挨拶をした。


「率直に問うが、貴殿は魔王軍なのか?」


人間は俺が魔王軍かどうか気になるらしい。

確かに貧弱な種族なら命の危険に繋がるだろう。


「もし、魔王軍ならば妹の礼はもちろん言う。しかし、ここ

 から出ていってもらえないだろうか」


ユースミールの心拍数が少し上昇している。敵意は感じない

が興奮状態に近づいている。


「俺八、お前多値の命奈土気にも仕手なイ」


「タダ、この惑星デ一晩つ酔い奴ト多他界たい」


「惑星?惑星というのはこの地のことか?」


「層ダ、お前断ちが呼ぶ意味デ八広い土地ト居う」


「私は正直、あなたを最初見た時身震いがしました。

 自分が知り得ない存在のような、そんな気がして」


(ふむ、この雄は生存本能に長けているんだな)


「もし、人間でも魔王軍でもなければ、あなたに

 お力を貸していただきたいのです」


「父は今病に冒され、十分な指揮が取れません。その

 タイミングで近くのオークとゴブリンの軍勢が我が

 領土を襲ってくるのです」


「俺に八関係nay」


「確かにそうですが・・・」


「お前八人間ノ雄だ。雄奈良自分で毅さwoシメセ」


「そうです・・よね。旅の方にいきなり頼むような話

 ではありません。自分の若さと経験の無さに我を

 失っていました」


「この惑星mo、弱肉強食で成田っ手イルの駄郎?戦い

 で私ネバクワれるダケDA」


ユースミールは落胆しつつも、ヴァルデミリアンの言葉

に頷いた。


昼過ぎになると盛大な食事会が開かれた。

王女を助けた異形の戦士を迎えるため、大広間にて宴が

行われていた。

しかし、社交的とは言えない異形の戦士を来賓の貴族達は

奇異の目で見ていた。


それぞれ酒が入ると、今まで溜まっていたものを吐き出す

ようにヴァルデミリアンに質問をし始める。


「どこからきたのか?」

「人間なのか?」

「言葉はわかるのか?」

「獣臭いぞ」

「防具をなぜ取らない?」

「魔王軍のスパイなのでは?」


貴族達は無礼千万な態度で示している。

ユースミールが窘めようとした時、ヴァルデミリアンが

口を開いた。


「この惑星八、一夫多妻ナノダナ」


「どういう意味だ?」


「ソコの雌とソッチの雌八、同じ雄のDNAをモツ子を

 ヤドしてIRUぞ」


最初、何を言ってるのか皆わからなかった。


しかし、何かに気づいた男は青ざめ始める。


「その雄は祖の二人の雌ヲ娶ってillの打郎?」


その雄、と言われたハドソン卿は冷や汗をかいている。

そしてハドソン卿婦人と、もう一人の雌であるトマス卿婦人が

顔を見合わせている。


「ちょっと!どういうことなの?」


「ち、ちがう!誤解だ!あの魔物の作り話だ!」


トマス卿も自分の妻を問いただしている。


「お前、やはりハドソン卿とできていたんだな!」


「な、何言ってるの?この子はあなたの子よ?」


ヴァルデミリアンはトマス卿を指差すと、冷酷な

言葉を放つ。


「お前八、雄の種wo持って以内。つまり、その雌以外no雌

