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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
2章. 天使との学園生活
19/40

19. 気持ちのデトックス

本当に遅れてすいません!今週はリアルが立て込んでて、結局先週と同じに……。来週こそはなんとか(多分)


活動報告更新したのでよろしければご覧ください。

 カチッ、カチッ、カチッ


 時計の音が鳴り響く。窓から見える暗闇、街灯の明かりが広く辺りを照らしている。今日の出来事が、まるで一瞬の出来事だったように過ぎ去ってしまった。

 外の暗さは、たとえ部屋が明かりで満ちていても心の中の不安を煽る。テレビもつけず、時計の音のみが響くリビングでただ待ち続けていた。


 ガチャ


 玄関の方から扉の開く音が聞こえた。その音に飛びつくかのごとく玄関へと向かう。


「お、お母様!!」

「ただいま、エリスちゃん」


 私はようやく安堵した。これで状況が変わると、そう思ったからだ。奏向が、再び部屋に篭ってしまったこの状況を。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「メールで大体のことは書いてあったけど詳しく聞かせて。奏向に何があったの?」

「はい、それが……」


 リビングのテーブルに座りながら、今日あった出来事をお母様に伝えた。利麻の問題について、それに対しての奏向の行動、その結果どうなったのか。そして、奏向に起こったもう一つ重大なことを。


「そう、あの子、生理が始まったのね」


 奏向は今日、生理になってしまった。多分、一番最悪のタイミングだろう。利麻のことで混乱している最中、自分が経験したことのない現象にいきなり晒された。奏向の頭はそのことについていけてないだろう。


「それで、処理はどうしたの?エリスちゃんがしてくれたの?」

「はい。とりあえず、学校で私の予備のものをつけてもらいました」


 奏向の生理が発覚してから、とにかく奏向を落ち着かせることで精一杯だった。奏向はまるで何かに恐怖したように取り乱し、泣いていた。

 とにかく家に帰るために私の持ち合わせのナプキンを奏向にあげた。つけ方などは一応教えたが、奏向は魂が抜けたようにただうなづくだけだった。


「それで、今あの子は?」

「それが、今は部屋から出てこなくて」

「利麻ちゃんのこと?」

「みたいです。かなりショックだったみたいで、生理のことと合わせて混乱してるんだと思います」


 家に着いたあと、奏向は自分の部屋に戻るとそれから出てこなくなった。心配して声をかけてみたのだが、「今は一人にして欲しい」と言われたためお母様が帰ってくるまでは様子を見ていた。


「エリスちゃんは奏向のことどう思った?」

「えと、かなりショックを受けてるように」

「ごめんごめん、今のじゃなくてその利麻ちゃんと喧嘩になった時の方」


 お母様の問いかけは、利麻との言い合いになった時の奏向の様子のことだったみたいだ。そういえば、今までの奏向よりも積極的だったように見えたけど。


「あの時は、いつもよりも積極的というか、ぐいぐい行く感じに思えました。利麻がどう思ってたのかはわからないのですが、奏向は利麻が無理してると、我慢してると決めつけているような口ぶりでした」


 ー「大丈夫じゃないでしょ!無理しなくていいんだよ!だから……」

「無理してないから!!いいから関わらないで!!」ー


 あの時奏向は利麻が大丈夫じゃない、無理をしている、そう思ってたはずだ。私も利麻の様子からはそう見えた。でも、否定する利麻に対して奏向は何か別の気持ちで言ってるような、そんな風に見えてしまった。


「そうなの。なら、奏向には何か思うところがあったのかもね」

「思うところ、ですか?」


 奏向は利麻に対して、心配という思いのほかに別の感情があったということなのだろうか。


「ええ。今回は私に任せてもらえるかしら」

「はい。お願いします」


 お母様は何か考えがあるみたいだ。今のところ私にはどうしようもないため、お母様に奏向のことを頼む。


「ありがとね。実を言うとね、これは私のわがままなの」

「わがままですか?」


 立ち上がったお母様はリビングの扉の前で私にそう言った。


「奏向が引き篭っちゃった時、私何もしてあげられなかったって言ったじゃない。だから、今回はなんとしてもあの子を助けたいのよ、自分でね。じゃないと私、あの子のお母さん失格だもの」

「そんな……、そう、ですね」


 お母様の言葉にそんなことはない。と言いかけたものの言葉を飲み込んだ。(・・)をここまで育てた、それだけでも十分お母さんとしての役割をしてきたと思う。

 でも、お母様としてはダメなんだ。自分の子供を、本当に悲しんでる時に救えなかった。そのことが今でもお母様の心残りで、大きなしこりなんだ。

 わがままと言っていたけど、本来なら私が出しゃばる問題ではないのだ。だから、私はお母様を、奏向を、この親子を信じるしかない。


「頑張ってください」

「ありがとう」


 そう言ってお母様は二階に上がっていった。残された私は、時計を確認すると二人がうまくいくことを考えて夕飯に取りかかることにした。

 二人で、このリビングに下りてくることを信じて。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 コンコン


