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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
4/40

4. 初めての……

評価、ブックマーク登録、本当にありがとうございます!!今回はTS要素多目です!


追記、2019.6.28 話の終盤辺りの一箇所を加筆しました。

 心臓がドクンドクンと早く脈打っている。うっすらと冷や汗をかきながら、俺は覚悟を決めるべく扉の前に立っていた。


「行く、行くぞ」


 なんども同じ言葉を言うが、体はちっとも進もうとはしない。この状態が五分以上も続いているためか体が冷えてしまっている。今の俺の姿は全裸状態である。なんでそんな姿で扉の前で躊躇しているのか、それは二時間前に遡る。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「奏向!いい加減出てきてください」

「嫌だ!風呂とか無理だって!」

「そんなこと言ったってしばらくはこのままなんですから、いずれ入ることになるんですから覚悟決めてください!」


 俺は自室に入るとドアの鍵を閉めて部屋に篭る。誰がなんと言おうと風呂にはもう入れない。ついさっき、思い出してしまった。俺の体が昨日まで毎日見てきた、男としての体ではなく、今まででも裸なんて数度(母さん)しか見たことのない女の体になってしまったことに。


「奏向〜出てきて下さ〜い」


 何を言われようとも出て行くつもりはない。女の体で風呂に入るなんて……で、できるわけない!だって、なんか恥ずかしいし、男として見てはいけない気がするし。無理!絶対無理!

 そんな心で絶賛葛藤中の状況で、急に悪寒がしてくる。


「あ、トイレ行きたい」

「奏向!?今トイレって言いました!?」


 ドアの向こうでエリスが荒げた声を上げる。トイレぐらいで大げさだな。だが、籠城においてトイレは大問題である。持って後二、三時間ってところか。なんとか今日の風呂だけは阻止しないといけないのに。

 だが、エリスはドアを叩きながら俺に訴える。


「奏向!我慢せず出てきてください!女の子はそんなにトイレは我慢できないんですよ!」


 エリスの声とともに、尿意が増してくる。普段の二倍近い勢いで。

 ってそうか!今は女なんだから前みたいに我慢できないんだ!……ん?


「む、無理だって!この体で用を足せって言うのか!?」


 それってつまり、女の体で用を足すってことなわけで……。やり方、知らないし。それに、ほぼ強制的にあそこを見ないといけないことに。

 だが、意思とは反対に体は排出を促そうと尿意を強めてくる。


「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!早くしないと、大変なことになっちゃいます!」


 そんなこと言ったって。でも、このままだと俺はここで粗相をしてしまうことに。男としてのプライドか、人間としての尊厳か、選べるのはどちらか一つだけ。悩んでる間にも制限時間は刻々と迫ってくる。限界が近いのか、手を下に持っていきもじもじしてしまう。

 もう、限界……

 バタン!と勢いよくドアを開けると、扉で鼻を打って悶絶しているエリスには見向きもせず一階のトイレへと駆け込む。急いで下着をずらし、便座に座る。その瞬間、大自然にいるような開放感が訪れた。


「ま、間に合った〜」


 ひとしきり出し切ると、ふと視線を下に落とす。そこに映ったのは、見覚えのない下着だった。あれ?俺こんな下着履いてたっけ?


「奏向?ちゃんと間に合いましたか?」


 そこでエリスが扉の向こうから声をかけてきた。


「うん、なんとか。それよりも……「それは良かったです!ん、それよりもって?」なんか見覚えない下着があるんだけど」


 よくよく見ると下着はブリーフに似たような形をしている。でも素材が良くて履き心地は良さそうだ。


「それって……奏向が履いていた下着のことですか?」

「そうみたいなんだけど、履いた覚えないし」

「それはショーツですよ」

「ショーツ?」


 聞きなれない単語が出てきた。


「女性用の下着のことですよ」


 あーそっか、女性用下着の名前か。そりゃ知らないはずだ。


「俺、なんで女性用下着履いてるんだ?」

「それは急に女の子になったらなにかと不便と思いまして、私が下着も変えときました!」


 またお前か!なんで自信満々に言うんだよ。


「一応今の服も女性用に変わってるはずなんですが」


 今の服ってこのパジャマ?パジャマに視線を落とすが、柄も形も昨日まで着ていたパジャマとほぼ変わらなかった。だが、よくよくみるとボタンの位置が変わっている。そういえば女性と男性ではボタンの位置が左右反対なんだっけ。そんなことを考えながら胸元のボタンを外してみる。