 であっても、子wo宿すコトハで機内」


トマス卿はその場で失神してしまう。

なぜなら彼には4人の子供がいるからだ。


ヴァルデミリアンは他の貴族の乱れた内情を暴露し、食事会

は一気に修羅場と化した。

光学迷彩をオンにすると、大広間から静かに離れた。


郊外で牛を丸焼きにして食べていると、レムリアが現れた。


「城の食事は口に合いませんでしたか?」


ヴァルデミリアンは無言で食べている。


「ふふふ、さっきの出来事。本当の話なのですか?」


「我々のテクノロジー八、生命体ノ中身をscanできル」


「テクノロジー・・・魔法のようなものですか?」


「今八、ソレで井伊だろう」


レムリアは興味深くヴァルデミリアンを見ている。

皆がその異形に目をしかめる中、自分には恐怖感

が感じられないのだ。

異形の中にある高潔な意識がこの人にはある。

何の目も気にせず、自分の道を進んでいる。


「兄から聞いていると思いますが、じきにここはゴブリン

 とオークの軍勢が襲ってきます」


「ヴァルデミリアン様もお察しかと思いますが、我が軍ではとても

 耐えきれません。でも、私も戦おうと思います」


ヴァルデミリアンは食事の手を止める。


「雌ノお前mo戦うノka?」


「私はこの地で生まれ、そして多くの民衆に勇気づけられ

 ました。今度は私が彼らに恩を返したいのです」


「雌八戦闘ni無イテない」


「それでも、私は戦います。この街の民を守るために」


レムリアは力いっぱい微笑んだ。


「あんなに笑ったのはいつ以来だろう。本当におかしかった。

 あなたに出会えてとても良かったです。ありがとう、ヴァル

 デミリアン様」


そう言うとレムリアは城へと歩いていった。


その後、ヴァルデミリアンはポルト号へと戻り情報の分析をして

いた。この惑星に存在する魔法という力。

この根源が一体なんなのか、まだ解明できていない。


「面白い惑星にきたのはいいけど、謎もあるんだよなぁ」


”前回の個体及び、廃村での蘇生に関して興味深い事が

わかりました”


「お?なになに?」


”彼らが魔法というものを使う時、何かを媒体にして使う

ことがあるようです”


「というと?」


”ギリガンという個体が高エネルギー弾を放った時、彼は

火トカゲという生命体を媒体にしていました”


スクリーンにはギリガン戦が映し出される。

ギリガンが後方にジャンプし、両手を重ねた際何かを挟んで

いるのが見えた。それが火トカゲなのだろう。


”おそらく、この魔法を使う時はこのような媒体を使うことに

よって、エネルギーの充填などが行われると予測されます”


”次に廃村にて蘇生を行った時は、小瓶の中にある何かを

媒体にして蘇生をしています”


”この小瓶の中はまだ詳細はわかりませんが、何らかの方法で

別の魂を保存し、それをギリガンに上書きしたと考えられます”


「マジかよ。そんな事できるなんて凄いテクノロジーじゃないか?」


”プレストルではこのような事は不可能です”


