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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
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7. 難発

活動報告の方で小話を書かせてもらいましたので、もしよろしければご覧ください。

 あの後、制服を買うと学生服を扱ってるお店へ向かった。うちの学校、天ヶ崎学園は制服はブレザーだった。ひとまず、セーラー服とかじゃなくて助かったは助かったんだけど。「今の時代はやっぱりブレザーですよね!」とエリスは興奮気味だった。試着を手早くすると、会計を済ませる。スピード配達だとかでゴールデンウィーク明けまでには届くらしい。

 そしてその後は予定通り洋服を買いに来たわけだが。


「あ、いいですね!じゃあこっちとかはどうですか?後これもお願いします!」


 完全に着せ替え人形状態だった。エリスはお店に入るなり、あれやこれやと服を持ってきて俺を試着室に押し込んだ。渡された服はフリルやレースがついてるものが多いと思ってたのだが、シンプルだったり派手すぎないような服が多かった。

 エリスは服のセンスがいいのか、持ってくる服はどれも合わせ方がよくて自分で見ても綺麗に見れるような格好ばかりだった。大人びてたり、幼かったり、女の子してるのもあったけど自分の見た目がコロコロ変わるのは不思議な感覚だった。

 女性服は素材がいいのか肌の触り心地がすごく良くて、いつのまにか試着の抵抗感がなくなっていた。


 気づけば何店もお店を巡り、試着をして洋服を買っていた。そして、毎回お店に入るたびに店員さんに言われるのは、


「仲良しの姉妹さんですね!」


 と完全に姉妹扱いされて、


「はい!なんたって私たちは双子ですから!」


 とエリスが上機嫌で返すのがパターンだった。気づけば両手は紙袋で手が塞がるくらいになっていた。ひとまずフロアの中央のベンチで休憩する。


「はあー、疲れた」

「お疲れ様です」


 ベンチに腰掛けると、足が地面にくっついたみたいに動けなくなった。思えば、服を買うだけで何時間も買い物なんてしたことがなかった。完全に疲れきった顔をしてるとエリスが立ち上がった。


「ちょっとお手洗いに行ってきますね」

「うん。行ってらっしゃい」


 エリスが行くのを見届けると、俺は紙袋に目をやった。中には初めて買った女性用下着、エリスが選んでくれた服(結局下はスカートしか買ってもらえなかった)がたくさん入っている。

 まさか俺が女物の服を買うことになるなんてな。昨日女にされて、トイレの仕方がわからなかったり、お風呂はエリスと二人で入ることになったり。それで今日は初めて採寸をしてブラを買って、かなり密度の濃い二日間な気がする。この調子で、俺の人間不信は治るのか、男に戻れるのか、すごく不安になってくる。

 でも、不思議と楽しかった。これもエリスのおかげなんだろうか。あいつはとにかく俺を掻き乱すし、めちゃくちゃ楽しんでるし、天然すぎるけど。すごく安心する。


「ねえ、君」


 そんなことを考えてると誰かに声をかけられた。顔を上げると、二人組の男が立っていた。ピアスをしてたり髪を染めてたりと、いかにも軽そうな見た目をしている。


「君って今一人?もしよかったら俺たちと一緒にどっかいいとこ行かない?」


 これは、典型的なナンパなのだろう。もし、落ち着いていたらそんなことを思ったのかもしれない、でも今の俺はそんな状態ではなかった。買い物で疲れてたせいか完全に油断してた。確かに今日は買い物で店員さんと喋る事もあったが、それはエリスもいたからで根本的には人と喋ることに不安感が消えたわけじゃない。男ではほぼ経験がないだろうナンパに対して、エリスがいない今俺はかなり動揺してた。


「え、え、あ、あの」

「いや、なんか荷物も多そうだし俺たちとどこかでお茶でもしないってこと」


 普通ならこんな荷物の量で一人ではないとわかると思うのだが、それとも一人のタイミングを狙ったのかとにかく男たちは俺をどこかに連れ出したいみたいだった。


「い、いや、おれ、連れ、が」

「ん?おれ?」

「もしかして、ボクっ娘ってやつ?面白いね君!俺気に入っちゃった」


 この姿で人と喋ったことが数えるほどしかないため、どうしても男の時の喋り方になってしまう。それをどうとったのか男たちは俺のことを気に入ったみたいだ。


「とりあえずさ、そこの店までどう?もちろん俺たちが奢るからさ!さ、行こう!」


 いつのまにか、男たちは紙袋を持っていた。男の一人に手を繋がれて勝手に歩き出してしまう。


「ま、待って!お、私、連れが……」

「いいじゃんいいじゃん、あとで連絡取れば問題ないっしょ」

「そうそう」


 話を聞いてもらえない。腕を振り解こうとしても男の手はビクともしない。男たちは俺を連れてずんずんと行ってしまう。どうしよう、どうしよう、どうしよう。怖い。だれか、た、助けて!


