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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
1章. 天使とのゴールデンウィーク
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1. 巡り会い

とりあえず、試しで投稿です。


追記、2019.6.28 話の序盤、中盤辺りの二箇所を加筆しました。


追記、2019.10.15 細かい修正をしました。

「それじゃあ行ってくるけど、連休が終わる前には帰ってこれると思うから。(かなた)、食事だけはしっかりとってね」


 そう言って母が出かけていった。ゴールデンウイーク初日、巷では数十年の奇跡と言われている十一連休の初日、天皇やらなんやらの祝日が重なりに重なって十一日も休みが続く。そんな一般的に考えれば喜ばしい出来事にもなんの感情も湧かない。母は実家の用事で連休をほぼ実家で過ごすらしい。まあ、いつも仕事で家を長く開けるからいつもと変わらないが。


「柏木」と書かれた表札の下にあるポストから新聞を取り出し、室内へと戻る。俺はゆっくりとリビングに向かうと、食パン二枚をトースターにのせて焼き始めた。テレビをつけると早速連休の話題で持ちきりだった。チャンネルを変えても、連休の話題、インタビュー、観光スポット特集、いつもと変わらないのは教育番組くらいだった。トースターのチンという音を聞き、皿に取りソファーに座る。気がつけば、毎日同じことをしている。俺にとっては連休など関係ない。平日であろうと、家から出ないのだから。実際は16歳、高校に通う年であるが、俺は通っていない。正確に言えば一日で登校をやめたのだ。正確には登校を続けることが困難だから。


「人なんて、信じたって無駄なんだから」


 食器を片付けると二階の自分の部屋へと向かう。いつもと同じように布団にくるまり、一日を過ごす。やる気が湧かない、ただ一日を寝て過ごす。でも、脳裏の奥、そこにはいつもあの時の光景が残り続ける。全てに裏切られ、全てを失ったあの日の光景が。


 もう誰も信じない。

 もう誰も見たくない。

 もう誰とも接したくない。


 心の悲鳴はそう訴えかける。なのに、なぜか助けを求める。誰に助けを求めるのか?もう人を信じられないというのに。なぜ、誰かに救って欲しいと願うのか?


「誰か… 助けて… 」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 深い、深い眠りの中に、うっすらと眩しい光を感じる。ゆっくりと瞼を開けると、真っ白の世界、見渡せば白しかない世界に俺はいた。


「ここは?夢の中?」


 どこまでも続く白の世界に、俺はいた。夢にしてはあまりにもつまらない、そんな世界に。


「ここは夢であって夢でない場所。」


 急に背中の方から聞こえた声に、反射的に後ろに振り返った。


 そこには俺より少し年上の少女がいた。


 白いワンピースのような服を着ていて、背丈は俺と同じくらいだ。腰まで伸びた艶やかな金色の髪、碧く大きな瞳、整った顔立ち、スタイルのいい体、とても容姿端麗で、美少女と呼ぶにふさわしい見た目をしていた。


「お前は誰だ?ここはどこだ?」


 俺は少女に尋ねた。


「ここはあなたの心の中。」


 少女は落ち着いた様子で答えた。


「心の中?はぁ〜ばかばかしい夢を見るんだな俺は」


 簡単な話だった。これは俺の夢だ。つまらないほどに単純な夢。美少女に運命的に出会うという妄想じみた夢。


「私はあなたを、奏を救うためにやってきました」


 救う?何を言ってるんだこいつは。


「俺は救われたいなんて思ってない。わかったらさっさと夢から覚めやがれ。」


  俺はまるで空に叫ぶように、自分に言い聞かせるように叫んだ。


「それは嘘です。」


 少女はまっすぐな目で俺に言った。


「何が嘘だ俺が言ってるんだから嘘なわけないだろ。」


 なんでこんな夢見てるんだ?意味がわからない。


「いいえ。それは本心ではありません。あなたはずっと誰かに助けを求めてました」


 そんなわけない。助けを求めたって誰も手を差し伸べてくれないのだから。たとえ助けられても、それは善意ではない別の真意で動いてる。裏切るために、踏みにじるために。


「だから私は来たんです。あなたを助けるために」


 助ける?そんな薄っぺらい言葉もう何回も聞いた。なんで夢の中までバカにされないといけないんだ。


「いい加減覚めろよ!もう起きろよ!」

「違います!これは夢ではな「うるさい!」」


 気づくとそう叫んでいた。気持ちが高ぶって、感情が爆発して、理不尽な夢に対して、様々な思いが駆け巡った。


「私はあなたに人を信じることを、人を大切に思って欲しいのです!」


 少女に目を向けると彼女は震えながら、でも優しい顔で俺に訴えかける。頬には涙が流れていた。

 何でそんな目で、そんな表情で、俺を見るんだよ。


「昔の、あなたみたいに」


 少しずつ意識がぼやけてくる。視界が霞む。

 気づけば、深い暗闇へと意識が落ちていった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ん、うーん、ふぁぁ」


 目を覚ますと、部屋は真っ暗。近くの時計を見ると、夜の七時を回っていた。あの夢のせいで寝覚めが悪い。


「とりあえず、夕飯食べるか」


 ベッドから起き上がり、リビングへと向かう。一階に続く階段を降りる。


 トントントン


 音が聞こえる。リビングの方から。母さんは今朝仕事に出かけたはずなのに、帰ってきたのか?

 リビングからは明るい光が漏れている。やっぱり帰ってるのか。

 バタン と、リビングの扉を開ける。


「あ、起きたんですね。夕食は準備できてますよ。」


 ドアを開けると、そこには先程の夢で見た少女がエプロンをつけて立っていた。テーブルを見ると二人分の食器が用意されていて、おかずも二、三品ほど置かれている。


 って、


「な、な、なんでお前が!ゆ、夢じゃなかったのか!?」


 俺は気づけばそう叫んでいた。でも、彼女は少し首をかしげると、


「言ったじゃないですか、あれは心の中の話です。夢ではありません。」


 そう言った。い、意味がわからない……。


 よく見ると彼女はさっきの姿とは違っていた。髪も目も黒色になっている。エプロンの下にはシャツとロングスカートを着ていて、先ほどのワンピース姿ではなかった。


「何言って、それにお前は何者なんだ!?」


 あまりの状況に少しうろたえながらそう言った。


「それより…まだ気づいてないみたいですけど大丈夫ですか?」


 それよりって、こんな意味わからないこと起きてることより重大なことがあるか!だが彼女は困った顔でこちらを見ている。


「大丈夫って何が!?」


 苛立ちながらそう問うと、彼女はゆっくりと俺の体を指差した。指先は胴体を指している。俺は恐る恐る視線を下げる。いつも通りのパジャマ、凹凸のあるボディライン、うん、別に変じゃない。


「何もないじゃないか!」


 ん、今何か、何かすっ飛ばしたような……。


 パジャマは、大丈夫。体は、大丈夫?凹凸?どこに?気づけば胸元に目を向けていた。胸元には謎のふくらみがあった。何で胸にふくらみなんか。そんなに太ったか?いや太ってこんなに胸がふくらむのか?


 ゆっくりと指先をパジャマの開いた胸元、少しだけ見える肌の部分へと運んでいく。触れるまで、3、2、1、


 むにゅ


 それが触った感触だった。

 

「奏?」


「奏?奏!」


「へ?」


  ようやく出た言葉がそれだった。


「こ、これって」

「あなたの体を変えさしてもらいました」


 頭が回らない。思考が追いつかない中、彼女は笑顔で


「今日から女の子です!」


 そう言い放った。


 これが、俺のいろんな意味で人生を変える最初の出会いだった。

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