夜明け
伯爵の講義により惑星の歴史を学ぶヴァルデミリアン。
自身の想像よりも複雑な相互関係に驚く。
さらに大国の存在を知り、それぞれの王の思想を知る。
「予定と全く違うようだが、どうしたのだ?」
褐色の肌にスキンヘッドの男が低い声で呟いた。
落ち着いてはいるが圧力を感じさせる。
「我々も遊んでいるわけではない。それどころか、戦力を
かなり削られているのだ」
紫の肌に顔には目が3つ。
圧力をかけられているのは魔族の男だ。
「お前には充分に投資をしたつもりだ。本来ならもうリューン
は手に入っているはず」
「予想外の敵がいるのだ!人間とは思えない強さがある」
スキンヘッドの男は酒を飲むとさらに響く声で促す。
「契約は守ってもらう。期限を過ぎた今、その方の言い訳は
全て契約違反となる」
「わかっている。もう手段は選ばずに行くしかない」
羊皮紙の契約書を見つめながらお互いの胸の内を探る。
強力な契約事項の元、二人の立場が明確に示されていた。
リューンには隣接国から多大な応援がきており、都市内部及び
外部の治安が飛躍的に良くなっていた。
ヴァルデミリアンの活躍により、強力なモンスターがいなくな
った今、人間の騎士でも倒せるレベルになっている。
「お主の強さが相手に伝わって諦めたのかのう」
マスター・クワイは顎髭を撫でながら平和を堪能していた。
確かにここ数日、ドローンで偵察をしてもモンスターの反応は
あまり無かった。
各駐屯地も再築され、リューンに対するセキュリティは元に
戻っている。
伯爵が言っていた勢力は本当に諦めたのか?
あれだけの戦力があるのにも関わらず、こんなものでリューン
を防衛できたのか?
考え過ぎかもしれないが、俺がそこまで肩入れする理由もない。
自分自身のlvアップにも繋がったし、もうここにいる必要も
ないか。
「そろそろ次の土地を目指すことにする」
「ふむ、そうか」
「え、次って?」
ヴァルデミリアンの言葉に二人は正反対の反応を示す。
「もうここにいる理由もない。自分の旅に戻る」
「ちょ、ちょっと待ってよ!あなたいなくなったらリューン
はどうなるの?」
「俺には関係ない」
「ここの人たちはどうなってもいいの?」
「イルフェ、そこまでにするんじゃ」
「だって・・・」
マスター・クワイはヴァルデミリアンを見ると笑顔で答えた。
「今まで本当に世話になった。お主には感謝してもしきれぬ」
マスター・クワイは深々と頭を下げ感謝の念を述べた。
ヴァルデミリアンはそれを見ると僧院から出ていく。
「待って!私、まだあなたに何も恩返ししてない!」
イルフェは大声で引き止める。
「そんなものは要らない。お前を戦士として認めただけだ」
「でも・・・」
「お前達二人でここを守ってやれ」
そう言い残すとヴァルデミリアンは光学迷彩をオンにし、姿
を消した。
「イルフェよ、あやつは一つの場所に留まる者ではない」
「わかってます・・・でも、私・・・」
イルフェは涙を流しながら杖を抱きしめていた。
「いいのかい?エルフの娘に好かれるなんてなかなかないのに」
伯爵は意地悪な顔で茶化してくる。
ヴァルデミリアンはそれを無視、次の目的地を設定していた。
「貴公はリューンが攻撃を受け壊滅しても、問題ないのだな」
「俺に関係あるのか?」
「ないね。ただ、貴公の性格上それでいいのかと思ってね」
「結局、エルダーワイトを倒してからモンスターはほぼ出現して
いない。それが答えだろ」
「そうかい。嵐の前の静けさじゃなきゃいいがね」
ヴァルデミリアンはさらに東に航路を設定する。
このまま進むとボルトレスに着くだろう。
