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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
2章. 天使との学園生活
18/40

18. 本心と建前

早速投稿ペースギリギリの投稿です!すいません!今回は少し長めです。

「と、今日はここまでだ。ちゃんと復習するように」


「はあ、やっと終わった〜」


 ようやく午前の授業が終わり、待ちに待った昼休みになった。


「襟澄、奏向ちゃん。行こうか」

「はい!」

「ちょっと待って。よし、行こ」


 利麻とエリスと三人でお弁当をもって教室を出ると、いつものところに向かう。そう、家庭科室に。

 初登校の日から半月ばかし経った。俺たちは昼休みは家庭科室でお昼を食べるようになっていた。俺はその方が落ち着くし、利麻も特に気にしてなかったからそれが定着してしまった。


「よいしょっと、おお!奏向ちゃんたちのお弁当、今日もまた美味しそう」

「ふふん、今日は自信作ですよ。なんとニンジンのグラッセです!とっても甘いですよ」

「けっこう美味しいよ」

「けっこうとはなんですかけっこうとは。とってもと言ってください」

「はいはい」


 エリスが開けたお弁当箱からほんのりと甘い匂いが香ってくる。すると、利麻もお弁当箱を開け始めた。


「実は私も、今日は自分で作った自信作なんだ」


 お弁当箱の中身はベーコンに巻かれたアスパラガス、卵焼きにプチトマトが添えられている。ご飯の上には、肉と卵のそぼろがかかっていて彩りが綺麗だった。そして、デザートのリンゴも入っていて。


「こ、これはリンゴうさぎ!!」

「よければあげるよ。グラッセと交換で」

「もちのろんです!」


 こうして、お弁当のおかずを交換し合うのが恒例になっていた。利麻はグラッセを箸で摘むと美味しそうに頬張った。


「それにしても二人とも勉強できるんだね。ひと月ブランクあったはずなのに、普通に授業についていってるし」

「ひと月だけですから、普通ですよ普通。ね、奏向?」

「う、うん」


 実際のところはエリスにみっちり勉強させられたんだけど。土日とかに短時間で集中的にしぼられた。おかげさまで勉強の方は今のところ不安なところはないけど。


「利麻は苦手科目あるんですか?」

「私の場合は世界史とかかな。料理してたおかげか数字には強いんだけど、暗記系はさっぱりで」

「よければ教えますよ。もうそろそろ試験ですし」

「本当!?実はちょっと不安だったんだ」

「任せてください!奏向も付き合ってくださいね」


 エリスは嬉しそうにこっちを見る。エリスは勉学にかなり長けているらしく、教え方もうまかった。こういう時には役に立つんだよな。


 ガタン!!


 突然扉の開く音がした。この時間は先生すら来ない時間帯と利麻は言っていた。それなのに入ってくる人、誰なんだ?

