人間との遭遇
生命体のサンプル収集に精を出すヴァルデミリアン。
しかし、待てども待てども低レベルの斥候ばかりであった。
辛抱強く待つとついに高レベルの生命体が現れた。
角持ちと呼ぶその生命体と戦い、興味深いサンプルとわかった
ヴァルデミリアンは生け捕りをする。
ポルト号に戻り角持ちを解析すると様々な情報を得ることができた。
「ベルノア様、ギリガンがまだ戻っておりません」
ベルノアと呼ばれた者は玉座に座り報告を耳にした。
「死んだということか?」
「それはわかりませんが、あの土地でギリガンを倒せる
人間はいません」
「ということは裏切り者がいるということか?」
「め、滅相もございません」
ベルノアは何か考えるとワインを飲み干した。
「ギリガン隊がこれで全滅ということだ」
「次は・・・斥候部隊ではなく急襲隊を送れ」
「は!かしこまりました」
前回の獲物からかなりの情報を得た俺は、改めてこの惑星の
状況をまとめてみた。
・最低でも2つの勢力(魔王・人間)が争っている
・魔法というこの惑星独自の科学力?に近いものがある
・惑星の大きさは計算上、地球とほぼ同等
・重力もまた地球と同等
・しかし、ここは地球ではない
角持ちの死体を吊るすこと3日。
また部隊が現れた。
しかし、こいつらいつもいきなり現れるな。
突然反応が出るから、どこからかテレポートしてくるのか?
今度の奴らは3体で、骸骨の姿をしている。
あんな姿でも生きていられるのはどういうことだ?
魂はあるのだろうか。
ヘルメットでスキャンをすると、鎧を着たタイプがそれぞれ450。
ローブを着たタイプが520と出ている。
角持ちよりは弱いな。
ローブが指示をしているのを見ると、あれが今回のリーダーか。
鎧タイプが角持ちの死体を下ろす。
サーモグラフィーがローブに反応を示す。
何やらエネルギーが集まり始めているようだ。
小瓶を片手にそのエネルギーを角持ちに注入すると、驚いたことに
角持ちが生き返った。
「グハァ!」
角持ちが嗚咽と共に起き上がる。
「不覚を取ったようだな、ギリガン」
あいつ、ギリガンっていうのか。
「クソッ!」
「お前ほどの者がやられるとは、一体どんな相手なんだ?」
「わからん!だが、強力な武器と魔法を使うことは確かだ」
「不思議だが、お前の体に傷一つないのう」
「それは・・・う、うあぁぁ!」
ギリガンはポルト内での実験を思い出し、発狂寸前となる。
「これはまずい、一旦城に戻るぞ」
ギリガンを連れた骸骨達は、こつ然と姿を消した。
「あいつら、やっぱりテレポート使えるんだな」
あのローブはかなり冷静な判断を下しているのを見ると、警戒
してしばらくここには来ないかもしれない。
俺は廃村を後にし、ポルト号で移動することにした。
ギリガンが生き返ったのも魔法ってやつだとすると、あれを
使えるのが他にもいたら厄介な話だ。
プレストルにも蘇生薬はあるが、完全に死んだ状態を蘇生する
ことは無理だ。
この惑星の魂というのはどういう概念なのだろうか。
”この先に建造物があります”
「よし、3km手前で着陸しよう」
着陸場所から建造物までは林が覆っている。
人工的な道が一本できており、通行手段として使われているよう
だった。
木と木を跳びながら探索をしていると、遠くで生命体の言語が聞こえた。
「・・・スケテ!ダレ・・・」
近くまで行くとそこには馬車の周りを囲む小型生命体が4体いた。
個体値はそれぞれ50前後。ゴミか。
しかし、その50にもやられて絶命している生命体が2体。
馬車の中にまだ生きているのが3体いるようだ。
「ゲヒヒ!ニンゲンノオンナダゼ!」
「ドウクツニモッテカエルゾ!」
ギリガンのおかげでだいぶ翻訳がスムーズになってきた。
それに人間って言ってたな。確かに馬車の周りで死んでいる
のは資料で見たことのある人間だ。
小型生命体が場所の中から引きずり出したのはまだ見たことの
ない生命体だった。
あれが人間の雌か。
我が一族のしきたりとして、どの種族の雌にも危害を加えることは
しない。また、危害を加えられそうな場合は速やかに助ける。
俺はハンターディスクを2枚投げると、無理矢理引っ張っている
小型生命体が2体凍結する。
「ナニ!?ドウシタ?」
「だ、誰か助けて!」
慌てている生命体をスピアで撃ち抜き、逃げ出そうとしている方を
プラズマキャノンで射殺した。
突然の事で気が動転している人間の雌の前で光学迷彩を解除する。
「ひぃ!」
「ば、化け物!」
2人の雌は俺を見てさらに取り乱す。
しかし、残ったもう一人は俺を見ると震えながらも毅然な態度で
感謝を述べた。
「み、見知らぬお方。今回は助けていただきありがとうございます」
サーモグラフィーでスキャンすると、この雌も相当動揺しているが
表情には出していない。それに比べて他の二人は泣き叫ぶばかりだ。
「俺ノ言葉ハワかるカ?」
「は、はい。多少私達と違う部分もありますが、わかります」
魔王軍の言語はある程度標準化されているようだが、人間の言語は
まだサンプルが足りないようだな。
「お前断ち八襲わreたのca?」
「はい。この辺はゴブリンが夜になると活発になるので」
