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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
11/40

11. 一歩進んで二歩進む

新キャラ登場回です!

「あの、私!(あま)()(さき)高校一年の()(どう)()()って言います!こちらは柏木奏向さんのご自宅でしょうか?」


 天ヶ崎高校、一年!?突然の訪問者は俺が通う高校の同級生だった。なんでそんな人が俺の家に。


「あ、あの?もしかして違いました?」


 驚きでしばらく間が空いてしまった。とりあえず、要件を聞こう。


「いえ、合ってます。その、ご用件はなんでしょうか?」


 受話器を持つ手が汗ばんでくる。学校関係者が来る用事って何だ?でも、エリスによれば今の俺は転校生として、ゴールデンウィーク明けから通い始めることになっているはずだ。それなのに、同級生が来た。一体何が……。


「えーと、私ショッピングモールの「エンジェルフェザー」という名前のお店でバイトをしてるものなのですが」


 !?

 その名前、俺たちがさっき寄ったカフェの名前だ。そこでバイトしてる?ってことはさっきの騒動を見ていたのか。でも、なんで住所がわかったんだ?

 祠堂は話を続けた。


「実はさっき、お店で体調を崩されたお客さんがいて」


 やっぱりさっきの騒ぎを見ていたんだ。


「そのお客さんはお連れの方が連れて帰ったのですが、テーブルに忘れ物をしていて」


 忘れ物?確か買った荷物はエリスが全力で持って帰ってきたはずだ。エリスの方を見るが、心当たりがないのか首を横に振る。


「その忘れ物が、"学生証"でして」


 学生証……。!!

 そういえば、あの話をする前にエリスが俺に見せてくれた!再びエリスを見ると、ハッとした顔で両手を顔の前で合わせて謝るポーズをしていた。どうやらあの騒動でバタバタしている時に学生証を置いてきてしまったみたいだ。


「その、大事なものなので失礼ながら拝見させてもらって。写真の顔も体調を崩されたお客さんと同じだったので、こちらまで届けに来ました!」


 あれだけの騒ぎなら顔を覚えられても仕方ないか。ということは、祠堂さんはただ忘れ物を届けに来ただけか。少しだけホッとする。


「わかりました。ちょっと待っててください」

「はい」


 受話器を戻す。振り返るとエリスは不安そうな顔で見ていた。


「奏向、その、大丈夫ですか?」


 この姿で初めて学校の人と話す。違う、人が怖くなってからだ。ただ忘れ物をもらうだけ、そのはずなのに心臓は大きく鼓動している。でも、前に進むって決めたから。


「大丈夫!」


 そう言って一歩、二歩と歩いていく。


「いや、そうではなくて。その、話し方とか仕草とかは大丈夫なのかなって」


 足が止まる。話し方、仕草、大丈夫?


「相手は同級生みたいですし、もし奏向の振る舞いが女性としておかしいと思われたら後々困るかなと」


 昼間のショッピングモールでは、喋り方からボクっ娘と勘違いされた。お店でのことは基本エリスが喋ってくれたから問題はなかったが、多分今普通に話したら男言葉がでてしまうだろう。


「すぐにできることではないですが、意識はしておいた方がいいと思います」


 い、意識、意識。意識?何だ、女の子を意識って。何を意識したらいいんだ?自分が女の子だと思い込めばいいのか?よし、俺は女の子、俺は女の子。俺、私は女の子。女の子、女の子、女の子。


「はじめまして。私が女の子の柏木奏向です」


 それが第一声だった。玄関のドアは開いている。考え事をしていたせいか、いつのまにか玄関まで来ていたみたいだ。そして、訪問者にそのまんまの挨拶をしてしまった。エリスはおでこに手のひらを当てている。完全にやってしまった……。


「…………。えーと、改めてはじめまして。祠堂利麻です。夜分遅くにすみません」


 多少間があったものの、なんとか話が流れてくれた。とにかく、変に見られないようにしなければ。女の子らしく、女の子らしく。


「いいえ、とんでもございませんわ」

「は、はあ。お先にこれ、お返しします」


 学生証を手渡される。


「あ、ありがとうございますわ」

「いいえ……どういたしまして」


 あれ、なんか反応が変だぞ。もしかして、喋り方間違えた?女の子らしくってなんなんだ。いつも女子ってどんな風に喋ってた?男言葉って何?俺とか言わなきゃ普通に聞こえるのか?完全に頭の中は混乱していた。


