35. 思い出
なんとかいつも通りに投稿です。土曜の夜とは一体……。活動報告は例によって明日あたりに更新します。
追記 2019.12.24
活動報告更新しました
スマホの画面をじーっと見る。表示されたメッセージについつい何かが込み上がってくるのを感じる。
どうしても、前では到底考えられなかったこの光景を確認してしまう。それほど求めていたものが、そこにあった。
「奏向ちゃん、何見てるの?」
横から利麻が顔をひょこっと覗かせてきた。画面に集中してたせいで少し驚いてしまう。
「メッセージ?」
画面に映っていたのはLICEのメッセージ。嬉しくてつい、スマホの方に約束の日についてのメッセージを写メで送ってしまった。それをついつい見てしまってた。
「そ、そう。ごめんね、サボっちゃってて」
今はもうすぐに迫った文化祭の準備をホームルームの時間を使って行っていた。それぞれの担当に合わせて装飾や衣装などの準備を行なっている最中なのだが。
ついついふとしたときにこの画面を眺めてしまっていた。
「いいよ。奏向ちゃんけっこう働いてるし」
一方では装飾を作って飾り付けやレイアウトについて話し合ってる。一方では、先生の指導のもとでタピオカの調理を行なってはしゃいでいた。
甘いタピオカを作るのになかなか苦労するみたいだけど、甘物が作れたり料理することが学校では特別なことだからかみんな浮かれていた。
「それよりも、何か嬉しいことでもあったの? 顔、少しにやけてる」
「えっ、本当?」
いつのまにそんな顔してたんだろう。慌てて口元を手で隠す。
「そんなに嬉しいことって……、もしかして、彼氏とか?」
「なっ! そ、そんなことじゃないから!」
「その驚きようもしかして……」
「違うから!」
頬が熱を帯びるのを感じる。一瞬だが自分が男と仲良く歩いてる姿を想像してしまった。
男の頃ならただの同性同士の付き合いにしか感じない。けど、ここ最近はそこに少しだけ変な感情が混じるようになった。
それのせいで、特にやましいことはないのに恥ずかしさを感じてしまう。
落ち着きを取り戻すと、利麻に訂正する。
「中学の友達」
「へえー、どんな子なのか気になるな。男の子? 女の子?」
「両方」
利麻は面白そうに話を聞いてくる。俺は、翔と美香について大まかに話した。
「美香さんって、この間奏向ちゃんが言ってた人だよね? 翔君とはどんな関係なのかな?」
「どんな関係も何も仲のいい友達ってだけだよ。それに、翔は好きな人いるし」
「えっ!? そうなんだー、てっきり奏向ちゃんが狙ってるものかと」
「そんなわけないし!」
利麻はそんな調子で俺をからかってきた。俺は大きくため息を漏らす。
「それで、なんでにやにやしてたのかな?」
「それは、久しぶりに会うことになったから。それだけ」
「それだけ?」
利麻は不思議そうにこっちを覗き込むが、正直それだけなのだ。けど、それだけのことが俺にとってはすごく楽しみなわけで。
「喧嘩別れ、みたいな感じで卒業しちゃってたからさ。また仲直りして会えるのが、すごく楽しみなんだ」
「そういえば、そんなこと言ってたね。そっか、そんなに楽しみなんだ」
「うん」
そう答えると、利麻は少しだけ不満そうな顔になった。
「そっかそっか、奏向ちゃんは私よりも中学の友達の方が楽しそうにするんだ〜」
なんか拗ねられた。慌てて弁解をする。
「い、いやそんなことはないんだけど……」
すると、利麻はニッと笑った。
「冗談。大切な友達なんでしょう? なら楽しみなのも当然だし、せっかくだから目一杯話さないと」
「利麻」
「利麻! ちょっとこっち手伝って」
「はいはい! それじゃあまたね」
利麻はクラスメイトに呼ばれて手伝いに行ってしまった。
(でも、こうして美香たちと会えるようになったのは利麻のおかげでもあるんだよ。ありがとう)
利麻の背中を見ながら、心の中で利麻にお礼を言う。そして俺もまた、自分な作業へと戻っていった。
文化祭まで残り日数が少なくなってきた中、学校中は次第に盛り上がりを見せていた。
そして俺も、約束の日へと着々と近づいていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「奏向、お話があります」
約束の日前日の夜、俺はエリスに話があると言われてリビングのテーブルに腰を下ろした。
エリスも向かいに座って話を始めた。今日も母さんは仕事のため家にいるのは俺たちだけだ。
「前にも言いましたが、明日奏向は、元に戻る覚悟はありますか?」
美香から集まろうと連絡が来たとき、俺は返答に迷った。今の俺は奏向であって、奏ではない。
この姿で会うことはできない。そのためエリスにあることを聞いてみた。俺の姿を男に戻せるかどうかを。
「できますよ。申請書に書けば」
