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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
最終章. 天使との運命の文化祭
40/40

40. 俺と天使のその後……

ギリギリ、ギリギリ今年中に完結できました!これにて「親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない」完結です!


約半年間、応援してくれた皆さん、ありがとうございました!

 目が覚めると、俺は自分の部屋にいた。布団で横になっていた。俺は急いで一階に下りる。リビングには、母さんが朝の支度をしていた。


「母さん! エリスたちは?」


 母さんは料理を作る手を止めると俺に告げる。


「私が起きた時にちょうど出て行ったわ。お世話になりましたって。なんでも、公園でやることがあるとか言って……って、ちょっと奏?」


 俺はすぐさま家を飛び出した。寝巻きの格好のまま俺は朝の街へと駆け出した。

 公園ってことはどこの公園だ? 昨日の公園で合ってるのか? 俺はともかく昨日翔たちと集まった公園へと急ぐ。


 走ってる間、悪い想像が頭を()ぎる。エリスはもう行ってしまった。もう二度と会うこともできない。

 俺はこのまま、いつも通りの日常を今までのことを忘れて過ごしていく。そのことが、心を酷く貫く。

 俺は(わずら)わしい想像を否定するように首を横に振る。大丈夫だ、エリスの記憶がある限り、まだ間に合う。

 あの幼女女神に、言いたいことをぶつけてやる。それをしないと、俺は後悔する。だから、俺は足をもっと動かして公園へと急ぐ。


 その瞬間、空気が一変した。まるで、モノクロにでもなったかのように世界の色が消えてしまった。

 そして、驚くことにさっきまで吹いていた風が消え、目の前で小鳥が宙に浮いているのが見えた。


「なんだ、これ……」


 まるで時が止まったかのように、すべての物体が静止している。落ち葉も車も、野良猫も鳥も。

 そして、空に眩い光が現れた。その光は、あるところから空に向かって放たれている。

 その場所は、俺が向かっている公園だった。中央の木の近くに、二人立っているのが見える。

 一人は小さく、どちらとも女性服を着ている。エリスと幼女女神で間違いない。俺は、ラストスパートでそこまでダッシュする。


「おい! 待てよ!」

「えっ? 奏?」

「やっと来たね。お寝坊さん」


 光はエリスを中心に放たれていた。そして、その(かたわ)らで幼女女神は暇そうに見物していた。

 二人はこっちの存在に気づき、振り向く。なんとか間に合った。俺は二人の元へ急いだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、間に、合った」

「奏。なんでここに?」


 エリスは、俺が現れたことに驚いている。多分、俺には内緒で天界に帰るつもりだったんだろう。

 切れた息を整えると、俺はエリスに告げる。


「俺は、大切なものを、取り戻しに来た」

「大切なもの?」

「お前だよ、エリス」


 そこ言葉に、エリスは驚いた。鳩が豆鉄砲を喰らったように、目を丸くして。思考が止まってるように。


「か、なた……がなた……がなだ! うぅ、あわぁぁん!」


 そして、俺に抱きつくと思いっきり泣き出した。まるで子供のように、目から涙を大量に流し、鼻からは少し鼻水が出ている。

 そのくせして、顔は笑っていた。泣いてるのか、笑っているのかよくわからない顔でひたすら泣きじゃくっている。


「はー、ようやく答えられたね。奏くん?」

「ああ、あんたのおかげだよ女神様」


 すると、女神はやれやれとつまらなそうに歩いてくる。そして、俺を鋭い目で見つめる女神。


「選んだってことは、覚悟は出来てるんだよね?」

「ああ」

「前にエリスが話したと思うけど、概念変更は世界のバランスを著しく壊すの。だから、天使がサポートした後はサポート時に変えた概念を元に戻す。変更したことでの揺り戻しをなくすためにね」


 女神の話は難しいが言ってることはなんとなくわかる。要は変えた概念を元に戻さないと、悪影響が出るということらしい。


「もし、エリスをこのままにするならエリスがいることで不具合のないように概念を調節しないといけない。奏くんの場合は、もう一度女の子に戻ってもらうことになる。今度は一生ね!」

「なっ!」


 何かしらはあると思ってたけど、まさか一生女になることが条件とは思ってなかった。一瞬迷いが生まれてしまう。


「だってエリスと姉妹関係なんだからしょうがないじゃん。そして、エリス。エリスにも代償を払ってもらうよ。君の天使としての(せい)を捧げてもらう。エリスは普通の人間になる。それでも構わない?」


