リューン攻防戦3
北の駐屯地にてモンスターの殲滅を任されるヴァルデミリアン達。
現れたメイジキメラは鉄壁の防御でヴァルデミリアンの攻撃を受け付けない。
さらにミノタウロスとサイクロプスも現れ、一行は窮地に陥る。
なんとかモンスター達を倒すが、マスター・クワイとイルフェは
重傷を負う。
北の駐屯地の激戦から3日後、二人を馬車に乗せリューンに連れて帰ると
城主クインタムが出迎えてきた。
「おぉ、そなたらの活躍で無事援軍がきてくれたぞ!ありがとう!」
「改めて礼を言う。マスター・クワイ、ミルディガンのイルフェ、そして
ヴァルデミリアン」
都市の市民を含め、皆が盛大に祝福をしている。
「水を差すようで悪いが、自体は好転はしてない」
ヴァルデミリアンの言葉で静まる。
「北はまたいつモンスターが現れるかわからん。他の方角も同じ
ように襲撃は止んでいない。こいつらの根源が何かを突き止め
ない限り、同じことの繰り返しだろう」
「その心配は無用だ!」
元気な声が響く。
「我々キプルス騎士団が来たからには安心なされよ」
「あんたは?」
「私は団長のハメルだ。そなたの名は聞いておるぞ、ヴァルデミリアン」
スキャンすると350と出る。こんなもんか。
他の連中もだいたい200前後で、オークやゴブリンなら問題なさそうだ。
しかし、一人だけ150(+α)の数値がいた。
スーツのアップデートにより、個体値の他にスキルなどで変動する場合
は+αが表示されるようになっていた。
「あんた、名前は?」
「私ですか?私はリディウスと申します。補給隊の一員です」
「次は東からオルムスの援軍が来る予定だ。早急で申し訳ないが
東の駐屯地に行ってもらいたい」
「俺は構わんが、あの二人はまだ安静にした方がいいぞ。消耗して
いるからな」
マスター・クワイとイルフェは意識こそあるが、昏睡状態にいる。
二人ともエネルギーを使いすぎてしまったようだ。
「それならば、我々キプルス騎士団から兵をお貸ししよう。いずれ
も精鋭ばかりだ」
屈強な体に重装備の連中を尻目に、ヴァルデミリアンは先程の補給隊
の男、リディウスを指名する。
「何をバカな!この男は補給隊だぞ?」
「選んでいいんだろ?こいつにする。あとの奴はいても迷惑だ」
屈強な男達は怒りの目で睨んでいる。
「わ、私で本当にいいんですか?あはは・・」
リディウス自身、戸惑っていた。
他の兵士とは違い、細身でお世辞にも強さの欠片も感じさせない。
だからこそ150+αの意味をヴァルデミリアンは知りたかった。
「出発は3日後。それでは準備をしているように」
ヴァルデミリアンはギルドで食事をしていると、騎士団の兵士に
絡まれる。
「なんであんなリディウスなんぞ選ぶ?我々の方が役に立つぞ!」
ヴァルデミリアンは無視し、食事を続けている。
その態度に腹を立てたのか、テーブルから皿を払いのける。
「騎士ってのはもっと高貴な人間と聞いていたが」
「お前はその騎士に敬意を払ってない!」
「敬意って?」
「強い者に対してのだ」
「なら払ってるな」
「貴様・・・・!」
ヴァルデミリアンは僧院に戻る支度をすると一瞥した。
「俺の判断に文句があるってことは、それを認めたお前たちの
団長の判断にケチつけるってことだ。騎士ってのは意外に
自由なんだな」
ハットする兵士を置いてギルドを後にした。
僧院に戻るとマスター・クワイが目覚めていた。
「おう、命の恩人よ。お戻りか」
「見た目通り頑丈だな」
「がははは!しかし、今回はちとやられすぎたわい」
全身包帯姿ではいるが、いつもの調子になっている。
隣ではまだイルフェが寝ている。
「お嬢ちゃんは無理しすぎたな。なまじ人間より魔力が
高いと頑張り過ぎてしまうのだろう」
「いや、人間やエルフってのは関係ない。そいつがやるか
やらないかだけだろう」
「ほう?」
「俺は前のとこで同じくらい無茶をする人間の雌を見た。
こいつらを動かすのは使命感なんだろう」
「こりゃ一本取られたわい!人間ではないお主に人間を
説かれるとはな!」