「その汚い手、放してもらえますか」


 男たちが足を止める。恐怖で瞑ってた目を開くと目の前には……


「私の妹に、気安く触らないでください!」


 エリスがいた。


「はあ?俺たちはこの子が行きたいって言うから連れてってるだけだし」

「あんたがこの子のツレ?へー、二人は姉妹なんだ。だったら君も一緒にどう?」


 男たちはまだ諦めてないのか今度はエリスまで誘い出した。


「私たちの荷物も返してください!」


 エリスは怒っていた。俺が初めて会った日に見た怒り顔ではなく、もっと怖い顔で。


「いいじゃんかよ、一緒に行こうぜ」


 両手に紙袋を持ってる男がエリスへと近づいていく。紙袋を片手に持ち、空いた手でエリスの手を掴もうとした。その瞬間。


「泥棒!痴漢です!この人たち、泥棒と痴漢の犯人です!」

「!!!」

「ちょ、てめえ!」


 エリスは叫んだ、叫び続けた。流石に警備員が異変に気付いてこっちに来るのを見ると、男たちは紙袋を地面に落とし走り去っていった。呆然とする中、エリスがこっちに寄ってくる。


「ごめんなさい!一人にして!」


 エリスが俺を抱きしめる。次の瞬間、俺は訳もわからず泣きじゃくっていた。感情がぐちゃぐちゃになってよくわからない。人に触られたことが怖かったのか、ナンパされたことに驚いたのか、男だったのに何もできない自分を情けなく思ってるのか。とにかく泣きじゃくるしかできなかった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「えと、落ち着きましたか?」

「うん、ぐす、大丈夫」


 あの後、警備員さんに事情を説明した。警備員さんの話によると、このショッピングモールでは有名なナンパの二人組らしく、同じような被害がいくつか起こっていたらしい。警察に被害届を出すまではしなかったが、警戒を厳重にしてくれるらしい。お詫びの気持ちとしてこのショッピングモールで使える割引券をもらった俺たちは飲食店のフロアにあったカフェ、「エンジェルフェザー」で落ち着くことになった。


「私も少し浮かれていました。まだ、奏向が人と喋るのに抵抗があるのに一人だけにしてしまって、ごめんなさい!」

「エリスが謝ることにじゃないよ。俺が不甲斐なかったからで」


 男たちに手を繋がれた時、振り解くことができなかった。この体だと力も弱くなってるのだろうか。情けない、ううん悔しい、すごく悔しい。為すがままになっていたことが、何もできなかったことが。これじゃまるで、囚われのお姫様にでもなったようだ。


「とりあえず、何か注文しよう!せっかくお店に入ったんだし」

「え、ええ」


 考えを振り払うように、メニュー表を取って注文を決める。じゃないと、また涙が出てきそうだったから。


「そうですね、私はブラックコーヒーにします。奏向は?」

「ぶ、ブラック……。お、俺もブラックコーヒーでいい」


 店員さんを呼ぶとブラックコーヒーを二つ注文した。く、エリスはブラック飲めるのかよ。


「奏向ってブラック飲めるんですか?」

「の、飲めるよ!全然余裕だし、もう高校生だし」

「では、それはなんです?」


 エリスは微笑みながら俺の前にあるものを指差した。テーブルに置いてある角砂糖が入ってる陶器。これを俺は自分の前に持ってきていた。


「お砂糖入れる気満々じゃないですか」

「はあ!?これはあれだし、この陶器がいいデザインだったからいいなーって見てただけだし」


 俺は高校生になってもブラックは飲めない。せいぜいカフェオレの甘いのが飲める程度だ。どうにかして砂糖が欲しかった俺はついつい陶器を自分の前に持ってきてしまった。


「ふふ、私も実はブラックは苦手なんですよ。お姉さんぶってみましたが。あとで少しくださいね」

「なら最初から言えよ」


 なんだ、エリスも飲めるわけではないのか。


「あ、そうだ!」


 エリスはそう言うとカバンをガサゴソと探し始めた。そして中から小さな紙のようなものを取り出して俺に渡してくる。


「はい!これが奏向の分です」


 渡された紙には天ヶ崎学園学生証と書かれており、今の俺の姿の顔写真が貼り付けられていた。


「こんなもの、いつのまに」

「ふふん、手に抜かりはないですから」


 エリスはにっこりとピースしてくる。なんかもう、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなってきたな。

 そうこうしてるうちにコーヒーがきた。ひとまず学生証をエリスに預けると俺はコーヒーの甘味の調整作業へと入る。なるべく少なめに、かつ苦味を少なくするように角砂糖を入れていく。なんとかうまくいくと、コーヒーを飲み始める。


「じゃあ、私も」


 エリスは角砂糖をひとつだけ入れると、澄まし顔で飲み始めた。


「ん、このコーヒー、美味しいかも」

「ええ、香りといい味といいとっても美味しいと思います」


 あまりコーヒーに詳しい方ではないが、缶コーヒー(甘めの微糖)より香りが際立っている気がする。今まで味わったことのない味。これがコーヒー本来の味なのかな?いつのまにかほとんど飲み終わってしまった。エリスの方を見ると両手でカップを持ったまま、優しい顔でこちらを向いていた。あまりコーヒーには手をつけてないみたいだ。


「エリスは飲まないの?」

「飲みますよ、ちゃんと」


 しばらく間を置いてから、エリスはコーヒーを一口だけ飲むとそっとカップを置いた。


「奏向、大事な話があるんです」

「大事な話?」


 エリスの話し方はいつもと違っていた。のほほんとした話し方じゃなくて、しっかりとした、しかし微かに緊張をはらんでいるようなそんな話し方。


「ええ、私が奏向のところに来た理由。その話です」


 エリスが俺のところに来た理由は、今のところは天使の使命とかで俺の不幸な感情を幸福な感情にするためと聞いている。


「天使の使命とかじゃなくて?」

「ええ」


 それ以外の理由?


「私は昔、奏向に会ったことがあるんですよ?」


 店内の落ち着いた雰囲気の中で、エリスは懐かしむように話し始めた。

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