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旅の商人が行く、ぶらり救国物語  作者: TOSAKA(渡坂系統)
1章 【旅の商人と野望の工場】
1/12

軍人グリムの誕生

 トントントンと、包丁で板を叩く音がした。


 朝が来たらしいがどうにも起きる気になれず、寝返りを打ち、毛布で顔を覆う。


 何しろ、今日はうちの村のお祭りがあり、そこで妹のファナと一緒に舞台で踊ることになっているのだ。


 何故そんな話になっているのかと言うと、これは父親のせいである。


 先日、村長や村の役員含めた重役たちの集まりがあり、その中で迫る一年に一度のお祭りで催す演目について、会議という名の飲み会があったのだ。


 村の若い女性から注がれた酒と、この前近くの森で危ない熊を狩った、いや、狩ってしまったことでおだてられ、すっかり気を良くした父さんは、母さんの冷たく鋭い視線にも気付かずに「次の祭りではこの俺の子どもたちが華麗な踊りを舞うぞ!」と口走ってしまったのだ。


 これ幸いと村長は駆け足で準備を始め、バルガルド丘陵地の伝統の踊りをでっちあげ、ここ最近は僕達兄妹に教え、今では衣装まで完璧に揃えられてしまった。


 父さんは、


「いいじゃないか。グリムとファナと踊りが見られて父さん嬉しいぞ」


 なんて言っているし、母さんに至っては


「仕方ない」


 の一点張りだ。


 まさに取り付く島もない。


 妹のファナはまだ4歳だし、13歳の僕がしっかりしなければ、とは思うけれど、村長が考案した踊りはとてもじゃないが恥ずかしくて踊れない。


 どうにかならないかな、と思案している最中に、木製の玄関の扉を叩く特徴的な音がした。


 村長かなとおもったが、母さんが出るから関係ないと毛布の中でモゾモゾしていると、どうやら何か揉めている様子。


 覚めきらない目をこすり、寝間着のまま今に出ると。


「ダメ!グリム、こっちへ来ないで!」


 と、母さんの切羽詰まった声が聞こえ、それに続くように「おやおや」と、聞き慣れない声がした。


「こちらはご子息ですかな?いやはや可愛らしいですな。あなたに似て器量が良くていらっしゃる。どうです、軍部の娼婦になって頂ければ給料は弾みますよ。子飼いの兵卒たちも喜ぶでしょう」


 器量?娼婦?…難しい言葉は僕には分からないけれど、母さんの余裕のない表情を見れば、あまり良くないことを言っているというのは一目で分かることであった。


 彼らは何をしにここまで来たのだろうと思っていると、表情に出たのか向こうから目的を言ってきた。


「我々はこれからオルコールとの間で起こるであろう戦争に備え、軍事力を強化するため徴兵を行っているのだ。それと同時に各地にめぼしい女がいれば連れてくるかしょっぴくなりして、連れてこい。との上官殿の命令である。…まず、ここの主人はいずこかな?」


「夫であれば、今は出稼ぎに出ていて。しばらくは帰ってこないはずですよ」


 母さんは、上の階で眠っている父さんを庇うような口調で言ったが、それは当然であろう。


 徴兵されてしまったら、父さんが戦場に連れていかれるかもしれないのだ。


「と言っているが、坊や。それは本当かな?」


「は、はい!きっと、今頃は帝都の酒場で酔い潰れているところでしょう」


 やった!我ながら凄く良い感じの言い訳を出来た気がする。つい先日の父さんの様子そのままだ。


 おい、と隣の者にに声を掛けると、その人は何と土足で家の中に入ってきたのだ!