 そこには柔らかそうな胸の膨らみと、形を整えてくれる下着、女性の矯正下着として使用され、現在では男性でも着用する人がいるが一般男性からしたら着用しない物。通称ブラジャー。それがあった。


「な、なんで俺がブラジャーなんか付けてるんだよ!?それにしょ、ショーツって」

「当たり前じゃないですか。女性はデリケートなんですよ。ブラはつけてないと胸が擦れて痛くなりますし、ショーツだって女性のものを守るためにできてるから素材がいいんです」

「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて!」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 この件の後、エリスからは用を足した後の処理の仕方を散々教えられ、俺の心は疲弊してしまった。風呂に入らないと言っていたのが馬鹿馬鹿しくなって、流れで風呂場についたのがさっきである。

 そこで結局、問題であった女性の体を見るということに決心がついてないと気づいた時にはすでに服を脱いでおり、覚悟が決まらないまま今に至るわけだ。


「へ、へ、へくち!」


 完全に体が冷えてしまった。早く入らないと風邪を引いてしまうかもしれない。


「覚悟を決めろ俺」


 俺は思いっきり目を瞑った。要は見なきゃいいのだ、だったら洗い終わるまで目を瞑っていればいい。シャンプーの配置は生活で覚えている。

 もう一度強く目を瞑ると、風呂場のドアノブへと手をかける。ゆっくりとドアを開けて中へ入っていく。だが、


「うわっ!とっと」


 風呂場に段差があるのを完全に忘れていた。段差に足を取られ、躓きながら風呂場の壁に思いっきり手をついてしまう。咄嗟のことに目を開いてしまった。目に映ったものは、


「え、これ誰?」


 全く身に覚えのない少女が風呂場の鏡に映っていた。柔らかそうな肌、艶やかで、色も白くすべすべしている。髪は肩ぐらいまで伸びていて、綺麗な黒髪だった。顔立ちもよく、一般に可愛いと言われる部類の容姿をしている。見た目的に年齢は高校生くらいだろうか。そんな少女が映っていた。


「もしかして、これが今の俺?」


 試しにほっぺをつねってみると、鏡の中の少女もほっぺをつねった。鏡は目の前にある物体を左右反転にして映す。つまり鏡の前に自分がいるということは、この少女は自分であるということだ。


「鏡に自分が映ってないなんて、なんか変な感じだな」


 ついつい視線が体を追ってしまう。胸は平らではなく、膨らんでいて、全体的に上を向いている。サイズはよくわからないが揉めるぐらいには大きい。腰の方は女性特有のくびれができていた。そして……


「さっきも見たけど、やっぱりないんだな」


 股間はあったものがなくなっていて、のっぺりとしていた。再び体を上から下に眺めてみる、なんか急に恥ずかしくなってきた。顔が熱い。


「と、とりあえず風呂入ろう」


 軽くシャワーで体を洗うと、湯船にゆっくりと浸かる。一息つきながら湯船の水をピチャピチャと弾く。本当に女になったんだな。さっきまでは全然現実味がなかっただけに、いきなり女であることを叩きつけられると堪えてしまう。

 自分はもう男ではない、右も左も分からない女の体でしばらく生きていかなければならない。そんな不安からか、心臓の鼓動は早くなっていく。

 バタン!

