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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
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5. 明日のために

今更なのですが、エリスの外見に対する描写が少ないため1、3、4話を加筆修正しました。すでにイメージを持っていた方はすいません!

 必死に引き出しを開ける。片っ端から服を取り出す。タンスも収納ボックスも、ズボン、Tシャツ、下着、上着、それらを片っ端から着替え始める。


「落ち着いてください。しょうがないことなんですよ」


 エリスの言葉に聞く耳を持たない。せっせと服を着替える。だが、着れども着れども望む結果は得られなかった。


「奏向お願いですから落ち着いてください!」


 なんで、なんで、


「何で服が着れなくなってるんだよ!!」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「しょうがないんです。今の奏向の体は前よりも小さいし、体格も変わってるんですから」

「だからって、こんな……」


 俺の服は、女になったことで(ほとん)どが着れなくなっていた。お気に入りの服も含めて。


「もう一度言いますけど、私が変えたのは奏向の世界における認識なんです。私物は変わらないんです」

「じゃあ、俺が女の下着を着けてたのは?パジャマだって女物に変わってただろ?」


 いつのまにかつけてた女性下着、デザインは変わらないのに女用になってたパジャマ、私物が変わらないというならこれらは説明がつかない。


「あー、あれは私の私物です。体が変わった時に元の下着だとなにかと不便と思いまして。パジャマは夜なべして作ったんですよ。きっと着慣れているものがあった方がいいと思って」

「し、私物!?」


 返ってきた回答は完全に斜め上だった。しかも私物って、つ、つまり、これはエリスが着ていたものってわけか!?


「あ、ちゃんと新品のを持ってきましたから私物といっても綺麗ですよ」


 よ、よかった……。


「奏向?何か勘違いしました?」

「い、いや別に」


 普通そんな言い方されれば誰だって勘違いするだろ。今は女とはいえ、変に意識してしまった。


「そうですか。とにかく、今の奏向には着る服がありません。なので、買いに行くんです」


 そう、これから生活していく中で服がないことはかなり重大なことだ。よって、早急に買いに行かないといけないということなのだが。


「じゃあ、この服装は何なんだよ?」

「女の子らしい可愛い服ですよね」


 買いに行くためには服が必要であり、今の俺はエリスが持ってきたという女物の服を着せられている。上は白いブラウス?という服を着て、下はというとチェック柄のフレアスカート?というスカートを履いている。


「そうじゃなくて、何でこの服装なんだって聞いてるの!」

「それは似合うからに決まってるじゃないですか。あ、一応それも私の私物ですよ」


 ああ!聞きたいのはそこじゃなくて!この服装はかなり女らしく、二日前まで男だった俺が着るには抵抗がありすぎた。しかも、初めて履いたスカートはとにかく下がスースーして落ち着かない。丈も膝下くらいまでしかなくて、風でも吹こうものなら(まく)れてしまうのではないかと思うほど頼りない。できるならばズボンとかの方が落ち着くんだけど……


「このスカート、ズボンに変えちゃダメ?ギリギリ履けるのもあったし」

「パンツ」

「へ?」


 エリスは真顔でそう言った。こいつ、いきなり何言ってるんだ。


「パンツです!」

「何が?」

「だから、ズボンはパンツって言うんです!」

「はあ?」


 パンツがズボンのこと?そういえばファッション用語でそんなのがあるとか聞いたことあるけど。エリスはやれやれと首を振る。


「奏向にはファッション知識も覚えてもらう必要がありますね」

「はあ、そうですか。それでズボンに、「パンツ!」はい、パンツに履き替えは」

「できません。だって可愛くないんですもん。それに着れるからっていくらなんでも無理がありすぎますよ」


 エリスの服以外で俺が着れる服は、俺が持ってる中で着れた数少ない服であるズボンくらいだったが、お尻の部分で(かろ)うじてずり落ちないくらいで外に着ていくには不安なものだった。

