37. 離れない思い
ということで、37話です。残りは40話だけなので、なんとか間に合わせたいです。
目の前に立つ目つきの鋭い男。我街快斗。こいつが俺をいじめた張本人? 我街はニヤつきながら話し始めた。
「まさか柏木が元気にこいつらとつるんでるとは思わなかったぜ」
そう言って俺の方に手を乗せようとしてくる。それを隣にいる翔が手で弾く。
「気安く触ってくんな。お前、どの面下げて会いにきたんだよ」
「どの面?」
翔と我街の間に見えない火花が散っているように感じる。すると、悪びれる様子もなく我街は言い捨てた。
「こんな面だよ!」
「ふざけんな!」
手こそ出さないものの、二人ともヒートアップしている。俺は不安げの顔で二人を見ている。
「はぁ、柏木は引きこもりになったとか聞いてたのによ。いつ元に戻ったんだ?」
「え? ここ最近、だけど」
「半年くらいしか落ち込んでなかったってわけか、あーつまんね」
我街の様子が掴めない。一体、何故ここに現れて何故俺に絡んでくるんだ。表情も笑ったりつまらなそうにしたりまるで掴めない。
「お前は……なんで奏にあんな事したんだよ!」
翔は怒りに満ちた顔で我街にそう問いかけた。すると、我街はあっさりと答えた。
「気に食わなかったから、ただそれだけだよ」
そして、俺を睨みつつも話を続ける。
「誰に対しても優しく、真剣で助けてくれる。そんな真人間みたいな態度が気に食わなかった、だからいじめてやったんだよ」
「お前、そんな理由で!」
我街の言葉でますます昂り始める翔。動き出そうとする翔を美香が腕を掴んで止める。
「本当にあの時は最高だったぜ。事が面白いようにうまく運ぶんだからな」
だが、我街は言葉をやめない。まるで俺たちを煽るように話し続ける。
「もともと奏を気に食わない奴らは何人かいたんだよ。そいつら集めてクラスに小さな噂を流した。本当あいつらバカだよな、あんな噂で転がされて流されて」
俺は息を呑む。話は続く。
「クラスが盛り上がってきたら、後はお前ら二人を引き離すだけだ。友井は女子に動いてもらわないと難しかったが、翔、お前は本当簡単だったな。あんな作り話にまんまと引っかかって、大事な友達を見捨てるなんて薄情な奴だよなー」
「お前!」
「翔! 奏も手伝って!」
「うん!」
我街の言葉に翔の頭には血が上ってしまった。美香と二人掛かりで両腕を掴んで抑えるが、離してしまったら一瞬で我街と喧嘩を始める勢いだ。
「それで、柏木、お前が日に日に弱ってく姿、お笑いだったぜ! 本当あん時はスカッとしたよな。学校も結局は何も解決しなかったしな」
「お前、俺だけじゃなく奏までも!」
「翔やめなって!」
ニヤつきながらこっちを見る我街。俺は、翔の腕を離すと、我街の前に立つ。
「奏?」
「なんだ? 柏木」
俺は、我街の言葉に、自然と怒りを感じなかった。もちろん翔や美香のことを悪く言われると頭にくる。でも、俺のことをなんと言われても、あの時のことを言われても、特に怒りを覚えない。
それは、多分今までのことがあったから。むしろ、エリスと出会ってからのことの方が大きく感じたから。そして、さっき過去の全てを終わらせたから。
俺はもう、あの時のことを乗り越えたから。だから、俺はもう。逃げない!