確かにそうだ。不思議な気分だった。
俺はこの惑星にきて日が浅い。しかし、人間に対しての
理解が深くなっている。
ユースミールの脳細胞のせいなのか。
「今度は東に行くそうじゃな。申し訳ないが、今同行しても
足かせになるだけだ」
「わかっている。今は安静にしていたほうがいい。あんたは
数少ない戦力なんだ」
「今度は一人で行くのか?」
「いや、キプルス騎士団から一人借りる」
「珍しい。お主のお眼鏡にかなう者がおったのか」
「まだわからんが、一番使えそうな奴だった。使えなければ
死ぬだけだ」
「お主は面倒見がいい。そうなっても放ってはおくまい」
「どうだかな・・・」
出発当日、ヴァルデミリアンとリディウスは馬に乗って出る
準備をしていた。
「おーい、待たれい!これを持っていけ!」
マスター・クワイは薬草の束を差し出した。
「苦いがよく効くぞ」
「リディウス、お前が持っておけ」
「は、はい!」
二人は東の駐屯地へと進む。
北と違い、山岳は少なく森が奥へと続く。
沈黙の間が続いていたが、リディウスが口を開く。
「あ、あの何故私を選んだのでしょうか?」
ヴァルデミリアンは答えない。
「私はまったく屈強ではないですし」
また沈黙が続く。
「す、すみません。何度も同じ事を聞いてしまって」
「お前が何かを隠していて、それが他の者とは異質だということ」
「!?」
「それが答えだ。もしそれが的外れならお前は死ぬ。死にたく
なければ俺の期待に応えろ」
二人の間をまた沈黙が包む。
ドローンを飛ばしてみると、東の駐屯地はやはり全滅していた。
ギルドの掲示板によると出現モンスターはゴーレムとアンデッド
となっている。
今まで戦ったことのない部類だ。
伯爵はアンデッドに属しているが、根本が違う。
「さてと、着いたぞ」
駐屯地は静寂を醸し出している。
「生存者は・・・」
「いないな」
戦った様子はあるが、北の駐屯地ほど荒れてはいない。
所々壁などが崩れているが、燃えた様子などもなかった。
周辺には白骨化した死体が散らばっているだけ。
「これがアンデッドの戦い方か」
”東の方角よりエネルギー反応を感知しました”
その方向を見ると、青白い球体が3つ近づいてくる。
ゆっくりと揺れながら30m手前まできた。
球体が止まると形が変化し始める。
それは3体のローブを纏ったガイコツだった。
ワイト500
ワイト500
エルダーワイト800+α
「歓迎会を開いてくれそうだぞ」
「ひ!ひぃぃぃ!」
リディウスが悲鳴を上げる。
ワイトは何かを詠唱していた。
詠唱が終わると、白骨化した兵士達が立ち上がる。
その数30体程。
さらに地面から死体が出てくる。
スケルトン150x30
ゾンビ130x20
まさに死の軍団であった。
「ヴァルデミリアン殿、この数は我々には無理です!」
「無理かどうかは俺が決める。お前には無理だったら死ぬしかない」
「そ、そんな・・・!」
ヴァルデミリアンはスピアを伸ばすと、両刃にプラズマを纏わせた。
自身の数値に変化が表示される。
サイクロプスの細胞を取り入れたことにより、スーツの基準筋力が
2%上昇していた。
スピアを振り回すとスケルトン達が粉々になっていく。
「す、凄い・・・。なんて強さなんだ」
足にまとわり付いてくるソンビには、スピアを地面に突き刺し
プラズマを放出する。
半径10mのゾンビが一斉に爆発する。
「数だけで大したことないな」
しかし、2体のワイトが詠唱するとスケルトンとゾンビが復活した。
「そういうことかよ」
あっちを先にやらないと終わりはなさそうだ。
ヴァルデミリアンは一気にジャンプし、エルダーワイトにスピアを
投げつける。
が、地面から現れたゴーレムが壁となり止められてしまう。
プラズマにより炭化するが、詠唱でまた復活する。
ゴーレム550
「クソ、きりがねーな」
「ひ、ひえええ!」
後ろでリディウスがスケルトンに囲まれている。
「た、助けてください!!!」
「自分でなんとかしろ」
ヘルメットの故障だったのか?