「サムディーンでも倒しにいくのかい?」
「その機会があればな。どんな奴か見てみたい」
伯爵は人差し指を額に当てると、銃のような仕草をする。
「今の貴公では、もって5分だね。彼は常に全力を尽くして
くる。そして強い」
「お前よりもか?」
伯爵は笑みを浮かべるとワインを飲む。
「それを言ったら面白くないだろう?」
飄々とした答えにヴァルデミリアンはため息をつく。
ポルト号のエンジンをかけようとした時、ドローンからアラート
が来る。
映像を見ると、リューン周辺に大量のモンスターが出現していた。
相当数が確認でき早くも火の気が上がっている。
「やっぱり嵐の前の静けさだったみたいだね。ま、我々には関係ない
し行こうか」
伯爵は運転席のシートに座ると発進を待つ。
ヴァルデミリアンも操縦席に座る。
「ちなみにボルトレスは食事が不味いんだ。その点リューンは食事が
美味かったろう。私も昔よく食べていたのだよ」
”進路を確認しました。出発します”
ポルト号は丘から浮き上がると東へと向く。
”発進します”
「待て!進路変更、リューン上空に行く」
伯爵はニヤリとする。
「帰りにニシンの香草焼きを買ってきれくれ。あれが好きなんだ」
ポルト号はリューン上空にまできた。
「ここから投下する。光学迷彩を維持したまま待機してろ」
”了解しました”
「市民は城に移動しろ!女子供老人が先じゃ!」
マスター・クワイは街中で市民の先導をしている。
多くの応援がきているとはいえ、相手のモンスターは更に
大量かつ強力な軍勢となっている。
その軍勢をの長が轟くような声で叫ぶ。
「ここにいる人間は労働力になる者以外は殺す。我々に手を
くだされたくなければ自決せよ!」
ワイバーンに乗り禍々しい鎧の出で立ちだ。
「我々は市民を守ることが使命!貴様らに指図される覚えはない!」
キプルス騎士団のハメルが言い返す。
「ならばもろ共死ねい!」
モンスターの軍勢が一気に攻めてくる。
リューンには2000人の兵士と冒険者がいる。
それに対し、モンスターの軍勢は
ゾンビ350体
スケルトン400体
ワイト10体
ワイバーン15体
サイクロプス20体
ミノタウロス25体
キメラ10体
数では上回るが個体値に差がありすぎた。
兵士1500人が門で迎え撃ち、その他500人が
都市の内部で待機している。
「今こそ騎士団の意地を見せる時だ!」
「おう!!!」
先兵のゾンビとスケルトンに対し、兵士達は訓練された陣形で
立ち向かう。
容易く倒していくが、数がまったく減っていない事に気づく。
「なぜだ?どういうことだ?」
「団長、あのワイトがソンビ達を蘇らせているのです!」
リディウスの助言で状況を把握する。
「A隊、ウィザードを連れてワイトを排除せよ!」
そのうちにサイクロプスとミノタウロスの群れが所狭しと突進
してくる。
「防壁隊!奴らの動きを阻止せよ!」
巨大な盾を持った兵士が陣形を組んで群れに備える。
300人で作る防壁にサイクロプス達は突撃した。
「ぬぉぉぉ!耐えろ!!」
押し合いが始まり、行軍は足止めされる。
「B隊、C隊は両サイドから挟み打ちにせよ!」
100人ずつの隊がサイクロプスとミノタウロスを攻撃し始める。
「プリースト隊、ウィザード隊は後方支援に回れ!」
ハメル団長の下、兵士の動きは効果を発揮していたが、やがて
圧倒的な個体差を見せつけられた。
防壁隊が攻撃に耐えきれなくなり、両サイドからの攻撃も数を
減らす程にはなっていなかった。
そしてさらに後ろからキメラが突進してくる。