返答は簡潔だった。むしろあっさりしすぎて驚いてしまった。前に聞いたときは俺が人間不信を解決するまではこのままだと言われていたからだ。
「奏向はもう、人間不信を克服してるじゃないですか。私が言った親友を作るという条件もクリアしてますし」
まあ確かにそう言われればそうなのだけど。何となく素直にそう思えない自分がいた。
「ただ一つだけ言わせてください」
その時、エリスが真剣な顔で言ったことが「俺が元に戻る、奏に戻る覚悟があるかどうか」ということだった。
けど、美香たちに集まると返事をした時点で覚悟は決まっている。俺はまっすぐエリスを見ながら、答えた。
「覚悟は、できてるよ」
その答えに、エリスは緊張した顔を緩めて安堵した。
「ならよかったです。申請書はもう通してありますから、明日にはいつでも元に戻れますから」
「そうなんだ。ありがとね」
なんとなく、元に戻れるという言葉に寂しさを覚えてしまう。この姿と、別れるのが恋しいからだろうか。それとも……。
「でも、初めはあんなだった奏向が懐かしいですね」
二人して静まっていた中、エリスが唐突に話を振ってきた。
「あんなって、まああんなだったけどさ」
「最初の頃は、私のこと信じられないっていっぱい揺らしてましたよね」
エリスは懐かしむように昔の思い出話を始めた。少しだけ寂しそうな目をしながら、手で髪の毛先を弄んでいた。
「いきなり天使だって言われたって信じられないって」
「でも、なんだかんだ言っても信じてくれましたよね。なんでですか?」
「なんでって」
エリスを信じると決めた時、あの時が遠い昔のように感じる。まだ半年も経っていないのに。
あの時、俺が信じるって決めた理由。それは。
「手を差し伸べてくれたから」
「それって?」
エリスはよくわからないという顔をしてる。俺は少しだけ気恥ずかしく、でも素直に気持ちを伝えた。
「どんなに拒絶しても、傷つけても、それでも俺のことを受け止めてくれた。だから信じたんだよ。あの時の俺は、そうやって手を差し伸べてくれる人を望んでたから」
「そう……ですか」
エリスは俺から視線を外して横を向いた。俺もエリスから視線を逸らす。それぐらい恥ずかしいことを言ったと思う。エリスもそう思ったんだろう。
「その、奏向がそう思ってくれたなら、力になれたなら、よかったです」
照れつつも、エリスはそう言ってくれた。俺の方こそ、エリスがいなかったらどうなってたのかと思う。
「こっちこそ、ありがと」
再び互いに顔を合わせる。さっきの話を流すかのように別の話題を話し始めた。
「そ、そういえば奏向ナンパされた時ありましたよね。あの時は可愛かったです」
「あの時のことは忘れてくれよ!」
その後も、今までの思い出話に花を咲かせた。買い物に行った時のこと、母さんに会った時のこと、利麻と会った時のこと、今まで沢山のことがあった。
「利麻と友達になれてよかったですよね」
「うん。色々あったけど、そのおかげで俺も成長できたし、仲良くなれたし」
利麻と友達になってから学校に行き始めた。未だに人との付き合いは慣れてないけど、その頃はまだ全然喋れなかったっけ。
「あの時の奏向、本当にかっこよかったですよ」
「いや、あの時は俺も色々あって。でも、利麻を助けたい気持ちは本当だったからなんとかしたくて」
利麻のいじめを解決するときも無我夢中で行動してた。まるで昔の自分に戻ったような気分だった。
「そして、大事な友達とも仲直りできました」
「うん」
エリスはやっぱり悲しそうな目をしている。気のせいかと思ったけど、今日のエリスは少し様子がおかしく見える。
「そんな奏向なら、ううん、奏なら、きっと明日も大丈夫です!」
エリスはそう言って両手を握ってきた。その手は暖かかった。
「うん。それもこれも、エリスが居てくれたからだよ。だから、ありがとうエリス」
エリスが居てくれたからここまで来れた。本当に、エリスにはいっぱい、いっぱい助けてもらった。
素直にでた感謝の言葉、その言葉によるものなのかエリスの握ってた腕は次第に震え始める。そして、テーブルに水滴が落ち始める。
「い、いえ、わ、わたしは……わだじは……、かなた、かなた! かなた!」
そう言って勢いよく俺に向かって抱きついてくるエリス。勢いよすぎてむしろ苦しいくらいだ。
「え、エリス、苦しい」
「かなた! かなた! かなた!」
エリスは感情が爆発したように泣きじゃくっていた。やっぱり何かがあったのか、それとも。
それからエリスはしばらく泣いたままで、泣き止むまで何十分もかかった。エリスは嬉し泣きだと言っていたけど、多分理由はそれじゃない。
その夜、俺は明日への楽しみよりもエリスのことで頭がいっぱいで、あまり眠れなかった。
そして、とうとう約束の日を迎える。




