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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
3/40

3. 変化の第一歩

説明部分が多くてTS要素がほぼ皆無ですが……次回には来ます。


追記、2019.6.28 話の終盤辺り一箇所を加筆しました。

 ひとまず、お腹が減ってたのでエリスが作った夕食を食べつつ話を聞くことになった。


「ん!うまい……」

「そうですか!よかったです」


 夕食には俺の好物がたくさん出された。なんでこいつは俺の好みまで知ってるんだ。天使はなんでもお見通しってことなのか。


「それで、話の続きが聞きたいんだけど」

「はい。どこまで話しましたっけ?」

「俺を女に変えたのは助けるためだってって」

「あーそうでしたそうでした。」


 エリスは俺の好物の一つ、肉じゃがをつまみながら話を続ける。


「私たち天使が人を助けてるって話はさっきしましたよね。私は奏を助けるためにこの世界に来たんです」

「その助けるためってのはどういうことなんだ?」


 エリスはエビフライの尻尾と格闘しつつ、諦めて尻尾ごと食べてから話を続ける。本当にこいつはマイペースだよな。


「えーとですね、天使は人の幸福の感情が生の源なんです。逆に、人の不幸の感情は悪影響を与えます。天使は人の不幸の感情を減らすために、人を助けて幸福になってもらってるんです」

「つまり、生きるためってこと?」

「まあ、そういうことですね」


 意外に天使の世界って現実感があるんだな。無意識に箸が最後の唐揚げへと伸びる。だが、箸が唐揚げを摘んでもこっちへと運べない。見ると、エリスも同じく唐揚げを箸で摘んでいた。しかも結構必死に。

 いや、この天使食い意地貼りすぎだろ。


「そ、それでですね、奏の不幸の原因は、人を信じられないことにあると、思ったんですよ」


 摘みながらも話を続けるエリス、俺は箸をそっと離すと、エリスは笑顔で唐揚げを口へと放り込んだ。


「奏が、なはのひひ、ひはひいひほを、ん、はあー、美味しい!作れればいいなと」

「いや何言ってんのかわかんないし!食べてから話せよ!」


 エリスはとことんマイペースを貫いていた。お茶で一服してから、姿勢を正してまた話し始める。


「つまり、奏の人間不信の克服には親しい人を作るのが早いと考えたんです。そこで、男の子よりも他の人と親密になりやすい女の子に変えさせてもらったというわけです」


 たしかに、世間的に男性より女性の方が人との距離感が近いように感じる。中にはかなりギスギスしてるという話も聞くが。


「それに今の奏には少しでも感情を表に出して欲しくて、ほら女の子って美味しいもの食べた時とか嬉しいことあった時って表情に出やすいじゃないですか。今の奏は自分の中で思いを押し殺してるような気がして」


 塞ぎ込んでから俺はあまり笑わなくなっていた。代わりに悲しんだりもしない。何も感じないようにしてた。こいつは、それを見抜いたのか。


「実際、効果覿面(こうかてきめん)ですよ!さっきも思いっきり泣けましたし、今だって美味しそうに食べてましたし」

「おれ、そんな顔してたのか?」

「はい!可愛い笑顔でした!」


 俺は、完全に無意識で表情が笑顔になっていたみたいだ。こいつといると調子が狂うけど、前みたいな素の自分が自然と出てくるような気がする。

 気がつくとテーブルに並べられていたおかずは、いつのまにかなくなっていた。エリスは立ち上がると自分と俺の食器をキッチンへと持っていく。


「とりあえず、最終目標は親友と呼べる人を作ってもらうことです!」

「親友?」

「はい、親友です。奏が人を完全に信じられるようになったと言えるには、親友のような仲の人を作ってもらわなければ!」


 まあ、言われてみれば確かに親友と呼べるほどの仲の人ができたら、俺はその人を信用したということだ。つまり俺の人間不信も改善されたことを意味する。


「そのためにも、奏には今日から色々準備してもらわないといけないんです」


 エリスはどこから出したかわからない、書類のようなものをテーブルに置いた。


「準備ってどんな?」

「とりあえず、奏がその姿で生活できるようにしないといけません。そこで!奏の今の状況を確認してもらいます」


 置かれた紙には大きく、「概念変更申請書」と書かれていた。


「これは簡単に説明すると私のいた世界、この世界では天界とか天国なんて呼ばれてますね。で、その天界にこの世界、私たちは人間界と呼んでいますが、その人間界のルールを変えてもらうように申請する書類なんです」


 うん?いきなり話が難しくなってきた。エリスはなんとか伝えようと身振り手振りで説明する。


「えーと、例えばあの動物は何ですか?」


 エリスはリビングに飾ってあった犬の描かれたカレンダーを指差した。


「あれは犬だろ?」

「はい、正解です。では、なぜあれを犬だと思ったんですか?」


 なぜって、犬は犬だろう?エリスは自信満々にこちらを見ている。


「答えられませんか?それは、奏にはすでに犬の情報を知っているからなんです。で、この情報を概念と言います」


 ここテストに出ますよ、などと言いながらエリスは眼鏡をかけてるように鼻を指で押し上げる動きをして説明を続ける。


「では、問題です!この犬の情報を猫に変えてしまったらどうなるでしょう?」


 犬の情報を猫に変える?つまり犬を猫と思ってしまうってことか。


「犬を見て猫って答える?」

「正解です!つまりこの申請書は世界の概念、つまり認識を変えることができるんです」

「要はその紙に俺が女って書けば」

「はい、今のように奏が女の子になっちゃいます」


 つくづく常識はずれだとは思うが、天使はなんでもできるのか。


「奏の身の回りのことはもう提出済みなんです。つまり、この世界はすでに奏が女の子として認識されているんです。それで、奏がどんな風に認識されてるか確認してもらいたいんです」


