2. 日常を変えるために
まだまだ未熟なものながらお読みいただいてありがとうございます!しばらくはなるべく早めの投稿で頑張ります!
「だ、だから一度落ち着いて話を聞いてください!」
「できるかそんなの!なんで体が女になってるんだ!」
俺は気付けば彼女の服の襟元をつかみ激しく揺すっていた。
「ち、ちゃんと説明しますから!だから離して!話を聞いて!」
俺は揺さぶるのをやめ掴んでいた手を離し、荒くなっていた息を整える。
「じゃあ説明してもらおうか!なんで俺の性別が変わってるのか!」
落ち着いて今の現状をまとめてみる。俺は変な夢を見て、その夢の中の少女が何故か俺の家にいて、俺は性別が男から女になってる。うん、理解できない。
「っていうか私自身に疑問とか質問とかないんですか?」
彼女は少しあざとく可愛らしい仕草をする。
体が勝手に動いた。再び彼女の服の襟元をつかむ。
「わ、わかりました。一からちゃんと話しますからまた揺らすのはやめてください!」
手を離す。
「ちゃんと説明しろよ」
「わかってますよ。一から説明します」
彼女はため息をつきながら、でもどこか嬉しげにそう言うと、話し始めた。
「まず、私が何者なのかを話します。その方が説明しやすいですから。おほん、私はこの世界でいうところの天使なんです!」
彼女は得意げにそう言った。
「は?お前が、天使?」
「ええ。そうですよ!」
誇らしく胸を張る彼女。ダメだ、全然天使に見えない。
「なんかすっごい嘘ぽく思えるけど」
「嘘じゃないです!本物です!」
彼女はムッとした顔で抗議する。これじゃ話が進まないな。
「まあ、百歩譲ってお前が天使だとするとして、なんで俺の性別が変わってるんだ?」
「それは、私が奏を女の子に変えたからです!」
犯人確保。刑罰を執行する。すぐさま手を彼女の服の襟首に、揺さぶりを開始した。
「ちょ、待ってください!話を聞いてください!仕方なかったんです!理由があるんです!」
手を離す。彼女は少しフラフラしながらも、服の襟を直しつつまた話し始めた。
「私が奏を女の子にしたのは、あなたを助けるためです」
彼女は少し真剣な表情で答えた。俺を助ける?意味がわからない。
「どういうことだ?」
「えーと、ですね。私たち天使には人を助けるためにある程度の力が使えまして、それで奏を女の子にしたんです」
彼女の話は色々俺の理解の範疇を超えてくる。思考をフル稼働して言葉を飲み込む。とりあえず、今は重要なことだけがわかればいい。頭の中を整理して、もう一度質問する。
「それで、俺を女にした理由は?」
「奏を助けるためです!」
話がループしてきた。彼女と話が噛み合ってないみたいだ。
「り・ゆ・う!理由が知りたいの!なんで女にされなきゃいけないのか!」
俺は辛抱ならず大きい声で彼女に迫るが、彼女はキョトンとした顔で
「だから。あなたを助けるためです!」
そう言った。
これじゃ埒があかない!質問の方向を少し変えて聞いてみる。
「じゃあ、なんで性別を変えることが俺を助けることになるんだよ?」
すると、ようやく彼女は俺の意図に気づいたようで、
「あ、そういうことですか。それは女の子のほうが他人と親密になりやすいからですよ」
と、さらっと言ってきた。
これも理由になってなくないか?少し疲れつつも、もう少し掘り下げて聞いてみる。
「なんで、俺が他人と親密にならないといけないんだ?」
だが、彼女からは思っても見ない答えが返ってきた。
「奏は誰か助けてくれる人が欲しいんですよね?だったら人と親密にならないといけないじゃないですか」
ん?何言ってるんだこいつ。俺が助けてくれる人が欲しい?そんなわけない。だってそんなやついるわけないんだから。
「俺が誰かに助けてもらいたい?そんなこと思ったことなんて……」
額は少し冷や汗をかいている。焦っていた。何故だ?なんで俺は焦ってる?助けなんて来ない、来るわけがない。
「そんなことないです。私はあなたのことをずっと見てましたし、あなたが誰かに助けてを求めてる声もたくさん聞きました。」
そんなわけない。俺はもう誰にも期待しない。誰とも関わらない。そう決めた。だから助けなんて求めてない!なのになんで、心臓が激しく脈打っている?
「さっきだって、助けてって言っていたじゃないですか!」
俺は、誰かに救って欲しいのか?本当は誰かに、助けて欲しいのか?助けてくれるやつなんて、俺にはもう……
(「もう、俺と関わるな!」)
あの時の言葉が脳裏をよぎる。助けてくれるやつなんていない!だから助けなんて求めない!
「そんなことあるわけない!」
気付けば机を叩いていた。突然のことに目の前にいる彼女は驚いたような、怯えているような顔をしていた。俺は何をしているんだ。俺の、本当の願いって……
「奏!いい加減にしてください!」
いつの間にか下を向いていた視線をゆっくりと上げる。彼女の顔は驚いても、怯えてもなく真剣に怒っていた。
「私はあなたの優しさを知っています。私はあなたの強さを知っています。私はあなたの弱さも知っています。だから、強がらずに素直に、自分に正直になってください。あなたが今、本当に欲するものを。願いを!」
何を言ってるんだ?なんで怒ってるんだ?俺の何を知ってるっていうんだ。何を分かってるっていうんだ。俺はそう思ってるはずなのに、気付けば涙が流れていた、肩が震えていた。いつの間にか前にいた彼女は俺の隣にいて体を抱き寄せた。そして、俺は彼女に抱かれながら泣きじゃくっていた。
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「も、もう…大丈夫だから。」
気づけば十数分の間少女の胸の中で泣いていた。落ち着いた時にはそのことが恥ずかしく、顔が熱くなっていた。ひとまず落ち着いたことを知らせる。
「はい。落ち着いたみたいですね。よかったです」
彼女はそう言うとゆっくりと俺を解放する。
「………………」
「???えーと、どうしました?」
言おうとしてる言葉が出てこないでまごまごしてしまう。きっとこの言葉を言ってしまえば、今までの、逃げてた自分を、人から避け、一人で怯えてることしかできなかった自分を否定することになる。でも、彼女は俺が求めてるものをくれた。俺がどんなに否定しようと、突き放そうとしても、向き合ってくれる、受け止めてくれる。
今の俺が欲しかったものは、
「信じる」
「え、え〜と?」
「お前のこと、信じるよ」
「…………っえ!い、いいんですか!?」
彼女は初め何を言われたかわからなかったらしく、返事が一瞬遅れてしまう。
「まだわからないことも多いけど、でも、お前なら信じられる。そんな気がするから」
ただ、手を差し伸べてくれるだけでいい。たとえ何があっても、手を伸ばし続けてくれるだけでいい。そんな救いの手が。だから、せめてこいつだけは、信じないといけない。この手を離したくない!
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
彼女は表情を一気に笑顔へと変えて俺の手を握ってくる。人の手って、こんなに温かかったっけ。人の温もりが、なんだかすごく久しぶりのように感じる。
「そ、それと…」
「???」
距離が近いせいか、改めて顔を合わせると少し気恥ずかしくなってくる。
「まだ、お前の名前を聞いてなかったと思って」
彼女はハッとして嬉しそうに微笑みながら
「エリス!エリス・ハートです!奏、これからよろしくお願いしますね!」
そう言った。
こうして、俺の日常が一人の天使によって変えられたのである。
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