表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
最終章. 天使との運命の文化祭
32/40

32. 痴漢

なんとユニークが4000超えてました!お読みくださってる皆さん、本当にありがとうございます!ブックマーク等もいつもありがとうございます!


今回は珍しくエリスがほぼ出てこない回になります。

 ----ごめん! やっぱり話聞いてもらえなかった----


 あれから数日して美香から連絡がきた。翔と接触してくれたみたいなのだが、うまくいかなかったみたいだ。


 ----なんか知らないんだけど私と変に距離を取ってるんだよね、あいつ。ちょうど(・・)の件があった頃からかな----


 二人について意外だったのは知らぬ間に距離ができていたことだ。特に二人とも仲が悪かったわけではないし、むしろ大の仲良し、親友と呼べる間柄だったと思う。

 だからこそ、あの件で二人が喧嘩とかしてないのに距離ができることに疑問があった。


 ----だから、私考えていいアイデアを思いついたの!----


 メッセージは続いた、美香が聞けないのに一体どうするのだろうか?


 ----私がダメなら奏向ちゃんが直接聞けばいいんだよ。「私の親戚と何があったんだ!?」って。これならいけると思わない?----


 …………ん? いや、いけると思わない。今の俺は翔とは赤の他人だし、いくら親戚ってことがあっても直接聞くのはどうかと思う。

 だが、そんなことお構いなしに美香はメッセージを送ってきた。


 ----せっかくだしやるなら明日にしよう! 翔にもそう連絡しとくから。----


 ちょっ! いきなりは無理だって! そう思って無理だとメッセージを送る。


 ----でも、それ以外だと翔から事情を聞けないよ?----


 今のところは他に妙案があるわけではない。だけれどもいきなり明日と言うのはいくらなんでも急すぎる。


 ----それに、私たちも文化祭近いし奏向ちゃんたちもそうでしょ? もう少ししたら忙しくなってくるだろうし聞くなら早めのほうがいいと思うけど----


 美香は追い討ちをかけるようにメッセージを送ってきた。文化祭については、今はまだ予定や意見の出し合いだが、そろそろ飾り付けや装飾の準備などを始めないと間に合わない。そうなると、聞きにいく時間が取れなくなるかもしれない。

 もし、早めに聞きたいのであれば今しかないだろう。どうする? 文化祭が終わった頃に改めて聞きに行くか? それとも、今行くのか……。


 ----どうする?----


 回答を急かすように送られてくるメッセージ。まるで時間制限があるかのように焦りが現れる。


 ----わかった。行く----


 そう送ってしまった。美香から了解のメッセージを見ると憂鬱になる。思えば美香は昔から行動力があり、強引にことを進めるところがあった。

 後から送られてきた連絡で、決行は放課後の部活が終わる時間になった。どうやら翔はバドミントン部に入っているらしく、部活が終わり下校するタイミングになった。

 そして、今現在。部活の終わりだろう生徒たちが各々帰宅の途につく中、俺は正門で待ち続けていた。彼がくるその時を。


 翔たちが通う高校は地元の公立高校であり、俺の家からも比較的通いやすいところにある。

 どうして俺が天ヶ崎に進学したのかというと、天ヶ崎は進学校で大学進学において国公立大学を受験しやすいと思ったところが大きい。

 まあ、結局は不登校になっては元も子もないのだけど。その結果俺たちは高校が別になったわけで。


 本当のところ、今日はエリスも連れてくるはずだったのだけど。


「明日ですか? あー、明日はちょっと予定がありまして。ごめんなさい! 奏向一人で行ってきてください」


 と言われたので、俺は単独潜入を試みてるわけだ。

 学校帰りだったこともあり服装は制服の状態だ。違う高校の制服を着ていることもあり、下校する生徒からはかなりの視線が集められている。

 正直普通に辛い。できれば早く事を済ませたい。だが、翔はなかなか現れない。日は少しずつ傾いていくが、まだ9月の中旬と言うこともあって空はまだ少し明るい。


 すると、複数人で同じようなカバンを持った生徒が歩いてくる。どうやら運動部の生徒みたいだ。ラケットのような形状のケースのようなものも持ってるからバドミントン部で有る可能性は高い。

