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魔族との遭遇

 旅支度を前日までに済ませ、明け方にはディーノと一緒にミルタルト姫を助ける旅に出たわけだが……。


「おい! アルバート! ちょっと休憩しようぜ? 暑いし、足が疲れた!」


「貴方は子供なんですか!? 私達は遊びで城下町を出たわけではないんですよ!?」


 こんな情けないのが勇者で私はこんな子供じみた男に一度負けていると思うと情けないやら悔しいやら泣けてくる。


「でもよーミルタルト姫がいる王都までは馬車を使っても1年は掛かるし、少し位のんびりしようぜ?」


 って言いながらすでに街道外れの大木前に座り、背を預けている辺り最初から私の返答なんか無視する気満々ですね。この男は。


「貴方がこんな人だったなんて少しがっかりしてしまいました。私は先にティオの村に向かってますから」


「勝手に人の性格や人格を決めつけて、そこから外れた自分の知らない言動を見たら失望するって何様なんだよ? さすが元魔王様なだけあって上からなんだな」


「何とでも言いなさい。世の中というものは大体の人間が色々決めつけて生きています。それは価値観と言うもので合わなければ離れる。みんなそんな程度でしょ?」


 私は座り込んでいるディーノを置いてティオの村へ行く為に歩を進めた。ディーノは顔をしかめ、何も言い返してきませんでしたが正論を言われたらぐうの音も出ないでしょう。





 ディーノを置いて歩きだして2時間ほど経った頃に最初の目的地であるティオの村に着いた。

 道中魔物に会ったが学校で訓練してきていた為何なく撃破できた。

 得たアイテムはゴブリンが落としたこん棒とひのきの棒くらいだ。

「さて、城下町から一番近い村なわけだが今日は一泊することになるかな? ディーノはまだ来ないし」


 宿が二人分で銀貨2枚……か。

 旅は始まったばかりだから節約しなければな。

 しかし、村だから冒険者なり戦える者が見当たらないのは妙だ。

 村といえど魔物に襲われる事もあるし、不良兵士達が流れ着く場合もあって危険なんだが。

 まぁ、私には関係ない事か。


 ぐきゅるるるる~。


 さすがに腹が減ったな。城下町を出てから何も口にしてなかったしな。宿に来る途中にあった飲食店に行くか。


「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」


「はい」


「そったらお好きな御席にどんぞ。今の時間は他にお客様もいらっしゃらないですし」


 テーブルにつくとすぐに水が運ばれて来てメニューを渡されたが······。

 銀貨3枚、銅貨5枚でやりくりしていかなければだし、周辺の魔物が落とすアイテムでは二束三文にしかならないから充てにしたらダメだ。

 銅貨1枚で済む食べ物は······ビッグラビット定食だけか。仕方ない。これにしよう。


「すいません。注文良いですか? ビッグラット定食一つお願いします」


「かんしこまりました。ビッグラット定食が御一つだでね? ありがとうごぜぇます。しんばらくお待ち下せぇ」


 店主はそう言うと足早に厨房に戻り、肉を焼く音が店内に響きだした。しかし、訛りが結構強い村ですね。

 ちなみにビッグラットというのは体長1mはあるウサギの『魔物』だ。

 城下町みたいな都市部では豚や牛、鳥が手に入るんだが、村などにはなかなか出回らない品物でもしも仕入れていたとしても城下町などで売られている売値が銅貨1枚なのに対し5倍~10倍にあたる銀貨1~2枚にもなる。

 ぼったくりにもほどがあるが、品薄で希少な品物なら仕方ない現状だ。


「お待たせいたしました! ビッグラット定食になります! ごゆっくりお召し上がりください」


 トン、トン、トンとビッグラットの肉が乗った皿と、トマトのスープ、小麦粉を丸めてオーブンで焼いただけの丸っこいきつね色になったパンが2個入った皿がテーブルに並ぶ。

 魔物の肉だが、これが意外とイケる。ちょっと硬めの肉だしジューシーさはないが十分美味い。

 今日朝城下町を出てから初めての食事だから余計に美味い。


「もし、戦士様おん食事中に申し訳ごぜぇません」


 ふいに背中から声を掛けられ振り返ってみると小柄な老婆がそこには立っていた。


「私は戦士ではなく"魔法戦士"という中級職になります。初級職の戦士というのは考えなしの熱血バカのこ······いえ、なんでもありません、失礼しました。それで私に何か用ですか?」


「だ。それは失礼すんました魔法戦士様。そんで頼みがあるんですけんども、村を! オラ達の村を助けてくだせぇ! 魔物の親玉を倒してくんろ! 」


 老婆はそこまで言うと床に伏せて"うっうっうぅぅ~"という泣き声と共に全身を震わせている。

 困るんですよね、こういうのは。こちらとしては慈善事業じゃないし、ちゃんとした報酬がなければやりたくない。

 しかも今はミルタルト姫を早く助けねばならないので申し訳ないですが、断りましょう。この村が金貨1枚の報酬すら払えそうにないですし。


「さ、立ち上がって下さいお婆さん。 非常に申し訳ないんですが、私には急ぎの用があるのです。なので大変心苦しいのですが城下町にある"斡旋所"に依頼を出してくだされば雇われた傭兵達が来てくれますよ」


 にっこりとこれ以上ない笑顔をお婆さんに向け、そのままテーブルに戻り途中になっていた食事をまた口に運ぶ。お婆さんはひどくうなだれ店主に支えられてヨロヨロと出入口に向かって行く。


 バンッ!!!!!!!!


