リューン攻防戦1
伯爵が同行し新たな旅を始めるヴァルデミリアン。
山岳地帯を抜け大きな湖に出ると、そこには城塞都市リューンがあった。
偵察がてら途中の森を探索すると、キメラが人間を襲っていた。
多彩な攻撃をしかけるキメラとの戦闘で自身の成長を感じ始める。
城塞都市リューンは山岳地帯において各都市を結ぶ重要な
中継地点として繁栄している。
どの都市に行くにしても、大抵の者はリューンで一度補充
を行っていた。
しかし、ここ最近はリューン周辺で魔物が大量に発生して
いることがわかった。
先日倒したキメラもその一つで、冒険者や商人などが数多く
被害を受けていた。
ギルドの掲示板には討伐要請が所狭しと貼っており、近隣
からくる冒険者達が賞金稼ぎにやってきている。
しかし、そういった者は殆どが賞金を手にすることなく死
んでいった。
マスター・クワイも城主に相談さて、キメラ討伐を考えて
いたようだ。
「いやー、お主がやってくれて本当に助かったわい」
しかし、問題はキメラだけではない。
他のモンスター達はまだ沢山出没しているのだ。
「これは魔王軍ってやつか?」
「いや、魔王軍は一応統制の取れた動きをする。こいつら
は野生のモンスターだな」
「野生でもいるのか?」
「そりゃそうよ。この世界には人間や動物以外も生息して
いる。それらが魔王軍として統括されているか、野生か
の違いだ」
「それなら野生同士で自然淘汰があるんじゃないか?」
「あやつらは変に知恵をもっていてな。お互いが戦うと
傷を負うことがわかってる分、人間を襲えば楽と知って
おるのだ」
「餌として認識されているのか」
「特にこのリューンはその餌が豊富な牧場扱いだろう。
何かのタイミングであやつらが一斉に襲ってくる
可能性も十分にある」
リューンから近隣の王に応援要請を送っているが、山岳地帯
のため交通の便が悪く思うようにいってないようだ。
都市自体は冒険者が集まることで経済効果はあるが、その
反面ならず者も増えてくる。
都市の外だけではなく、中の治安も悪くなっていた。
「ワシらモンクが夜回りを担当しているのだが、人数が不足
しておってな。猫の手も借りたいほどだ」
皮肉なことに野生のモンスターどもは利害が一致しているが
人間達は統制が取れてないようだ。
「ちょっとギルドにいってくる」
「おう、情報収集してくるがいい」
ヴァルデミリアンはギルドに着くと、掲示板を見た。
様々なモンスターの討伐指令が出ている。
キメラは他にもいるようだし、さらに強いモンスターもいる。
本当にここにいる人間で倒せるのか?
多くの冒険者達はゴブリンやオークを狩るのに精一杯で、
上級のモンスターは手つかずでいる。
「おい、あんた。あのキメラ狩りの男か?」
ヴァルデミリアンが振り向くと冒険者が立っていた。
「俺の名前はアバト。それなりのハンターなんだが、
俺でもあのキメラは無理だった。どうやって倒した?」
ヴァルデミリアンは無言のまま掲示板を見ている。
「へへ、悪い。商売道具をそう安々と語らないよな。
ただ、あんたの噂は良いのも悪いのも出ている」
「本当は何人かで戦って、独り占めしたんじゃないかって」
「俺はそんなん・・・」
「静かにしてろ」
ヴァルデミリアンが呟くとアバトは黙って頷いた。
ドローンで周辺を偵察すると、リューンから10km先で
何かが暴れていた。
映像を確認すると、掲示板にはヒドラと記されていた。
キメラよりもランクが上のようだ。
(今日はこいつにするか・・・)
光学迷彩をオンにすると、森を一気に駆け出す。
目標地点に近づくと木々が打ち倒され辺りには兵士の
死体が散らばっている。
生き残りも数名いるようだが、時間の問題だ。
前衛の兵士が二人、プリースト、マジシャンの構成だ。
光学迷彩を解除すると、突然現れたヴァルデミリアン
に驚きながら説明してきた。
「わ、我々はボルテックから応援できた一団です。
リューンに向かう途中でヒドラと遭遇して・・・」
”ヒドラは多頭の大蛇で、物理攻撃をメインにしています。
魔法攻撃はあまり無いようですが、生命力が高いです”
個体値は750と出ている。
なるほど、キメラよりも歯ごたえがあるのか。
「お前達は後ろに下がっていろ。邪魔をするな」
「しかし、相手はヒドラです。あなた一人でどうなる
わけでもありません!」
「どうなるから言ってるんだ。邪魔だ」
一団は後方に隠れて戦況を見守っている。
首が4つで体は一つか。
こいつと昨日のキメラはどう違うんだ?
