26. ひと夏の思い出 (2)
とうとうPV10000達成しました!感想も頂きありがとうございます!
えー、早めに投稿すると言ったな、あれは……無理でした。ごめんなさい!二話投稿しますから!
というわけで、一話だと長いので二話に分けて投稿します。
「え? 夏祭り。行く行く! 絶対行くよ。うん?平気平気。そしたら明日の集合場所とかはまた連絡して。じゃあまたね」
耳に当てていたスマホを下ろす。画面にはSNSアプリ"LICE"の利麻とのトーク画面が表示されている。
「というわけで、夏祭り行くことになりました」
「やった!」
「あー、よかったわ」
参加の報告をすると、エリスと母さんは思い思いに喜んだ。俺としてはこの報告はあまり喜べた物ではないのだが。
別に、利麻と一緒に祭りに行くことが嫌だということではなくて。問題は、
「これでようやくあの浴衣を使えるわ」
「よかったですね、奏向」
「あー、うん。よかったよかった」
「利麻が参加する場合は浴衣を着ていく」という条件が通ってしまったからなのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「夏祭り? そっか、もうそんな時期なんだ」
家の近くで毎年行われる夏祭り。意外にも出店が多かったり、花火が打ち上がったりと大きなお祭りだ。
小さい頃は毎年のように見にいっては、りんご飴なんかを買ってもらったりしてた。ここ数年は行く機会がなかったけど、行ってみるのも悪くないな。
「せっかくだし友達でも誘って行ってきたら?」
「行きましょう! 奏向!」
エリスはかなり乗り気なようだ。まあ、後少しの休みも特にやることないし行くだけ行ってみるか。
「やった! これで出店の食べ物巡りができます」
「もう、エリスちゃんたら」
本当にエリスは食い意地が張りすぎている。しかし、屋台なんて久しぶりだな。何食べようか、りんご飴は外せないとしてソース煎餅とかわたあめは手がベタつきそうだしな。
かき氷は食べる順番的に最初が最後かな。焼きそばは必ず食べるとして……。
「ああ、こんなこともあろうかと浴衣も持ってきてて正解でした」
「へえー、エリスちゃん浴衣も持ってるの」
「はい。一応念のためにと」
エリスは最初の頃からかなり服を持っていた気がするが、浴衣も持ってきてたのか。なら、それを着て行くつもりなのか。
まあ、このスタイルの良さなら似合いそうではあるけど。
「あっ! そういえば、取っといた浴衣のお古があったような」
…………え? いや、これ、この感じ不味くないか? なんか、いつものようになる気が。
母さんは自分の寝室に行くとガサゴソという音が聞こえてきた。本当に浴衣を探してるみたいだ。
エリスも様子が気になって母さんのところへ向かう。それから十分程度経った頃に、
「あったあった!」
という声が聞こえ、ドタドタとリビングに戻ってくる二人。まずい、とてつもなくまずい。
いつもだと、ここでエリスが変な提案してきて。それで、なあなあで流されて俺も浴衣で行くみたいな。
思った通りに二人とも、特にエリスは満面の笑みを浮かべている。
「せっかくですし奏向も……「いや絶対に着ない!」」
ダメだ。ここで引いたらこいつは絶対に俺に浴衣を着せて夏祭りに行かせる。負けるな、なんとしても断固拒否しなければ。
そんな時に、母さんはある提案をしてきた。
「なら、利麻ちゃんが来るなら浴衣を着る。来ないなら着なくていい、ってのはどう? どうせ誘うのは利麻ちゃんなんでしょう?」
ん? この賭け変じゃないか? だってもともと友達を誘って行けと言ったのは母さんだし。
たしかに誘うなら利麻を誘おうと思ってたが、利麻が一緒に行けないのなら無理に行く必要もない。まあ、エリスはどっち道行きたがるだろうけど。
こんな賭けにのる必要はない。そんな考えの中、あることを思い出した。
そういえば、利麻夏休みの最後の方は結構バイト入れてるって言ってたっけ。たしか、祭りの日も……うん、バイトが入ってるはず。
携帯で日付を確認すると、確かに利麻がバイトと言っていた日だ。なら、この賭けは勝てる。そう思ったが最後、つい口走ってしまった。
「わかった。いいよ」
「なら早く連絡取っちゃいなさい」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
