21. 決意のお宅訪問 (2)
続き、投稿です。二章もクライマックスになってきました!
あれは、私が入学して少し経った頃、料理研究部に入部したての頃だった。名前だけで入部届けを出したけど、実際には今現在はほとんど活動してないって聞いてどうしようか悩んでた時。
そんな時にたまたま見てしまった。部の先輩たちのとある行動。この間の私みたいに、生徒からお金を取っているところを。
私はその時、何かの正義感に駆られてたのかわからないけど先輩たちにやめるように言ったの。
お金を取ってる相手は同じ部の二年の先輩で、あの先輩たちは三年生だったんだ。二年の先輩はすごく真面目でいい人だったから、どうやってか助けたくて。
私、先生に報告するって言ったの。そしたら、そしたらさ。突然、先輩たちに脅されたんだ。
「私たちの彼氏メチャクチャ強え不良なんだよ。もしチクったりしたら、お前もお前の友達もどうなるかわかんないからな」
すごく怖かった。二年の先輩はそれ以来学校に来なくなっちゃったし。でも、なんとか顧問の先生に報告しようとしたんだけど。うちの顧問、家庭科の先生でね。
でも、先生も、先輩たちに色々されてて。話をした時には、かなり疲弊した顔で私に家庭科室の鍵を預けて、それだけ。その後、先生も学校を休みがちになってる。
それから少しして、私の友達が顔を真っ青にして私に話してきたの。昨日、うちの制服を着た人と男の人何人かに絡まれたって。
私の名前を出されて、友達だって答えたらいきなり態度が変わったって言ってた。それで、その子にもお金を要求して脅迫したって。
幸い、街の人が声をかけてくれてその場は収まったみたいだけど明らかに私の関わる人に対して何かをしてきてた。
それから、クラスに噂が広まった。私に関わると不良に絡まれるとか、不幸が訪れるとか。あっという間にみんな私を避けるようになった。
「奏向ちゃん。あの日の昼休み、私とお昼食べた時誰も寄ってこなかったでしょ?」
「たしかに、珍しく誰も話しかけてこなかった」
「そういうことなのよ」
話を戻すけど、それから私は他の子には危害を加えないで欲しいと先輩たちに言いに行った。そしたら、先輩たちは言ったの。
「なら金出せよ。それなら他の奴には手を出したりはしねえよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それって」
「そう、これが私がお金を渡してた理由」
「じゃあ、関わらないでって言ったのは」
「奏向ちゃんたちが目をつけられたら嫌だから。私のせいで、悲しい思いをして欲しくないから」
利麻は涙を流しながら、でも優しく見つめている。利麻は俺たちのことを思ってあんなことを言ったんだ。なのに、俺は何も考えずに。
「それって、そんなことってないですよ!」
エリスは声を荒げた。利麻の事情を聞いたらそう言わずにはいられないだろう。俺も、手を握りしめている。そのくらい辛くて、悲しい。
「利麻は、こんなに苦しんでるのに。それなのに利麻のせいで苦しむなんて!そんなことなんてありません!」
「襟澄」
エリスは利麻を抱きしめた。エリスも、少し涙目になっている。利麻はただ優しく抱かれる。
「私がバイトを始めたのもその時からなの。お母さんには欲しいものがあるからって言ってあるけど、実際はお給料のほとんどを先輩たちに渡してる」
エリスから解放されると、利麻は再び話し始めた。
「バイトは、大変だけど楽しかった。けど、先輩たちに渡すためにお金を稼いでるって思うと憂鬱で。そんな時だったんだ、二人に、奏向ちゃんと襟澄に出会ったのは」
利麻が悩んでいる時に、俺たちは出会った。けど、利麻からはそんな素振りは全然見えなかった。
「二人に出会った時、私、思っちゃったんだ」
「思った?」
「うん。都合がいいことだけど、この二人なら助けてくれるんじゃないかって」