どっちにしろそれならここじゃなくても死んでるだろう。
それが早いか遅いかの差だ。
リディウスはスケルトンの群れに飲まれていく。
仕方ない。戦士でなければ死ぬだけだ。
群れを背にした瞬間、スケルトン達が爆音と共に散らばっていく。
振り向くとリディウスが立っていた。
「あんたひでーな。見殺しかよ」
リディウスの姿をしているが、様子が違っていた。
「お前は?」
「あぁ?リディウスだよ。あんたが見殺しにしようとした」
個体値が550+αに変化している。
「やっぱり何か隠していたな」
「よくわかったじゃねーか」
「詳しいことは終わった後に聞く。とりあえず、こいつらを
どうにかしろ」
「フン、わかってるよ」
二人は俊敏な動きでスケルトンとゾンビの間を走り抜ける。
ワイト達に近づくと、ゴーレムが立ちふさがる。
リディウスはゴーレムの影に何かを投げつける。
すると、ゴーレムが動けなくなっていた。
ヴァルデミリアンはlv3のプラズマキャノンを放つと、ゴーレム
が粉々になる。
しかし、ワイトの詠唱で修復してしまう。
「あの壁が邪魔だ。どうにかしろ」
「あんたがどうにかしろよ」
「あのワイトってのは実体がないんだよな」
「あぁ、魔法系の攻撃しか効かない」
「お前は魔法は使えるのか?」
「似たようなもんなら使えるぜ」
「なら俺が囮になる。お前がワイトをどうにかしろ」
「くそ、簡単に言うなよ」
二人はバラけるとそれぞれの行動に移る。
ヴァルデミリアンはゴーレム目掛けて走ると、lv1のプラズマ
キャノンを連射する。
ゴーレムは体でそれを受け止めるが、部分破壊される。
さらに接近し、スピアを回転させゴーレムをバラバラにする。
ワイト達はゴーレムに集中して詠唱を行っていた。
「ナイスアシストだぜ」
リディウスはワイトの近くまで寄ると印を結ぶ。
「火遁・炎鎖」
リディウスから炎の鎖が飛び出ると、2体のワイトを直撃する。
「オォォォォォ・・・・」
ワイトの詠唱が止まり、ゴーレムは灰燼と化す。
そしてまだ死んでいないワイトに対し、プラズマキャノンを
発射する。
直撃した2体は消滅した。
「ククク・・・なかなかやりおるのう・・・」
残ったエルダーワイトが口を開く。
「おい、こいつは別格だぞ」
「あぁ、見りゃわかるよ」
エルダーワイトを挟むようにして距離を詰めていく。
そして一気に近づこうとした瞬間、地面から木の枝が飛び出し
二人を襲う。
「うぉっ!」
枝は鋭利な切っ先で素早く攻撃する。
それは弾幕となってエルダーワイトに近づけない。
「おい、さっきの火を出せ!」
「無茶言うな。準備が必要なんだよ」
枝を相手に気を引きつけられていると、二人を冷気が包む。
「やべぇ!」
”急速な気温の低下が生じています”
二人に氷の塊が直撃する。
「くっ!」
「うぁ!」
ヘルメットに数値が表示される。
氷耐性9%
ん?俺にそんな耐性あったのか?
”メイジキメラの細胞により、意識下におけるダメージが
軽減されました”
あれか・・・。
確かに気温が変化した瞬間、意識はした。
それによって障壁が出たのか。
メイジキメラ程じゃないにしろ、軽減できたのは嬉しい誤算だ。
リディウスはだいぶダメージを受けている。
「おい、渡した薬草でも食ってろ」
「あぁ、すまない」
エルダーワイトと向き合う。
「お主・・・人間か?」
「違うな。お前もだろ?」
「ククク、確かに。なぜ人間側に加担する?」
「加担しているつもりはない。成り行きだ」
「なら、我が魔王軍に加担せよ。滅びゆく存在と遊ばせる
には惜しい者だ」
「断る」
「何故だ?」
「お前は強い。そして俺は強い奴を倒したい。それだけだ」
「知恵が足りずに己を苦しめるだけだな。ならば死ねい!」
周囲の気温がまた急激に下がっていく。
lv3のプラズマキャノンをエルダーワイトに放つが、氷の盾
で防がれる。
”敵個体値上昇 エルダーワイト:1100”
「何する気だ?」
ブリザードが発生し、ヴァルデミリアンを巻き込む。
氷の渦に吸い込まれると、いくつもの結晶が叩きつけ
そのまま20mほど吹き飛ばされる。
「あーらら、直撃したねぇ」
”敵の魔法攻撃が強大です”
「エルダーワイトは厄介なんだよ。魔法は強いし、実体がない。
かといって魔法耐性もある」
”弱点を教えてください”
「だーから言ったじゃない。加勢はしないって」
”このままだとヴァルデミリアンは死にます”
「フフフ、大丈夫だよ。世の中不死身なんてのはそうそういない。
みんな何かしらに頼ってそういう状態を保ってるのだよ」
エルダーワイトの前に倒れている二人。
「おい!薬草食うか?まだあるぞ」
「それはお前が持っておけ」
”生命値回復96%”
ヒドラの細胞によって体が回復していく。
