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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
2章. 天使との学園生活
16/40

16. 天使の部活見学会 (1)

死の部活見学が今……始まる。少し続きます。

 キーンコーンカーンコーン


「と、帰りのホームルームはこれで終わりだ。部活があるもの以外は速やかに下校すること。日直、号令」

「起立、礼」


 周りがまだ頭を下げている間にカバンを持つ。そして瞬時に廊下に向かって走り出す。ここから逃れるために。


「逃・さ・な・い。ですよ?」


 腕をしっかりと掴まれる。振りほどく間も無く、下校や部活に行く生徒によってあっという間に出口は塞がれてしまった。


「何処に行こうとしてるんですか?これから更衣室に行くんですから、迷子になっちゃ困りますよ」

「いやいや、今日体操着とか持ってきてないしさ」

「それなら、ほら」


 エリスはカバンから体操着を二着、取り出した。一体いつの間に!?っていうかどうやってカバンに入れてたんだよ!


「これで問題はないですよね?では行きますよ」

「い、いや!あ!靴!運動靴持ってきてないし!」

「ふふふ」


 手をぶらぶらさせるエリスの両手には、ちゃっかりと運動靴が二足握られていた。だからどうやって持ってきたんだよ!


「これで、本当に問題ないですね。利麻!案内お願いします」

「はいはい、でも程々にね。流石に今日一日で周りきるのはキツイからね」


 いつのまにか、近くにいた利麻が寄ってくる。最後の希望を胸に利麻に泣きつくが。


「ちょっと、利麻〜」

「あはははは……」


 苦笑いで返されてしまった。腹をくくるしかないのかな。


「それでは、まずは更衣室に出発!」


 意気揚々と歩き出すエリスとともに、更衣室に向かっていく。でも、先に待っていたのは全然違うことで……。今の自分は何故かそれに気がつくことができなかった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あの、奏向ちゃん?なんでずっとそっぽ向いてるの?」

「い、いや、これは、その……」

「それに顔赤いし、体調悪いなら言ってね」

「う、うん」


 顔が赤いのは風邪とかではなくて、り、利麻のせいだよ!

 俺たちは、更衣室で体操着に着替えているわけだが一番重要なことがすっぽ抜けていた。

 今までは諸々あって、エリスの着替えや入浴とかに対して抵抗が薄くなっていた(なっちゃダメなんだけど)。でも学校では他人も着替えなどする。それに対して俺は中学男子並みの耐性しかない。よって、利麻を直視できない。今は利麻と完全真逆を向きながら着替えている。

 これはトイレとかでも同じだ。今日も何回か行ったけど、毎回のごとく誰かがいる。隣の個室だったり、洗面所の前だったり。トイレに入ってる間は終始ドキドキしっぱなしだった。

 要は女子に溶け込むのに慣れてない。最低限のことは連休中にエリスに特訓させられたけど、実際はもっと大変だった。


「二人とも着替え終わりましたか?」


 エリスが体操着姿で仁王立ちしている。制服の時も思ったけど、天使って年幾つなんだろ?もし何十歳とかだったら今の格好って結構キツイのでは?


「ふふ、奏向?最初は陸上部で長距離体験でもしましょうか?」

「やっぱり心読んでるよね!?」

「んんん?」


 ニヤニヤしながらも表情の裏では何かしら黒いオーラのようなものを感じる。やっぱり結構気にしてるのか?


「さあて、着替えも済んだようですし行きましょうか。せっかくですし、42.195kmとか走るのはどうですか?きっと楽しいですよ」

「無理無理!それは練習しないと走れない距離だから!後、目がマジなの怖いからやめて!」

「ほらほら、行きますよ」


 服の後ろを掴まれて引っ張られる。やばい!これ本当に死ぬ気でやらないとぶっ倒れるかもしれない。利麻が苦笑いしてるし。こうして、本当に陸上部に見学に行かされたわけで。




「えーと、柏木奏向さん、襟澄さん、それと祠堂利麻さんの三人でいいのよね?」

「はい!よろしくお願いします!」

「お願い……します」


 陸上部は男女混合の部活だった。今回は女子部員の先輩が部活体験を説明してくれるらしい。


「と、それで今日はちょうど校庭を他の部が使ってるから軽めに外周を走る予定だったんだけど。三人とも走ってみる?」


 やばい、死の宣告が聞こえたような気がする。もちろんエリスは元気に返事をした。


「はい!もちろん!」

「そう。まあ、ペースは任せるから。とりあえず、学校の周りを二周してみましょうか」

「うう、本当に走るの……」

「私もサポートするからさ。奏向ちゃんもがんばろ!ね?」


 男の頃は運動神経は悪い方ではなかった。ただ、家に引きこもってからは運動なんてしてなかった。この、女の体でどこまで運動できるか不安だったわけだけど。

 エリスは元気よく準備体操を始めた。その姿は年頃の活発な女の子って感じだ。これも概念変更の影響なのだろうか。……うん、野暮なことは考えないようにしよう。


「よーし、それじゃあ外周始めるよー。体験の子たちは無理せず自分のペースで二周走ってね、各自目標に向けて自分を追い込むこと。よーい始め!」


 掛け声とともに部員たちは走り始めた。俺たちも追いかけるように走るが、まるで距離がつまらない。むしろどんどん差が開いていく。あの速さって、一体何周するつもりで走ってるの?俺なら一周しかもたないだろう。

 ようやく学校の裏側まで来た頃には、部員の姿は完全に消えていた。そして、徐々にエリスとの距離も離れていってる。

 おかしい。いつもならもう少し走れるはずなのに。少し走るだけで息が上がってしまう。腕を必死に振っても全然早くならない。


「奏向ちゃん大丈夫?」


 隣を走っている利麻が心配そうに尋ねる。


「う、うん。はぁ、はぁ。もう少し、はぁ、走れる」

「無理はしないでね」

「うん」


 ようやく一周した頃には、部員たちの数人が俺たちを追い越していた。エリスとの距離もどんどん開いていく。それなのに、俺はもう息も絶え絶えになっている。

 ついに、足を止めて膝に手をついてしまった。前を向くとエリスは角を曲がって見えなくなってしまった。今の俺って、こんなにも走れないのか?