「お、おじさん!靴は脱がなきゃダメだよ!」


 と声を掛けるが、そんなのお構いなしといった風に僕を蹴飛ばし、家を探索していく。


 キッチン、僕の部屋、ファナの部屋裏口玄関を調べたのちに2階へ上がる。


 僕は祈るように逃げていてと思ったが叶わず、見つけましたという声が響き、偉そうなおじさんが母さんを一瞥してニヤリと笑み、また土足で上がり込んで行った。








 どうやら僕…俺たちの家だけではなかったようで、斜向かいの家のおじさんや、友達のお父さんなど、男手は全てと言っていいほど対象になり、徴兵されていった。


 俺の家に関しては、母親についても対象になったようだったが、父親が泣いて懇願し、お目こぼしを得たようだった。


 その時、俺は父親に行かないで欲しいと泣いていたが、


「国のためになることは誇らしいことなんだ。これを機に軍の隊長にだってなってやるさ」


 と、いつもの調子で嘯いていた。


 母親は出兵した人達に加護があるように、神の社を建てようと、村のみんなに提案した。


 みんな何も出来ないのがつらかったようで、大多数の賛成を受け、大きなおおきな社が村に建った。


 間もなく戦争が始まり幾月か立ったある日、郵便屋さんからひとり、またひとりと訃報が届くようになって行った。


 父親も斜向かいおじさんと同じ日に亡くなったという知らせが届き、母親はそれから毎晩神の社に行っては祈り、帰ってきて枕を濡らすという日々が続いた。


 母親が軍部へと骨の回収をお願いしていたようで、自宅の庭の裏に埋めて、そこにも小さな社を建てて生前好きだった麦酒(エール)を供えるようになった。


 後で分かったんだが、この骨は父さんのものではなかったかもしれない。


 軍部の文献に記されている情報には『精霊魔法で葬り去られた者達は遺体も残らず殺された』とあるからだ。


 …そして、父さんの死を祀る喪中の儀が全て終わった時に母さんは毒をあおって、死を選んだ。


 その時はそれを受け、かなり参ってしまって自分も死のうか、という所まで追い詰められたが、妹のファナの存在で辛うじて踏み止まった。


 そして、今こうして生きている。


 俺は絶対にファナを死なせないという思いの元、母親が好きだった野菜を育て、それを売るために帝都パゼルへとやって来た。


「よぉ、兄ちゃん。パゼルは初めてかい?」


 そんな事を考えていると、ほかの店より寂れた様子の店の主から声を掛けられた。


「な、何で分かったんですか」


「そりゃ、おのぼりさんは大切なお客さん(カモ)だからね。ひと目でわかるさ」


 この店の主は初老ぐらいの年齢であるようだし、ここパゼルについて何か知っているかもしれない上に、よく見ると品揃えがかなり良い様子であった。


 ならば、とパゼルについて聞いてみることにする。


「オッサン、パゼルって街は全部こんな感じなのか?見たところ、うちの村や近くの街でも見ないくらいびっしり店が立ち並んでいるようだけど」


「クク、そりゃそうさ。ここは帝国一、金が回るところ。パゼル市場なんだからよ。ちなみにパゼルは全部がぜんぶこういう場所じゃない。中には飲食街とか()()()の店だってあるぜ」


 やはり帝都と呼ばれくらいには凄いらしく、凄さで言うと、村の基準では測れないレベルのようなので、完全にグリムの物差しでは測れない物として、あたりを見回し認識した。


「なるほどな。オッサンありがとう。じゃあ、また」


「おいおい、情報やったのにひとつも買って言ってくれねぇのか?頼むぜ、ドーラの実ひとつで良いから」


 なるほど、帝都では情報も商品と同じ価値があるということか。


 実際、彼がパゼルについて教えてくれなければ恐らくは詐欺に遭うか、道に迷っていただろう。


「ああ、悪いな。んじゃドーラの実ひとつ」


 そう言って銅貨1枚を差し出す。


 バルガルド帝国の通貨は、銅貨10枚で大銅貨1枚になり、大銅貨10枚で銀貨1枚になるなど、これが基本システムだ。


 あとは割銭とか、貧民層での細かいルールがあるが基本は気にしなくてもいいだろう。


「はいよ、丁度だ。おまけにいいことを教えてやろう。大通りの方で何やら皇子の視察があるらしい。観光ついでに、見てきたらどうだ」


 果物売りのオッサンの声を背に、村に住んでいる限りでは雲上人であった皇族を見るべく、大通りへと歩き出した。


 もう少しで大通りに着くか、という所で人々歓声が聞こえてきた。


 おお、これが皇族の力かと思うと同時に、道に飛び出す少女が目に入った。


 王子殿下の取り巻きは馬に乗って練り歩いているため突然道に飛び出すというのはかなり危ない行為であるし、堅焼きレンガの道になっているので転びでもしたら怪我か、下手をすれば骨が折れてしまう。


「あ、あぶない!」


 俺は妹のファナを重ねてしまい、咄嗟に大通りへと走り出して少女を救出した。


 幸い、常識のある殿下であったようで、止まれと号令を掛け、少女が通り過ぎるのを待ってくれていた。


「こら、危ないじゃないか。なんで飛び出したりしたんだ」


「ご、ごめんなさい。でも、向こうにお父様が」


 む、来ているものが随分上等なものだとは思ったが、まさか貴族家のご令嬢だったのかな?