 徐々に近づいてくる団体。その中の一人がこっちに気がついたらしく視線を向けてくる。俺もその人を見る。互いに目が合った瞬間。


「かける、さん?」

「えっ? 誰?」


 その一人は翔だった。すぐさま駆け寄っていく。他の人達がざわつき始めた。


「あの、美香さんから聞いていると思いますが私、柏木奏向って言います」

「柏木!? お前が、美香が言ってた……」


 俺の正体に気がつくと翔は顔を一気に曇らせた。


「あの、(・・)君のことで聞きたいことが……「悪い、先帰るわ」」


 話を聞こうとすると、翔は一緒にいた人たちに一声かけその場を後にしようとする。


「あっ、おい翔!」

「いいのかよ?」


 他の面々も、突然翔の行動に驚いていた。俺はすぐさま翔の後を走って追いかける。


「まって、待ってください!」


 そうして翔に追いつくと、なんとか引き留めようと翔の片手を掴もうとした。すると、思った以上に力が入ったせいか翔の腕は俺の方へ引き寄せられた。

 そして、その力は俺の体にぶつかる事で消えたのだが、


「ひゃっ!?」

「んっ!?」


 勢い余った結果、翔の腕は俺の胸に吸い寄せられたわけで。いきなりのことに俺は変な声をあげてしまい、翔も顔を真っ赤にしている。

 慌てて掴んだ手を放す俺。何故かはよくわからないけど、(たま)らなく恥ずかしくなり甲高い声が出てしまった。これじゃあまるで女みたいな反応じゃないか。


「その、悪い」

「私も、ごめんなさい」


 罰が悪そうになる二人。


「そ、それじゃ!」


 まるでこの場から逃げるかのように立ち去ろうとする翔。このままじゃ本当に翔に逃げられてしまう。せっかくここまできたのにこれで終わりは嫌だ。

 覚悟を決めると再び翔を追いかけ腕を今度は強引に自分の胸に引き寄せた。翔の腕はそこそこ有る胸に下着越しに当たっている。


「なっ!? お、お前何やって!」


 再び慌てる翔。けれど、これしか思いつかなかった。


「話を聞くまで放しません! もし、話してくれないと言うなら、この場で痴漢って叫びますよ!」

「はぁ!?」


 まわりには下校しようとする生徒がかなり見ていた。さっき一緒にいた人たちも何事かとこっちを凝視してる。

 このまま痴漢などと言えばかなりヤバイ噂が広まるかもしれない、今の状況でもヤバイと思うけど。


「どうします? 話しますか? 話しませんか?」

「お前無茶苦茶だ! 一体お前はなんなんだよ!?」


 既に翔は動揺を通り越して混乱してきている。そんな翔の問いに俺は答える。


「私は柏木奏向です!」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「以上でご注文はお揃いでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「では、ごゆっくりどうぞ」


 スタスタと去っていく店員さん。テーブルには今運ばれたばかりのフライドポテトとドリンクバーから持ってきた飲み物が二つ置かれている。そして、目の前には仏頂面の翔の姿。

 なんとか翔から承諾を得られた俺は、近場のファミレスで話を聞くことにした。学校から離れる際にはかなり注目されていて、現場を諭す翔が大変そうだったけど。


「よ、よかったらポテトどうぞ。お話を聞くお礼ってことで」


 そう言ってポテトを翔に差し出す。でも、翔はポテトのお皿を返してきた。


「いや俺も出すよ。そっちもポテト食べたいだろ?」


 そう言ってお皿をテーブルの真ん中に置くと、ポテトを一つつまみ付いてきたケチャップにつけてから口へと運んだ。

 こういうところ、優しいんだよな翔は。俺もお礼を言いつつ一本食べる。そうして間を置いたところで本題を話し始めた。


「美香さんからお話を聞いてると思いますが、この間(・・)君のお話を美香さんに聞いたんです。そこで、仲の良かった翔さんと急に仲が悪くなったと聞いて()()を聞きにきたんです」