プレストル以上のテクノロジーの存在に驚いたヴァルデミリアンだが

ドローンからのアラートで素に戻る。

実は偵察ドローンをスキッドガルド領周辺に飛ばしていて、襲撃がされ

るのか見張っていたのであった。

ドローンからの映像だと、ゴブリンが200体、オークが150体、親衛隊が

10体と表示されている。

スキッドガルド軍は500人程だが、個体の戦闘力が圧倒的に違う。

たぶん、親衛隊10体で倒せるだろう。


「こりゃ殺戮ショーが開催されるな」


試しに親衛隊のリーダー及び王のようなオークをスキャンしたところ、

リーダーが400,オークキングが430と表示された。


「そんでもギリガン以下か。あいつ、意外に上物だったんだな」


両軍が一気に入り乱れる。

人間側は陣形を作り守備を固めつつ迎え撃つ。

さらに後方から弓隊が援護射撃をしているが、数体のゴブリンが

死んだだけで、魔王軍の行進は止まらない。

陣形にゴブリンが突っ込むと、先頭の列がそれを食い止める。

盾を壁のように並べ行進を止めるが、その後に続くオークが

石を投擲し、陣形を中心から崩していく。


「あーあ、あっちの方がやっぱ戦闘を理解してるわ」


中心から崩壊していくと、陣形のバランスが崩れ始め前線が

一気に押されていく。

スキッドガルド軍はまたたく間にゴブリンとオークのおもちゃ

にされていった。

後方でふんぞり返っていた貴族達が逃げ始める中、2頭の白い馬

が前線に走っていく。ユースミールとレムリアだ。


「前線はそのまま維持し、後方支援を受けられるよう陣形を保て!」


レムリアは傷ついた兵を魔法で癒やしていく。


「なんだ、あの雌も魔法を使えるのか」


二人の出現で士気は一時的に復活するが、ジワジワと押されていく。

ゴブリンを倒せたとしても、その後ろのオークにはまるで歯が立たない。

体に傷を負わせてもオークの動きは止まらず、鎧ごと叩き潰されている。


ユースミールは一人その中で善戦しているが、囲まれてしまった。

レムリアも回復魔法を使いすぎて血圧と心拍数が異常値を出している。


「あの雌、これ以上やると血管切れるぞ」


しかし、レムリアはそれでも止めようとはしない。

その時、爺ちゃんの言葉を思い出す。


”例え雌であっても、戦士であれば尊敬せよ。我が一族はその

 魂こそ最も価値のある存在としている”


”あなたに出会えてとても良かったです”


「クソ!」


スキッドガルド軍の8割は壊滅し、ユースミールはオークの

一撃により左腕が損失しているが、それでも片手で剣を振り回して

いる。レムリアも自分の限界をとうに超え、血を吐きながらも

回復魔法を唱えようとしていた。


「ソノジョウトウナオンナヲツカマエロ!」


「ウツクシクマリョクガタカイオンナハキチョウダ!」


ゴブリンの集団がレムリアを囲んだその時、5体のゴブリンが

何かに串刺しとなって吹っ飛んでいく。


「ナニ!?」


「ナンデシンダ!?」


レムリアはかすかに残る意識の中で、目の前にいる異形の戦士を

見つめた。


全身が黒光りをし、その存在感を際立たせる。

太陽の光がオーガのような兜に反射すると、まるでこれからの

戦闘がご褒美のように笑ってるように見える。


「お前画戦士菜の葉ワカッた」


「そこ出や寸でイロ」


レムリアは決して泣かないと決めていたが、全てをせき止めていた

感情が一気に雪崩こむ。

涙であまり見えないその後姿をただ見つめていた。


「ポルト、ゴブリンが邪魔だ。ミサイルで局地的に蹴散らせ」


”了解しました”


ヴァルデミリアンは空を見つめている。


「コイツナニシテンダ?」


周囲に残っているゴブリンが不思議そうに見ていた。

空には幾つもの流星のようなものが美しい軌道を描いて

近づいてくる。

ゴブリンもオークも親衛隊も王も、それがなんなのか

理解できていない。


”着弾します”


