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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
9/40

9. 邂逅 (2)

投稿を始めてからひと月が経ってました。600PVも突破してて本当にありがとうございます!!今回で過去話は終わりです。

「と、これが私と奏の出会いというわけです」

「そういえばそんなことがあったような気が」


 エリスの話を聞きながら昔を思い出す。だが、どうしても記憶が曖昧で思い出せない。


「まあ思い出せなくても、今こうして再び出会えたんですからいいじゃないですか」

「うーん。そうだな」


 頭の引っ掛かりが気になるが、とりあえず後回しにする。


「で、この話が俺のところに来た理由とどう関わってくるわけだ?案内の恩返しってわけじゃないだろ?」


 今までの話は俺とエリスが出会うまでの話だ。重要な俺のところにエリスが来た理由がない。


「はい。私が(・・)のところに来た理由はこの話の続きにあります」


 この話の続き、つまり道案内をしてる時ってことか。エリスは一呼吸置くと、再び話し始めた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「奏くんはおいくつなんですか?」

「奏でいいよ。俺は小学六年!」

「なら私もエリスでいいですよ。そっか、六年生なんですね」


 奏という少年と二人、住宅街を歩いていく。私が道に迷ってる中、奏が道案内をしてくれるということで目的地の宿まで案内を頼んだ。なんとか宿まで行けることになったのは良かったんだけど。


「でしたら、手!繋ぐの恥ずかしくないですか!?放してもいいんですよ!」

「いや、お姉さん日本地図で道を調べるくらいだから心配なんだよ」


 何故かすごく信用されてなくて、結果目的地までは手を繋いで行くことになった。うー、私年上なのに……。


「それより、お姉さんはどこから来たの?アメリカ、オーストラリア?」


 私の姿はこの国、日本の人とは違っているため奏は異国から来たのだと思ってるみたいだ。ここで怪しまれては後々面倒なので適当に話を合わせておこう。


「えと、ヨーロッパの方ですね」

「へえーそうなんだ」


 奏があまりぐいぐい聞いてくる方ではなかったので、ほっと安堵する。歩きながら他愛のない話をしつつ、気がつけば大きな通りに出ていた。交通量が多く横断歩道の変わりが早い道路だった。


「ようやく大きな道に出られました」


 数時間ぶりの大きな通りに笑みがこぼれる。これなら宿までも順調に行けるだろう。そう思ってると不意に腕を引っ張られる。


「お姉さん、少しだけいい?」


 奏は引っ張ってる方と逆の手である方向を指差す。そこには小さな女の子が立っていた。横断歩道の前で右往左往している。信号が青に変わっても渡れないでいる。奏はあの子を助けたいみたいだ。


「ええ、大丈夫ですよ」

「ありがとう!」


 奏はにこりと笑うと、私と一緒に女の子の元へと向かう。女の子はすすり泣いていた。


「大丈夫?」


 奏が女の子に声をかける。


「怖くて、渡れないの」


 女の子は悲しい顔でそう答えた。車の通りも多いし向こう岸までは距離があるため、小さい子には渡るのが怖く感じるみたいだ。すると、奏はすっと繋いでない方の手を差し出した。


「なら、一緒に渡ろう!それなら怖くないだろ」


 差し出された手に女の子はそっと片手を繋ぐ。


「うん」


 しゃくりあげながら、小さくそう言った。目の前を車が大量に通りながら、次第に車の信号が黄色、赤色と変わっていく。そして歩行者用の信号が青へと変わる。

 私たちは、三人手を繋いだまま私と女の子で空いてる手を挙げて横断する。いつのまにか周りの人も手を挙げて渡っていた。向こう岸に渡りきるとすぐに信号は点灯を始め、赤へと変わる。これでは子供は怖くなるわけだ。


「あの、ありがと」


 女の子はそう言って頭を下げた。


「へへ、どうってことないって」


 そう言うと奏は女の子にVサインを向ける。もしかしたら、奏は困ってる人を見過ごせない(たち)なのかもしれない。

 女の子が顔を上げ、キョロキョロと周りを見渡す。その顔はまだ曇ったままだった。


「えーと、あなたは一人で出かけてたの?それともお母さんと一緒に?」


 横断歩道を怖がってたことから、多分一人で出かけたことがあまりないのだろう。となると、一人でいることは不自然だ。女の子は不安そうな顔で答えた。


「お姉ちゃんのお友達と一緒にいたの、でも、いなくなっちゃって。それで、歩いてたらお母さんとよく通るところに来たけど、車いっぱいで。お兄ちゃんたちのお陰で渡れたけど。でも、お家の行き方ここからわからなくて」


