仲間
魔法を防いでいるアルバートの少し距離を開けた横の位置に魔族がすぐに移動をし左手をかざし魔法攻撃を出そうと構えているも、アルバートは先ほど魔族が放った魔法を防ぐのに精一杯で対応しきれていない。
しかし、あの魔族は詠唱を唱えていない。
ディーノはアルバートと魔族の間に割って入ろうと駆け寄る。
「初級魔法程度なら任せろ! はぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
アルバートと魔族が驚いた顔をしているものの、魔族は構えを崩さずそのまま火属性魔法を放った。
寸での所で間に合い銅の剣を胸の前でかざし、受けの構えに入る。
放たれた魔法を銅の剣で防ぐも防ぎきれていない。
じわりじわりとディーノの体は熱気に包まれ出す。
ビキビキと銅の剣に亀裂が走る。
"無理だ"そう思った時に銅の剣は砕け散り、上半身に直撃し吹き飛ばされる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アルバートの叫び声が聞こえ声のした方を見ると炎柱が立ち上がっていた。
俺が受けた魔法の比じゃない。
こんな魔法を受けて前世が魔王といえど今は人間だ、タダで済むわけがない。
炎柱が消えてなくなり、ドサッ。と地面に叩きつけられたアルバート。
途端に込み上がる黒く淀んだ激しい気の昂り。
憎い、殺された、アルバートを、友を、ライバルを······
「殺しやがったてめぇは許さねぇ!!!!」
両足に魔力を送り込み一気に足の裏から放出し、スピードと体重を乗せた突進力。
更に左手に意識を集中し、全ての気力を流し込み剣を具現化させる。
勇者時代に会得していたスキルの一つ。
「闘気剣!!!!」
そのまま魔族目掛け具現化させた闘気剣を右胸に突き刺す。
「ぐきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
けたたましい声を上げ鬼の形相で俺を睨み付けたと思ったら、持っていた杖で俺を突飛ばし手から離れた闘気剣は消滅した。
「貴様······許さんぞ人間···はぁはぁ」
魔族の息がだいぶ上がっている。闘気剣で作った傷口からは紫の液体が絶えず流れ落ち、魔族の体力を奪っている。
しかし······。
「もう少し魔力と体力があったなら勝てたのかも知れなかった······のに。」
ディーノは力なく膝から崩れ落ち前方に倒れこみ、息づかい荒く意識が朦朧としている。
「うひゃ······うひゃひゃひゃひゃ!!!! 倒れた、倒れやがったよこいつ! 闘気剣だかなんだか知らんが生命力か何かを使った技かなんかだろう。 首をもいでコレクションにしてやる」
魔族はゆっくりとディーノに歩み寄ると髪の毛を乱暴に掴み取り、そのまま持ち上げる。
ぶちぶちと髪が抜ける音を鳴らし、「ぐっ···」と苦しそうな声を上げるディーノの事などお構い無くずっとブランっと持ち上げ首を舐め回すように見ている。
「ん?」
今その時ディーノの首を掻っ切ろうという時に人間の······今自分が相手にしているこいらより遥かに弱い人間の気配に魔族は気づいた。
「ディーノ!! アルバート!! 」
「ディーノ君!! アルバート君!! 」
真新しい皮の鎧に身を包み、木の額当てを付け木こりが使っている斧を背中に背負った青年と青い法衣を着用し手には鉄の錫杖を持った少女が立っていた。
「おやおや、またか弱い······大魔王様に逆らおうという冒険者ですか? 」
「マヤ······タクト···か? 逃げ···ろ」
ディーノも二人の気配と声に気づき蚊の鳴くような声しか出せない為二人に声は届かない。
ガクガクと足を震わせる二人、初めての魔族との遭遇、元級友たちのピンチ、それらプレッシャーを受け駆け出し冒険者の二人は魔族との······逃げられない、逃げてはいけない戦い。
二人は覚悟を決めた。
倒すことは考えない。二人を助けて一時逃げる覚悟を。