そのアナウンスと共にゴブリン集団が巨大な爆発と共に消え失せる。

大きなクレーターの後にはまだ数百体いるはずだったゴブリン

の姿がどこにもなかった。


「ドウナッテイルンダ?」


オークキングが混乱する。


「オークはあと130体か。こいつらとは初めてだから直々に

 殺してやろう」


ユースミールはオークに囲まれ、棍棒で頭を叩き割られそうに

なった瞬間、そのオークの動きが止まっているのに気づく。

オークの眉間にナイフのようなものが刺さっており、そこから

だんだん溶け始めていた。


「こ、これは一体・・・」


さらに周囲のオークも姿の見えない何者かによって、次々と殺

されていく。


「グガ!」


「ギアー!」


最後の悲鳴が途絶えた後、目の前に異形の戦士が現れた。


「あ、あなたは・・・」


「お前mo戦士ダ。休nデロ」


ヴァルデミリアンはスピアを伸ばすと、両刃にプラズマを纏わせる。

オークの群れが一瞬ひるむが、親衛隊の掛け声と共に突進してきた。


ヴァルデミリアンは大きく飛ぶと、群れの中心にスピアを投げる。

地面に刺さったスピアは半径10mのオーク達に電撃を流し、血

を沸騰させる。

そのまま着地し、スピアを抜くと回転させながらオーク達を殺して

いく。

まるでバターのように切られていくオークを見て、親衛隊が焦りだす。


「ナンダアイツハ?」


「ニンゲンデハナイ!」


返り血を浴び続け漆黒の体が鮮血で染まる。

まさに鬼神のような動きにオーク達も逃げ始めた。

しかし、その逃げる群れに対しLV4に設定したプラズマキャノン

を容赦なく撃つ。

大きなプラズマは群れの中心に吸い込まれると、一瞬で群れは蒸発

してしまった。

時間にして約10分。

ほぼ人間の死体で埋め尽くされた戦場が、オークの死体で上書きさ

れていた。

親衛隊が10体、ヴァルデミリアンの前に並ぶ。


「オマエ、ニンゲンデハナイナ?」


「マオウグンノウラギリモノナラショケイスル」


「シ・・」


親衛隊隊長が言っている途中で、ヴァルデミリアンはスピアをオーク

キングの座る移動玉座に投げた。


「ギャピー!」


スピアが貫通し、手元に戻る。

そこには黒焦げになった死体が鎮座していた。


「お前たちの王はもういない。これで心置きなく死ねるな」


足元に低く移動するとスピアを回転させ4体の足首を一気に切り落とす。

さらに上空へとジャンプし、そこから2段階目のプラズマキャノンを撃つ

と、4体のオークは消滅した。

さらにハンターディスクを両手で投げ、シミターソードも投げる。

着地と共に4体のオークの死体が増える。

残り2体、1体は逃げようとしたが親衛隊長に後ろから切られ絶命する。


「オマエハナニモノナノダ?」


「ハンターだ」


「バカナ、マオウグンヲカルダト?」


一気に殺すのもいいが、ここは接近戦を楽しもう。

オークに刺さったシミターソードを抜くと、二刀で構える。

隊長も巨大な剣を構える。

ヴァルデミリアンから一気に近づくと、二刀で流れるような

連続攻撃を仕掛ける。

隊長は器用にも剣でかわすが、数カ所に切り傷が残る。

ただ巨大な剣を振り回してるように見えた攻撃だが、動きは理に適ってる。

この動きだけでも今までの戦歴は予測できる。

しかし、その攻撃はヴァルデミリアンに当たることはなく

虚しく空を切るだけであった。

スキッドガルド軍が見守る中、異形の戦士とオーク親衛隊

の隊長の戦いが続く。


「もういいかな」


ヴァルデミリアンは一瞬で胸元に飛び込むと、シミターソードを

流れるような動きで操る。それはまるで舞踏のような動きであった。


動きをやめ隊長に背を向けると、隊長であったものはキューブ型の

肉塊となってバラバラに砕け散った。


「す、すごい。あんな強さは初めて見た・・・」


「ヴァルデミリアン様・・・」


夕陽は戦場をオレンジ色に染め、激戦の記憶を大地に染み込ませていた。


「お前ノ戦士ト仕手の動き、見事ダッタzo」


「ありがとう。片腕を失ったが、民は守れました」


ヴァルデミリアンは切断された腕を見つめる。


「レムリア、ゆースミーるを少し狩りるゾ」


「え、どうなさるんですか?」


「等価交換でナオシテやル」


そう言うとユースミールに睡眠薬を打ち姿を消した。


ポルト号に戻ったヴァルデミリアンはユースミールを医務室へと

運び治療ポッドに入れる。


「お前の腕を治す代わりに少しお前の脳細胞をいただく」


「人間側の言語を知るためにお前はいいサンプルになる」


3日後、腕が治ったユースミールが城に戻ってきた。


「お兄様!う、腕が!」


「ヴァルデミリアン殿が治してくれたようだ。しかし、等価交換

 と言われたが、私は何を差し出したのだろうか」


ヴァルデミリアンはドローンでその様子を見ながら別のスクリーン

でこの惑星の歴史を分析していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