 女神はエリスに問いかける。エリスはようやく泣き止んだ。でも、答えはまるで決まっていたかのようにすんなりと答える。


「はい。 奏がいいというのなら、私は天使としての生を捧げます」

「やっぱりね」


 女神は分かっていたかのような口振りをした。そして、再び俺に聞いてくる。ほんとにつまらなそうな顔で。


「それで? 奏くんはどうするの? 女の子にここまで言わせておいて、迷うの?」

「い、いや……。エリスは本当にいいのか? 普通の人間になるって」


 幼女女神による圧迫面接に耐えかねた俺は、エリスの答えの理由を聞くことにした。だが、エリスは本当に迷いもなく答える。


「はい。私も、その覚悟はしてましたから」

「覚悟をしてたって……」

「もともとエリスはそのつもりだったんだよ」


 女神は、さも当然という顔で俺に告げてきた。天使を辞めることを元から考えていたってことなのか? なんでそんなこと。


「えと、エルシー様が話してましたが私はここ何回か仕事で辛い思いをしたって。要は、お仕事に疲れちゃったんです」


 エリスの過去、俺の知らない昔話を、エリスはし始めた。


「お仕事を始めた時、その時はすごく楽しかったです。人を、人間を助けられることがすごく嬉しくて、別れる時はいつも泣いてました」


 どこかを見つめ、懐かしむように話を続ける。


「ですが、次第に人と触れることへの恐怖も覚えました。全部がうまくわけではありません。中には、失敗して、酷いことを言われたりもしました」


 幼女女神も、ただ話を聞いている。


「そんな時です。奏、あなたに会ったのは。久しぶりだったんです。あんなに綺麗な心を持った人間に会えたのは。真っ直ぐな瞳で、人が笑顔になることが好きな男の子。私は、その子に出会って元気をもらいました」


 あの時のことを思い出す。薄らとしか思い出せないが、元気のないお姉さんを目的地まで送った。

 そのお姉さんはエリスであって、俺はいつのまにかエリスにも元気を送れていた。


「それから前に話した通り、奏のことを見てました。そして、奏が傷ついたことを知り私はサポートに乗り出しました。その時です、私はこの子のそばに居たい。そう思ってました。私は、サポートをする時にはそんな思いが既にあったんです」


 エリスの言葉は、まるで告白みたいで、でも照れることはない。嬉しくて、嬉しくて、エリスの微笑みが俺をすごく安心させる。


「覚悟は、出来たみたいだね」


 俺はいつのまにか女神の前に歩いていた。そして、隣にいるエリスと共に決意を告げる。


「俺は、エリスと一緒に居たい。例え女になろうとも」

「例え天使から人間になっても」

「「俺(私)たちは一緒に居る」」


 俺たちの答えに、満足そうな顔をすると女神は指を鳴らす。


 すると、今まで放たれていた光がさらに大きくなった。そして、女神は少しずつ空へと浮き始めた。


「二人の気持ちはわかったよ。エリス、寂しくなるけどちゃんとしてあげるから」

「ありがとうございます! エルシー様! お世話になりました!」


 少しずつ幼女女神は浮き上がり小さくなっていく。そして、思い出したように話し始める」


「ちなみに、エリスは天使歴長いから早く寿退社させようかと思ってたんだよね。他のみんなもだいたい五百年くらいで辞めるのに、エリスは二千年もやってたし」

「ちょっ! エルシー様!」


 エリスが、二千歳!? やばい、俺選択間違えたかな。隣にいる人がおばさんに見えてくる。


「奏今失礼なこと考えてましたよね!?」

「あっ、それと奏くんも元気でね〜。少し興味出てきた女の子ライフ、楽しんでね〜!」

「なっ! この幼女女神!」


 あいつなんてことを言いやがったんだ! たしかに、女であることも少しいいかなって思いはしたけど。

 途端に露骨に態度を変えるエリス。俺と距離を開けてやばいものを見る目になってる。


「ちょっ、エリス?」

「私、選択肢間違えたかも……」

「エリスさん!? ちょっと、ねぇ!」

「あはは、またねー。二人とも」


 そうして、幼女女神は俺たちに地雷を投下して手を振りながら空へと帰っていった。そして、残されたのは俺とエリス二人だけ。


「まったく、下心あるなんて最低です」

「年齢詐称もどうかと思うけど」

「なんですか!」

「なんだよ!」


 二人して睨み合う。そして、ふっと、笑いが溢れる。改めて目の前の天使を見つめる。容姿端麗、優しくてしっかり者……時々ドジったりもするけど、俺の大切な人。


「エリス、おかえり」

「ただいま、奏」


 そして、周りが光で包まれる。公園を中心に光の柱が広がっていく。その光は、やがて世界を包んで、そして消えていった。

 光が消えていった後は、モノクロだった世界は色を取り戻した。すべてのものは動き出し、いつもの日常が戻ってきた。そして、その公園には二人の姿はなかった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「かなた? かなたってば、起きないと遅刻するわよ」


 うぅ……、目を覚ますと目覚まし時計は七時を指していた。……ってヤバ! 今日文化祭じゃん!

