プロローグ
よろしくお願い致します。
今からはるか昔、各地で特別な子供たちがうまれた。
彼らはそれまでの人間とは違いその身にとある力を宿していた。
自由自在に空を飛ぶ者、風を操る者。物質を操るもの、あるいは未来すら見通すもの。
魔力--後にそう呼ばれたそれは多くの子供に与えられた。
得体の知れないその力を恐れる人間は多く存在し、排除を図る者達もいた。
しかしながらそれは叶わぬこととなる。
魔物の出現。魔力を宿す子供たちが続々と生まれ始め、数年がたった頃、各地で異形の獣たちが出現し始めた。
人を襲うその化け物に唯一対抗できる力-それこそが魔力であった。
魔力を扱い戦闘を行う者達は魔法士と呼ばれ世界に必要不可欠な存在となってゆく。
やがて魔力を用いた技術、魔法が確立され、さらに個の能力が高い者は特別な力、固有能力を手にするようになった。
その後も能力に目覚める子供たちは多く、年月を重ねるたびその数は増えた。魔法士の制度も整いやがて魔力を持つものが総人口の6割を超えた頃、それは起こった。
魔力を持つ者達による世界の改革。持たざる者への支配。
彼らは真人類、旧人類と呼びわけられ、世は真人類により支配される時代へと変わったのである。
「卒業生挨拶--卒業生代表、シエル=リーヴス、前へ」
「はい」
王都フリージア。様々な人が行き交い、王国一活気溢れるこの街もこの日は一層の賑わいを見せる。
--王立魔法高等学校卒業証書授与式--
魔法を扱う新人類。その中でも有数の魔の才能を認められた者達にのみ入学を許される学び舎。
人々の羨望と期待を一身に背負う、謂わば選ばれしものである彼らの卒業式。街は当然お祭り騒ぎである。
王国貴族、伯爵の爵位を与えられるリーヴス家の次男シエル、そのお祭りの主役である彼は完璧な答辞を終え席に戻る。
「カッコイイ挨拶だね〜、よっ!流石は学園首席様」
「茶化すなよエーベル、これでも緊張してるんだ」
「お前は昔から緊張しいだもんな、人前で取り繕うのはうめえのによ〜。稀代の魔法の天才にも可愛いとこがあるってもんよ」
「全くお前は本当によく喋る……」
隣でペラペラと喋るこの男、エーベル=ライナー。
幼馴染であり親友でもあるが口の回りすぎるこの男をあしらいつつ長ったらしい校長の話に耐える。
校長の話が長いのはどの世界でも間違いなく同じでなくてはならないのだろう。きっとそんな義務が校長には課せられているのだ……
そんなことを考えながら卒業式を終え、中庭に出るとここからは自由な時間だ。祝福ムードの中卒業生同士で思い思いの会話をする。
突然だが俺は顔は良い方らしく、魔法の成績も相まって結構モテる。
親友のものとは信じたくない強烈な視線を背中に浴びながら全ての女子の告白を断り終えた時には中庭にいる生徒はまばらになっていた。
「全くなんでお前はそんなにモテるのに誰とも付き合わないかねえ、よりどりみどりだぜ?よりどりみどり!」
「強調するなよ……前から言ってるだろ?今はそういうのは求めてないんだよ」
「最強のSランク魔法士になる夢、かあ、いいねえ大層な夢で……でも、お前ならきっと出来るよ、俺はそう思う」
「はは、どうした? お前らしくもない」
「おいおい、今日は卒業式だぜ、センチになるのも必然ってもんだろ、それに……お前がどんどん遠ざかってく気がしてなあ」
今までに見たことのない親友の瞳にそれこそらしくもない不安を覚えながら答える。
「おいおい、卒業したからって進路は同じ国立魔法師団だぜ、それにお前の実力なら付いてこれるだろ?学年4位くん」
「ははっそれもそうだな!お前なんぞすぐに追い越してやんよ!」
「その意気だ、ま、追い越すってのは無理な話だろうがな」
調子を取り戻したかのようなエーベルだが、その眼からはまだなにか違和感を感じてしまう。
「今のうち言ってろ!それよりどうだ?いまから家に来てお祝いでも…ってあれは」
「どうした?エーベル……ああ、お前か、ライアン、何の用だ?」
振り向くと立っていたのは学年2位、最高位公爵家の長男様、ライアン=レイブンだった。張り付いたニヤニヤ笑いを浮かべながら口を開く。
「公爵家に向かってお前とは……相変わらず礼儀がなってないね、君は…少し話さないか?リーヴス」
こいつと関わってろくな事があった試しはない。そんな男からの呼び出しにげんなりしつつ俺は応じるのであった。
そして思えばこの時には始まっていたんだな、俺を地獄に突き落とす準備は。あの神すら恐れぬ最悪の計画も。
いかがでしたでしょうか。