プロローグ
黒髪で茶色い瞳を輝かせ背の丈が170cmほどの白銀の鎧を身に纏った青年と、竜の皮で出来た胸当てを付け、ギガンテスの皮と竜の皮で作られた黒い外套を身に付け肩まである銀髪で黄色い瞳をした背の丈が180cmほどの禍々しい気を放つ青年が互いに剣を交えていた。
「ミルタルト姫を返しやがれ!魔王!」
「貴様は何もわかっていないのだ! 人間! 今姫を連れ出してしまったら大魔王が姫を乗っ取りに即座に現れてしまうのだ!」
剣と剣が交わる度に火花が散り、辺りに剣擊の音と二人の声が響き渡る。
魔王アルバートに8年前から幽閉されているミルタルト姫を助ける為にシャトップ国は村や町からも兵を募っていたが今日の今日まで魔王アルバートにたどり着けた者はいなかった。この青年を除いては。
「大魔王は前大戦で人間界の神々に力を封じられ今はほぼ無力なのだ! しかし! どういうわけか封じられていた大魔王の力がミルタルト姫の魂に絡みつくように融合していて、その事に気付いた私は姫を一切の魔力が遮断される檻に入ってもらったのだ。」
「そんな話を信じられるわけないだろ!? そもそもどうしてお前が姫を助けようとするんだ!? 魔王! 特大の雷を食らわしてやるよ! 稲妻極限攻撃」
青年が左手を天に掲げると中指に嵌めていた緑色の宝石からバチバチッと電流が発生したかと思うとドンッと大きな音ともに城の天井に雷を幾重にも重ねた稲妻が青年の左手に落ちてきて球体になり、それを魔王に向かって投げつけた。
向かっていった球体は大したスピードもなく簡単に避けられると魔王が思った直後に打ち網の様にバッと大きく広がり魔王を包みこみ激しい電撃が襲う。
「うっ……が、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「こいつは神から与えられた魔法アイテム光の指環ってんだ! 人間を甘く見てんじゃねえよ!! これで! 終わりだぁぁぁぁぁ!!!!」
青年の渾身の力を込めた一撃は魔王の胸に突き刺さりまばゆい光を放つ。
「ガハッ……こ、これは勇者だけが扱える神の剣…人間…名は…名は何という?」
「ディーノ。俺は勇者ディーノだ。姫は返してもらうぜ。命までは取らねぇ、お前そんなに悪い奴に見えないからな。」
そう言うとディーノは先に倒していた魔王の側近からの情報で姫が幽閉されている場所を知っており、迷いなく魔王の玉座に向かう。
「ディーノ! ダメなんだ。 姫をそこから出したらダメなんだ! 姫が姫でなくなってしまうんだ!」
魔王はそう叫ぶもディーノの耳には届かず、玉座を蹴り飛ばしたら情報通り隠し階段が現れその階段を降りて行ったら目の前に呪符をベタベタに貼り付けられた檻がありその先には人影が。
「ミルタルト姫ですか? 助けにあがりました。もう安心してください。」
「はい!ミルタルトです!ありがとう……ありがとうございます!」
「姫、少し離れててください。」
そういうとディーノは神の剣で檻を斬り壊し姫を助けだした。姫は金髪の腰まである長い髪で青い瞳をした可愛いらしい女性だった。
しかし、姫を檻から助け出した直後にひどい地鳴りが魔王城を襲い二人は慌てて階段を昇り倒れている魔王に近づいて問い詰めた。
冷や汗が止まらない。感じたことがない強大な邪悪な気が辺りを包みこむ。
「おい!お前何をした!? この感じは!?」
胸ぐらを掴み顔を近づけるも魔王が震えていて、喋りたくても喋れないといった感じだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
玉座の間に突如響いた姫の叫び声。
姫を包みこむように黒い靄がふわふわ漂っている。
「ヤットミツケタ」
黒い靄は姫の鼻、口、目、耳にどんどん入っていき遂には全ての靄が姫の中に入っていってしまった。