「あの時の俺は、辛いことに耐えられなくなって、自分が納得するまで向き合わないで逃げた。でも、もう違う。向き合うことで、変わることがあったから。俺はもう逃げない!」
俺の言葉に、うろたえたように我街は一歩後退りをする。だが、まだ余裕の表情で俺に言葉を吐き捨てる。
「何が変わっただよ。お前なんて、一人になれば何もできない、ダチがいないと何もできないただのザコなんだよ!」
すると、後ろから背中を押された。隣にはいつのまにか翔と美香が並んでいる。
「奏には俺たちがいる」
「だから、一人にはならない」
二人の言葉に、我街は鼻で笑った。
「簡単なことで離れていくお前たちが何を言ってんだよ」
その言葉に一瞬顔を曇らせるも、二人は迷うことなく我街に告げる。
「「もう俺たち(私たち)は離れない!」」
一瞬の間が訪れる。我街は予想してなかった返答に困惑しているようだ。
「お前ら、本当に何言ってんだ?」
「俺たちは失って、大事なものに気がついた」
「だから、もう二度と離さない」
二人がこっちを見る。二人の言葉に、胸が熱くなる。俺は、大きく息を吸うと、我街に一言をぶつける。
「俺は何があったって、もう挫けたりしない! だって、支えてくれる人が、俺にはいるから!」
我街の表情が歪んだ、そして一瞬だけ怒りを見せると、まるで火が消えるように我街は無表情になった。
「あー、しらけた。帰るわ、じゃあな」
そして、つまらなそうな顔を向けると俺たちを背にして公園を後にした。
「見たかよ! あいつの顔」
「私たちが予想してた反応しないもんだから、ふてくされて帰っちゃった!」
我街を退けたことで喜ぶ二人とも。これで、ようやく全てのことにケリをつけられたのかな? 何もかもを失ったことも、前に進めなくなったことも、全部終わったんだよね?
気がつけば日は暮れ始め、夕方から夜へと変わり始めていた。
「もうこんな時間」
「話の続きはまた今度だな」
「そうだね」
俺たちはまた会う約束をすると帰ることにした。みんなで公園の入り口へと向かう。
「また、会えるよね?」
不安になって二人に尋ねる。二人はやれやれとしながら答える。
「当たり前だろ」
「離れないって言ったじゃん。もう、しょうがないな」
そう言って、美香は片手を出してきた。
「これって?」
「指切り、何があっても離れないって約束しよ! ほら、翔も早く」
「わーったよ、ほら奏も」
「うん」
三人で片手を出し、小指を立てる。そして、三人の小指を絡める。三人だから絡めるまでに少してこずるもののなんとかできた。
「いい? 私たちは何があっても」
「決して離れることなく」
「互いを助け合うことを約束します」
「じゃあ、いくよ」
『指きりげんまん、嘘ついたら針千本、飲ます。指切った!』
掛け声とともに三人の小指を離す。
「と、これでもう私たちは離れない」
「うん」
「今度何かあったら、必ず俺たちが奏を支える」
「俺も、二人に何かあったら支えるよ」
「だから、また今度も会うからね。ちゃんと予定開けといてよ」
「わかった」
そうして俺たちは今度こそ別れた。俺はエリスと、翔は美香と一緒に帰った。翔には美香を家まで送ってもらうことにした。俺としても、二人が付き合うことには賛成だし。余計なお節介かもしれないけど。
そして、エリスと二人で帰り道を歩いている。エリスは、我街が現れてから俺たちにはあまり関わろうとはせず、今は暗い表情でいっぱいだった。
「よかったですね。お二人とまた仲直りできて」
「う、うん」
話しはするものの長く続かない。こっちから話しかけようとしても、なんで声をかけていいのかわからなかった。
そんなことをしてるうちに、家の前に着いてしまう。
「ようやく帰ってきた! おかえり!」
そこに、俺の家の前で立っている少女が話しかけてきた。年は小学校低学年くらいだろうか。
可愛らしい服を着たまだ幼い少女。それが俺の家の前で俺に話しかけてきている。一瞬人違いかと思って後ろを振り向くと、後ろにいたエリスが驚きの表情をしていた。
「えっ!? エルシー様?」
「エリスの知り合いか?」
「ええ、天界の女神様です」
どうやらエリスの知り合いみたいだ…………って、今なんて言った? 女神様?
もう一度少女の方を向くと、にっこりした笑顔を向ける。
「えへへ、久しぶりエリス。それに、はじめましてだね柏木奏くん」
この、幼女が女神様!?