さらに空はワイバーンが都市内に突入していた。
「だ、団長!A隊は全滅しました!」
「防壁隊も1/3になっています!」
「B、C隊共にキメラによって戦力が激減!」
目の前の惨劇にハメルは立ち尽くす。
「そ、そんなバカな・・・数で上回っているのに」
「キメラが城門を突破しました!」
さらに追い打ちをかける伝令が聞こえる。
「倒された兵がワイトによってゾンビとされ攻めてきています」
「退避!生き残っている者は都市内に退避し、市民を守れ!」
1500人いた兵士は300人程になっていた。
波のように攻めてくるモンスター達は都市も破壊し始める。
冒険者たちも立ち向かうが、荒れ狂う攻撃に飲まれている。
「母ちゃん、こっち!早く!」
「待って、あ!」
子連れの女が足をくじき、倒れる。
するとそこにミノタウロスが3体現れた。
「ひ、ひぃ!」
ミノタウロスは斧を女を目掛けて振り下ろす。
「か、母ちゃん!」
「ンゴォォ!」
悲鳴と共に3体のミノタウロスの動きが止まる。
「早く!今のうちに逃げて!」
イルフェが金縛りをかけていた。
親子が逃げるのを見てから呪文の詠唱をする。
普段の詠唱時間よりも早くなり、さらに同時に他の魔法
の詠唱もできるようになっている。
「この杖、やっぱり凄い!」
「ブリザード!アイスアロー!、フロストランス!」
同時に3つの魔法がミノタウロスに放たれる。
ブリザードによって凍結され、さらにアイスアローと
フロストランスが突き刺さると粉々になった。
「す、すげぇ」
「今のうちよ!早く城に逃げて!」
市民を誘導しながらイルフェはモンスター達と戦う。
広場はゾンビとスケルトンの群れが占領していた。
兵士と冒険者たちが善戦しているが、ワイトを倒さない限り
数は減らない。
リディウスも戦っていたが、冒険者のプリーストがスケルトン
に襲われそうになり身代わりになる。
「うぁっ!」
背中を斬られ大量の血が吹き出す。
「あ、あ、は、早く治療を・・・!」
しかし、詠唱中にもスケルトンが襲い回復魔法がかけられない。
「私はいいです、早く逃げて!」
リディウスはプリーストを逃がそうとするが、プリーストは
回復魔法をかけようとする。
その時、スケルトンの剣がプリーストの腹に刺さる。
「あぅ!」
周囲はもうスケルトンとゾンビしかいない。
絶望の中、もう一人のリディウスが叫ぶ。
「俺を出せ!」
片目の色が黒から赤に変色する。
リディウスは素早く印を結ぶ。
「火遁・渦災」
炎の渦が巻き上がると取り囲んでいたスケルトンとゾンビを
一気に燃やし尽くす。
それを見ていたキプルス騎士団の兵士は唖然としていた。
「あ、あいつ・・・あんなことが・・・」
リディウスはプリーストを抱きかかえると、騎士団に手渡す。
「おい、治療を頼む」
「お、おう・・・」
リディウスは素早くワイトに近づく。
「お前らがやっぱうぜぇな!」
素早く印を結ぶ。
「流身の術」
するとリディウスが3人に分身する。
ワイトは一瞬驚いた。
忍者刀を鞘から抜き今度は詠唱をする。
「ファイアーエンチャント!」
刀身を火が覆う。
そして3人のリディウスが3体のワイトを斬る。
「ンオオオオオ!」
さらに流れるように切り刻み、ワイトを倒す。
気づくと残りのワイトが詠唱状態でいた。
「はは、さすがにこれはキツイな・・・」
5体のワイトが一斉にリディウスに氷魔法を放つ。
目をつぶり死を覚悟したが、魔法が自分には届いていなかった。
目を開けるとキプルス騎士団の兵士達が壁になっていた。
「諦めるな!俺達が盾になる、お前がワイトを倒せ!」
「あんたら・・・わかったよ!」