 最後の手段でエリスの服と交換という手もあった。エリスの服装は、黒のTシャツに白のロングスカート、同じスカートならと思ったのだが。


「ならせめて丈の長い、エリスが履いてるスカートと交換は」

「ダメです!今日の奏向のコーデは前からじっくり考えたものなんです!とにかく変えるつもりはありません」


 結果として拒否権はなかった。


「わかった。これで行くよ」

「はい!それじゃ出発しましょう!」


 エリスは意気揚々と玄関に向かうが、俺は気が重い。この格好もそうだが、人間不信になってからは出かけてもコンビニくらいしか行かずにいた。あまり人と関わりたくなかったからだ。だからショッピングモールに行くのにはかなり不安がある。


「そういえば、奏向は女の子の下着には慣れたんですね。昨日まではブラ着けるの嫌がってたから私が無理やり着せましたけど。今朝は着けないと擦れて痛いって自分から着けてましたもんね」


 エリスは歩みをピタッと止めて俺に言ってきた。

 違う、断じて違う。慣れたわけではない。昨日は結局、夜の間にこっそりとブラは外した。だが、今朝起きてみると服にやたらと擦れて、その、とにかく変な感じがしてしょうがなかったから付けただけ!

 ショーツに関しては本当にどうしようもなかった。前の下着は全部サイズが合わなくなっていたため、着てもずり落ちる。どうあがいてもショーツを着るしかなかった。つまるところ不可抗力!仕方なくだから!

 そうなんども自分に言い聞かせた。そうしないとやってられないからだ。


「奏向もだんだん女の子に染まってきたんじゃないんですか?」


 エリスはそんな俺の心情関係なく、連続でダイレクトアタックをしてくる。すると、エリスは何かに気付いた。


「って、ブラちゃんと着れてないじゃないですか!ちゃんとカップに入れないとダメなんですよ」


 そう言ってエリスは俺の胸を触ってくる。


「ちょ、やめろ!」

「やめません」


 エリスの手は必死に俺の胸の肉を掴み、ブラのカップ部分に寄せ上げてくる。


「や、ん、やめ」


 とにかく胸を触られる。この感覚が男の時と違い少しそわそわしてきて、耐えられない。


「もう、やめろ!!」


 こんな調子で俺の不安なんてどこかへと吹き飛んでしまった。ちなみにエリスは靴すらも俺用のスニーカーを用意していた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ショッピングモールまではバスを使って行くことになった。バス内の席は全て埋まっていたため、手すりにつかまりながら立ち乗る。

 人の視線が気になる。この格好でどう見られてるのか、俺はどう見られてるのか、どう思われてるのか、とにかく周囲の反応が気になってしょうがない。バスの振動ではない震えが手すりを掴む手に起こっていた。やっぱり、外は怖い。


「奏向はどんな服が欲しいですか?」


 ふいにエリスが話しかけてきた。


「女物の服なんてわからないし、着れればなんでもいい」

「ダメですよ。ちゃんと自分で選ばないと」


 実際、外に着ていく服がなくなったから買いに行くのであるから、変に見られない服ならなんでもいいのだが。と、そこまできてようやく重要なことに気づいた。


「そういえば、金はあるのか?俺そんな持ってないぞ」


 買い物に行くというのも急だったし、もともと貯金もあまりなかったため今持ってる財布には二、三千円くらいしかない。これでは買えたとしても一着くらいだ。


「大丈夫ですよ。ちゃんと買える分はありますから」

「そうなのか?でもなんでそんなにお金を持ってるんだ?」


 天使という存在がどんな力を持ってるか知らないがお金を生成できたりするのだろうか。そんな疑問にエリスは答えた。


「天使は人間の手助けをする際に、必要なお金を支給されるんですよ。必要経費ってやつですね」


 以外に現実味のある回答が返ってきた。天使は会社か何かなのか?