心身ともにボロボロになっていた利麻にとっては、俺たちは最後の頼みだったってことなのか。
「私のことを知らない二人なら助けてくれるかも。そう思った。思っちゃったんだ」
利麻は申し訳なさそうに話す。
「もう誰も助けてくれないって思ってた。誰かに話したらその人が不幸になる。だから一人でなんとかしようって思った。でも、二人に会ってそう思っちゃった。なんか私都合良いよね」
「そんなこと……」
「だってさ、私は何も話さずに二人に近づいたんだよ。それでさ、助けて欲しいなんてさ。都合が、良過ぎるよ!」
利麻は再び涙を流し始めた。誰も利麻を責められない。それなのに、利麻自身は自分を責めてしまう。
「それでも、利麻は私たちのことを考えて距離を取ろうとしたんでしょ?」
利麻は助けが欲しかった。でも、自分の噂を知ってしまったら離れてしまうと思った。だから時が来るまでは事情は話さずにいたのだろう。
でも、それならあの時に関わらないでと言ったことに理由がつかない。俺たちのことを思って、迷惑がかからないようにしようとした以外には。
「だって、だって、二人と居て、すごく、すごく楽しかったんだよ。そんな二人が、悲しむ姿見たくない!」
「だったら、利麻は悪くないよ。利麻は悪いどころか優しい子だもん」
「そうですよ!利麻はお弁当のおかずを交換してくれる優しい子です!」
「も、もう。奏向ちゃんも、襟澄も」
エリスの言葉のおかげか、利麻も笑顔を見せる。涙ながらに見せたその笑顔は、いつもの利麻の笑顔で、昨日からずっと悲しい表情だった利麻のその笑顔がとても懐かしく見えた。
「利麻、私も話があるの」
利麻のことは全部聞いた。今度は俺の番だ。一呼吸置くと、ゆっくりと話し始める。
「私、実は前にいじめにあってたことがあるんだ」
「奏向ちゃんが、いじめに?」
利麻は驚いた表情をする。そんなに信じられないかな。女子の世界じゃ、いじめとかは多いって聞いたことがあるけど。
「うん。中学の時にね。それで、高校も転校することになったの」
エリスの方を見ると、エリスも頷いた。本当は奏向ではなくて奏の話。でも、利麻には伝えたかった。あの時の気持ちは奏であった時の俺の気持ちだから。
「いじめられてた時さ、私誰も助けてもらえなくて」
利麻は悲しそうな顔で話を聞いている。俺は話を続ける。
「だからね、私利麻に助けたいって言ったことを断られた時"どうして?"って思っちゃったんだ」
「!?」
利麻の表情が変わった。利麻は俺たちを巻き込みたくなくて、助けを断った。でも、俺は自分の境遇と重ね合わせていた。
「それでね、強い言葉で言っちゃって……。ごめんね!昔の自分と比べて、それでなんか一人で頭に血が上って」
「そんな!奏向ちゃんは悪くない。昔そんなことがあったらそう思って当然だよ」
利麻は俺の両手を握る。手の暖かさが伝わって、気持ちまで暖かくなってくるような気がする。
「だから、ね」
利麻が握ってきた手を、俺は強く握りしめる。そして、利麻の顔を見つめる。強い意志を持って。
「今度は、利麻の気持ちを聞いた上で、私がしたいと思ったから言うね。私は、利麻を助けたい!」
「奏向……ちゃん」
俺は利麻を助けたい。この気持ちだけは変わらない。例え怖い思いをしても、それでも利麻を助けたい。
「私も同じですよ利麻。私も、力になりたいです」
「襟澄」
エリスは俺の手に両手を重ねる。エリスの気持ちも同じみたいだ。再び手を強く握る。
「二人とも、怖い思いをするかもしれないよ。それでも、いいの?」
不安そうな顔で利麻が尋ねる。それでも俺たちは強く発する。
「「大丈夫!」」
すると、利麻は大きく後ろに倒れてしまった。二人で利麻を起こす。
「あ、足、ずっと正座だったから痺れてさ。それで、なんか気持ちが緩んだのか力抜けちゃって、後ろに倒れちゃった」