 どうやらお姉さんと一緒に遊んでいたらはぐれてしまったみたいだ。運良く知ってる道に着いたみたいだが、そこから家への道がわからないらしい。ここら辺は住宅が多いためこの大きな道路は特徴的だったのだろう。

 どうしよう、ここからこの子のお姉さんの元へは多分道を覚えてないから戻れないだろう。かといって、この子の家が何処にあるのかわからないから送ってあげられないし。やっぱり交番まで連れていくほうがいいのかな?考えで顔を曇らせていると、奏が女の子の前で屈んだ。


「大丈夫!俺が必ずなんとかするから!」


 それを聞くなり女の子の表情はみるみる明るくなっていった。奏が申し訳なさそうに目配せをする。私の案内の途中であることを気にしたのだろう。でも、私もこの子が心配だし、こくりと頷いて返す。


「とりあえず交番まで歩いてみましょうか、もしかしたらお姉さんもそこにいるかもしれないですし」

「それもそうか。よし!とりあえず交番

 まで向かおう!」

「うん!ありがとうお兄ちゃん!お姉ちゃん!」


 再び三人で手を繋ぎながら歩き出した。私は道がわからないため、奏に交番まで案内してもらう。


「ここからだと、こっちかな」

「もう少しですよ、頑張りましょう!」

「うん」


 交番は駅前にあるらしい。でも、歩いても歩いてもまだ賑わった通りには出ない。時々、女の子は不安そうに握る手を強くする。その度に奏は女の子に面白い話をして不安を吹き飛ばそうとする。次第に女の子の顔から不安の色が薄くなっていった。

 日が少し傾き始めた頃、ようやくお店が並ぶ通りまで来ることができた。


「ここまでくれば、あと少しだ!」

「もうひと頑張りですよ」

「うん!頑張る」


 駅前の商店街の中を抜けていく。すると駅が見えてきた。そして駅前の交差点には交番が見える。ようやくたどり着くことができた。


「愛!愛!」


 交番の方から大声で人が駆け寄ってくる。


「お姉ちゃん!」


 女の子も手を放すと向こうに向かって走っていく。どうやらお姉さんだったみたいだ。お姉さんは女の子を思いっきり抱きしめた。


「ごめんね、ごめんね、愛。お姉ちゃん遊ぶのに夢中で愛のことちゃんと見れてなくて。ごめんね!」

「お姉ちゃん!お姉ちゃん、お姉ちゃん!」


 二人とも涙を流しながら、安堵の顔をしている。早いうちにお姉さんを見つけられてよかった。しばらくすると、私たちの方に歩いて来る。


「愛を連れてきてくれたんですか?」

「はい。主にこの子が、道中もずっとその子を励ましながらここまで連れてきたんです」


 お姉さんが奏の方を見る。奏は少し照れすさそうに顔を赤くする。


「君が愛を連れてきてくれたの?」

「たまたま見かけて、迷子みたいだったから、交番まで連れてきただけ」

「そっか。愛を連れてきてくれて本当にありがとう」


 お姉さんは奏の手を握る。みるみるうちに奏の顔は真っ赤に染まっていった。

 その後、お巡りさんに軽く事情を説明した。しばらくすると女の子のお母さんも迎えに来て家に帰ることになった。


「本当にありがとうございました!」

「娘たちがご迷惑をおかけしてすいません。ほら、愛もお礼を言いなさい」


 女の子、愛ちゃんは私たちの前に来る。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう!私、全然寂しくなかったよ!またね!」


 そう言うと、家族三人で帰っていった。女の子は終始手を振り続けていた。どうやら、奏のお陰で愛ちゃんは寂しさを感じなかったみたいだ。

 ふと、空を見上げると茜色になりつつあった。


「あ、忘れてた!私宿探してたんだ」

「そうだった!うん?お姉さん、あれ」


 奏が指を指すとそこにはホテル・ライラと書かれた看板があった。思えば駅前まで来たのだから、宿が見つかるのも当然だ。


「はあ〜。よかったです」


 なんとか目的地にはたどり着くことができた。安心でため息がこぼれた。


「よかったね!お姉さん」

「はい。これも奏のお陰です。ありがとうございます!」


 お辞儀をしてお礼をする。奏は照れ臭そうににこりと笑った。


「ひとつだけ質問いいですか?」

「質問?いいけど」

「困ってる人を見つけて、めんどくさいとか嫌だなとかは思わないんですか?」


 私の時も、女の子の時も奏は嫌とは言わなかった。そして、最終的には助けてしまった。困ってる人を助けたいと、反射的に行動してしまう少年。今まで、幾つもの人を見てきたけどこんな子は何人もいない。奏は答えを返すのに何秒もかからなかった。