リディウスは印と詠唱を同時に行う。
「ファイアレイン・極!」
忍術と魔法の合成を行い、火の雨がワイト達に降り注ぐ。
「ギギギギ・・・!」
降り注ぐ火の雨は最後の1体まで燃やし尽くす。
これでゾンビが増えることはなくなった。
兵士が握手を求めてきた。
「あんた達もよk・・・」
その瞬間、目の前の兵士がキメラによって吹き飛ばされる。
4体のキメラがこちらを伺っていた。
他の兵士も次々とキメラ達に襲われていく。
「ここまでか・・・」
体力気力共に底を尽き、ただ兵士が貪り食われるのを眺めていた。
4体のキメラが新たな餌としてリディウスを見る。
「いいぜ、こいよ。ただし、お前ら道連れにしてやる」
最後の気力で自身を炎にする印を結び始める。
しかし、大量の出血により指が動かなくなっていた。
「クソ・・・最後にダセぇな俺・・・」
キメラが一斉に襲ってくる。
すると、そこに何かの衝撃波がキメラに当たる。
1体は吹き飛ばされ、残り3体は後方に下がる。
「な、なんだ・・・?誰だ・・・?」
霞む目で見ると、銀色の鎧を着た男が立っていた。
「ヴァ、ヴァルデミリアン・・・か?」
男は返事をせず攻撃を続ける。
一人でキメラの群れに飛び込んでいった。
「む、無茶だろ・・・」
しかし、目の前の光景にリディウスは驚愕した。
男は2本の剣で4体のキメラの攻撃を受け流し、確実に1体ずつ
殺していく。
その剣は振る度に衝撃波を放ち、斬撃と共に追い打ちをかけて
ダメージを与えていく。
気がつけば4体のキメラの死体が転がっていた。
「ヴァルデミリアンじゃ、ないのか・・・?」
リディウスの意識はそこで途絶える。
一方、僧院ではサイクロプスの群れがモンク達と戦っていた。
「後方は救護の真言を唱えよ!」
「はい!」
マスター・クワイと高僧達は素手で戦っている。
「傷ついた者は後ろに下がれ!ワシが最後まで受け持つ!」
3体のサイクロプスを倒しているが、高僧は10人ほど
やられている。
「修羅の真言!」
マスター・クワイの動きが一段と速くなる。
4体のサイクロプスを同時に相手にする。
「フフ、ワシの心臓が先かお前らの死が先かじゃのう!」
1体に集中すれば倒せるダメージも4体に分散されると、致命傷には
なっていない。
それでも驚くべき速さで回避をしつつ攻撃をこなす。
だが、マスター・クワイの心臓が少しずつ悲鳴を挙げ始めた。
サイクロプスの攻撃が当たりだした。
「ぐ、ぐぬ!」
それと共に動きが鈍くなってきている。
「ヴォォォ!」
サイクロプスが突然凍り始める。
「マスター・クワイ!大丈夫ですか?」
イルフェが助けにきた。
「なんとか生きとるわい」
「無理を言うけど、少しだけ時間をください」
「わかった!鉄壁の真言!」
動けるサイクロプスがマスター・クワイを攻撃し始める。
「氷の精霊よ、我が身に敵意を向ける愚か者に罰を与えよ!」
詠唱が終わると、サイクロプス達の頭上に巨大な氷の塊が出現する。
それがゆっくりと落ちると、真下にいた3体のサイクロプスが
潰される。
さらに塊が地面に着弾すると、破片が周りのサイクロプスに突き刺さる。
「ウゴォォォ!」
「マスター・クワイ、止めを!」
「金剛の真言!」
赤いオーラを纏うと弱っているサイクロプス達に止めを指す。
「イルフェよ、強くなったのう」
「いえ、この杖のおかげです」
しかし、そんな彼らにも死の影が漂う。
僧院の上空にワイバーンの群れが飛んでいた。
そして次々と着地し始める。
「イルフェ、逃げるんじゃ!」
「嫌です!置いてなんていけません。あなたも他のモンクの方も!