 その時突然扉が大きく開かれ、直後に聞き慣れたバカでかい声が聞こえてきた。


「婆さん!! 話は聞こえてた! この村を困らしているその魔物の親玉は、そこにいるアルバートと俺で倒してやる! だから落ち込むなよ!? 」


 あのバカ······報酬の話もしてないのに何勝手な事を言ってくれてるんだ!? 本当にあの考えなしは!

 ズカ!ズカ!ズカ!と力強い足音がこちらに向かって来て私のテーブルの所まで来た所で足音は止まった。

 ゆっくり顔を上げるとツンツンの黒髪で茶色い瞳をこちらに向けている熱血バカが、"フンッ"と鼻息が見えそうなくらい勢いの良い鼻息をぶつけてくる。"汚い男ですね"


「なんですか? 遅れてやって来て、突然魔物の親玉退治引き受けて! バカなんですか!? 相手の情報も何にもなく我々のレベルを遥かに越えた魔物だったら!! 」


「黙れアルバート!! この村の人が困ってんじゃん! 俺達みたいな"流れの冒険者"にお願いするって事は依頼料金を城下町の斡旋所に払えないって事だろ!? 助けない理由なんかなっ···!?」


 ディーノの両肩に手を掛け、右足で足払いをしてズダーン!とディーノを床に叩きつける。

 壁ドンならぬ床ドンですね。

 店主と老婆は口をだらしなく開けて我々のやり取りに呆気に取られている。


「いい加減にしろよ? 私達はミルタルト姫を助けに行くんだぞ? 他の人間なんかに構ってられるか! それも報酬もないようなこんな仕事に!! こんな村の1つや2つ···」


 はっ!としてすぐに出てこようとした言葉を飲み込んだ。


「アルバートの言いたい事もわかる! だけど! 目の前で助けを求めてきた人を見捨てられるかよ! 姫の事も大事さ! だけど、だからってその他の人を蔑ろにするって違うんじゃねーのか······よっ!!」


「ぐはっ!?」


 ディーノの右足が馬乗りになってた私の尻目掛けて思いっきり蹴飛ばされ、怯んで腕の力が抜けた瞬間にディーノの右フックを左脇腹にクリーンヒットさせられ一時的な呼吸困難に陥る。

 ディーノはすぐに立ち上がり頭を踏みつけてきた。


「お前さ、学校卒業時には中級職になった奴なんか前代未聞野郎の努力家なのになんで心はそんなに冷えて······!?」


 ドン!ドドン!ドドドドドーン!


 突然鳴り響く爆発音?

 いや、それにしては地面に揺れは感じなかった。

 だったらこの音は?

 ディーノの足を払いのけ、すぐに立ち上がり鉄の剣を引き抜く。


「ファイア」


 炎属性魔法を愛剣に受けさせ、魔法剣を作り出す。この気配······魔族!

 ディーノも気づいたようで大量の汗が吹き出している。

 強がりなのか笑っている。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! まんた、奴らが来た···食料を奪いに! 戦士様達助けてくだせぇ! この村に冒険者や戦えそうな男がいないのは、あの魔物達がみんな殺しちまったからだよぉ!」


 おいおい。ってことは駆け出し冒険者の手には負えない相手って事か。


「魔法剣を初っぱな出すわな。そりゃあ。しっかし魔族にもう出くわして戦わないといけない俺らって運悪すぎだろ。 くそっ!くそっ!足の震え止まれよ。 武者震いが治まらねぇ。」


 ディーノの足はカクカクカクと激しく震えている。仕方ないだろう。

 まさか魔族······それもディーノ自身もまだ神の剣も白銀の鎧もない。無理もないだろ。


「だぁぁぁぁ!! こんな所いても仕方ない! アルバート行くぞ! 」


「ですね。ここ建物の中では奇襲作戦も無理。最悪な事に魔族と魔物の合わせて2体。小手先は通じない。行きますよ!」


 おう!とディーノが先に外へ飛び出し続いて私が飛び出し即座に炎属性魔法のファイアを唱え緑色の小柄ながらもゴリマッチョな魔物のトロルJr.の弱点である顔にぶつけると同時にディーノが頭を叩き悪為に剣を振り上げジャンプした。


「食らえやがれ! 岩盤割り!!」


 がっ!グッチゃ!


「ブルリュブッ!!」


 岩盤というかいわゆる大根切りなわけだが、とにもかくにもトロルJr.は変な声をだし脳漿をぶちまけさせ絶命した。

 簡単に倒したけどJr.といえど駆け出し冒険者はほぼ負けるだろう。我々に過去の戦いの記憶がある為に力こそまだ弱いが、レベル差がそんなになければ倒せる。

 問題はあの魔族だ。魔法使いが使っているような灰色のローブと右手にはロッドと左の中指には指輪がはまっている。

 魔法アイテムだろうか?


「······ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 人間なのにやるじゃないのぉ。 この辺の人間にはJr.程度連れてくれば大丈夫だと思ってたのに、まさかこんな強い坊や達がいるなんて······楽に殺してやらないんだから」


 じゅるる。とよだれを垂らし舌でなめずり回している。


「じゃあ、行くよ? 坊や達」


 ガンッ!!!!

 凄まじい殺気をぶつけてくる。

 気をしっかり持たないと意識を持っていかれそうになる。

 刹那、魔族が一気に間合いを詰めて迫ってきた。

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