表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

クベル戦記

魔王軍の軍勢に襲撃されるが、謎の騎士の助けにより退けることができた。

リューンは被害を受けるが復興を目指す。

しかし、今回の襲撃の首謀者であるアダメスス朝ペルノアが弱っている

リューンに牙を向けてきた。

リューンはモンスターの軍団に襲撃を受け、大打撃を被った。

街は破壊され、城もまた半壊している。

しかし、生存者達は絶望することなく復興に向けて精を出していた。

城主のクインタム自身が先頭に立って現場に出ているのもまた

市民達の士気を上げていた。


人間だけに留まらず、エルフ、ドワーフなど普段からリューンを

使用している別の種族も手を貸していた。

そんな活気づいてきた街に不穏の影を纏った者がきた。


「城主のクインタムはいるか?」


褐色の肌に独特の帽子を被った男達だ。

木槌で柱を打っていた男が作業を止め、男達の前に立つ。


「私がクインタムだが、そなた達は?」


「我々はアダメスス朝パルノアの使者だ。我が王アルタレスの命令に

 よりその方に話がある」


「話とは?」


「慈悲深きアルタレスはこの地を求めている。無血開城をすれば市民の

 命は守ることを約束する。しかし、少しでも抵抗すれば皆殺しとする」


市民がざわめく。

やっと復興を目指せた矢先、今度は別の地の人間が攻めてくるというのだ。


「命は守ると言っても奴隷同然の扱いであろう?」


クインタムは訝しげに聞く。


「奴隷としても命があるというのは重要だろう。モンスターに腸まだ食われ

 れるわけでもあるまい」


「クインタム様、こんな奴らの話を鵜呑みにしてはいけません!パルノアは

 野蛮で残虐な国です」


イルフェが大声で進言する。


「美しいエルフの娘だな。アルタレス王もさぞ喜ぶだろう」


使者の男は下卑た笑みを浮かべる。

イルフェの言うことは事実だとしても、今のリューンには戦力は皆無だ。

クインタムは選択肢のない交渉の場に立たされているだけであった。

市民のことを考えると、無血開城しかない。

しかし、結局のところ市民はその後奴隷となり死んだ方がマシの生活

を強いられるだろう。


「皆の者、このリューンを捨て他の土地に行くのだ。ここには私が

 残りパルノアに首を差し出そう」


「そんな事はできません!我々はここに残ります!」


「リューンで育ったなら最後までリューンにいたいです」


普段なら喜ばしい市民の声だが、今回は自分の胸を締め付ける。


「つまり、無血開城はせずお前らは我がアダメスス朝パルノアと

 戦うつもりなのだな?」


「ま、待て!私が説得する。時間をくれ」


「ダメだ。アルタレス王は忙しいのだ。今ここで決めろ」


ただでさえモンスターの襲撃で援軍がほぼいなくなり、さらに

パルノアが攻めてくるとなると隣国からの支援は難しい。

それならばパルノアに協力し、その後の関係を築いた方が無難

と考えるだろう。

それならば・・・・


「わ、わかった。む、無血開・・・」


「おい、ここは渡さない。帰って戦の準備をしろ」


ヴァルデミリアンはクインタムの言葉を遮る。


「なんだぁお前は?」


「ヴァルデミリアン!」


イルフェはすぐ横につく。


「いいのか?皆殺しになるぞ?」


「どうせ明け渡しても同じかそれ以下の扱いだろ。ならお前ら

 を倒したほうが手っ取り早い」


パルテアの使者は顔を見合わせて笑う。


「ぶはははは!単純な計算もできんバカが何かほざいているわ!」



「ヴァルデミリアン、本気か?」


クインタムは驚いている。


「あぁ、俺に任せろ。お前達はリューンの復興に集中しろ」


クインタムは覚悟を決めた顔で使者に答えた。


「我がリューンはそなたらの脅しには屈しない。アルタレスに

 伝えるがよい、戦をすると」


使者は歯ぎしりをしている。


「愚かな愚民どもよ。己の選択が間違っていた事を地獄で後悔

 するがいい!」


「おい、お前ら。俺はクベル平原でお前らを迎え撃つ。リューンを

 手に入れたいのならそこで俺を倒していくんだな」


ヴァルデミリアンはリューンから南に20km程行った平原を戦地と