まぁ、いい。味わってやろう。
スピアの両刃にプラズマを纏わせると、ヒドラの前に立つ。
4つの頭はそれぞれが動きヴァルデミリアンを警戒し始める。
両サイドの頭が同時に噛み付いてきたが、体をひねって避ける。
3つ目の頭がそこに向かって噛み付いてくるが、スピアで切り
つけるとすぐに引っ込んでいく。
「それぞれが単独の脳を持っているのか」
スキャンをすると、それぞれに脳はない。
ということは体の部分にあるってことか。
距離を取ってlv2のプラズマキャノンを本体目掛けて撃つ。
プラズマが炸裂し、傷を負わせるが驚くべき光景が広がる。
なんと傷がすぐに塞がっていったのだ。
”非常に強力な再生能力を持っているようです”
「見りゃわかるよ」
しかし、キメラよりは単純だがあの再生は厄介だ。
とりあえず頭の数を減らして対処するか。
ハンターディスクを両サイドの頭に投げると、同時に刺さり
燃焼し始める。
しかし、燃えるが再生の方が早くダメージを与えられていない。
ヴァルデミリアンの攻撃に激怒したヒドラは一気に攻め始める。
4つの頭を縦横無尽に動かし休む暇を与えず詰めてくる。
しかし、その攻撃もヴァルデミリアンには当たらず、ただ4つの
頭が暴れまわっているだけであった。
「あの人、凄い・・・」
一団のプリーストが呟く。
誰が見ても人間の動きではなく、まるで予見しているかのような
回避を続けている。
スピアを回転させ2つの頭を切り落とす。
残り2つとなり攻撃の手が緩まったと見たが、切り落とされた首
から新たな首が生え始める。
「すげー再生能力だな」
何事もなかったように4つの頭が再び暴れ始める。
さすがに1時間近く戦い続けると疲労を感じる。
”コンディションが11%低下しています。休憩をとってください”
「取れるんなら取ってるよ」
確かにこのままじゃ埒が明かない。
こいつの再生能力は無尽蔵なのか。
本体にダメージを与えなければ繰り返すだけだ。
ヴァルデミリアンは一息つくと、一気に駆け出す。
スーツがそれに反応し、人工筋肉が加わる。
真ん中の2つの頭を切断し、そのまま頭上にジャンプする。
丁度背中をロックオンし、lv4のプラズマキャノンを放出する。
プラズマ弾が当たると大爆発を起こす。
背中には空洞ができていた。
しかし、頭同様再生し始めている。
ヴァルデミリアンはその空洞に飛び込んだ。
ヒドラの体内に入りその中でスピアを思う存分に振り回す。
ヒドラは敵が体内にいるため攻撃ができず、ただ頭を振り回していた。
「これがお前の心臓か。もう休んでいいぞ」
目の前にある心臓をスピアで貫くと、4つの頭は悲鳴をあげて
倒れていく。
「う、うそ・・・一人でヒドラを・・・?」
息絶えた体を割いて出てきたヴァルデミリアンを驚きの目で
一団は見ていた。
「こいつの細胞は使えそうだな。持ち帰るか」
「おい、あんたら。こいつをリューンまで持っていくのを
手伝ってくれ」
壊れた馬車の板を繋ぎヒドラの死体を乗せると、ヴァルデミリアン
はそれを引きずっていく。
「なんなんだあの人は・・・」
守衛があくびをしながら門を守っていると、見慣れた男が何かを
引きずって歩いてくるのが見えた。
「むむ!?今度はなんだ?」
目視できる距離になると仰天する。
「ヒ、ヒドラじゃないか!今度はヒドラを倒したのか?!」
ヴァルデミリアンはヒドラの死体を広場に移すと、ギルドに
確認しにいった。
「あれの賞金は幾らだ?」
「8万Gです」
「そうか。ボルテックの連中に渡してやれ。もらう権利はある」
「え、また受け取らないんですか?」
「俺は金に興味はない」
そう告げるとヴァルデミリアンは僧院に戻っていった。
「いやー、たまげたな!今度はヒドラか!」
マスター・クワイは驚いている。
「昨日のキメラよりは単純だったけど、再生能力が面倒だった」
「ふむ、あれだけの物理攻撃だけでも単純とは人間では言えない
が、お前さんならそうなのだろう」
ドローンからの情報だとリューンに繋がる4つの道にモンスター
達が集まっているのがわかる。
援軍をそこで待って食料にしているのだろう。
もしこれが続けば各国からの援軍は期待できなくなる。
ヴァルデミリアンの中に違和感が生じた。
(こいつら、本当に野生なのか?)
動きがどう見てもリューンを孤立させてるようにしか見えない。
ただ餌を求めるのならリューンを襲うはず。
外堀を埋めてから本命を襲う予定としか思えない。
スーツのアップデートもあるし、一度ポルト号に戻るか。
「ちょっと用事ができたから、街を出るよ。また戻ってくる」
「そうか。お主がおらんと不安じゃが仕方ない」
ヴァルデミリアンはリューンを後にし、ポルト号へと帰った。
「しかし、貴公は本当になんというかバカがつくほどお人好し
だな」
「貶してんだろ」
「もちろん!しかし、そういう部分を私は気に入ってるがね」
「ポルト、いい細胞が見つかった。スーツに適合してくれ」
”了解しました。アップデート作業に移ります”
「貴公の戦い方を見ていたが、なかなか大胆な作戦だな」
「あの再生能力半端じゃないぜ」
「まぁ、ヒドラは魔物の中でもそれに特化してる部分があるがね」
「戦ったことあるのか?」
「もちろんさ。私の時は頭が5つあったがね」
「個体差があるんだな」
「この映像を見る技術は本当にいいね。自分が戦ってるかのようだ」
「気に入ってもらってどうも」
リューン周辺の映像を再確認した。
やはり作為的な何かを感じる。
マスター・クワイは野生と言っていたが、それはあくまで都市にまで
攻めてきてないだけの理由だ。
こいつらは機会を伺っている。
人間にとってリューンは大事な中継地点だとわかっている。
「やけに人間に肩入れするのだな」
「情が移ったか?」
「降りかかる火の粉を払ってるだけだ」
「フフフ、そうか」
「何か言いたいことでもあるのか?」
「いやいや、貴公がこの世界でこれからどうなっていくのかを
見るのがとても楽しみなんだ」
伯爵のその言葉はその時の俺にはまだ分かっていなかった。