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観測者

植物扱いされながらも、一命をとりとめたヴァルデミリアン。

伯爵との激闘の末、一部の記憶を失う。

想像以上の強さを誇った伯爵には壮絶な過去が隠されていた。

(やばい、ヘルメットしていてよかった。号泣がバレそう)


「ん、んでその後はどうしたの?」


伯爵は長い自分の過去を紐解くように思い出していた。


「その後は様々な時の過ごし方をしていたよ」


今でこそ勢力図としてはそれほど多くの勢力は存在しないが、昔は

群雄割拠していた。

魔王候補が幾つもいたし、勇者候補も何人もいた。

世界のバランスが常にどちらに傾くかわからない状態だった。

私は自分の復讐のためクライン教を根絶し、終わってみれば2万人

近くの人命を奪っていた。

カテドラスも多くの命を吸い、禍々しい形となっていた。

しかし、不思議なことに私自身の意思ははっきりとしていた。

カテドラスに乗っ取られるわけでもなく、むしろ共存しているかの

ような感覚さえあった。

だが、私の体はもう人間を超越しその寿命はいつ果てるかもわからない

程になっていた。

復讐の旅を終え、自分の命を絶とうとした時あの長の言葉を思い出した。


「はい。あなたは出口のない迷路に永久に閉じ込められ、己の意志

 が反映されない時間を過ごすことになります」


そう、私は不老不死になっていたのだ。

自殺を試みても生き返る。

大量に人命を吸ったカテドラスが、私を生き返らせてしまう。

最初の100年は復讐の応報による呪いと思っていたが、ある日私の元に

魔王候補の一つからスカウトがきたのだ。

人間とも魔族とも戦う立場。

もしかしたら、そんな生活をしていればいつかは寿命が尽きる。

そんな事に救いを求めて加勢した。


しかし、私の考えは甘かった。

カテドラスと私は自分が思う以上に強力な存在となっていた。

いくつもの魔王候補を倒し、何人もの勇者を葬った。

さらに伝説のドラゴンなども何匹か倒し、私に宿る生命と強さは

比類なき存在へと変わっていった。

やがて私は戦うことをやめ、無尽蔵の命の下、時代の観測者として

生きるようになった。

その間、いくつもの時代の終焉を見て、何人も愛する者や親しい者も

できたが、彼らには寿命がありそれは私の人生だとほんの数分の出来事

にさえ感じられた。


「それならお前がこの惑星最強の生命体ってことじゃないか」


「ふむ、私も一時期そう思う時があったが、ここ200年くらいから

 魔王とは違う勢力の存在が出てきてね。もしかしたら私よりも

 強いかもしれないという期待があるのだ」


「憶測かよ・・・。ということは、今は人間、魔王の他にまた違う

 勢力があるってことか?」


「人間と魔族というのは、比較的新しい勢力だ。その違う勢力は

 太古より存在する者と言っていいだろう。私も相まみえていな

 いので、正確なことはわからないのだ」


「なんでそんなのが出てきたんだよ?もっと昔からいてもいいのに」


「あのような存在は信仰が深く根付いているのだ。宗教が淘汰され

 数が少なくなると、太古の信仰が復活してくるようだ」


「宗教が淘汰って・・・お前がクライン教を潰したのも要因になって

 んじゃないの?」


「そう言われればそうだな」


(こいつかなり天然なんじゃ・・・)