して指定した。


使者はニヤリと笑うとパルノアに帰っていった。


「ヴァルデミリアンよ。リューンは何度もお主に助けられた。

 例え敗北しようとも我々は後悔しない」


「何言っているんだ?俺は勝つつもりだ」


「しかし、どうやってだ?パルノアはかなりの軍勢を送ってくる」


「それは俺に任せろ。お前達はリューンの復興だけを考えろ」



僧院でマスター・クワイとイルフェが準備をしている。


「何をしてるんだ?」


「私達ももちろん行くわ!」


「お主だけに行かせるわけにはいかんじゃろ」


ヴァルデミリアンはため息をつくと、二人を諭した。


「お前達がきても邪魔だ。俺一人のほうが戦いやすい。どうしても

 来たいのであれば丘の上から見てろ。手出し無用だ」


「何言ってるの?いくらあなたでも無茶よ!」


「わかった。邪魔はせん。ただお主の戦い様をしかと見届けよう」


「マスター・クワイ!」


「イルフェよ。こやつがそう言うならワシらは頷くだけじゃ」


「そ、そんな・・・」


二人を残しヴァルデミリアンはポルト号へと戻る。


「ほらよ、ニシンの香草焼きだ」


「おぉ!ありがたい!私はこれが大好きなのだよ!」


伯爵は嬉しそうに舌鼓をうつ。


「なぁ、パルノアはどれくらいで攻めてくると思う?」


「ふむ、そうだな。ざっと3万から4万といったとこだな」


「そんな人数で来られたらリューンは一溜りもないな」


伯爵は器用に骨を取りながら食べている。


「まさかニシンの香草焼きで私に助けを求めるのか?」


「これ以上お前の生命を伸ばしても意味ないし、必要ない」


「まぁ、貴公の判断は賢明だろう。あのままパルノアに明け渡しても

 周辺国がさらに攻略されるだろうし、引き延ばせば背中を刺される」


「それにだ、パルノアに占領されたらこのニシンの香草焼きが食べられ

 なくなるのが痛い」


「ポルト、パワードスーツ準備できているか?」


”メンテナンスは済んでいます”


「よし、アルタレスとやらに一泡吹かせるか」




「ほう、戦を挑んできたか・・・」


「は!何やらおかしな男が言ってきましたが、クインタムも同意

 しておりました」


「おかしな男・・・・」


アルタレスはウォンバイの言葉を思い出した。


”予想外の敵がいるのだ!人間とは思えない強さがある”


「ふふ、面白い。我も見に行くとするか」


「えぇ!?王自ら出陣ですか?」


「支度をしろ!」



3日後



クベル平原はアダメスス朝パルノア軍で赤黄色に染まっていた。

その数43000人。

対するはヴァルデミリアン1人で丘の上に陣取っている。

パルノア軍から使者が馬に乗って近づいてくる。


「なんだこれは!お前1人なのか?」


「そうだ。お前は目が見えないのか?」


「つくづく頭のおかしな奴だ。象のエサにしてくれるわ!」


使者は笑いながら帰っていく。


「ポルト、相手の内訳はどうだ?」


”解析結果を表示します”


歩兵25000人

弓兵5000人

重装歩兵10000人

象兵2000体

魔術兵950人


「了解。開始と同時にミサイルで援護射撃をしろ。敵の勢力を減らせ」



”わかりました。アルタレスをロックオンできますが、攻撃はどう

しますか?”


「あいつは生かしておけ。生きる証人として必要だ」


”わかりました”


伯爵がポルト号から降り、ヴァルデミリアンの隣に座る。


「せっかくだから自分の目で宴を楽しむよ。派手になりそうだしね」


「好きにしろ」


ワインを注ぐと喉を鳴らして飲む。


1km先のパルノア軍からほら貝の音が聞こえた。

どうやら戦闘開始のようだ。


「よし、ポルト撃て」


”了解しました”


誘導型24連ミサイルが4基準備されると、一斉に発射する。

96発ものミサイルが弧を描いて大群に向かう。


「なんだあれは?投石か?」


「ここまで届くわけなかろう。バカよのう」


アダメスス朝パルノアの書記であるトルキタスは後述する。


”あれは見たこともない何かであった。隕石のように我々パルノア

軍の上に降り注ぎ、巨大な爆発と共に跡形もなく消し飛んでいた”



”着弾します”