 入ってきたのは女子三人だった。髪の色が真っ黒ではなく、薄く色がついてるように見えた。校則にギリギリ触れないくらいのスカート丈をしている。


「お、なんだ、利麻じゃんか」

「っ!!」


 利麻を見つけるやその女子たちは利麻の方によって来た。利麻は少しだけ顔をしかめる。


「どうしたんですか、先輩。こんな時間に」

「なに?ここに来ちゃまずいの?」

「いやなんか、クラスの男子が相撲とるとかいって教室で昼食べられなくて」

「仕方なく来た感じなんだけど」


 どうやらこの三人は先輩みたいだ。なんとなくこの先輩たちは嫌な感じがした。エリスもさっきの笑顔が消えてしまっていた。


「お?なにこの子達。利麻の友達?」


 一人の先輩はこっちを見ると、利麻に俺たちのことを訪ねた。


「へえー、じゃあこの子たちが新しい金づるなんだ?」


 ん?金づるって……。


「違います!!」


 利麻が叫んだ。周囲がシーンと静まり返る。俺とエリスだけでなく、先輩たちまでもが驚いて声も出なかった。


「すいません。私たち出て行きますから先輩たちはここ使ってください。奏向、襟澄、行こ」


 利麻はそう言うと、弁当を持って扉まで向かう。俺たちも慌てて片付けると、その後を追った。教室を出るときに舌打ちのような音が聞こえた。

 廊下に出ると、利麻は背を向けていた。何があったのか俺たちはわからない。でも、利麻にとっては気に触ることがあった。多分、あの先輩の発言が。


「えーと、り、利麻?」


 どうしたらいいか分からず、とにかく声をかける。利麻はゆっくりと振り返る。


「あー、ははは……。ごめんね空気重くしちゃって。実はあの先輩ちょっと怖い先輩でね」


 振り返った利麻は、いつもの利麻だった。いつもの優しい口調で話しを続ける。


「あー言って、強引にでも教室でないと奏向ちゃん怖いかなって思って。ほんとごめんね」


 両手を合わせて謝る利麻。


「なんで私だけ怖がってるの」

「大丈夫ですよ。うちの奏向はナンパで恐怖体験してますから、あれぐらいへっちゃらです」

「そ、そのことはいいから!」

「え、何それ聞きたい」

「とりあえず、どこか行きましょうか。お昼まだ食べ終わってないですし」


 そのまま、俺たちは教室に戻ってお昼を食べた。意外にも、他の生徒が寄ってくることはなかった。

 利麻はいつも通りに見える。でも、なんとなく俺は引っかかっていた。昔の、自分と似ているように見えたから。そんなことを考えていたら、お昼休みは終わってしまった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そろそろ試験が近づいてきてるから、各自勉強はしっかりするように。特に!運動部のやつらは部活だけでなく勉学もきちんとやること!日直、号令」

「起立、礼」


 周りが下校する中で、俺たちは利麻のもとに向かう。部活体験に関しては、だいたい全ての部活を体験することができた。ので、今日は昼休みに話してた勉強会をしようと言う話になった。


「利麻、図書室に行きましょう」

「うん、ちょっと待ってね」


 ブー、ブー、ブー、


「っと、誰からだろ?」


 利麻の携帯に着信を知らせるバイブレーションが鳴った。利麻はすぐに確認をする。


「奏向、ちょっとじっとしててください」

「え?」


 突然、エリスが手を近づけてきた。驚きつつも、じっと目をつぶって固まる。


「髪にゴミが付いてただけですよ。私が何すると思ったんですか?」

「え、えーと。ビンタ?」

「なんですかそれは」


 目を開けると、エリスが軽く手を振り払っていた。いきなりだったからびっくりしてしまった。


「奏向ちゃん、襟澄。ごめん、今日行けなくなった」


 利麻はスマホの画面を見たまま、俺たちにはそう言った。驚いたエリスが利麻に問いかける。


「それって、急用ができてしまったんですか?」

「あー、うん。ちょっと、バイトの応援頼まれちゃって。今すぐ帰らないと。ごめんね!今度この埋め合わせするから。それじゃ」

「あっ、利麻」


 声をかける間も無く、利麻は教室を出て行ってしまった。さっきのメール、バイトの応援だったんだ。気がつけば教室にいる生徒は俺たちだけになってしまった。


「仕方ないですね、帰りましょうか」

「っと、柏木姉妹ちょっといいか?」


 教壇にはまだ静香先生が立っていた。呼ばれるままに先生のもとに向かう。


「実は、このプリントを準備室まで運んで欲しいんだよ」


 教壇の上には大量のプリントが置かれている。とても一人では運べなさそうな量だ。


「これを、ですか?」

「ああ、それを三階の準備室に頼む」

「私たちが?」

「お前たち以外いないだろう?」


 再び教室を見渡すが、みんな教室から出て行ってしまっていた。思わずため息が漏れる。


「わかりました」

「助かるよ、今度なんか飲み物でも奢ってやるよ」

「ほんとですか!?なら、頑張って運んじゃいますよ」


 一人でもそこそこの量のプリントを二人で分けると。ゆっくりと教室を出て行く。腕がプルプルしながらもなんとか持ち歩いて行く。

 俺たちのクラス、一年D組の教室は四階だ。つまり、三階の準備室は一つ下の階のわけで。階段をさっと下りると、準備室はすぐだった。


「失礼します。静香先生に頼まれてプリント持ってきました」


 準備室から現れたのは現代国語の先生だった。どうやらここは国語の準備室だったらしい。


「あー、ごめんなさいねわざわざ運んでもらって。本当は私が運ぶ予定だったの、けど静香先生が代わってくれるっていうから頼んだんだけど。まさか生徒に任せるとは思わなくて」