 急にドアが勢いよく開いてびっくりしてしまった。そこには全裸のエリスが仁王立ちで立っていて、って


「な、何入ってきてるんだよ!あと服着ろ!」


 俺は咄嗟に目を手で隠す。エリスはちっちっちっ、と舌を鳴らしながら人差し指を振る。


「奏向は、女の子の体の洗い方わかるんですか?」

「そ、それは」

「それに今は同性同士なんですから気にすることなんてないですよ!」


 そういうと、シャワーで体を軽く洗い湯船に入ってきた。うちの風呂場はあまり大きくはなく、洗い場、浴槽に入れて二人程度の大きさしかない。だから、必然的に密着しながらじゃないと入れないわけで。


「かーなたー!はあー柔らかくてでも肌に弾力もあってすべすべしてて気持ちいです〜」

「あー触るな寄るなくっ付くな!」


 エリスが抱きついてくるせいで、柔らかいものが当たってくる。意識しないようにしても、どうしても意識してしまう。そんなこと御構(おかま)い無しにエリスは無邪気に俺に抱きついてくる。


「別に男の子だったからって、気にすることないんですよ」

「気にするよ!」


 出来るだけ体を縮こませ、体育座りのような体制で体の接触を避ける。エリスも俺の心情を察したのか抱きつくのをやめた。

 横目でエリスの方を見ると、指で水面をチャプチャプ叩きながら鼻歌を歌っていた。よくよく見ると、エリスはスタイルも良く美人であった。腕はほっそりしつつも、長くしなやかで、艶やかな肌をしている。胸も、今の俺と同じくらいあり……、


「どうしました?」


 優しく声をかけられる。横目で見ていたのに気付いてたみたいだ。慌てて話題を変える。


「あ、えと、さっき、気になったんだけど」

「何ですか?」

「お、俺の身長がお前より低めになってるのって、お前が例の申請書でしたのか?」


 不意に今までなってた水面を叩く音が止む。


「い、いや何のことですかね〜ふぃーふゅふゅー」


 以外や以外、図星だったみたいだ。エリスは明らかに動揺しながら口笛を吹いている。地味に口笛が上手いのが腹立つな。じーと視線を向けてると、耐えかねたのか言い訳を言ってきた。


「だってだって、妹なら姉より身長低い方が可愛いじゃないですか!」


 本音が出てきた。


「つまり、俺を妹にしたのも身長を低くしたのもお前の趣味のせいだと?」


「ち、違いますよ!確かに双子の姉妹には憧れてましたし、可愛い妹がいればな〜とは思ってましたが、別にそれとこれとは別の話で、って奏向!そんな目で見ないでください!」


 ため息を一つ零す。エリスは慌てたように別の話題に変えてきた。


「で、でも二人でお風呂に入るのっていいものですよね〜」

「そうか?」


 そういえば誰かと風呂に入ったのなんて何年振りだろう。


「なんか楽しくないですか?それにすごくぽかぽかします」

「ぽかぽか?」

「こう、胸のあたりがぽかぽかしてきませんか?」


 そう言ってエリスは俺の手を掴むとそっと俺の胸に押し当ててきた。気づけば心臓の鼓動は静かに音を響かせている。エリスの顔をみると、こっちを向きながら微笑んでいた。なんか、こういう不思議な感じ、気分がふわふわして、でも悪くない。しばらくこの心地よさに、ゆっくりと浸っていた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それじゃあ洗いますよ。目を開けちゃダメですからね」

「わかってるよ」


 俺は洗い場のイスに、エリスは浴槽の端に座って髪を洗ってもらう。ブラシで髪を()かされ、シャワーで軽く洗った後でシャンプーで満遍なく洗われた。


「こんな面倒くさい洗い方しないとダメなのか?」

「ふふん、ダメですよ。女の子のにとって髪は命なんですから。この後のコンディショナーも忘れないでくださいね」


 女の髪ってこんなに手入れが面倒なのか。これから毎日、出来る気がしない。髪を洗い終わったら今度は念入りに洗顔させられた。「女は肌も命なんです!」だそうで、女の命っていくつあるんだ?そして、とうとう体へとやってきてしまった。


「いいですか?肌は優しく念入りにですよ?胸とかは激しくすると痛いですからね。で、下の方はこうで……」

「っ〜〜……」


 体の洗い方についてはあんまり覚えていない。鏡を見ながら色々教わったけど、羞恥で内容など耳の右から左に流れていってしまった。解説が……詳しいすぎるんだよ!!あんなとこまで知りたくなかったよ!