前衛の25000人の歩兵にミサイルが落ちていく。

轟音と共に爆発を起こし、まるで地震のような地響きが唸る。


「な、なんだ?!どうした?」


パルノアの将軍、メルソンはあまりの出来事に理解できていない。

砂煙と爆煙で現状が把握できずにいる。


”敵勢力64%減少”


歩兵5000人

弓兵400人

重装歩兵7000人

象兵2000体

魔術兵950人


「おい、ちょっとやりすぎだがまぁ、いい。行ってくる」


ヴァルデミリアンはパワードスーツでパルノア軍に突っ込んでいく。

ホバリングによる移動のため凄まじい速さで近づく。


「敵、1人。こちらに向かってきます!」


パルノア軍の多くは混乱し、指揮系統が停止している。

メルソン将軍は冷静さを取り戻すと陣形を指揮する。


「弓兵!援護射撃をしろ。歩兵は扇形に、重装歩兵はそのまま直進。

 象兵は重装歩兵をカバーしながら先に進め!」


半分以下となった軍勢がヴァルデミリアン1人に向かっていく。

象兵部隊をロックオンすると両肩のプラズマキャノンがlv5の威力で

連射されていく。


「パオーン!!!」


普段なら矢や槍などにも屈しない象が爆発と共に粉砕されていく。

さらに横に水平移動しながら両腕のプラズマガトリング砲で左サイドの

歩兵を蜂の巣にしていく。

盾など意味もなく、無慈悲に連射されるプラズマ弾が貫通し黒い影を

残して消えていった。


歩兵2500人

弓兵200人

重装歩兵7000人

象兵300体

魔術兵950人


左サイドががら空きになり、重装歩兵の群れが現れる。

ヴァルデミリアンは立ち止まると、両肩のプラズマキャノンと両腕の

プラズマガトリング砲を一斉に発射する。

その光の渦は重装歩兵達を一気に飲み込んでいく。


「ぎゃあぁあぁ!」


「助けてくれぇぇぇ!!!」


「パオーン!!!!!!」


悲鳴と怒号。

パルノア軍が過去に経験したことのない戦況が起こっている。


「あーあ、容赦ないねぇ。煙であまりわからないし、これなら

 船で見ていた方がよかったかな」


伯爵はワインを飲みながらパルノア軍の惨劇を見ていた。



歩兵2500人

弓兵0人

重装歩兵900人

象兵200体

魔術兵950人



「何をしている!魔術兵で蹴散らせ!」


アルタレスはほんの10分前まで大軍だった自軍を信じられない

表情で見ている。

魔術兵がヴァルデミリアンの方向に対し、集団で詠唱を行う。

すると光学迷彩をオンにし、目標が喪失する。


「ど、どこだ?詠唱やめい!」


メルソン将軍の指揮により、詠唱が止まる。


「アルタレス王!奴が消えました!」


「消えただと?魔術で探せ!」


魔術兵が魔法により可視化を試みるが見えない。


「ど、どこだ?」


「ぎゃぁぁぁ!!」


気がつくと右サイドに移動しており、そこからプラズマキャノンで

歩兵を一掃していた。


「魔術兵よ!今のうちに奴を殺せ!」



一斉に詠唱が始まると、無数の火の玉がヴァルデミリアンを目掛けて

飛んでいく。

味方の歩兵も犠牲にし、倒す戦法のようだ。


”高エネルギー反応確認。回避してください”