「頑固な娘じゃのう・・・。次会う時はワイバーンの胃の中じゃな」
マスター・クワイは苦笑いをする。
「ワイバーンよ!せめてワシから食っていけ!そして腹いっぱいに
なったら帰ってくれぬか」
言葉など通じるわけもなく、マスター・クワイをワイバーンが囲む。
「ワシの肉は硬いぞ?よく咀嚼せよ」
「マスター・クワイ!」
「ギエエェェ!」
悲鳴を挙げながらまだ上空にいるワイバーンが次々と落下してきた。
「なんじゃ!?」
上を向くと中型ドローンを装備したヴァルデミリアンがプラズマキャノンで
ワイバーン達を撃墜していた。
気を取られているマスター・クワイに噛みつこうとしたワイバーンにスピア
を投げる。
「ギゥエエエ!」
スピアが頭蓋骨を貫通し、そのまま串刺しになる。
上空にいたワイバーンを片付けると、地上に降りてきた。
スピアを抜くとプラズマを纏わせる。
残ったワイバーンが吠えながら襲ってくるが、スピアの
回転に合わせて輪切りにされていく。
そしてそこには10もの死体が転がっていた。
「イルフェ、ちゃんと杖を使いこなしているな」
安堵と緊張が途切れたイルフェは泣いていた。
「あ、当たり前よ・・・来るのが遅いよ!」
「おっさんは相変わらず丈夫だな」
「がははは!それが取り柄だからのう」
城の方で爆発音が聞こえる。
「話し合いは後でな。城にいってくる」
ヴァルデミリアンは中型ドローンを背中に装備すると、飛び立っていった。
リューン城は残りのモンスターの攻撃を受けていた。
最後の砦として市民を受け入れているが、それも時間の問題となっていた。
騎士団も残りわずかとなり、最早迎え撃つ気力もない。
周辺にはスケルトン20体、ゾンビ30体、キメラ5体、サイクロプス5体、
ミノタウロス4体そして軍団長がいる。
「女子供をまず差し出せ。美味く食ってやる」
城主を含め皆が諦めの境地でいた。
「皆の衆、すまぬ。ワシの力が足りないばかりに・・・」
クインタムは焦燥しきっていた。
「母ちゃん、僕たち死ぬの?」
「大丈夫だよ。神様の所に行くだけよ」
残った兵士も傷だらけで市民を守る力などない。
すると、銀色の鎧を着た男が軍団の前に立つ。
「まだ抵抗する者がいるとはな!」
銀色の兵は二本の剣を抜く。
刀身が光り輝いている。
剣を十字に振り抜くと、衝撃波がゾンビの群れを一掃する。
「なんだと?!」
続いてスケルトンの群れにも衝撃波を放ち一掃した。
そのままの勢いでミノタウロスの群れに走る。
剣を振ると当たっていないのにミノタウロス達が切り刻まれていく。
何が起きているのか理解できないまま死体となっていく。
サイクロプスもそこに入っていくが、同じように死体の山を築く
だけとなっていた。
「あ、あの者はいったい・・・?」
あっという間にキメラ5体と軍団長のみになる。
キメラは2体が襲いかかり、残り3体が呪文の詠唱をしている。
2頭の攻撃を躱しながらそれぞれのライオンの顔に剣を突き刺す。
その瞬間、顔の後ろ全部が衝撃波によって吹き飛ばされた。
詠唱を終えたキメラから火、雷、氷の魔法が飛んでくる。
しかし、銀色の兵は避けもせず近寄っていく。
魔法は障壁によってかき消されていった。
銀色の兵は両サイドのキメラに衝撃波を放ち、真ん中のキメラ目掛けて
剣を振り下ろす。
ほぼ同時に3体のキメラが絶命した。
軍団長のウォンバイが光景に慄く。
「貴様、何者なのだ!なぜ邪魔をする!」
銀色の兵は無言でいる。
「クク、いくらお前が強かろうと空は飛べまい!」
そう言うとウォンバイは逃げる準備をする。