「マジかよ。直撃したのにピンピンしてやがる」
「ますます惜しい者よのう」
「俺はますます楽しいぜ」
ヴァルデミリアンはリディウスにヘッドセットを投げつける。
「それを耳につけろ」
リディウスは言う通りにすると、ヴァルデミリアンの声が鮮明
に聞こえるようになる。
「おい、なんだこれ?」
「黙って聞いてろ。あいつは殆ど詠唱なしで魔法を使ってくる。
しかも同時に何個もだ」
「そんなの止めらんねーだろ」
「よく聞け。あいつの冠に宝石がついてるだろ。奴が何かをする
時はアレが光るんだ。あの宝石が奴の根源かもしれない」
「よく気づいたな・・・」
「俺がまた奴を引きつける。全ての魔法を俺に向かせた時、お前
があの宝石を砕け」
「大丈夫なのかよ」
「俺にしかできないことを俺はやるまでだ」
ヴァルデミリアンはスピアを持つとエルダーワイトに走り出す。
「丈夫が取り柄というのも芸がないのう」
氷の塊が何個も飛んでくるが、プラズマシールドとスピアで
受けながらさらに前進する。
すると先程のように周囲の気温が急激に低下する。
ヴァルデミリアンはプラズマシールドと意識を前に集中し
スピアを地面に刺す。
ブリザードに包まれるが、これもなんとか耐えた。
そして目の前まであと1歩の時、氷の壁に閉じ込められる。
「惜しかったのう。それはお前の力では破壊できん」
「VIPルームってやつか。嬉しいね」
氷の壁が少しずつ狭くなっていき、ヴァルデミリアンを押し潰そう
としている。
スーツの人工筋肉が反応し、必死に抗う。
「無駄じゃよ。さらばだ人外の者よ」
「お前がさらばだよ!」
リディウスが突如エルダーワイトの背後に現れ、短剣で宝石を突き
刺そうとした。
が、自分の体が氷始めているのに気づく。
「人間がワシに近づけると思ったか?」
「がはぁ!」
指先から全身に広がる氷の結晶。
「す、すまねぇ・・・」
リディウスの意識が遠のく。
その刹那、空に何かが光るのを見た。
それはエルダーワイトの宝石を貫通する。
「ヌォォォォオオオオオ!バカなぁ・・・」
宝石が砕けるとエルダーワイトは消滅した。
それと共に二人にかけられた魔法が解除される。
「な、なんだったんだ・・・」
「最後の手段を使った」
ヴァルデミリアンはリディウスの不意打ちに賭けていたが
エルダーワイトの強さも計算していた。
自分に対して同時に3つは魔法を使ってくる。
しかし、それは攻撃手段としてだろう。
これほどの魔法を使う存在ならば、攻守共にレベルが高いはず。
メイジキメラ同様、意識した攻撃に対してなんらかの防御策を
しているはずだ。
もしそれがあらかじめセットされていて、自動的に発動する
部類ならリディウスの不意打ちは阻止されるだろう。
そうなると、奴は勝利を確信する。
俺達に為す術がないからだ。
そこが狙い目だ。
俺はドローンで宝石に照準を合わせていた。
かなり上空のためロックオンに時間がかかる。
俺が氷の中で耐え、リディウスの不意打ちが失敗
した時、ロックオンされた。
「あんた・・・すげーな・・・」
「お前もなかなかだったぞ」
二人は焚き火を囲みながらお互いを労っていた。
「お前は何者なんだ?」
「いや、それは俺も聞きたいわ。でも、俺から話すか」
リディウスは忍者と呼ばれる暗殺集団の出身であった。
リューンからだいぶ離れた国で育つ。
父は忍者で母は異国から来たウィザード。
二人は冒険を共にし、やがてリディウスが生まれる。
両親は幼いリディウスに英才教育を施した。
それぞれの素質を受け継いたリディウスは、やがて一族
の中でも優秀な暗殺者になっていく。
数々のミッションをクリアし、最後のミッションを渡される。
ある暗殺者を殺せ、と。
リディウスはその暗殺者と戦い、激戦の末倒す。
しかし、その倒した相手の顔を確認すると自分の父親だった。
もっとも尊敬し愛していた父親を殺したリディウスは、その
重荷に精神が耐えかねて崩壊してしまう。
そこで母親は魔法を使い、リディウスにもう一つの人格を入れ
精神のバランスを取るようにした。
自分の命の危険が迫ると、暗殺者としてのリディウスが出現し
普段は心優しいリディウスと生きていた。
「へー、結構大変だったんだな」
「なんか軽くね?」
「いや、それよりも大変な奴の話聞いてたから」
「あ・・・そうなんだ。んであんたは何者なんだ?」
「俺か?俺は違う星からきた」
「星?どういうことだ?」
「説明し辛いんだが、あの月あるだろ?あんな感じのとこ
から来た」
リディウスは理解していないようだ。
「ま、信じるか信じないかは任せる」
ヴァルデミリアンはエルダーワイトの残した杖を見つける。
「持って帰る細胞もないし、あいつの土産にでもするか」
二人は馬に乗るとリューンへと帰っていった。