24. ウラハラ
遅くなりました!皆さんは台風大丈夫でしたか?今回結構被害が大きいので、被害に遭われた地域の一刻も早い復興、復旧がされることを願っています。
物語も二章はこれで完結です。よければお楽しみください。
それと、今後についてはまた活動報告の方に書かせてもらいます。明日には更新しますので宜しければご覧ください。
追記 2019.10.14 活動報告を更新しましたのでよろしければご覧ください。
あれから日が過ぎて、今日は休み明けの月曜。俺たちはいつも通り朝の支度をすると学校へと登校する。
利麻とは、何かあるたびに連絡をもらっていた。利麻の両親に話をしたこと。やっぱり両親はかなり心配をしたみたいだったけどちゃんと利麻の気持ちは伝わったみたいだった。
それから警察に行ったこと。驚いたことに、担当した警官と先生が知り合いだったらしい。
なんでも、昔先生がやんちゃした時に世話になったとかなんとか。今までのことを考えるとなんとなく想像できた。
それで、ある程度準備をしてもらってたお陰か諸々の手続きはスムーズに進んだようだ。休みの間で先輩たちとの話し合いが行われたらしい。
証拠も十分使えたため、事件として取り扱われた。ただ、年齢から少年法やらなんやらと逮捕や刑罰は行われなかった。
今後関わらないこと、またお金を返すことなどを誓約書とともに約束させて事件は幕を閉じた。
先輩たちの両親も恐喝などのことは何も知らなかったらしく、怒ったり泣いてたりと一悶着あったらしい。
一番問題な報復の件だけど、話を聞くと先輩たちの彼氏、不良の人は警察沙汰になったことで繋がりを切ってしまったらしい。
つまりは今後利麻の身に何かあることはないということだ。
ということをメールで聞いてたため、過度な心配はしていないがそれでも少し胸がざわついていた。
利麻にとって解決したのか、元気な姿が見れるのか、この目で見るまではどうしても気になっていた。
教室に着くや否や周りを見渡して利麻の姿を探すが見当たらない。いつものようにクラスメイトが何気ない話を振ってくる中、時計を見ると朝のホームルームの時間をとうに過ぎていた。
「なんか、先生全然来ないね?」
「もう直ぐ一時間目のホームルームになっちゃうじゃん」
うちの学校は月曜日の一時間目はクラスのホームルームの時間になっている。進路やら行事やらの話を一時間分使って話したりする。
周りが、ざわつき始める。「先生休みか?」、「ラッキー!」、などの声が聞こえる。
大幅に時間が過ぎて、時刻は九時になった。すると、扉から静香先生が現れた。
先生の登場にみんなは急いで席に着く。
「すまない、遅くなった。今日のホームルームだが、残念なことに自習となった」
その瞬間クラスが騒ぎ出す。しばし喜びの声が聞こえた後、再び静まり返る。
「というわけでだ、静かに!しているようにな。それと、柏木姉妹」
「「は、はい」」
「お前たちはちょっと来い」
先生は手招きをすると教室を出ていった。「柏木さんたち何々?」と聞かれるが、わからないとだけ告げて俺たちも教室を出る。
理由など等にわかっている。でも、それをクラスにわざわざ広めることはしない。廊下で待つ先生とともに向かった先は"生徒指導室"だった。
教室のドアが開くと、そこには利麻の姿があった。部屋には真ん中に大きな机が一つあり両サイドに三人分パイプ椅子が並んでいた。
利麻と俺たちで並んで座り、対面に先生が座る。
「というわけで、話は聞いてるだろうがなんとか無事に片がついた」
利麻もこっちに笑顔を向けているから本当にうまくいったんだろう。
「よかったです!本当に無事に終わってよかったです!」
「ありがとう襟澄。心配かけてごめんね」
先生は一つ、咳払いをする。
「でだ、お前たちを呼んだのはそれだけじゃない。学校等の動きの報告だ」
利麻の話だと、事は警察が処理してその後学校がどう対応するかは聞いていないらしい。ちなみに今回の件で校長も警察に赴いたみたいだ。
「お前たちが納得するかはわからんが、あいつらの処分は未成年ということもあって特に重い刑罰等はなかった。学校としても検討した結果、停学一週間という事になった」
一週間の停学。それが重いものなのか軽いものなのか、俺にはよくわからない。
「一週間って、軽過ぎませんか!?」
エリスは反論する。
「まあそう思うのもしょうがないが、学校の意向だ」
「むぅー」
エリスは膨れっ面をしながらぶつぶつ文句を言っている。
「祠堂の方はどうなんだ?」
先生は利麻に話を振る。でも、利麻は不服そうな顔はしていなかった。
「私は、解決しただけで満足です」
利麻は多分強くなったと思う。俺たちが問題を知る前と今では明らかに違っているように見える。
前より堂々と、臆する事なく振る舞っている。
「そうか、ならこの話は終わりだ。次にいくぞ」
エリスはまだ不服そうだった。姿勢を正すと再び先生の話を聞く。
「家庭科の窪田先生だが、しばらく仕事を休むことになった」
「それって……」
利麻が驚く。確か窪田先生って料研の顧問の先生だったっけ。利麻の話だと先生も先輩たちの被害にあったとか。
心配そうにする利麻に対して静香先生は手を横に振る。
「ちがうちがう。研修だ、研修。今回の件で教師として自分を磨き直したいんだと。そうなんだろ?」