「理由ねえ」


 翔はつまらなそうにポテトをつまみ、手でぶらぶらさせていた。


「話づらいですか?」


 そう聞くと、翔は俺に鋭い視線を向けた。無意識に背筋がピンと伸びてしまう。


「あいつに、美香になんて言われたかは知らないけど君には関係ない話だろ?」

「関係なくないです。私は(・・)君と入れ替わりでこっちに来たわけで、(・・)君が地元を離れたい状況にならなきゃ私はこっちには来てません」

「だからってこの話自体君が知らなきゃならないような話じゃないだろ」


 ここまで来たのに翔はまだ話す気はないみたいだ。だけど、翔の事情を知るまでは俺も引き下がれない。


「私は、(・・)君を助けたいんです。それに、美香さんも、翔さんも」

「なんで俺が助けられなきゃならないんだよ」


 少し苛立っているのか翔の口調がやや強めになる。


「美香さんは(・・)君のことでずっと後悔していました。翔さんも、そうじゃないんですか?」


 翔は目線を下に向けた。翔自信もあの件で何かしら思っているのかもしれない。そう思って聞いてみたが、当たっているみたいだ。


「だったらなんだよ。お前に話したら何か変わるのかよ?」


 下を向いたまま俺に聞いてくる。声は大きくないが、口調が変わったせいか恐怖を感じる。まるでオオカミに睨まれているような感じだ。

 もしかしたら翔にとって、ナイーブな話なのかもしれない。これ以上は赤の他人の奏向が踏み込んではいけないところなのかもしれない。

 でも、赤の他人だからこそ出来ることもある。今の俺は、今の俺だからこそやらなくちゃいけない事がある。(・・)ではない俺が。


「無理にとは言いません。ただ、美香さんの時は互いのすれ違いが原因でした。美香さんの思いを(・・)君は知らなかったんです。それと同じで、翔さんには翔さんの思いがあって、その思いを(・・)君も美香さんも知らないのが原因なのではないかと思うんです」

「俺の、思い……」

「はい。もちろん(・・)君や美香さんに話しちゃいけない話は話しません。ただ、私は関係者じゃないから、第三者だからこそこの件を解決出来ると思うんです」


 俺の思いは伝えた。あとは翔次第だ。翔はしばらく黙った後、顔を上げた。


「こんなことやったってお前にはなんの得もないだろ?」


 じっと俺の目を見ている。得がない? 俺にとっては得しかない話なんだよ。翔と、美香と、また一緒に居れるかもしれないんだから。


(・・)君、美香さん、翔さん、三人が仲直りできるかもしれません。それだけで十分です」


 すると、翔の重い表情は一気に柔らかくなっていった。


「なんだそれ、意味わかんねえ」


 そう言って翔は立ち上がるとその場を去ろうとする。慌てて引き留めようと手を伸ばすと、逆に手を掴まれた。


「お前は少しは学習しろ。女がそんな体張った行動に出るもんじゃないぞ」


 そうして手を離されると、翔の間片手はいつの間に飲み切っていた空のグラスを掴んでいた。


「いいよ。話してやるよ。代わりに胸糞悪くても後悔すんなよ」


 そう言うとドリンクバーコーナーへと歩いていった。


「うまく、いったのかな?」


 ようやく人心地つけると思うと、途端に体が痛くなってくる。変に緊張してたせいか体が凝り固まってるみたいだ。

 机に突っ伏して体の力を抜くと体中から早い脈動を感じた。思ってた以上に怖くて、緊張して、不安でいたみたいだ。

 すると、翔は飲み物を足して戻ってきた。再び姿勢を整えると翔が話すのを待つ。


「で、何処から聞きたい?」


 翔が持ってきたグラス中身が黒く、泡が出ている。多分コーラを入れてきたんだろう。気づくと、俺のグラスも空だった。


「えーと、その前に私も飲み物足してきますね!」

「お前なぁ……」


 呆れる翔を背に、ガチガチになった体をほぐしながら俺もドリンクバーコーナーへ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