それを震えながら見ている瀕死の魔王。口をあんぐり開けて状況を飲み込めないディーノ。
「あれはなんなんだよ!? 姫に何をした魔王!!」
「大魔王に見つかった、もう終わりだ。」
「大魔王ってなん……がっ!?」
ディーノの体の真ん中に大きな穴が開けられ痛みもなかった、攻撃された音も気配もなかった。
ディーノはそのまま倒れ込みピクピクと痙攣している。
「く、くそ! あなたの力を封印させてもらいます!」
魔王はそう言うと両手で印を結び詠唱を始める。
「キサマガカクシテイタトハナ、ヨヲフウイン?ヤッテミロウラギリモノガ」
ミルタルト姫の姿をしたそれはフフンと鼻で笑い両手を広げ余裕の態度を示し魔王を挑発した。
「バカでありがたい。あなたの魂を封じる力は私にはない! だが姫とまだ完全に融合しきれていない今なら器になっている姫の魂を封じることは出来る! 封印魔法」
魔王の呪文と共に激しい空気の渦が巻き起こりミルタルト姫を貫きオレンジサイズほどで黄色い玉が床に落ちた。
「グッ…グワァァァァァァ!! コノウラギリモノガァァァァァァ!!!!」
「はぁはぁ。私の…最後の魔力を使う! 瞬間移動魔法」
魔王は黄色い玉に向かって瞬間移動魔法を掛け、その場から消した。
「キサマァァァァァ!! ユウシャトモドモシネ!! ヒメノタマシイヲフウジタトシテモ、ヒメノカラダガアレバ、ナントカニンゲンカイデモ、ワレハソンザイデキル」
ミルタルトの姿をしたそいつは先ほどディーノが開けた天井の穴から外に向かって浮き上がり強大な"気"を圧縮したバスケットボールほどの大きさの炎の玉を魔王城目掛けて投げつけた。
「私達は……出会い方さえ違えば……はぁはぁ…友になれただろうか? 生まれ変わりが本当にあるのなら……お前と友になりたいものだな…ディーノ。」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ある学園の図書室
『シャトップ歴122年に魔王城にて大規模な爆発が起き魔王、勇者ディーノ両名ともに遺体が見つからない為消滅した模様。
ミルタルト姫は魔王城近くの湖にいる所を救出される。
ミルタルト姫は恐怖と長年の幽閉の影響で記憶が混濁しており事情を聞くことを断念。
しかし、魔王が消え姫が戻ったことにより世界に平和が訪れ、それに貢献した勇者ディーノを平和の象徴として銅像が作られ民は勇者に感謝してきた。』
ぱたんっと本を閉じる肩まである銀髪、黄色い瞳で眼鏡をした青年。
「らしいですよディーノ。元勇者としての感想は?」
銀髪の青年はからかうような笑みとバカにした眼差しを勇者と同じ『ディーノ』という名を向かいに座っていたツンツン頭で黒髪短髪の茶色い瞳をした青年に投げかけ、本の感想を問いただした。
「からかうなよアルバート。それにこの時代の俺の名はアッシュなんだからそう呼べよ。今はそれが俺の名前なんだからよ。」
「二人でいる時は良いでしょ?ディーノ。さぁ、明日から18歳になりようやく冒険に行けますよ。魔王ミルタルトを助けだしに行く冒険に。」
アルバートはおどけた態度でアッシュことディーノに手を差し出すも、ハンッ!とディーノに鼻で笑われながらその手をはたかれた。
したり顔でディーノが語りだす。
「大魔王が100年経ってもミルタルト姫として国を治めているのは、姫の魂と融合した大魔王の魔力を封じた玉を探していて、神々の祝福を受けている人間界で未完の大魔王ではすぐにバテる為大人しく統治している……そうだろ?アルバート。」
「そうだ。逆に言えば大魔王を倒すチャンスでもある。私が封じた玉を大魔王より先に探しだし、かつ大魔王も倒す。」
アルバートとディーノは本を片付けると図書室をあとにし、明日から始まる魔王ミルタルト救出の長い冒険に備え自宅へと足早に戻って行った。