先生が突然廊下に向かって話しかける。すると、いつのまにか扉の窓には人影が写っていて、扉を開けて入ってくる。
入ってきたのは、まだ若々しい女性の先生だった。髪はショートで丸メガネが特徴的だ。この人が窪田先生だろうか。
「祠堂さん、今回の件で力になれなくてごめんなさい!」
入ってくると、扉の前に立ったまま頭を下げた。突然のことに利麻は驚いている。
「く、窪田先生、頭を上げてください!」
「いえ、私は教師として力不足だった。本当ならあなたを守ってあげる立場なのに」
利麻は立ち上がると窪田先生の元へと向かう。先生の瞳からは涙が溢れていた。
「私、あの子たちにされるがままで、どうしていいかわからなくて、それで静香先生に相談したの」
「静香先生に?」
静香先生の方を向くと顔を振って頷いた。
「本当に力になれなくてごめんなさい」
「いいえ、私、先生の料理大好きですし教え方も上手ですから、また教えに戻ってきてくださいね」
「うん。必ず、今度こそ教師として大きくなって戻ってくるから」
「はい!待ってます」
そうして窪田先生は教室を去っていった。改めて席に座ると静香先生が話を続ける。
「話の途中だったが、窪田先生の代わりとしてしばらく私が料研の顧問をすることになった」
「え、本当ですか!?」
「ああ。だから、これからよろしく頼む。うまい飯を期待してるぞ」
先生って、料理とかできるのか?そんなことを思いながら話は終わった。ひとまず今回の件の話は全部みたいだ。
利麻と教室に戻ろうとする中後ろから声がかかる。
「柏木姉妹、ちょっとだけいいか」
「え、あ、はい」
「なんでしょう?」
利麻だけ先に教室に戻ると、俺たちは二人して先生の方へと向かう。
「お前たちにはもう一つ話すことがある」
先生はそう言った。いつのまにか先生の顔から笑みが消えている。
「今回の祠堂の件、私は、お前たちが祠堂の力になるように仕向けた」
「「…………えっ?」」
先生の言ってることがいまいち理解できなかった。俺たちを仕向けた?先生は続ける。
「詳しく話そう。さっき窪田先生が言っていたが私は先生の頼みで祠堂の問題を解決しようとしていた」
そういえばさっきそんなこと言ってたっけ。だけど、今までの流れの中で先生が利麻に関わったのって俺たちが問題を解決しようとしてからじゃなかったか?
「実を言うと窪田先生は私の後輩でな。どうにかして力になりたかったんだ。ただ、どう解決するか悩んでいてな。そんな時にお前らが転校してきた」
窪田先生って、静香先生の後輩だったんだ。だから相談したのかな。
「聞くと、お前らは祠堂と仲が良かったからな。お前らの人柄を見つつ、もしかしたらと思ったわけだ。お前らなら祠堂の問題の力になるかもしれないと。そこで、部活体験だ」
部活体験、そういえばあの時利麻が料研だと教えてくれたのも強引に活動を体験させてもらったのも先生だった。
「祠堂の問題点は祠堂自身が外に助けを求めなくなったことだ。だから、私が強引に事を運ぶよりも祠堂自身が解決に向かう方がいいと考えた」
「つまり、そのために私たちを利麻とより接触させた。ということなんですか?」
「ああ、それで間違いない」
あの時の部活体験は俺たちを利麻の問題に近づけるために仕向けたこと、ということなのか。
「その後は、お前らも知っての通りだ。流石にここまで予想通りにいくとは思わなかったから驚きはしたが、祠堂は自分から解決に向かってくれた」
先生の思惑通りに利麻は変わって、そのおかげで先生も動けるようになった。つまるところ俺たちは先生の掌で踊らされていたわけか。
「祠堂のためとはいえお前たちを試すようにしてしまった。すまなかった」
静香先生は頭を下げる。仕向けるとか、試すようにとか言われるとムッとしてしまう。
でも、本当に悪い人ならそんなことは俺たちには話さないはずだ。それに最終的には利麻のために力を貸してくれたわけだし。
「別に、今更話されても怒ったりしないですよ。実感も湧かないですし」
「そうですそうです」
エリスも特に不満はないみたいだ。顔を上げた先生はようやくいつもの顔に戻った。
「やっぱり、お前たちは面白いやつだな」
「それって褒めてるんですか?」
「ああ、私なりの最上級の褒め言葉だ」
いまいち褒められた気がしないが、先生的には俺たちのことを認めてくれてるのだろうか。だったら。
「それなら、いい加減名前で呼んでください」
「名前、か?」
「そうです。私は、柏木奏向です」
「私は柏木襟澄ですよ!」
先生は一瞬だけ考えると、フッと笑い始めた。
「あはは、そうか、そうだな。奏向に襟澄か」
「そうですよ、先生きちんと呼んでくださいね」
エリスがダメ押しをすると、先生は悪そうな笑みを浮かべた。
「そうだな。よし、そろそろ教室に戻るぞ柏木姉!」
「なっ!?」
そう言ってエリスの背中を押して教室を出ようとする。対するエリスは不満そうにプンプン怒っている。
まったく、先生には敵いそうもない。すると、先生は振り返りながら俺を呼ぶ。
「ほら、お前も行くぞ。柏木、奏向!」
「!?」
「なななっ!?」
ニッと笑うとまた駄々を捏ね始めたエリスを連れて行く。なんだか、胸が熱い。人に認められるのっていつぶりだろう。
体をめぐる高揚感を感じながら、二人を追って教室を後にした。




