B食ラブ
「それから、ここは、B食ラブ。美食倶楽部なんてよそと一緒にしないでくれる。」
受付のお姉さんはけんもほろろである。困ったジンゴロは小梅からもらった小刀を出した。
「なんだい。脅したって駄目だかんね。・・・ん?!これは小梅姉さんの物じゃないか。姉さんの知り合いなら最初から言っとくれよ。」
中に入ると、小さな屋台が寄り集まっている。屋台村ってやつだ。
「姉さんの弟子だって?お代はいいから好きな物頼みな。」
料理人達は親切だった。ジンゴロは強烈な甘酸っぱい香りのする茶色い、麺料理を頼んだ。
「お、さすがB級グルメの王道。ソース焼きそばにいくとは通だね。」
白いスープの麺もある。油で揚げた串料理もある。
「ここで作るのは、金持ち相手の料理じゃないよ。庶民が毎日食べても飽きない安くて美味いものを作るところだ。B級食を愛する者の集まり。ごくありふれた食材や余り物を使っている。金をかけるなら手間をかけろ。ロ先生の口癖だ。」
受付の娘がロクさんたちの国の言葉で解説してくれる。
「私も。小梅姉さんの所に行きたくて言葉を覚えたんだ。本当ならロ先生が亡くなったから小梅姉さんに帰ってきてもらいたんけど頑固だからね。ヒロにも会ったのかい?あいつは相変わらず世界中の料理を食べてみたいって言ってるのかい。」
「おい、紅生姜がのってないぞ!」
受付なのに随分偉そうだとジンゴロは思った。
「私は、ロ・サンジの娘でヤツ。おヤツと呼んどくれ。」
あわてて、若者が厨房から赤い細切りの野菜の酢漬けを持ってきた。
「申し訳ありません。おヤツ・サンジ様。」
パコーン。スリッパが料理人の頭に当たった。
「客の前でフルネームで呼ぶんじゃないよ。はずかしい。」
ヤツは顔を赤らめた。
「B級に大事なのは、新しいことじゃない。いつもの味を同じように届けることなんだ。懐かしさ。これこそが原点だ。」
ヤツは子供のころ小梅に面倒を見てもらっていた。そのため今でも姉さんと呼んでいる。本来は小梅おばさんといってもいいほど年の差があったが、小梅の機嫌が悪くなるのでおばさんとは呼ばない。