すると、エリスの様子もおかしくなった。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!足、痺れてたの忘れてた」
エリスは利麻を支える姿勢のまま動けなくなった。多分、痺れが治るまでは動けないだろう。と、利麻はそんなエリスの足をツンと突いた。
「いっ!ちょ利麻やめてください!ま、待って!待ってください」
俺もエリスの方に寄ると少しだけ体を押す。エリスは一瞬揺れると、不自然に倒れこんだ。
「か、奏向!あ、あとで覚えておいてくださいね!」
「ふふふ、あはははは!!」
「ふっ、はははは」
「ま、まったくもう。ふふふ!」
気づけば三人笑いあっていた。いつもみたいに、仲のいい三人に戻っていた。
「頑張ろう!利麻」
「うん、うん!」
それからは、普通におしゃべりをした。今日の学校を休んだ理由を話すと、利麻の生理のエピソードを話してくれた。俺としてはなかなかハードな話だったけど、勉強になった。
利麻はいつも以上に利麻自身のことを話してくれた。趣味のこと、好きな芸能人、好きな歌手、いっぱいいっぱい話してくれた。
時計を見ると七時を回ろうとしていた、いつのまにこんな時間になってたんだろう。そのくらい楽しい時間だった。
「利麻ちゃん?もしよければうちで夕飯食べていかない?お家の人がよければだけど」
母さんの提案で、利麻はうちでご飯を食べることになった。利麻の親も了承してくれて利麻は喜んでいた。
「うわぁ!美味しそう!」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
今日はカレーライスだった。スパイスの香りが食欲を誘ってくる。
「「「いただきます!」」」
「はい、どーぞ」
四人で食事をしつつ、母さんは学校のこととか俺たちのことを利麻に聞いてくる。利麻は楽しそうに今まであったことを話す。
あの時は、一人でご飯を食べてた。エリスが来てから二人になって、母さんとも一緒の時は三人になった。
そして、今は利麻とも一緒に四人で食べている。あの時からは考えられなかったことだ。それが今叶ってる。
エリスと出会ってから確実に前進してきている。だから、この時間がこれからも続くように、利麻とまた遊んだり話したり過ごせるように。絶対に、失わせたりしない。
食べ終わったあと、夜も遅いため利麻の両親が車で迎えに来ることになった。玄関を出ると、一台の車がハザードのランプを点滅させながら家の前に止まっていた。
車から、一人の女性が現れる。利麻のお母さんだろう。
「娘がお世話になりました」
「いえいえこちらこそ」
母さんたちが話してる中、利麻が話しかけてくる。
「今日はありがとう。ずっと話せなかったことだから、二人が聞いてくれてすごく楽になったよ」
「そんなことなら何個でも、何十個でも話を聞きますよ」
胸を張りながら言うエリス。利麻はクスクスと笑っている。
「利麻、頑張ろう。私、力になるから」
「私もですよ」
利麻は外の暗さと対照的に明るい笑顔を向けてきた。
「うん。私、頑張る。頑張ってみる!二人が、付いていてくれるなら頑張れる」
利麻はそう言うと、利麻のお母さんとともに母さんに挨拶して車へと向かった。車は赤いテールランプを光らすと家を後にした。
車を見送りながら、俺は改めてあの先輩たちに立ち向かうことを決意した。絶対に利麻を助ける!
見送りが済むと三人で家へと戻る。
「そういえば、奏向。お風呂入る時は気をつけてくださいね。血が流れやすいですから」
途端にズッコケそうになる。
「そうね、しばらくはシャワーの方がいいんじゃない?」
続けて母さんも言う。俺はたまらず大声で言葉を漏らす。
「せっかく忘れてたのに!」
生理の痛みとだるさを思い出し、俺は先輩たちに立ち向かうのは生理が終わってからにしようと心に決めるのだった。