 俺は布団から飛び起きると急いで支度を始めた。そして、作ってあった朝食を軽く食べて、食パンを加えると急ぎ足で玄関へと向かう。


「ちょっと、かなた! もうはしたないんだから。エリスちゃん、もう先行ってるわよ」

「わかった。行ってきます!」


 そうしてローファーを履くと急いで玄関を出た。


「まったくもう。一体あの子、誰に似たんだか」


 道中で食パンを食べ終えると、電車に乗り込み駅に着くやダッシュする。ようやく見えた校舎の入り口には手作りのアーチがかけられており、"天ヶ崎学園文化祭"と書かれている。

 俺は急いで教室へと向かう。ようやく着いた教室には、既に準備をしたクラスメイトたちが待っていた。


「かなた、遅刻か? 文化祭当日とは気が抜け過ぎてないか?」

「す、すいません。静香先生」


 早々に静香先生が出迎えてくれた。そして、奥から現れたのは。


「やっと来た! 早く早く! 着替えないと」

「利麻! うん、ちょっと待って」


 利麻が手を引いて更衣室まで連れていってくれた。文化祭のために、空き教室が更衣室となっておりそこで着替える。

 そして、そこにはクラスの女子が着替えを済ませていた。


「やっとですか? まったく当日寝坊とはだらしないですね」

「エリスが起こしてくれなかったからでしょ?」


 エリスが着替えを済ましてムスッとして待っていた。俺の言葉にエリスは抗議する。


「私は何回も起こしましたよ! かなたが全然起きなかったんじゃないですか!」

「あれ?  そうだっけ……」

「そうですよ! もう」

「とりあえず、着替えちゃお。ね?」


 そう言って俺は出し物の衣装に着替えをし始める。いくらカフェだからってこの意見を通したの失敗だったかな。

 ぶつぶつ文句を言いながらも、俺は衣装に着替えると教室へと戻る。

 教室に戻ると、先生が意気揚々と待っていた。そして、クラスメイト全員で先生の話を聞く。


「お前ら! とうとう文化祭当日だ! 泣いても笑っても今日、今までの成果が試される。とにかく、思いっきり楽しんでやること! 以上」

『おおー!!』


 クラスは一気に盛り上がった。そして、遂に文化祭が始まった。次第に教室にお客さんが集まってくる。


「おー! いたいた、おーいかなた!」

「やっと見つけたか」

「美香! 翔!」


 ひょっこり教室に顔を覗かせたのは翔と美香だった。二人とも文化祭に来てくれると言っていた。そして、二人とも教室に入ってくる。


「へぇー、タピオカカフェかー。あっ、このミルクティーを一つください。お代はこの人が払うので」

「お前なぁ。俺も同じの一つください」

「二人とも、こちらへどうぞ」


 注文を済ませた二人を中央のテーブルに案内する。そして、注文のミルクティーを二人に渡した。


「ありがと! それにしても、その服すごい似合ってる!」

「えーと、ありがとう。ちょっと恥ずかしいんだけどね」


 クラスで決めた衣装はカフェではお馴染みのウェイトレスの服だった。なるべく学校に配慮したデザインにしたものの、それでもこの姿は照れてしまう。


「いや、すっごい似合ってるよ!」

「あ、ありがと翔」

「ふーん、翔はこういうのが好みなんだー、へぇー」

「お前ってやつはなぁ」

「ああ! 美香さんに翔さん、いらっしゃいませ!」


 そこにエリスもやってきた、二人に会釈すると服の感想やらで盛り上がってる。

 不意に教室の入り口を見ると、小さな女の子が一人で立っていた。その女の子は注文を済ませるとこっちにやってくる。


「久しぶり、二人とも」

「なっ! 幼女女神!」

「エルシー様! なんで!?」


 現れたのは少女はあの幼女女神だった。彼女は悪びれる様子もなく理由を簡潔に話す。


「いやー、文化祭って何だか楽しそうだから来ちゃった!」

「来ちゃったって」

「もう、エルシー様ったら」

「お、やってるやってる。おーいかなたー、エリスちゃん」


 またもや入り口に現れたのは、今度は母さんだった。クラスは次第に知り合いで埋め尽くされ始める。

 母さんは注文を済ませ、カメラ片手に俺たちの前にやってくる。


「せっかくの子供の晴れ姿なんだからカメラに収めないとと思って」

「母さん!」

「いいですね! 是非! あっ!利麻もこっち来てください、一緒に撮りましょう!」

「えっ!? 私? いいのかな……。なら折角だし」

「せっかくだから、美香ちゃん達も一緒にどう?」

「お願いします! ほら翔も!」

「わーったから引っ張るな!」

「なら私もいいですか?」

「どうぞどうぞ!」


 いつのまにか俺の周りを取り囲まれ、写真撮影を始められた。しょうがないからカメラの方を向くと、隣のエリスが話しかけてくる。


「ありがとうございます」

「何が?」


 エリスはたまらぬ笑顔でお礼を言った。


「こんな幸せをくれたからですよ」

「俺の方こそ、手を差し伸ばしてくれて、ありがと!」


 この笑顔と一緒に居たくて、俺はこの姿を望んだ。それに後悔はないし、むしろ感謝しかない。

 だって、この元天使との日々は、はちゃめちゃですごく幸せな日々だから。


「これからも、よろしくお願いしますね、奏向!」

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