旧友
ショウゴの元に、同じ肌の色をした一人の若者がやってきた。
「お久しぶりです。」
奴隷とは思えない身なりで、言葉も丁寧である。
「はて、こんな紳士に知り合いがいたかな?」
それは、かつての奴隷仲間で、ショウゴが食事を分けていた若者だった。確か名前はシンボ。
「今は、シン・ブライアンです。」
彼もまたショウゴと別れて数奇な運命をたどったらしい。ショウゴが連行されたのち、彼もすぐに別の屋敷に売られた。そこは、資産家の老婆が独りで暮らしていた。
「こいつは怠け者ですよ。」
元の主人は老婆にいった。
「それは、こちらで決める。」
老婆はシンボを引き取ると、家の仕事をさせた。彼女はどんなにシンボの仕事が遅くても文句を言わなかった。買い物や料理の仕方も教えた。が、食事の時間が一時間遅れることなどざらだった。
5年も暮らしたころだろうか。老婆は病気にかかり、寝たきりになった。身寄りの無い彼女をシンバは介護し続けた。
「ここ数日がやまでしょう。」
医者はそう言うと帰っていった。
「シンボ。仕事はいいから老人の話を少しそばで聞いてくれ。」
主人は事業に成功したが身寄りがない。会社は売るが結果莫大な遺産が残る。が。このままでは全て国に取られてしまう。そこで、遺産の半分を寄付し、残りはシンボを養子にして相続させたいという。
「どうして、わたしなんか。」
シンボは突然のことで驚いた。
「あなたが来たとき、前の主人は怠け者といったわ。それから私はずっとあなたを見てきた。庭の芝刈りは確かに遅い。でも、あなたの刈った芝はまるで穏やかな水面のようにとてもやさしく美しかった。買い物も人の倍はかかるわね。でも、あなたは年老いた私の身に合うようにと新鮮で柔らかいものを遠くまで探してくれていた。料理もとても遅い。でも、一度たりと焦げ付いたり生焼けのものを出した事はないわよね。鍋から目を離さずにいた。あなたの煮た野菜はどれも甘みが際立っていたわ。怠け者じゃない。不器用かもしれないけどとても丁寧なのね。生産性を求める今の世の中にそぐわないだけ。」
シンボは老婆の言葉を聴いて泣いた。
「それは、ご主人様が待っていてくださるから。」
老婆はシンボの手を軽く握った。
「本当は、食事の時も一緒のテーブルで食べたかった。でも法律が許さなかった。一緒に買い物したり、遊んだりもしてみたかった。でも、この国の法律が邪魔をした。でもね。この国の国民は一生に1度だけ魔法が使えるの。遺言。他人を不幸をするもので無い限り、どんなことでもかなうの。だから私はあなたを養子にする。いいわよね。」
老婆の表情はとても穏やかだった。
「もったいないです。わたしのために遺言を使わないでください。」
シンボは老婆の手をぎゅっと握り締めた。この人がじきこの世からいなくなる。なんと理不尽なことだろう。そう思うと、とめどなく涙があふれてくる。
「わたしには、最高の願い事よ。誰もこんなすてきな遺言を残せた人なんていないんじゃないかしら。」
その夜、遺言が正式に残された。シンボが見守る中、翌朝には彼女は息を引き取った。シンボはブライアン家の一生困らないだけの財産を手にした。名前も市民らしくシンと改めた。
「できることなら奴隷制度なんてこの国からなくしたかった。」
彼女の最後の言葉だった。
ショウゴは、シンと密かに旅に出た。シンには国が発行した国民証がある。ショウゴは彼の奴隷ということにしたので誰も死刑囚だとは思わなかった。