「おとうさまぁ」


「ありがとうございます。なんとお礼を言っていいのやら」


 やはり貴い血の通ったご令嬢であったようだった。


「ああ、いえ。妹の姿を重ねてしまって… 無事で何より。今度からは気をつけてね、お嬢さん」


 無事に父親の元へと少女を返し、殿下へ歩を進めるように促した。


「殿下。足をお止めして申し訳ありません。どうぞお進み下さい。」


「…貴様、名前をなんという」


 なんと、殿下から直々に声を掛けられた。

 少々緊張し、話している間は手の汗が止まらなくなってしまった。


「はっ。グリム・ベガマルタと申します」


「ふむ。ではグリムとやら我に付いてくるがいい」


 はっ?と発した声は彼に届かず、歩を進めていってしまう。


 よく分からないが、付いてこいと言われた手前、それに反する行動は取れないので、大人しく付いていくことにする。


 歩いている最中に何か逆鱗に触れたかと思案していたが、冷静に考えれば『殿下の行先を横切って止まらせる』と言うのはかなり失礼な行為なのでは、という考えに至った。


 目的地であるらしい軍基地のような所に到着するなり


「申し訳ありません殿下。行く道を横切るという行為は不適切でありました。無礼を働いたお詫びに私に出来ることなら何でもさせていただきます」


 と申し上げた。


 言上に関しても、何が是なのか分からないグリムにとっては頭を振り絞って考え出した文言であった。


 数秒、跪いた姿勢でいると、殿下の方から声が掛けられた。


「…顔を上げて。うん、そうだね。君のしたことは失礼に当たるけれど、それを相殺する程良いことをした。だから、まあ罰することは僕には出来ないよ」



 確かに自分でも人間として正しいことをしたのは思っているが、何も罰せられないというのは不思議な感覚であった。


「ヨアム殿下。この者は確かに善行をしましたが、何も罰しないとなると貴族への侮りが民に蔓延し、増幅する者が増えるのが目に見えます。ある程度罰を与えても宜しいのではないでしょうか。」


 お付きの者らしき、バルガルド軍印の入ったマントと陽に映える流麗な金髪、更に濃紺の昏い瞳を拵えた美丈夫が言った。


「…ユゴー。ではお前には何か案があるのかな?」


「僭越ながら申し上げますと、新設する部門とその周辺の人材が足りておりません。適正を見て、登用してもよろしいかと」


 え、えぇと、登用?冗談ではない。


 俺はただ帝都に野菜を売りに来ただけなのだから、軍部には知識もなければ興味もない。


「なるほど、ではグリム。軍営院に就職しなよ。悪い人じゃなさそうだし、情報部(うち)で扱えなくても脳筋共(陸軍)に送れば万事解決だからさ」


「殿下、私には小さい妹がいます。あいつを養わねばなりません。なので、私ひとり軍部に就職する訳には」


「何だ、そんな事かい。喜んでくれていいよ。妹については軍部の孤児院あたりで面倒を見ようと思う。代わりに君が軍で働いてそちらに寄付をしたらいいんじゃないかな」


 えっ。ものすごく好条件じゃないか。


 あとは妹の意思次第だけど…これは家に帰って聞くしかない。


「殿下。ご好意、ありがたく受け取ろうと思います。よろしくお願いします」


 このヨアムという皇子の、たった一時の気まぐれか何かかもしれないけれど、俺にとってはこの貴族社会で立身するために貰ったチャンスのようなものだ。


 何だってやってやるさと、心に決めたのだった。






 グリムの、世界に振り回される日々が始まるーー。

初めてまともに小説を書くので、筆が遅かったりするかもしれませんが長い目で見て頂けると幸いです。

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