「おほん。改めて初めまして、私は柏木襟澄と申します。先程はお世話になりました」


 見るに見かねてエリスが前に立つ。


「あ、さっきはどうも。あの後は大丈夫でした?荷物凄かったですし」

「はい。なんとか帰ってこれました。お騒がせしてしまってごめんなさい」

「いえいえ、お客さんが無事なら良かったです」


 あんまり覚えてないのだが、店を出るときにかなり大変だったらしい。エリスが俺に耳打ちをする。


「(普通に敬語で喋っていれば変に聞こえることはありません。後は、"おれ"じゃなくて"わたし"に変えてください)」


 確かに、敬語なら男女でも違和感なく喋ることができる。混乱してた頭を落ち着かせて、冷静になる。改めて見ると、祠堂は背も高くスタイルがいい。服装は軽装だったが、むしろそれが彼女の長くてスラっとした足を、スタイルの良さを引き立てている。

 落ち着いたところで、エリスが話を進める。


「この子、すごい人見知りで初対面の人と喋ると上がってしまって口調が変になっちゃうんですよ」

「そうだったんですか!てっきり何処かのお嬢様学校でも通ってたのかと思っちゃいました」


 ボクっ娘の次はお嬢様に間違われた。恥ずかしさで赤面してしまう。


「それと、エリスさんは帰国子女何ですか?」

「いいえ、違いますよ。確かに名前は外国人っぽいですが生まれも育ちも日本です。ちなみに漢字は襟に澄むと書いて襟澄です!」


 初対面の人から見ればエリスの名前は日本人にしては珍しいだろう。どうしても外国人と関係があると思ってしまうのも無理はない。


「ち、な、み、に」


 エリスの顔が満面の笑みを浮かべていた。次にこいつが言うことがすぐさま想像がついた。


「私たちは双子の姉妹なんです!私が姉で、奏向が妹です!」


 思いっきり抱きつきながら祠堂さんに宣言する。何で双子だの姉妹だの言うときはこんなに生き生きしてるんだ。


「そうなんですか!?てっきり襟澄さんは年上かと思ってました」

「そうですか!?私からお姉さんオーラでも出てるんですかね」


 単に若く見えてないだけなのではないか。そう思った瞬間、エリスが鬼の形相でこっち見てきた。いや、若いかな?うん、若い。


「それなら、喋り方変えてもいい?私、歳近い人に敬語で喋るのなんだか他人行儀な感じであんまり好きじゃなくて」

「はい。大丈夫ですよ」


 少しだけ、祠堂さんの雰囲気が変わったように感じた。


「ありがと。そういえば、学生証に書いてあったけど二人はD組なの?学校で見かけたことないけど」

「私たち、家の事情で連休明けから天ヶ崎学園に転入するんです。なので、見かけなくて当然です。クラスは二人ともD組です」

「そうだったんだ。どうりで見かけたことないはず。実は、私もD組なんだ!」

「そうなんですか!?」


 同じクラス!?ってことは祠堂さんとはクラスメイトになるのか。ならいっそう怪しまれてはいけない。もう一度、気を引き締める。


「(そっか、なら私が最初に会った人なんだ)」


 ボソッと言った祠堂さんの言葉は聞き取れなかった。再び俺たちにに目を合わせると


「せっかくこうして出会えたんだし、私たち友達にならない?」


 そう聞いてきた。


「ほら、転入したばかりだと周りも知らない人ばかりだし喋れたりする子が一人でもいると楽かなと思うんだけど」


 友達。その言葉に少しだけ顔が青ざめる。普通に見ていた祠堂の姿にフィルターがかかる。祠堂はいい人なのか、安全なのか、接していて大丈夫なのか。祠堂の姿がどんどん黒く染まっていく。


「ってのは建前で、本当はただ仲良くしたいだけなんだけどね。二人とも面白いし!」


 いつのまにか黒い影と会話をしていた。


「奏向。どうしますか?」


 横にいたエリスの顔は笑顔だった。いつのまにか手が握られている。強く握れていた。

 怖がるな!落ち着け!祠堂さんは忘れ物を届けにきた、それに多分バイト帰りに。そんな人が悪い人なのか?裏切ったり、面白がったりする人なのか?

 黒くなった人影は徐々に、徐々に黒色が薄らいでくる。ようやく祠堂の表情が見えた。満面の笑みで、両手を前に出している。

 答えは決まってる。昔の俺ならそうするだろう。だから、進め!前に!前に!