 つまり、先生の安請け合いの尻拭いをさせられたってことなのか。適当な性格だとは思ってたけど、自分がもらった仕事くらいは自分でして欲しいものだ。


「大丈夫ですよ!なんて言ったってジュースが「ジュース?」あ、えーと、ジュース買いに行くついででしたから」


 危うく、飲み物で釣られたことがバレるとこだった。さすがに他の先生にバレると色々まずい。エリスは少し焦りながらもなんとか誤魔化す。


「そう。本当にご苦労様ね」

「「失礼しました」」


 廊下に戻ると、一息つく。


「まったく、静香先生も困ったもんだよ」

「でも、私静香先生好きですよ?」

「別に俺も嫌いってわけじゃないけどさ」


 そんな会話をしていると、廊下の奥に人影が見えた。確か、この階って奥の教室がちょうど家庭科室だったっけ。


「あれって、利麻じゃないですか?」

「え?」


 遠くてはっきりしないが、じーっと見ると確かに見た目が利麻に似ている気がする。でも利麻はバイトの応援で既に下校してるはずなのに。その人影は少しキョロキョロすると、奥の教室に消えて行った。

 奥の教室は家庭科室だよな。あの教室は基本、放課後に普通の生徒が行ける場所ではないはずだ。鍵を持つ、利麻を除いては。

 続けざまに、人影が数人教室に入って行ったのが見える。


「奏向、行ってみましょう」

「うん」


 エリスも怪しいと思ったのか、二人で家庭科室へと向かう。扉からは光が見えるため、中の電気はついているのだろう。

 中を覗こうと扉をそっと開けようとするが、鍵が閉まっているのか開かなかった。すると、中から話し声が聞こえてきた。


「ちゃんと持ってきた…………」

「まあ、お前は…………なんだけどな、ははは!」

「早く…………」

「分かってますから」


 中から聞こえてきた声は利麻の声だった。それに、あと三人くらいの声も。


「これは、さっきの先輩の声では?」

「言われてみれば確かに」


 確かに、あの先輩は三人だったし声もそれのような気がする。扉から離れたところで話してるのか、詳しい内容は聞こえない。


「奏向、こっちにきてください」


 エリスに導かれて、家庭科室を後にする。家庭科室からちょっと外に出たところにある渡り廊下。もう一つの校舎をつなぐ、その渡り廊下の窓からは家庭科室の窓が見える。

 もし、家庭科室の窓のカーテンが開いていれば中の様子が見えるかもしれない。急いで向かうと、案の定ひとつだけカーテンが開いていた。

 五月だというのに気温が高く、まだ冷房が使えないため窓を開けて涼んでいたみたいだ。渡り廊下の窓から様子を伺うと、バッチリ利麻と先輩たちの姿が見えた。


「よかった。ここなら様子が見れます」


 向こうからバレないように、やや窓から顔を出しつつ見ていると。利麻がカバンから何かを取り出していた。あれは、なんだろう?遠くてよく見えない。


「あれは、何かの封筒でしょうか」

「ここから見えるの?」

「はい。私を舐めないで下さい!」


 舐めてはないのだが、とにかく利麻はその封筒を先輩に差し出してるようだ。先輩たちはそれをとるや否や中身を取り出した。


「あれって!?お札!?」

「お札だって!?」


 ここからじゃわからないが、エリスには中身がお札に見えてるようだ。すると、先輩たちの姿が消えた。


「奏向、隠れますよ」

「わ、わかった」


 渡り廊下にあった掃除用具入れの後ろに二人で隠れる。すると、大きな笑い声とともに先輩たちが奥の廊下を横切っていく。

 完全に通り過ぎたのを確認すると、渡り廊下に戻る。窓からはまだ利麻の姿が確認できた。


「エリス、あれって」

「詳しい事情がわからないのでなんとも言えませんが、もしかしたら、恐喝かもしれません」

「恐喝って……」


 それって利麻が脅されてお金を渡したってこと?利麻は、あの先輩たちから、いじめにあっているって、そういうことなの?