「なので、今日の予算は潤沢です!心配はいらないですよ」

「なんか天使って、俺のイメージと違う」


 その後も、目的の停留所に着くまでエリスと他愛ない雑談をした。






「やっと着きました!」


 バスを降りると、目的のショッピングモールに着いた。ここは多くの店が中に入っており、ここら辺のでは一番大きい商業施設になっている。扱ってる店が衣類系から飲食関係、スーパー、携帯ショップなどここに来れば大抵なんでも揃うため休日は人で賑わっている。


「んー、まだ慣れないなスカート」


 歩くたびにヒラヒラと揺れるスカートはあまりにも頼りなさすぎて、歩き方がぎこちなくなっている。


「そのうち慣れますよ。それよりも、はい」


 エリスが俺に手を差し伸べる。


「えと、これは?」

「迷子にならないためと、人が多くても不安にならないために。怖かったりしたら強く握っていいですから」

「な!」


 これじゃ、俺は完全に子供みたいじゃないか!だが、ゴールデンウィークでかなり混雑しているであろうこの中を、今の自分が一人で進む勇気はないわけで。


「う……、く!」

「ふふふ、じゃあ行きましょうか!」


 まるで仲のいい姉妹みたいなことをしながら、ショッピングモールの中へと入っていった。

 中はやはり混雑していて、家族ずれ、学生、カップル、様々な人で賑わっていた。とりあえず、エレベーターの前に行き、エリスが目的のお店を確認する。


「えーと、洋服、洋服はと、三階みたいですね」


 エレベーターを使って三階に上がる。エレベーター内は人で満員状態だった。


「奏向、ちょっと痛いです」

「あ、ご、ごめん」


 人と密着すると自然に手を強く握ってしまった。ようやく三階につくとそれだけで疲れてしまう。


「お店まですぐですから頑張ってください」


 エリスに引かれながらお店へとあるいていく。このフロアは女性服を多く扱うフロアらしく至る所で女性を見かけた。色とりどりの服がマネキンに着せられて展示されている。少し気恥ずかしくなってくる。

 このフロアの奥の方、そこが目的のお店だった。


「さあ、着きましたよ!」

「ここは、って」


 お店に飾られているのはどれもこれも下着ばっかりだった。お店の名前を見ると、店名の横に「lingerie」と書かれている。


「さあ、入りましょう!」

「いや、待って待って待って!」


 お店に入ろうとするエリスの手を全力で引っ張る。


「痛いです!どうしたんですか奏向」

「いやどうしたは俺のセリフだ!洋服買いに来たんだろ?なんで下着屋なんかに来てるんだよ」

「何いってるんですか、下着だって一つあればいいってわけじゃないんですよ。これからのことも考えていくつか買っておかないといけないじゃないですか」

「いや、確かにそうだけど」


 でも、心の準備が整ってない。男が入りにくいお店第一位といっても過言ではない、女性下着のお店。いくら今は女だといっても堂々と行けるわけがない。必死に抵抗する。


「いらっしゃいませー。お客様は本日は何をお探しですか?」

「あ、え」


 いつのまにか、目の前にはお店の店員さんがいた。お店の真ん前で騒いでれば、そりゃ店員さんは気付いて近づいてくるよな。見れば目の前には、「今のおすすめ」と書かれたポップとともにブラがラックに飾ってあった。


「そちら、気になりましたらご試着も可能ですよ」


 完全に下着を見て悩んでるお客だと思われたみたいだ。


「今日は下着をいくつか買いに来たんですけど。よければこの子の採寸をお願いしてもいいですか?」


 そう言ってエリスは俺を店員さんの前に差し出す。な!さ、採寸?採寸ってどこの……


「かしこまりました。では、ご案内します」


 ちょ、待って!展開が早すぎるから!頭が追いついてないから!必死に逃げようとするが、


「奏向。逃がしませんよ!」

「いや、帰る!帰る!」


 エリスに手をしっかり握られて、俺たちは店員さんとともにお店へと入っていった。


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