 エリスはもう一枚申請書を取り出した。そこには処理済みの印が押されていて、俺のことが事細かに書かれていた。


  ・対象者

  柏木 奏

  ・変更項目

  ・名前 柏木 奏向(かなた)

  ・状況 天ヶ崎高校一年 転校生


「柏木、奏向(かなた)?転校生?」

「名前は同じ方がいいかと思いまして、漢字だけ返させてもらいました。奏向には通っていた、同じ高校に転校生として通ってもらいます」

「通うって、俺が、学校に?」

「はい。心配しないでください、私もちゃんと転校生として通わせてもらいますから」


 申請書の下の方を見ると、エリスについても書かれていた。


 ー

  ・対象者

  エリス・ハート

  ・変更項目

  ・名前 柏木 襟澄(エリス)

  ・状況 天ヶ崎高校一年 転校生

  ・年齢 16歳

  ・詳細 柏木家の長女、奏向とは双子

 ー


 ……ん、長女?双子……


「ってなんだよこれ!双子って!?」

「私がこの世界で、奏向と暮らすにはそういう設定の方がいいんですよ。じゃないと同学年とか諸々面倒ですし」

 

 エリスはかなりご機嫌に喋ってくる。俺がどうしようもできない中で、そこそこ大事なことが勝手に決まってしまったことに驚きが隠せない。エリスの見た目は日本人の見た目と同じで綺麗な黒髪に黒い瞳をしている。これならば、双子ということも説明できなくはない。などと冷静に考えてしまった。

 よくよく申請書を見ると、身長まで記載されていた。こいつ、もしかして俺を妹にするから身長もこいつより低めに変更したとかじゃ……


「とにかく!奏向の人間不信克服のために頑張りましょう!なんなら、エリスお姉ちゃんって呼んでいいんですよ?」


 エリスのにっこりと曇りのない笑顔にとてつもなく怒りが湧いた。体が覚えてしまったのかエリスの服の襟首を掴んで思いっきり揺らした。


「お前は本当無茶苦茶だ!」

「え、な、何が悪いんですか〜?克服すると決めた以上は行動に移さないとダメじゃないですか!もしかして、妹なのが気に入らないんですか?後、揺らさないでくださ〜い」


 何が悪いのかわからないエリスは俺を説得するが、その言葉が余計に俺の逆鱗に触れる。


「はあ、はあ、親友を作るために人を女に変えたり名前やら存在やらを変えたり、お前ほんとなんなんだよ!?」


 瞬間的に血が上った頭をなんとか冷静にもちなおし、揺さぶるのをやめると、理不尽すぎることへの不満をエリスにぶつける。が、


「???、私は天使ですよ!」


 少し悩んでから出された一言にぐったりとうな垂れた。

 その後もエリスは憧れてたらしい双子の関係になれたことへの感想を数十分程語っていた。


 〜〜〜〜〜〜〜


「とりあえず、これだけは確認させてくれ。俺はいつまでこのままなんだ?」

「奏向の不幸な感情が大丈夫と判断できるまでです。つまりは奏向の人間不信が治るまではこのままというわけです」


 ようやく落ち着いたところで、話をようやく本題へと戻した。ようは、新手の荒治療をさせられるということか。


「そうか」

「はい!」


 いつの間にやら、こいつの突拍子もない発言にも慣れてきて驚きも少なくなっていた。


「そういえば、お前の髪とか目が黒くなったのってこの申請書のせいなのか?」


 色々ありすぎて忘れてしまっていたが、こいつに最初にあった時(今でも心の中とかよくわからないのだが)確かに金髪碧眼という天使のイメージ合うような外見だった。しかし、今の姿は黒髪に黒目と一般的な日本人と変わらない見た目をしている。


「あ!気付いちゃいました!?そうなんですよ、奏向と姉妹ということならあの見た目は明らかに合わないですからね。なので、短期間でイメチェンしたというわけです!それにしても、一回しか見てないのに覚えているとは奏向、ポイント高いですよ!」


 ただ気になっただけなのだが、エリスは上機嫌で話してきた。つまりは俺と姉妹ということを怪しまれないために見た目を変えたということみたいだ。

 その後も服装はどうだだの髪型はどうだだの質問責めにあって疲れてしまった。エリスに散々掻き乱されたせいか、いつのまにか汗をかいており少しベタついていた。

  汗でも流すか。そう思って立ち上がる。


「ちょっと汗流してくる」


  風呂場へと足を運ぶ。


「奏向、お風呂……行くんですか?」


 エリスから、少しよそよそしく声がかかる。今日一日で一番よそよそしい。というか、気を使ってるようなそんな印象の声が。


「いや、少し汗かいたみたいだから風呂でシャワーでも浴びようかと」


 この時は疲れていたせいか、考えないようにしていたせいか、この後のことを何も考えていなかった。


「えとえと、その、一人で大丈夫ですか?よければ私も手伝いますけど」

「いや風呂ぐらい一人で大丈夫だよ」


 あまりにも常識はずれなことがありすぎて、今の自分の体について頭から無くなっていた。


「でも、奏向は女の子の体の洗い方、わかりますか?」

「へ?」


 間抜けな言葉とともに、今の状況を、女の体であるということを思い出して顔を青ざめた。

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