 風呂から出ると、タオルで髪を巻かれ、ドライヤーをかけられ、またブラシをかけられ、とにかく大変だった。歯を磨き、寝支度を整えるとエリスのもとに向かう。


「俺、もう寝るから。その、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


 途中でトイレで用を足す。もう、今日一日だけで慣れてしまった気がする。俺、ちゃんと男に戻れるのかな?二階の自室へと向かう。あれ、そういえばあいつどこで寝る気なんだ。そんなことを考えながら自室のドアを開けると、そこには、


「奏向、布団は温めておきましたよ!」

「なんでいるんだよ!」


 案の定こいつがいるわけだ。なんとかなくわかっていたけど。エリスは俺の布団に潜り込んでいたらしく、隣に敷いてある俺のとは別のもう一組の布団に入っていった。


「ここで寝る気なのか?」

「モチのロンです!」


 エリスは笑顔で答える。こいつのマイペースさにも慣れてしまったのか、もう下手にあーだこーだ言わずに受け入れてしまった。


「俺は眠いんだから邪魔だけはするなよ」

「わかってますよ。側で見守ってますから」

「いや、余計気になるから」


 布団に入ると、エリスは終始こちらを見ている。反対を向いて寝ようとしても、視線が気になってしまう。結果耐えきれずエリスの方を向いてしまう。


「すーすー」

「お前が寝るのかよ!」


 向き直すとエリスは寝息を立てながら眠っていた。つい大声でつっこんでしまうのを手で口を押さえて耐える。結局、しばらくは寝付けず部屋にはエリスの寝息だけが響く。


「俺は、ほんとに人を信じられるのかな」


 不意に言葉が漏れてしまった。今日一日で沢山のことがあったが、俺はこのエリスという天使とともに人間不信を克服しなければならない。それは、あれから数ヶ月逃げてた俺が変わらないといけないわけで。考えれば考えるほど頭はぐるぐる回り、不安な気持ちは強くなっていく。


「大丈夫ですよ。そのために私がきたんですから」


 誰にも届かない独り言は、となりの天使には届いていた。天井を見ていた視線を隣に向けると、寝ていた天使はまっすぐな目でこちらを見ていた。


「大丈夫です。奏向ならきっと」


 この天使は、いったい俺のことをどこまで知っているんだろう。俺の未来や過去、本当は心の声まで見えているのではないか。

 少し震えていた俺の手を、天使は温かい手で握ってくれた。不思議と震えはなくなっていった。今は難しいことはどうでもいい。ただ、変わってしまった日常の中で、この温かみを感じながら、ゆっくりと、夢の世界へと……


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 鳥の(さえず)りとともにゆっくりと目を開ける。徐々にはっきりとしてくる視界の先にはエリスがこちらを向いていた。


「昨日の奏向は可愛かったですよ」


 何をいってるだコイツは。

 だが、いつのまにか自分の手はエリスの手をしっかりと握っていた。寝ている間ずっと握っていたらしい。まるで怖くて眠れなくなった子供のように。


「ん!こ、これはあれだからただ寒かっただけで」


 エリスはというと、俺の言葉も聞かずに布団を畳んでいた。


「はあー」


 もう、朝から疲れた。とりあえず、布団を畳む。と、エリスが意気揚々と話しかけてくる。


「奏向!今日は出かけますよ!」

「出かけるって何しに?」

「決まってます」


 エリスは一息溜めると高らかに宣言した。


「お洋服を買いに行くんです!」


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