「奏向ちゃん。無理しなくていいから、少し歩こう。キツイけど呼吸整えながら」

「う、うん。すー、はー、すー、っえほ!えっほ!」

「だ、大丈夫!?」


 呼吸がツラくてむせてしまった。少しずつ、息を整える。歩きながら学校の裏に着いた頃には、呼吸は戻っていた。


「利麻。もう大丈夫だから、もう少し走ろう」

「本当に大丈夫?」

「うん。もう残り半周だし」

「わかった。走ろうか」


 走る感覚が少しだけ男の頃と違って感じる。体格の変化によって多少違いがあるのかもしれない。体力もだいぶ落ちてるように感じるし。でも、一番の問題はこの、揺れてるもの。

 ブラつけてるのに、走るたびに多少揺れる。これが、気になってしょうがない。部員の男子とかは抜くときにたまにチラ見してくるし。動きも少しぎこちなくなるし。

 ようやく学校の前まで来た頃には体力の限界だった。先についていたエリスは余裕みたいだが。


「もう、奏向だらしないですよ」

「ご、ごめ、お、おぇ」

「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!?」


 やばい、もうフラフラだ。これで体育の授業を乗り切れるのだろうか。これからの運動に対して不安しかない。


 数分後、部員たちが戻ってきた。どうやら俺たちとは違い五周ほど走ってきたらしい。それで、これからまた何本か走るようだ。俺の体調を見てか、エリスは体験をやめると部員の人に言って、俺たちは更衣室まで向かった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「もう無理。動けない。動きたくもない」

「奏向。せめて後一つくらい体験していきましょうよ。文化系でもいいですから」


 俺たちは着替えた後教室に戻って来てた。俺は椅子に座ると、机に倒れ込み動かなくなった。想像以上に体力を使った。もう一歩も動けない。


「うー、どうしましょう利麻」

「今日は無理なんじゃないかな。奏向ちゃんの体力的にも限界みたいだし」

「そんなー」


 肩を落としたエリスの後ろから物音が聞こえる。扉を開く音が。


「おー、お前ら。まだ残ってたのか?早く下校しろよ」


 教室に入って来たのは静香先生だった。先生を見るや否やエリスは先生に解決を求めた。


「静香先生!動かなくても活動できる部活ってありますか!?」

「おっ、なんだ柏木姉、その質問は?」

「じ、実は……」


 エリスがことのあらましを話す。静香先生はなぜか俺たちのことを柏木姉、妹と呼ぶ。なんでも、呼びやすいかららしいが。


「なるほどな。で、柏木妹はなんだったらできるんだ?」

「いや、もう何もできません。一歩も動けないです」


 先生が尋ねるけどもう動く気力もなかった。そんな中で、一つの音が鳴り響く。


 ぐーーーーーー


「「「「…………」」」」


 鳴った、鳴ってしまった。腹の虫が。


「くくく、はははは!そうかそうか、柏木妹は腹が減って動けないのか!」

「い、いや!これは私が出した音じゃあ」

「ならちょうどいい部活があるぞ」

「本当ですか!先生」

「ちょ!ちょっとまって!」

「それって……」


 また勝手に話が進んでしまう。たしかにお腹が空いてはいるが、それで動けないわけではなくて本当に疲れているんだけど。

 そんなことはつゆ知らず、エリスと先生は話を続ける。


「うちには料理研究部っていう部活があるんだよ。そこなら何かしら食べ物が食えるだろう」

「なんと!?そんな部活があるのですか?奏向!これは行くしかないですよ」

「いやだから、お腹が空いてるのと動けないのは関係ない……「というわけで、案内を頼めるか?祠堂」」


 話す間も無く行くことになりそうだ。先生の言葉で利麻の方を向く。けど、利麻の表情は暗い。まるで、行くのに気が引けてるような。


「先生、料研だけはダメです」

「「え?」」


 利麻の言葉に俺とエリスは驚いてしまう。まさかの否定の言葉が出て来た。俺としては嬉しいが、利麻の顔を見ると喜ぶことはできなかった。


「いいだろ?別にこれで部活を決めるわけではないんだし、もともと柏木姉妹は全部の部活を見るつもりだったんだからいずれは見学に行くことになるだろうし」

「でも……」


 先生の顔もさっきみたいな柔らかいものではなくなっていた。場の空気がピリピリしだす。エリスも不安そうにしている。


 ぐーーーーーー!!


「「「「…………」」」」


 そんな中で、俺の腹の虫だけはなんのそのと大きな音を鳴らす。完全に場違いな音を出してしまい、恥ずかしくなってくる。


「わ、わかりました。少しだけ、ですよ」

「はいよ。どうせもう少しで下校時間だ。よし、柏木姉妹も行くぞ」

「「は、はい」」


 少しだけ緊張した空気が緩んだ気がする。利麻の表情は暗いままだけど、俺たちは利麻について行った。

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