「圧倒的に倒す。全部受け止めてやる」


背中から三角形の物体が複数現れると、ヴァルデミリアンを囲むように

回り始める。

そしてそこに半径3mのプラスマシールドが展開された。


「ほほー、そんな事ができるのか」


伯爵は驚きながら見守っている。

100もの火の玉がヴァルデミリアンに降り注ぐ。


「逃げる気力も使い果てたか?これで終わりだ!」


メルソン将軍は高笑いをしている。

連続した爆発と爆煙を起こしながら尚も降り注いている。

しばらくそれが続き、最後の一つが爆発を終える。


「フハハハ!塵も残るまい!」


砂煙と爆煙が風で流される。

そこには無傷のヴァルデミリアンが立っていた。


「・・・・・・・・!?」


すると姿が消える。


「ま、幻だったか!ヒヤヒヤさせおって」


次の瞬間、魔術兵の群れから血飛沫があがる。

突如現れたヴァルデミリアンが大型スピアを回転させながら魔術兵を

切り刻んでいく。


「なんだと!?」


魔術兵は先程の集団詠唱で力を使い果たし、ただスピアの回転に巻き込ま

れていった。


歩兵0人

弓兵0人

重装歩兵0人

象兵0体

魔術兵0人


残りはアルタレス王、メルソン将軍、従者10人、書記となった。


「メ、メルソン将軍。お前があいつを倒せ!」


「わかりました。この身に変えても王をお守りします」


将軍は剣を構える。

個体値450か。まぁまぁだが、相手が悪かったな。

ヴァルデミリアンは一気にホバリングで近づくと、スピアで将軍を

貫いた。

勢いが付きすぎて将軍の体は50mほど吹っ飛んでいく。


「お、お前たち!我を守れ!」


従者に命令するが、戦闘員ではない従者は腰が抜けて何もできていない。


「あとはお前だけだな」


ヴァルデミリアンはアルタレス王の前に立つ。


「ま、待て!我の仲間になれ!さすれば世界も征服できるぞ!」


「俺はまだこの惑星の事はわからんが、お前の国よりも強いのがいるのは

 わかっている。とてもお前が征服できるとは思えん」


「わ、わかった!ならば富をやろう!好きなだけ持っていくがよい!」


「金はいらん。その代わりお前には防波堤になってもらう」


「防波堤?」


「伯爵、ちょっとこっち来てくれ」


ワインを飲んでいた伯爵が現れる。


「どうしたんだい?」


「こいつに契約結ばせてほしいんだ」


「どんな?」



「今後、リューンを防衛する属国となると」


「ふむ」


「もし反故した場合、相応の呪いがかかるようにしてほしいんだ」


「あぁ、なるほど!そういうことか。それなら手伝おう!」


伯爵の目が輝くと羊皮紙を取り出す。

おもむろに契約項目と呪いを書き終えると、アルタレス王に差し出す。


「この契約書は凄まじい効力を発揮する。1つでも反故した場合、

 パルノアの民全員が末代まで死滅することになる」


「そ、そんな強力な契約ができるはずがない!」


伯爵が笑顔で答える。


「それができるのだよ。私が昔倒した悪魔で契約の守護者がいてね。

 名はアポリッフェと言うのだが聞いた事はあるかい?」


アポリッフェはアダメスス朝ペルノアの神話に出てくる悪魔だ。


「そんな・・・あれは神話の話のはず」


「貴公が以前ウォンバイと契約した時にアポリッフェの契約は

 使えなかっただろう?だからもっと弱い契約を使ったと思う

 のだが?」


「!?」


確かにそうであった。ウォンバイとの契約にアポリッフェの契約を

使おうとしたが、なぜか契約ができずにいた。


「ま、まさか・・・・本当か?!」


「信じられなければ契約を反故するがいい。身を持ってそれを知る

 事ができる」


目の前にいる男の強さだけでも神話並な事も考えると、事実にしか

思えなかった。

アルタレス王はうなだれながら契約書にサインをした。


「それじゃ属国として末代までリューンを守ってもらうぞ」



死屍累々の戦場を背にヴァルデミリアン達は去っていった。


「本当に大丈夫かしら・・・・」


「ただいま」


いきなり目の前に現れたヴァルデミリアンにイルフェは驚く。


「いきなり現れないでよ!」


「なんじゃさっきまで心配しとったろ」


「それとこれとは別!」


「ペルノア軍だけど、倒してきた。あいつらはもうリューンを

 襲うことはない」


「た、倒してきたって簡単に言い過ぎよ・・・」


クインタムも僧院に駆けつける。


「ヴァルデミリアンよ、ペルノア軍を退けたと聞いたが本当か?」


「あぁ、42000人近くあの世に送っておいた」


「よ、42000人・・・!?」


「契約のためにアルタレス王は生き残らせておいた。今後、アダメスス朝

 ペルノアはリューンの属国となって守っていくことになった」


「なんと!?」


「ここの復興にも使うがいいさ」




トルキタスは自身の著である”クベル戦記”においてこう記している。


「私は目の前の出来事をまぶたに焼き付けられた。42000人もの軍勢前に

 敵は1人だった。しかし、最後はその1人が王の喉元に刃を突きつけて

 いた。彼の者はまるで神か悪魔のごとく荒れ狂い大地を縦横無尽に

 暴れまわった。目撃者が王を含め12人いるが、恐らく冷静かつ鮮明に

 覚えているのが私しかいないであろう。そして、長く続いたアダメスス朝

 の歴史が終わる瞬間をここに書き記しておこう」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