「あとさ、さっきさらっと魔王候補に勇者にドラゴン倒したとかって

 言ってたけど、それって凄いことなんじゃないの?」


「ふむ、確かに強敵はいたよ。ついに私は死ねるかもしれないという

 相手などがね。しかし、最後には私が勝ってしまうのだ」


「その剣は命の他に相手の記憶と能力を奪うんだろ?そうすると

 どんだけの能力を持ってるんだよ」


伯爵はしばらく考えていたが、ワインを飲み干すと笑顔で答えた。


「自分でも把握していない能力も多い。一度も使ってないものも

 あるし」


「大雑把だなぁ・・・」


「ちなみに貴公との手合わせで、最後にもらった一撃は人命にすると

 約100人分に相当する寿命を失ったよ」


「それって褒めてるのか?」


「もちろんだよ!」


いまいちこの伯爵のテンションで言われても実感が湧かないな。

しかし、今の俺だとこいつには勝てない。

もっと自分を強くしなければならない目標が見つかった。

しかし、こいつの持ってるカテドラスと俺達プレストルの進化方法

は非常に似ている。

カテドラスは生命、記憶、能力を吸い込むが、プレストルは相手の

細胞から有効な情報を吸い出してカスタマイズしていく。

どの惑星にもこういった種族はいるものなのだろう。


「そうだ、貴公を生かしておいた報酬として頼みがあるのだが」


確かに俺はこいつに生かされた。

頼みを断るのは種族としてのプライドが許さない。


「頼みってなんだよ?」


「私も貴公の旅についていきたいのだ」


「は?」


「貴公についていけばこの限りない寿命を楽しませることができる

 と思ったのだよ」


「仮に楽しめなくても、時折貴公と戦えば寿命を削れる戦闘ができて

 私は十分に楽しめる」


「俺をサンドバッグ代わりにするのか」


「まぁ、そう言わず。基本的に貴公の邪魔はしない。お互い単独行動

 をしよう。私は観測者だ、目立つことは避けたいしね」


クソ、なんか変なことになってしまった。

基本的に儀式中は単独行動しなければならないのに。

かといって断ると沽券に関わる。


「わかったよ。ただし、俺が戦っていても手出し無用だぞ」


「もちろんだ。この世界で貴公の手を煩わせる者がいたら、逆に

 加勢したい」


「こいつ・・・」


「それに貴公はこの世界のことはまだ未知の部分が大半であろう?

 私が貴公に知識を与えよう」


結局俺はこの奇妙な男を道連れにすることになった。

ポルト号を城の前まで呼ぶと、伯爵は歓喜の表情を浮かべた。


「おぉぉぉぉぉ・・・・おぉぉぉぉぉ・・・・」


まるで新しいおもちゃを見つけた子供のような表情をしてやがる。

伯爵はスキップしながら船内へと入っていった。


「とりあえず、お前の部屋はここ。自由に使っていいが、変なことは

 するなよ」


「もちろんだ!」


”ヴァルデミリアン、船内に他の生命体が確認されています”


「あぁ、気にしないでくれ。変なことしたら途中で降ろす」


「貴公は誰と話しているのかね?」


「あぁ、この船のAIだ。つってもわかんないだろう」


「私はデミトリウス伯爵。以後よろしく」


”私は中央情報管理システムです”


「中に人間が入っているのかね?」


「そうじゃないけど、人間の脳に近い物を人工的に作って同じ

 ようなことをさせてるんだ」


「おぉぉぉぉぉ・・・・」


俺はスーツとヘルメットをメンテナンス室にもっていき、修復作業

をセットした。

その間、伯爵との戦いを映像で確認する。


こいつのこの動き、やっぱり半端じゃない。

この剣もそうだが、こいつ自体の能力が凄い。

俺の攻撃手法を即時に見破り、いくつもの隙を見つけ確実に狙ってくる。

映像を見ていると今も戦ってるかのような緊張感を思い出す。

途中、ギアチェンジして攻撃してる時はまだ記憶が残っていて

その心拍数が上がるのがわかる。

そう、ここで攻めて捉えたんだ。

手応えはあったが、俺は幻術をかけられていた。

いつからだ?

そんなことをしている仕草は映像を見返しても見当たらない。

動作や環境は必要ないということか?


”確認したところ、デミトリウス伯爵は媒体を使っていません”


ギリガンやあのローブの骨は媒体を使って魔法を使ってきた。

しかし、こいつはそんなものを使っていない。

ますますもって不思議な男だ。

さらにこの後だ。

伯爵に時間を止められて俺は全身を切り刻まれる。


”特定の条件及び環境下において、時間の遅延または停止状態を確認

できます”


これも何かをするわけでもなく、いきなり状態異常になっていた。

映像では俺の動きが鈍くなりやがて止まる。

伯爵はその間に攻撃をしかけていた。

時間にして約5秒くらいか?

今見ても腹が立つ。

なぜ殺さないんだ。

そして、俺の記憶はここで終わっている。

しかし、映像は残りがまだある。


”DNAコードに接続します”


DNAコードってなんだ?

そんな機能があるなんて知らなかった。


”DNAコード接続とは一族のDNAに共有された戦闘能力の開放です”


映像ではわからないが、伯爵曰くここからヘルメットの形状が変化

したらしい。

そして映し出されている動きが自分ではないかのようだ。

さっきまで余裕の表情だった伯爵の顔が、真剣になり始めている。

俺の攻撃が体に当たりはしないが、カテドラスを使って避けるように

なっていた。

さらに攻撃の質が高まり、カテドラスでは防ぎきれなくなった時

また時間が止まった。


「ふぅ、さすがに今のは危なかったよ」


伯爵の安堵が見えたが、それはすぐに消えた。

なぜか俺の体は前回の5秒をまたず、動き出したのだ。


スピアが伯爵を貫くとプラズマが一気に放出され、伯爵は炭化する。

ここで映像が終わっていた。


”この戦闘データをフィードバックし、スーツのアップデートを行います”


「あぁ、よろしく頼むよ」


俺は医務室に入ると治療ポッドに入った。

全身に残る疲労感と傷が新たな能力へと繋がることを祈って眠りについた。




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