 一歩、二歩、前へと進む。目の前にある手を、ゆっくりと握る。エリスも、もう一つの手を握った。


「これから、よろしく……」


 出たのはそんな小さな声だった。でも、それは自分を大きく変える一歩。


「うん!よろしくね奏向ちゃん!」


 奏向ちゃん?!すごくこそばゆい感じがする。


「私からも、よろしくお願いします祠堂さん」

「こちらこそ、よろしく。せっかくだし、襟澄って呼んでもいい?私も利麻でいいから」

「はい!それで大丈夫ですよ」

「奏向ちゃんも利麻って呼んでね」

「う、うん」


 いつのまにか、かなり打ち解けた感じがする。奏向ちゃん、利麻、襟澄、ん?


「お、わたし、だけ、ちゃん付け?」

「あー、なんか奏向ちゃんは奏向ちゃんって気がするんだよね」

「わかります!なんかこう、幼さというか、ちゃんってつけたくなるんですよ!」

「天性の素質?」

「そうかもしれません!」


 同い年なのに、俺だけ年下扱いされてる。なんか、本当にこの二人は打ち解けてるな。ふと、利麻がポケットから何かを取り出す。


「よかったらメアドかLICEのアカウント教えてもらってもいいかな?メールとかやりとりしたいし」


 LICEとは、スマホのSMSアプリだ。一応スマホを持ち始めた時にインストールしたけど、ほとんど使わなかったっけ。


「わかった。ちょっと待ってて」


 そう言って、二階の自分の部屋へと向かう。薄暗い部屋の中で、充電コードにつながれたままのスマホを見つける。他人とやりとりをするわけでもなく、ゲームなどもしなかったため充電状態が普通だった。充電コードを取り外すと、淡い光とともに待ち受け画面が表示される。


「っ!」


 すぐにパスコードを外すと急いで玄関に向かう。


「おまたせ」


 見るとエリスと利麻はアカウントの交換をしていた。というか、エリスのスマホはどこから持ってきたんだ?


「よし、OKかな。じゃあ奏向ちゃんも」


 お互いのIDを入力して登録を済ます。


「大丈夫かな、と。もし学校のことでわからないこととかあったら気軽に聞いてもらって大丈夫だから」

「はい。その時はよろしくお願いします」

「と、もうこんな時間。親に怒られちゃうから私は行くね」


 利麻はスマホで時間を確かめると、慌てて玄関を出て行く。


「あの!」


 声をかけて引き止める。利麻がこちらを向く。


「あの、その、……。ありがとう!友達になってくれて!」


 精一杯の声で利麻に伝える。怖くないかと聞かれればまだ怖い。でも、彼女を信じると決めた。だから……。


「こちらこそ!これからもよろしくね奏向ちゃん!襟澄!」


 そう言って、手を振りながら帰っていった。周囲は夜の静けさに包まれ始めた。


「やりましたね奏向!最初の友達できましたよ!」


 エリスが大はしゃぎで抱きついてきた。


「う、うん。なんとか、できた」


 まだ実感が湧かない。でも、踏み出せた。やっと、前に。いつのまにか、手にしていたスマホは再び待ち受け画面に戻っていた。


「?奏向。これって」


 エリスは俺のスマホをじっと見る。俺のスマホの画面には。


「この写真、仲の良かった、俺の友達と撮ったものなんだ」


 一番仲の良かった、あいつとの写真が映っていた。


「だから、これが、目標」


 エリスは驚いた顔で俺を見る。でも、俺の人間不信を治す上ではこれが最終目標だった。あいつと、再び笑い合うこと。


「そうですか、なら頑張らなきゃダメですね」

「ああ」


 前に進めた。ならもっと前へ行くこともできる。たとえそれがどんなに怖くても、もう立ち止まらない。


「それが叶うまで、応援させてもらいますよ!」


 エリスが一緒なら、何があっても怖くない気がするから!


「そうと決まれば、今から女の子の仕草に慣れる練習をしなければですね」


 片腕をガッチリと組まれる。


「今から特訓ですよ!人前に出ても恥ずかしくないように教育してあげます」

「いや、もう遅いから!それに今日は色々と疲れたから!」

「そんなの関係なしですよ!」


 そう言って二人、家の中へと戻っていく。その日は、笑い声が絶えなかった。

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