 真っ暗な部屋の中で扉を叩く音が響く。エリスかな?それとも母さんなのか?さっき玄関が開く音がしたから母さんは帰ってきてるだろう。


「奏向?お母さんだけど」


 答えは母さんだった。だが、どちらにしろ返事は決まっていた。


「今は一人にして」


 自分でもなんで部屋に篭っているのかわからない。ただ、今日の出来事がぐるぐると頭を駆け巡って、感情も揺さぶられて、考えがまとまらなくて、それで一人でいることにした。

 ただただ時間だけが過ぎていくこの空間で、一人それが収まるのを待つだけだった。


「大丈夫?辛くない?」


 どこかで聞いたような言葉を投げかけてくる。どこだっけ?でも、心配されたって何も解決しない。


「お母さん、話だけでも聞きたいの。ダメ、かな?」


 そっか、今日俺が言った言葉だ。まるで、今日の再現みたいだ。いや、今日じゃない。もっと、もっと似たようなことがあった。


「前みたいに、抱え込んでないか、心配なのよ」


 そう、俺が不登校になった時も同じように母さんが心配してくれた。でも、あの時は何も言い出せなくて、一人で抱える方が楽だと思って、ただひたすらに拒絶して。


 ガチャ


 気がつけば扉を開けていた。自分でもよくわからず、でも母さんの顔を見た瞬間よくわからない感情でいっぱいになった。

 気がつけば、母さんに抱きついていた。何かの糸がプチっと切れたように泣き始めて。エリスと会った時もこうだった気がする。泣き虫にでもなったのだろうか。

 しばらく泣き続けると、次第に落ち着いてきた。気持ちもさっきより楽になって余裕ができたと思う。


「落ち着いた?話せる?」

「うん。ん、だ、大丈夫」


 鼻をすすりながら答える。母さんは俺を解放すると部屋の電気をつけた。いきなりの明るさに目が慣れてなく眩しく感じてしまう。お互いに面と向かって座る。


「だいたいの事情はエリスちゃんから聞いたわ。私が聞きたいのは奏向がどう思ったのか、どうしたいのかが聞きたいの」

「どう思った、どうしたい……」


 利麻と言い合いになる時、俺は何を思ってたんだろう。思い返すと、答えは簡単に出てきた。


「俺は最初、利麻が心配だった、と思う。でも、途中から気持ちが変わった」


 母さんは頷きながらただ話を聞いてくれている。俺は続けた。


「昔のこと、俺のこと思い出して、あの時は誰も助けてくれなかったから。なのに、利麻は助けるって言ってるのに大丈夫って否定ばっかして」


 そう、俺は何となく、あの時の自分のことを考えていたんだと思う。


「それに対して、腹が立ったのか、理解できなかったのかわからないけど強く言っちゃって。そしたら、利麻が怒って、それで、それで……」


 思い出すとまた泣きそうになる。必死の思いでそれをこらえる。すると、母が話し始めた。


「つまり、奏向は助けがあるのにそれを素直に受け止めない利麻ちゃんのことを、贅沢だ!って思っちゃったのね」

「贅沢だ、って。そこまで思ってないけど」


 母さんの言葉に少しだけ気持ちが明るくなる。


「私は、奏向はその時そう言って良かったと思うわよ」

「え?」


 意外にも母さんは俺のことを肯定してくれた。てっきり自分勝手とか言われるのかと思ってたのに。


「だってそうでしょう?奏向は何の事情も知らないんだから。だから、奏向が心配したこと、たとえ私情があったとしてもそのことは悪いことじゃないと思うの」

「そう、かな」


 母さんは俺を見ながらきっぱりと言った。きっぱりと悪いことじゃないと言われると、本当にそうなのか疑念が出てきてしまう。


「そうよ。今回の件については相手がどう思おうと世間的には問題があるように見えるんだから心配して当然よ」


 確かに、利麻の問題は先輩にお金を渡していたことであり、それは世間から見たら恐喝とかの問題に見える。


「実際、辛そうな顔をしていたんでしょ?」

「うん」


 利麻に声をかけた時の、あの凍りついたような表情は普通じゃない。そう思った。


「だから奏向のしたことは間違ってるわけではないの。だから、今日の件はこれでおしまい」

「え?いや、それじゃ……」

「今度はこれからのこと、そうでしょ?」


 母さんは今日の出来事をあっさりと終わらしてしまった。本当は、俺にだって少しは問題があったはずだと思う。言い方とか、もっと色々。

 だが、母さんは話を変えてきた。一番大事なこと、これからどうするかということに。


「利麻ちゃんを心配することは間違ってない。でも、利麻ちゃんには利麻ちゃんの事情や気持ちがある。だから奏向の助けを断ったそうでしょう?」