「思わないかな。だって、誰かが悲しんでるよりもみんなが笑ってる方がいいじゃん

 !」


 幼いながらも、力強くそう言った。澄んだ瞳がとても綺麗に見えた。この子は、不思議だ。


「そうですか。ここまで送ってくれてありがとうございました。奏も早く帰らないと、約束があるんでしょう?」

「あ、そうだった!じゃ、じゃあね!お姉さん!」


 奏は駆け足で走っていった。今日は散々であったが、不思議な体験をした気がする。奏という少年と出会った、という不思議な体験を。


「あ!こんなところにいた。探したんだぞ奏!」

「おお!ごめん!ちょっと色々あってさ」

「どうせまた人助けだろ?あーあ、俺よりも人助けを取るのか〜」

「悪いって!今度なんでもお詫びするから」

「いったな!だったらそうだな、何がいいかな?」

「あ、ちょっと!今のは言葉の綾で!」


 後ろで仲の良さそうな子供の声が聞こえる。約束に関しては心配いらないみたいだ。


「奏、か」


 その名前を呟きながら、ホテルの入り口へと入っていく。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「と、まあこんなことがあって私は奏に興味を持ったわけです」

「言われてみれば、そんなことがあった気がする」


 思い出すと確かにそのような光景が朧げながらある。あるのだが。


「結局、俺のとこに来た理由は?」


 またもや肝心な部分が抜けている。エリスはハッとして話を続ける。


「肝心なところまだでしたね。あの後、私は無事天界に戻れまして。戻ってからずっと(・・)のことが気になったんですよ」


 ん?なんか言われてることがこそばゆい気がする。


「それで、天界には人間界を見る道具がありましてそれで奏を観察していたんですよ」

「それストーカーよりタチ悪くないか?」


 要は、常に観察されていたということか。しかも見られているこっちは気がつかない。完全犯罪だろこれ。


「いや、ずっと見ていたわけではないですよ。たまーに覗く程度で、プライベートなところは見てないですし!」


 信用できない。じーっとエリスを見る。エリスは堪らず話を進めてきた。


「えー、で、奏が色んな人と仲良くしたり、相談に乗ったり、助けたりする姿を見てすごいなって思ってたんです。人間の中でもそんなことできる人は数少ないですから」


 エリスはあたふたしながら話を続ける。急に褒められて頬がほんのり赤くなる。


「だから、こんな子が不幸でいっぱいになるのを見過ごせなかったんです」


 急にエリスの表情が変わった。

 ズキッ、何かが痛む。あれ?なんだ、これ。


「奏向。私は最初にあったときに言いましたよね?人を信じて、大切に思って欲しい。昔のあなたみたいにって」


 痛みが次第に強くなってくる。なんなんだ、これは。まるで、何かに近づいて行くような。


「今の奏向がどうしてそうなってしまったのかも、私は見ていました」


 !?

 見ていた?あの出来事を、こいつが。痛みがさらに増す。いつのまにか冷や汗が吹き出る。


「信じる者も去っていき、誰かに助けを求める声を聞きました」


 頭の奥に、まるで凍らせていた氷が溶けるように痛みと記憶が流れ出てくる。


「私は、だから、奏向に、(・・)に!前みたいに人を明るくさせる、笑顔にさせる、そんな人に戻って欲しいんです!それが、私がここに来た理由です!」


 今にも泣き出しそうな顔で。エリスは俺に訴えかけた。だから、あれだけ助けたいと言ってたのか。昔の、人と関わるのが楽しかった、今の自分とは真逆の、あの俺を知ってたから。


「そっか、それで助けたい、か」


 視界がグラグラと揺れている。脳裏に声が響いてくる。ああ、これはあの時の声か。全てを信じられなくなった時の、あいつらの声が。


「か、奏向!?」


 そうか、この痛みはあの時の痛みか。俺は、ずっと逃げてたんだな。あの時から、あの恐怖から。


 視界が暗くなっていく。エリスの不安な顔を最後に、俺の記憶は途絶えた。

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