ゴブリン・・・あの小型生命体の事か。
「人間ノ雄八戦輪ナかった之か?」
「彼らは・・・私達を守ってくれましたが、ゴブリンに殺されてしまい
ました」
50の奴らに殺さるとは、この惑星の人間は貧弱過ぎる。
よくこれで魔王軍に占領されずに済んでいるな。
「あの、あなたは人間なのですか?それとも魔王軍なのですか?」
確かにフル装備の俺はどっちにも見えるだろう。
人型であるが、ヘルメットのせいで顔は見えていない。
「どチラでも亡い。お前達我理解DEKIない場所辛来て炒る」
「理解できない場所?」
俺は指を夜空に指す。
「星だ」
「まぁ!素敵ですね」
サーモグラフィーでこの雌の心拍数が標準に戻ってきているのがわかる。
「お前達八小レカらドウ刷る?」
「城に戻りたいのですが、馬と御者が死んでしまったので・・・」
城とはあの建造物のことだろう
ポルトに乗せることもできるが、目立った行動は避けたい。
「ワカつた。このバシャ尾俺が引っ張ツテ野郎」
「えぇ!?これは馬が二頭も必要な馬車ですよ?」
俺は無言で傾いた馬車を持ち上げると片手で引っ張っていった。
「凄い力なんですね・・・」
「あ、あの。申し遅れました。私はスキッドガルド領主の娘で
レムリアと言います」
他の二人は疲れ果てて寝ているようだ。
「ヴァルデミリアンDA」
「ヴァルデミリアン様ですね。改めて命を救っていただきありがとう
ございます」
そうこうしているうちに街の門にたどり着く。
見張り塔から人間の雄達が俺を凝視している。
「おい、そこの魔物!その馬車をどうした?」
黙っていると二人ほど弓を俺に向けてくる。
敵意を感じた俺は二人をロックオンした。
「な、なんだ!?この赤い点は・・・」
ロックオンされた人間が慌てだす。
とりあえず一人殺せば黙るだろう。
プラズマキャノンを発射しようとしたその時、レムリアが馬車から
飛び出す。
「お待ちなさい!この方は私の命を救ってくれました。弓を下げ
なさい!」
「レ、レムリア様!わかりました」
「我が兵の無礼をお詫びします。しかし、彼らも悪気があったわけ
ではないのをご理解していただけませんか」
俺としてはどちらでも良かったが、あまり弱い生命体を狩るのは
乗り気でもなかった。
やがて門が開き、街中に招かれた。
サポートドローンで上空から見ると、この街は直径5kmほどの
集落で外壁が円を描くように建てられている。
そして中央に大きい建造物=城があった。
「先程は大変失礼しました。後ほど領主から謝礼の場を設けさせて
いただきますので、こちらでお待ちください」
個体値8の年老いた雄が俺を控室へと案内した。
ここへ来るまでに鎧を来た雄を何度も見たが、それでも個体値が20
前後ばかりだ。こんなところにあのゴブリンが群れでくれば一溜り
もないだろう。
ドローンから送られる街中の映像を見ると、この集落は人間の種類
が豊富だ。
老若男女問わず、肌の色も様々でそれぞれに自我があるようだ。
支配者階級と労働者階級があるようで、経済も成り立っている。
「お待たせしました。ヴァルデミアン様。領主のスキッドガルド様が
謁見の間にてお待ちしております」
俺は年老いた雄に連れられ謁見の間へと赴いた。
扉を開けると広々した空間があり、その先には玉座に座った雄がいた。
たぶん、あれが領主だろう。
サーモグラフィーで見ると他の人間と比べて心拍数が落ち着いている。
しかし、肺に癌細胞が見えた。先はあまり長くないようだ。
俺はゆっくりと歩くと玉座の10m手前で止まる。
(なんだ、あの姿は・・・)
(魔王軍ではないのか?)
(全身が黒なんて気味が悪い)
ヒソヒソと話す周囲の人間の声が聞こえるが、いずれも個体値10以下だ。
アリが話しているようなもんだ。
「そなたがヴァルデミリアンか。ゴホゴホ!我が娘レムリアの命を救っても
らいまずは礼を言う。ありがとう、ゴホゴホ!」
「・・・・」
「おい、王がせっかく感謝しているのに無視とはどういうことだ!」
近衛兵で一番偉そうな雄がまくし立ててきた。
「それに謁見の時に兜を脱がぬとは失礼だぞ!」
このうるさい雄をスキャンすると、高血圧・糖尿・肝硬変の症状が
出ていた。どうせ死ぬ運命だ。今殺さなくてもいいだろう。
「玉々通りが画ったダケだ。我々no一族八女子供を大雪にスる」
「プフ!ひどい訛りだな。それじゃ無言でいたいのも仕方あるまい」
周囲の雄達もつられて笑い始める。
それを見たレムリアは怒りと共に場を鎮めようとした。
が、それをしたのは別の者であった。
「諸兄達は行動よりも言動を重んじるのですか?騎士の在り方として
いささかどうかと」
上品な服装をした若い雄が響き渡る声で一喝する。
「ヴァルデミリアン殿。部下の無礼をお許しください」
「私はユースミール。レムリアの兄でスキッドガルドの王子です」
個体値220か。今まで見た人間の雄で一番高いな。健康状態もいい。
だがこれでもギリガンが来たら瞬殺されるだろう。
改めて人間は非力なのだな。
「今日は疲れたでしょう。ゆっくりと体を休め、明日改めて礼の場
を設けさせてください」
多くの情報を得た一日が終わる。