言われるがまま利麻に連絡を取り、その結果がさっきの返事というわけだ。利麻曰く、その日は午前がバイトだったらしく午後は空いているのだそうだ。
我ながらなんであんな賭けにのったのかと後悔しか出てこない。
そしてその結果……、
「とりあえず、万歳してください」
「えーと、たしかこっちが前で、これがこうで」
絶賛着付け中なのである。
明日の予行演習ということで、浴衣を着せられることになった。
母さんとエリスは多少手間取りながらも俺に浴衣を着せて行く。俺はまるで着せ替え人形にでもなったように着せられている。
俺は浴衣はきちんと着たことがなかった(旅館で着たことはあるが自己流で着てた)ため着方が全然わからないが、二人がやってる工程は簡単には覚えられそうにはなかった。
普通に洋服を着るよりも数倍もの時間を有して着せられていく浴衣。おはしょり?と呼ばれるものを作ったり、あれやこれやとまるで折り紙のように整えられ、シワなく綺麗に着せられていた。
「どうですどうです?」
そのままお風呂場の前まで連れて行かれた俺は、風呂場の鏡に写る自分の浴衣姿を目の当たりにした。
浴衣は淡いピンク色の生地、それに映えるような赤系の色の花柄があしらわれている。その浴衣を見に纏った自分の姿はなんだかいつもと違っていて、まるで年相応の少女のように見える。
「きれい、かも」
そうぽつりと口から出てしまった。改めて、自分が女なのだと認識する。その姿はか弱く、幼く、でも綺麗で、黒く艶やかな髪が光によって煌めく。
「ですよねですよね!なら、帯も巻いちゃいましょう」
再びリビングに戻ると、今度は浴衣の帯を結ばれた。こっちの方がやり方がややこしいのに、エリスは卒なくこなしていた。
「エリスちゃんって着物の着付け手馴れてるのね」
「昔着てた時がありまして、でも最近はご無沙汰だったのでようやく思い出してきました」
するすると帯が通され、綺麗に帯を結ばれた。
「キツすぎたりはないですか?」
「うん。大丈夫」
多少体を動かしてみると、袖口はひらひらと揺れ、歩こうとするといつもよりも歩幅が出せずぎこちなくなってしまう。
「せっかくですから、髪も纏めちゃいましょう」
そう言うとエリスは俺を椅子に座らせる。すると、後ろ髪を纏め始めた。後ろで何をやってるのかはわからないが、髪をいくらか纏めているらしい。
エリスは鼻歌まじりに作業を続けるが、こんなに髪をいじって後で解けないとかってことはないよな。
脳裏に浮かぶのは、雨の日などに傘に髪が引っかかって抜けてしまう時の痛み。あれが、大量に……。
「そ、それって、ちゃんと解けるよね? 引っかかって痛いとかないよね?」
「大丈夫ですよ。ちゃんとシャワーとかで濡らしてからトリートメントとかつければ綺麗に解けますから。…………だいたいは」
「だいたいは?」
「冗談ですよ、冗談」
余計不安になった。もうなるようにしかならないだろう。後でスマホで全力で検索することを決意する。
エリスはヘアアイロンをかけたり、ヘアピンをつけたりと、俺の髪に様々なことを施しようやく完成した。
「これで完成です!」
そう言ってエリスは背後から、スマホのカメラを使って写真を撮ると俺に見せてくる。
気になる髪型は纏められた髪が複雑に編んだように見えるが、見た目はお団子のように後ろで纏められていた。髪が纏められたことで、うなじがくっきりと見える。
「へえー、なかなか似合うじゃない」
「ですよね。奏向はおしゃれすれば可愛いんですよ」
「なっ!?」
"可愛い"という言葉に顔を赤らめてしまう。俺、可愛いのか。って、何喜んでんだよ俺は! 最近自分がわからなくなってきた。
俺は男だよな。なのに、綺麗な浴衣を着ておしゃれもして、まるでこれでは年頃の乙女と同じではないか。
そんなことはお構いなしに、エリスは写メを撮りまくる。こんな調子で、俺は本来の目的を成すことができるのだろうか。
もともとは、陥っていた人間不信の解決と過去のトラウマを乗り越えることが目的だったはずだ。
エリスが来てから、多少は人と話せるようにはなったしトラウマにも向き合えるようになった。
あれ? 結構目的に向かってた? でも、女子として学校生活を謳歌したり夏休みに友達とプールに行ったり、一方では、女子としての日常に向かってる気がする。
全てが終わったら、俺は元の暮らしに戻れるんだろうか。すごく不安になってきた。でも、そしたらエリスは、どうなるんだろう? 俺はいつまでも笑顔で写メを撮ってるエリスの顔を不思議そうに眺めていた。