 利麻の気持ち、あの時は考えてなかった。ただ、目の前の出来事だけで判断して、利麻が本当はどう思っているのかを考えなかった。


「他人に関わるってことはそういうことなのよ。自分の思いと相手の思いは違う。だから、自分の気持ちが相手に素直に伝わらないことだってあるの」

「俺、利麻のこと、利麻の気持ち何も考えてなかった。ただ、助けることしか考えてなくて」

「だから、今度は利麻ちゃんのことも考えた上で気持ちを伝えてみなさい。きっと利麻ちゃんも思うところがあるはずよ。奏向が謝りたいと思ったこともその時にしなさい」


 母さんは優しい顔でそう言った。胸につかえていたものが取れたようにすっきりしていた。


「多分だけど、貴方達二人は似てると思うわ」

「似てる?俺と利麻が?」


 母さんの言葉に、俺は考えを巡らせる。どこが似てるんだろう?性格とかかな。でも全然思いつかない。


「一人で抱え込むところが、よ。人に話せばいいのに、自分だけで背負いこむところはほんとそっくりだと思う」


 昔の俺は、母さんにもあまり話さず一人部屋に篭ってた。利麻の事情はわからないけど、誰かに話してなさそうなところを見ると似ているのかもしれない。


「そう思うと、今回の奏向は随分素直だったわね。すんなり話してくれたし。やっぱり女の子になって、少しは気持ちが丸くなったのかしら」

「なっ!お、女になったことは関係ないから!」

「わたし的にはそのくらい素直に気持ちを伝えてくれる方がいいんだけど。気持ちも楽になるしね」


 確かに、この体になってからは感情が表に出やすくなってると思う。前の自分と別人になれたからか、はたまた女の子だからなのかはわからないけど。

 ようやく一息つくと、体が重く感じてくる。


「そういえば、奏向は生理大丈夫なの?」

「あっ」


 忘れていた。頭から完全に抜けていた。思い出すと途端に鈍い痛みがお腹から伝わってくる。いつのまにか付けられたナプキンのゴワゴワとした違和感も感じた。


「初めてなんだから、わからないことはちゃんと聞きなさいよ」

「う、うん……」


 女の体、生理、知識としては聞いたことはあった。でも、実際に経験してみるのでは全然違う。股間から血が出るなんてゾッとしてしまう。体調も悪くなるし、お腹も痛い。

 そして、生理が来たということは、この体で子供が産める。そう思うと、恥ずかしくなってしまう。男であったはずなのにいつしか、か弱く子供すら宿せてしまう体になってしまった。

 男として生きてた頃からすると、なんとなく気恥ずかしい気持ちがしてしまう。特に、そんな状況を母に見られているということが。


「ほら、そろそろ下りて来なさい。エリスちゃんも心配してるわよ」

「うん、わかった。」


 利麻のことや生理で気が動転していたが、エリスにはかなり心配をかけてしまった。とにかく謝らないと。母さんと二人で一階のリビングへと向かう。

 その途中、いい匂いがしてきた。甘い匂い?豆を煮たような。何か作ってるのかな。


「あ!奏向!やっと出てきてくれたんですね」


 キッチンで何やら作っていたエリスは、俺を見て急いで駆け寄ってくる。


「あー、うん。その、心配かけてごめん」

「そんなの、奏向が気にする必要は無いんですよ」


 エリスは笑顔で迎えてくれた。いつも、この笑顔には助けられている気がする。この、天使のような微笑みに。


「それよりも、エリスちゃん夕飯作ってくれてたの?」

「はい!二人がきっとお腹を空かせて下りてくると思って作ってました!」


 炊飯器から湯気が出ている。いい匂いがしてきたのはどうやらこれみたいだ。


「何作ったの?」

「ふふん、それはですね」


 エリスは炊飯器の蓋を開ける。すると、そこには綺麗に赤く染まった米がお釜いっぱいに炊かれていた。これは、お赤飯?


「え、エリスちゃんそれ」

「はい!奏向の初潮記念です」

「なっ!?」


 しょ、初潮って確か始めての生理のことだよな。そういえば、初潮の時はお赤飯でお祝いするとかどっかで聞いたことが。って!


「おめでとうございます奏向!」

「ぜ、全然おめでたくないから!!」


 多分今の俺の顔はお赤飯に負けず劣らず真っ赤になってるだろう。なんとも言えない恥ずかしさを噛みしめて、夕飯はお赤飯を大盛りで平らげた。

 いつも通りというかなんというか、胸の奥で絡まってた気持ちは綺麗に解けるようにどこかへと消えてしまった。

 母さんに相談したこと、そしてエリスのいつもの調子によって。そうしていろんなことがあった今日は、過ぎ去っていった。


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