「奏向!行きますよ」


 エリスが指を指すと窓から見えた利麻の姿はなく、ちょうど目の前を横切っている。二人して利麻に駆け寄る。


「利麻!」

「!?」


 こっちを振り返った利麻の表情は凍りついたようになっていた。今にも泣いてしまいそうな。そして……。


「利麻、えーと、その、あの、あ!ば、バイトは無くなったんですか?」


 多分話しかけたはいいけど、何言ったらいいか考えてなかったんだろう。エリスは詰まりながらも、なんとか会話を始めた。

 利麻の表情は変わらない。そのまま、利麻は話し始めた。


「えーと、そうなんだよね。それで、家庭科室の前まで見に来たけど、二人ともいなさそうだから帰ろう、かと、思ってね」


 肩が震えている。必死に堪えている。表情はなんとかいつもの利麻だ。でも、声色は明らかに異常を訴えている。


「利麻、大丈夫?」


 自然と言葉が出た。


「えーと、何が?」


 ほんとは踏み込んではいけないことなのかもしれない。でも、どうしてもそうせずにはいられなかった。この、悲しそうな顔を見てしまったら。


「家庭科室のこと」


 しばらく沈黙が流れる。エリスは俺たちを見て戸惑っている。利麻は少し驚いたけれど、すぐ表情を戻した。


「聞いたの?」

「ほとんど聞こえなかったよ。窓から見ただけ」


 利麻の視線が横を向く。渡り廊下に気がついたのか、下唇を噛んだ。またしばらく沈黙が続く。足元がふらつく。心臓の音が全身に鳴り響いてる。


「そっか、見てたんだ」


 利麻は諦めたように下を向いた。やっぱり、家庭科室で何かしらの大きいことが起こってたのは間違いないみたいだ。


「もし、話せるなら、少しでも良いから話してほしい」


 力になれるかはわからない。でも、できる限り助けたいって思った。だって、利麻は、奏向になってはじめての、友達だから。


「気持ちは嬉しいよ。でも、大丈夫だから」


 そんな気持ちとは裏腹に利麻の答えは拒否だった。


「だ、大丈夫って。だって、そんなに辛そうにしてるのに」

「大丈夫だから、だから、奏向ちゃんたちは関わらなくていいの」


 なんで、どうして?そんなに辛そうにしてるのに、なんで平気なふりをするの?どうして、助けがあるのに、助けを求めないの?なんで、なんで、なんで!!


「大丈夫じゃないでしょ!無理しなくていいんだよ!だから……」

「無理してないから!!いいから関わらないで!!」

「!?」


 利麻の叫び声が響く。思わず、たじろいでしまう。利麻が荒い息を吐く。全身が重い。血の気が引いたように、意識が揺らぐ。頭が痛い。お腹も痛い、痛い。


「そ、そうだよね。おれ、が関わっても、何も、ならないよね。ご、ごめんね!」


 言い終わるとすぐさま走り出す。廊下を走る。エリスが呼ぶ声が後ろから聞こえるけど、構う暇もなかった。

 階段を下りて、一階に着くとすぐさまトイレを目指した。個室に入ると、大きく息を吐く。動悸が激しい、頭もお腹も痛い。


 下着を下ろして、便座に座る。まだ、心臓がうるさいほど高鳴っている。俺は、何がしたかったんだ?自分に問いかけた。

 頭が重い中、思考を巡らせる。利麻に対しての発言。なんであんなことを言ってしまったのか、なんで思ってしまったのか、なんで利麻は俺を拒否したのか。全部、全部わからない。

 大きく深呼吸する。でも、鼓動は早い。もう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度。次第に、呼吸が落ち着いてくる。


 少しずつ、落ち着きを取り戻していく。冷静になり始めた思考が、ある一点を、異様なものを、発見した。

 たまたま、頭が下を向いていた。たまたま、今日の下着は色が白基調だった。たまたま、見つけてしまった。赤い、染みが下着についていたことに。


「こ、これって?もしかして、血?なんで?」

「奏向!ここにいますか!奏向!」

「え、エリス!」

「奏向!ここでしたかよかっ「エリス!どうしよう!血が、血が!」」


 とっくに戻った冷静さは消えていた。わけもわからず、不安だけが広がっていく。俺は、気づけば泣き叫ぶことしかできなかった。ただ、ただ、一人で。


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