「契約よりも命が優先よ」
その瞬間、プラズマ弾がワイバーンの翼に当たる。
「ギエェェ!」
「なに!」
墜落と同時に新たなプラズマ弾が撃ち込まれ、ワイバーンは死んだ。
ウォンバイをヴァルデミリアンと銀色の兵が挟む。
「ま、待ってくれ!この襲撃はお前らと同じ人間が計画したのだ!」
「首謀者はアダメ・・・」
言葉の途中でウォンバイは燃え上がる。
「グアアアアァアァ!!!」
断末魔と共に灰となり消えていた。
九死に一生を得た市民たちから歓声があがる。
銀色の兵がヴァルデミリアンに近づく。
「お前がヴァルデミリアンか?」
「そうだ」
銀色の兵をスキャンすると個体値が2000+αと表示されている。
「前にギルドにいたか?」
「あぁ、お前を見に来ていた」
「やはり。人間でその数値は異常だ。しかも前に見た時より
高くなっている」
「私はボルトレスのルーウェイン。お前の噂を聞いて確かめに
きた」
「噂?」
「あぁ、突然現れた謎の存在」
「んで、実際見た結果はどうだ?」
「そうだな、勝てないこともない。だが、それなりの代償が必要
になりそうだ」
「怖がってるのか?」
「今はその目的で来てはいない。だが、次その目的であれば躊躇わず
に戦う」
ヴァルデミリアンはスピアに手をかける。
二人の間に張り詰めた空気が漂う。
「おい、ヴァルデミリアン!そいつは俺の命の恩人だぜ」
肩を借りながらリディウスが歩いてくる。
「本当か?」
「目の前にいるキメラを倒しただけだ」
それを聞きスピアを収納する。
「これで貸しはなしだ」
ルーウェインは口笛を吹くと白いライオンが現れた。
「また会おう、異形の戦士よ」
そのまま背に乗ると凄まじい速さで走り去っていった。
激戦の末、リューンはかなりの兵を失い損壊も激しい。
唯一の朗報は市民の犠牲を少なくできたことだった。
恐らくウォンバイを倒したことによって、モンスターの
出現は食い止めることができただろう。
ヴァルデミリアンはポルト号に戻ると周辺をくまなく
確認した。
「ニシンの香草焼きは買ってきてくれたかね?」
伯爵が笑顔で言ってくる。
「すまん、それどころじゃなかった」
「それは残念だ!あれはワインに合うとてもいいものなのに」
口では言うがあまり残念そうには見えなかった。
「まぁでも、とても面白い物が見れたので良しとしよう」
「面白い物?」
「あのルーウェインだよ。なかなか興味深い」
「あぁ、あいつか」
「個体値が2000+αになっていただろう?素晴らしいね」
「確かにあの数値はお前以来だよ」
「私はもっとだろう?」
ヴァルデミリアンは調子に乗ると思って何も言わなかった。
「まぁでも貴公がボルトレスに行くにはまだ早いってことが
わかったと思う」
「そうか?俺は今すぐにでも行きたいけどな」
「その前に大きな仕事があると思うよ」
「大きな仕事?」
伯爵はワインを飲むといつものしたり顔をする。
「ウォンバイが最後に言ったアダメ・・・だが、たぶんアダメスス朝パルノア
のことだろう」
「なんだそれ?」
「ここから南にある国だ。かなり野心的で領土の拡大に躍起になっている」
「ということは、魔王軍と結託してるってのは・・・」
「おそらくそこだろう。そして今回の襲撃でよりチャンスが巡ってきたと
思っているだろうね」
現状、リューンは丸腰同然だ。そこに攻め入れば簡単に手に入るだろう。
「魔王軍をダシに使う人間もいるんだな」
「野心家の王は種族を超えて上手なのだよ」
「んで大きな仕事ってのはなんなんだよ」
伯爵は満面の笑みを浮かべる。
「後始末さ」