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プロローグ 2

 







 ライアンに呼び出された俺は付いていくと騒ぐエーベルを校門で待たせ、彼のあとを付いていく。

 そうして辿りついたのは校舎裏であった。


「で、こんないかにもな所に呼び出しておいて何の用なんだ?」


「いやいや、まずはお互い卒業おめでとうと言わせてくれよ、めでたい場だ」


 ライアンはぱちぱちと拍手をしながら芝居がかった声で言う。


「それにしても君には最後まで勝てなかったな、まさか入学からずっと首席とはね、僕ももう頭が上がらないよ」


 相変わらず気持ちの悪い笑みだ。そう思わせる張り付いた様な笑みは絶えることがない。


「ありがとう……と言いたいところだが、俺は何の用かと聞いたんだ、

 まさかそんな心にもないことを言うためにこんな所に呼んだんじゃないだろうな」


 彼の得体の知れなさに自分でも分からないうちに口調が厳しくなる。


「相変わらず厳しいねえ、リーヴス、ま、その通りなんだがね、今日は君に正式な挨拶をしておこうと思ったんだよ」


「挨拶?」


「ああ、僕もきみも国立魔法師団に所属することは分かっていると思うが、そのことについて父からとある情報が入ってね」


 ……やはりこいつも魔法師団か。ライアンの父は公爵の中でも魔法師団との関わりが深い。

 予想はしていたがこいつとも仕事仲間ということになる。

 そしてその父からの情報でこの話の流れからすると……


「……部隊の配属先か」


「ご名答! そう、めでたくこの春から僕と君は師団最強の部隊、1番隊への配属が決まったよ」


 国立魔法師団1番隊。


 別名殲滅部隊。12ある魔法師団の中でも最強の名を欲しいままにするこの部隊は全ての国民(・・)の憧れである。

 だが、この部隊において最も特筆すべき点は別にある。


 現王国最強魔法師ディエン=グライアス。


 最強レートの飛龍種の群れを単身で撃破し、どんな高難度の任務からも必ず死者を出さず部隊を連れ帰る。

 もはや伝説となりつつある男。

 そんな彼が隊長を務めるのがこの殲滅部隊なのだ。

 成績優秀者であっても入団は難しく、誰も入団できない年もざら(・・)にある。

 無論、そんな部隊に配属されるというのは限りなく名誉なことである。のだが……


「本当なら喜ぶところだがお前と同じだとはな、手放しにはなれないな」


「言ってくれるねえ、まあ、名誉なことだ、喜ぼうじゃないか、僕から言いたかったのはそれだけだよ、今度は入団式で会おう」


 結局最後まで笑みをくずすことなくライアンは去っていく。

 俺の魔法士としての生活、前途多難だな。









 シエル=リーヴス。学園始まって以来の天才と騒がれ首席を取り続けた男。

 あいつさえ、あいつさえいなければ!その称号はすべて俺のものだったはずなんだ!

 アイツのせいで俺はこの学園で何も手に入れられなかった。地位も、女も、名誉も。

 いつもいつも俺を見下してきやがって……報いは必ず受けさせる。せいぜい楽しみにしていなよ(・・・・・・・・・)






 先程までの張り付いた様な笑みは消え、眼には獲物を狩る獰猛な獣のそれが宿る。





 人が真に恐れるべきはまた人。そう思わせるほどの闇がこの時の彼からは感じられたはずだ。しかし俺はそれに気づくことはできなかった。


 ライアンとの会話を終え、エーベルの待つ校門へと向かう途中で聞きなれた声に呼び止められた。


「こんにちは、学長先生」


「こんにちは、シエル。まだ残っていたんですね」


 整えられた白髪と口の周りの白い髭が印象的などこか厳かな、厚みのある雰囲気を感じさせる初老の男性。

 我が学園の学長その人である。


「卒業式はとうに終わっていますが、どうかなされましたか? 」


「いえ、学校に別れの挨拶でもと思いまして」


 念の為先のライアンとの会話の件は伏せておく。


「それは結構、しかし別れの挨拶とは……さしもの貴方も学校に未練がおありかな?」


「未練ですか……そうかもしれません、それほどここでの生活は楽しかった」


 別れの挨拶などしに来たつもりは無かったが、不思議とそういう気持ちになっていることに気がつく。


「そうですか、学長としては嬉しいことです」


 そう言って学長は微笑む。柔らかな笑みだ。それでいて瞳の奥には暖かさと力強さが宿る。

 どこかの誰かの気持ち悪い笑顔とは正反対だな。


「しかして貴方はまだ若い。大いに未練を感じなさい。それはその思いでが大切だということだ。そしてそれを力にもっと大きな幸せをこれから掴んでゆくのですよ」


 流石と言うべきか、その言葉は一つ一つが重い。


「さて、今日はそんな若人に一つアドバイスをしに来たんでした(・・・・・・)


「アドバイス?」


 突拍子もない発言に疑問を感じながらも俺は答える。


「ええ」


 学長の顔つきがかわる。先程までの笑は消えその顔には陰りと真剣さが伺える。


「この先、貴方は大きな決断を迫られるでしょう。とても大きなものだ。

 しかしその時に他人にそそのかされてはいけませんよ、自分の心の声を聞くのです」


「心の声……ですか」


「ええ、貴方のそれまでの経験で培ったもの、自分で見てきたものでどちらを取るか決めなさい。本当に大切にしたいものをね」


「私からは以上。さ、遅くならないうちにお帰りなさい」


 そう言い残し学長は去っていった。言葉の意味はよくわからなかったが妙に心にひっかかるものがある。

 それにあの人との会話はやはり疲れる。滲み出ているのだ歴戦の威圧感が、その強者の雰囲気が。


 殲滅部隊元隊長、グレン=ルシアス。焔の戦鬼の名は伊達ではない。






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「全く、今日はよく人に呼び止められるな」


 そろそろエーベルが騒ぎ出す頃かというときの、実に本日3度目の呼びかけに少なからずげんなりしつつ振り向く。

 そこに立たれるは王国の第3王女にして我が学園のNo.3の実力者。

 美姫と名高いレイミア=フリージアであった。















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